melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Alternative R&B

Stimulator Jones - Exotic Worlds And Masterful Treasures [2018 Stones Throw]

ジェイ・ディラやマッドリヴの作品を配給する一方、メイヤー・ホーソンやアロー・ブラックといった通好みのR&Bシンガーを世に送り出したことでも話題になった、ロス・アンジェルスに拠点を置くインディペンデント・レーベル、ストーンズ・スロウ

近年はアンダーソン・パークとノウレッジの音楽ユニット、ノー・ウォーリーズや、スヌープドッグディム・ファンクのコラボレーション作品を配給するなど、メジャー・レーベルと契約する人気アーティストと、アンダー・グラウンドな世界で活躍するミュージシャンの競演を手助けしたことで再び注目を集めた彼らが、新たに契約したのがスティミュレイター・ジョーンズこと、サム・ランスフォードだ。

ヴァージニア州ロアノーク出身のサムは、様々な人種や地域の人が交わりあい、新しい音楽を生み出していた70年代、80年代の音楽に強い興味を持つ一方で、ヒップホップのDJとしても活動していた。 そんな彼は、2014年ごろから、現在の名義で音楽を発表。2016年にはストーンズ・スロウのコンピレーション『Sofie’s SOS Tape』に提供した”Soon Never Comes”が注目を集め、同レーベルと契約を結んだ。

本作は、彼にとって初めてのスタジオ・アルバム。全ての曲で、彼自身がプロデュースやソングライティングを担当し、歌声を吹き込むなど、制作の大部分を自身の手で行った力作になっている。

本作で最初に目を惹いたのは、2曲目に収められた”Give My All”。アルバムのリリース直前に発表されたこの曲は、ブリブリと唸りを上げるベースの音色と、洗練されたビートの組み合わせが心地よいディスコ・ナンバー。ベースの音を強調したディスコ・サウンドといえば、レーベル・メイトのディム・ファンクを思い起こさせる。しかし、彼の場合は90年代のヒップホップで多用された、70年代のソウル・ミュージックのような温かい音色を取り入れるなど、細部に変化をつけることで独自性を打ち出している。繊細なハイ・テナーを組み合わせた作風は、ソウル・シンガーがリードを執るファンク・バンドよりも、白人歌手を起用したフュージョン・バンドに近い。

また、『Sofie’s SOS Tape』からの再録曲である”Soon Never Comes”は、ベースの音色を極端に強調したビートと、音数を絞った上物が、ジョージ・アン・マルドロウを連想させるミディアム・ナンバー。奇抜なトラックの上で歌われるのは、グルーヴ・セオリーやシャーデーを連想させる、起承転結がはっきりとした構成と、美しく滑らかなメロディ。2018年のインディー・ヒップホップの手法を用いて、90年代以前のポピュラー・ミュージックを現代に蘇らせた手腕が心に残る佳曲。

これに続く”Need Your Body”は、70年代のソウル・ミュージックのレコードからサンプリングしたような、太く温かい音色を使ったトラックの上で、甘酸っぱい歌声を響かせる姿が印象的な曲。爽やかなメロディとヒップホップのビートを組み合わせた作風は、ラルフ・トレスヴァントの”Sensitivity”にも通じるものがある。ブルーノ・マーズの成功で再評価が進む80年代後半から90年代前半のR&Bを、独自の解釈で新しい音楽として再構築した大胆な発想が面白い。

そして、本作の最後を締めるのは”Give My All”と同時に公開された”Tempt Me With Your Love”。エムトゥーメイの”Juicy Fruits”を思い起こさせる、ゴムボールのように跳ねる音色が心地よいトラックと、流れるようなメロディが印象的なミディアム・ナンバー。80年代のソウル・ミュージックを彷彿させるフレーズを多用しているが、流麗なメロディと洗練されたアレンジのおかげで、ポップスっぽく聴こえる。

彼の音楽を聴いていて感じるのは、70年代から90年代にかけて流行した、様々なジャンルの音楽を丁寧に聴き込み、自分の作品の糧にしてきた、音楽への深い愛情と造詣だ。当時のサウンドを徹底的に研究し、現在に蘇らせたことは特筆に値する。しかし、彼の凄いところは、当時の音楽を研究するだけでなく、それらを細かく分解して、自分の音楽として再構築している点だ。昔の音楽への傾倒を示すミュージシャンは少なくないが、当時の音を使いつつ、自身の時代に合わせて、新しい音楽に組み替える人は少ない。この深い知識と、鋭いセンスが彼の音楽の魅力だと思う。

