R&Bシンガーらしからぬ華奢な身体から放たれる力強い歌声と、クラシック音楽の教育を受けたという本格的なピアノの演奏を組み合わせたスタイルで、2001年のデビュー以降、発表したアルバムのほとんどがナンバー・ワン・ヒットを獲得してきたニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、アリシア・キーズ。彼女にとって、2012年の『As I Am』以来となるオリジナル・アルバムが本作だ。

今回のアルバムでは、彼女にとって公私両面のパートナーであるスウィズ・ビーツが大半の曲をプロデュース。DMXやイブを輩出したラフライダーズの一員としてデビューして以来、作風の幅を広げつつ、ビヨンセやジェニファー・ハドソンなどのR&Bシンガーも手掛けるようになった実績豊富なヒット・メイカーが、知的なたたずまいとパワフルな歌声を兼ね備えた彼女にマッチした、シンプルだが味わいのあるプロダクションを提供している。

アルバムのオープニングを飾る”The Gospel”は、ウータン・クランの”Shaolin Brew”のトラックを使った、泥臭いサウンドが格好良いミディアム・ナンバー。不気味で陰鬱、でもどこか温かいRZAのトラックの上で荒々しいヴォーカルを聴かせる姿は、音楽性は大きく異なるがメイヴィス・ステイプルズやオーティス・レディングなどのサザン・ソウル・シンガーにも通じる躍動感がある。この路線は、スウィズ・ビーツがプロデュースした”Pawn It All”でも見られ、跳ねるようなドラムの音の上で、耳元に絡みつくようなドロドロとした歌を聴かせている。

一方、ナズの代表曲の一つ”One Love”のトラックを引用し、ロイ・エアーズが演奏に参加した”She Don't Really Care_1 Luv”では、Q-Tip作のふわふわとしたビートと一体化するような、肩の力を抜いた軽妙な歌唱を披露している。肩の力を抜いても、音程や起伏を正確に歌い切る技術は本作の聴きどころだ。また、エミリー・サンデーがソングライティングに参加した”Kill Your Mama”では、ギター一本というシンプルな伴奏をバックに、ポップス寄りのメロディを朗々と歌い上げ、エディ・ブリッケル&ニュー・ボヘミアンズとA$AP Rockyが参加した”Blended Family (What You Do For Love)”では、緻密だがどこか粗削りなバンド・サウンドをバックに、語り掛けるようなヴォーカルを聴かせている。また、彼のアルバムでデュエットも披露しているファレル・ウィリアムズが手掛けた”Work On It”では三拍子のリズムを乗りこなすという荒業も見せている。

だが、それ以上に見逃せないのは、彼女の楽曲を彩るピアノの演奏だろう。モーツァルトなどのクラシック音楽に若いころから触れてきた彼女にしかできない、88個の鍵盤全部を使ったダイナミックな演奏は、もはやもう一人のヴォーカルのような存在で、彼女の音楽に豊かな表情をもたらしている。

個性豊かな楽曲に、きちんと適応する高い技術と豊かな表現力、そして、それを支えるスタッフが揃ったことで生まれた、噛めば噛むほど味が出るスルメのようなアルバム。「自分のスタイル」を確立することのお手本のような作品だ。

Producer
Alicia Keys, Swezz Beats

Track List
1. The Beginning (Interlude)
2. The Gospel
3. Pawn It All
4. Elaine Brown (Interlude)
5. Kill Your Mama
6. She Don't Really Care_1 Luv
7. Elevate (Interlude)
8. Illusion Of Bliss
9. Blended Family (What You Do For Love)
10. Work On It
11. Cocoa Butter (Cross & Pic Interlude)
12. Girl Can't Be Herself
13. You Glow (Interlude)
14. More Than We Know
15. Where Do We Begin Now
16. Holy War
17. Hallelujah
18. In Common





Here
Alicia Keys
RCA
2016-11-11