2010年にインターネット上で発表した3曲のデモ音源が好事家の注目を集め、続く2011年に、同じくインターネット上でリリースした、3本のミックス・テープがヒットして一気にブレイクした、カナダはトロント出身のシンガー・ソングライター、エイベル・テスファイことザ・ウィークエンド。

その後も、同郷の人気シンガー、ドレイクの作品に客演したり、2012年のメジャー・デビュー作『Trllogy』が全世界で100万枚以上のヒットを記録したほか、2015年の『Beauty Behind the Madness』がグラミー賞を獲得したりと、インターネット空間から世界的なアーティストに上り詰めた、21世紀の成功物語を体現したようなミュージシャンだ。

彼にとって、『Beauty Behind the Madness』以来、1年ぶりとなるオリジナル・アルバムは、リリース前のインタビューでも触れている通り、プリンスやトーキング・ヘッズ、ザ・スミスといった80年代のロック・ミュージシャンやロックから影響を受けたソウル・ミュージックに触発された作品になっている。

アルバムに先駆けてリリースされたタイトル曲”Starboy”は、2013年にリリースした”Get Lucky”が世界的なヒットになったフランスのハウス・ユニット、ダフト・パンクと共作したミディアム・ナンバー。ピコピコというアナログ・シンセサイザーの音色をアクセントにしたビートをバックに、物悲しい歌声を響かせる、近未来的な雰囲気のしっとりとしたバラードだ。一方、”False Alarm”はデジタル・ドラムの駆け抜けるようなビートをバックに、感情を抑えたロボットのような歌唱を披露する、a-haやトーキング・ヘッズの影響が見え隠れするアップテンポのロック・ナンバーだ。

この他にも、80年代後期のファンクやニュー・ジャック・スウィングを彷彿させる、跳ねるようなビートと、強力なエフェクターをかけたアナログ・シンセの伴奏をバックに、艶めかしいヴォーカルを聴かせる”Rockin'”や、強力なフィルターをかけたシンセサイザーと80年代に多用されたアナログ機材っぽい音色のビートを組み合わせたハウス・ナンバー”Secrets”など、80年代の音楽の技法を取り入れることで、前衛的な雰囲気を維持しつつ、キャッチーな音楽に纏め上げている。

だが、このアルバムの一番の聴きどころは、彼のヴォーカル・スタイルの変化だろう。レミー・シャンドにも通じる哀愁を帯びた歌唱から、テヴィン・キャンベルや若き日のマイケル・ジャクソンのような甘酸っぱいヴォーカルやロック・シンガー風のワイルドな雄叫びまで使い分ける姿は、個性的なトラックとメロディをウリにした彼の旧作を聴いていた人間には、少々新鮮に映った。

その象徴ともいえるのが、ケンドリック・ラマーをフィーチャーしたスロー・ナンバー”Sidewalks”だ。アリシア・キーズの”You Don’t My Name”をサンプリングしたこの曲では、甘いコーラスと重いビートをバックに、オートチューンをかけた声で、喉が張り裂けそうなファルセットや、ラップのように語り掛けるメロディなど、色々なスタイルの歌唱を次々と繰り出している。このようなスタイルは、ドレイクやT-Painなど、多くのミュージシャンが何度も取り入れてきたものだが、彼のように前衛的でバラエティ豊かな曲作りをウリにするアーティストが取り組むと、曲の個性と合わさって表現の幅を大きく広げている。

これまでの彼の作品といえば、ジェイムズ・ブレイクやフライング・ロータスの成功で市民権を得た、電子楽器や生楽器の音色をパズルのように組み合わせた、抽象的で前衛的なサウンドの影響が見え隠れしていたものだった。だが、このアルバムでは、前衛的な作風を否定することなく、過去の音楽のエッセンスを取り込むことで、より親しみやすい音楽になっている。

もしかしたら、彼は2010年代を象徴する、息の長いシンガーに成長するかもしれない。

Producer
Abel "The Weeknd" Tesfaye, Doc McKinney etc

Track List
1. Starboy feat. Daft Punk
2. Party Monster
3. False Alarm
4. Reminder
5. Rockin'
6. Secrets
7. True Colors
8. Stargirl Interlude feat. Lana Del Rey
9. Sidewalks feat. Kendrick Lamar
10. Six Feet Under
11. Love to Lay
12. A Lonely Night
13. Attention
14. Ordinary Life
15. Nothing Without You
16. All I Know feat. Future
17. Die for You
18. I Feel It Coming feat. Daft Punk





STARBOY
WEEKND
REPUB
2016-12-09