多くの人が知る昔の音楽と、同じくらい一般化した最新の録音機材を組み合わせ、独創的なサウンドを生み出した稀有な例。温故知新を地で行く、懐かしさと新鮮さが入り混じたヒップホップ作品だ。

Producer
Stimulator Jones

Track List
1. Water Slide
2. Give My All
3. Feel Your Arms Around Me
4. Together
5. Trippin On You
6. I Want You Too
7. Soon Never Comes
8. Need Your Body
9. Suite Luv
10. Tell Me Girl
11. Tempt Me With Your Love






Exotic Worlds and Masterful Treasures
Stimulator Jones
Stones Throw/BBQ
2018-04-22

Starchild & The New Romantic - Language [2018 Ghostly International]

ブラッドオレンジの『Freetown Sound』やソランジュの『A Seat At The Table』で腕を振るい、2012年以降は彼女のツアーにも帯同している、メリーランド州プリンス・ジョーンズ生まれのシンガー・ソングライター、ブラインドン・クック。

子供のころから、P-ファンクやプリンス、ディアンジェロなどの音楽に慣れ親しんできた彼は、その一方で、ニュー・ジャック・スウィングやジャム&ルイスのサウンドを研究するなど、一時代を築いたサウンドにも興味を持つ多感な青年だった。

そんな彼は、2012年に初のEP『Night Music』をリリース。自主制作ながら、先鋭的なサウンドが注目され、ミシガン州アナーバーに拠点を置く電子音楽やロックに強いインディー・レーベル、ゴーストリー・インターナショナルと契約を結ぶきっかけになった。

本作は彼にとって初のフル・アルバムであり、初のフィジカル・リリースとなる作品。ブラッドオレンジのレーベル・メイトでもあるロック・バンド、ポーチスの2016年作”Mood”のカヴァーを除く全曲で、作詞作曲とプロデュースを担当。フィーチャリング・ミュージシャンは招かず、彼自身とバンド・メンバーのみで録音するという、彼が影響を受けたプリンスを彷彿させる作品になっている。

アルバムのオープニングを飾る”Language”は、四つ打ちのビートと、軽やかに刻まれるギターが織りなす、スタイリッシュなリズムが心地よいディスコ・ナンバー。低音を強調したドラムは、ダフト・パンクの”Get Lucky”などでも取り入れられたディスコ・ブギーに近いもの。だが、わざと粗っぽく演奏した伴奏は、ロックやファンクの要素を強調したプリンスの音楽にも似ている。

続く、本作に先駆けて発表されたポーチスのカヴァー”Mood”は、原曲のテンポを大きく落として、ソウルフルなヴォーカルを強調したバラード。オリジナル版では、軽い音色を使ったミディアム・ナンバーだったが、この曲ではプリンスやロナルド・アイズレーを彷彿させる、ブライドンのテナー・ヴォイスを活かしたスロー・ナンバーに仕立て直している。スマートな声質と太いサウンドを活かして、前衛的なロック・ナンバーから新鮮な表情を引き出したテクニックが光っている。

そして、この曲の後に公開された”Hangin On”は、ディアンジェロの”Brown Sugar”を彷彿させる、太いベースの音とリズミカルなドラムの演奏が面白いミディアム・ナンバー。ヒップホップの要素を取り入れながら、その上に乗っかるメロディは滑らかで美しいというギャップが印象的。ファンカデリックからドゥー・ヒルまで、様々な時代のミュージシャンから影響を受けてきた彼の、音楽への愛情と造詣の深さが感じられる良曲だ。

また、本作のリリース直前にミュージック・ビデオが制作された”Ophelia’s Room”は、アルバムの収録曲では珍しい、ドラムやベースの音を抑え気味にしたバラード。低音を減らしつつ、異なるメロディを歌うテナー・ヴォイスを重ねて神秘的な雰囲気を醸し出した、ありそうでなかったタイプの作品。繊細なハイ・テナーはマーヴィン・ゲイっぽくもあるし、静かな伴奏をバックに訥々とメロディを紡ぐスタイルはシャーデーのようにも聴こえる。先鋭的な音楽スタイルを土台にしているにもかかわらず、奇抜さ以上に安心感が心に残る不思議な曲だ。

彼の音楽の面白いところは、アーティスト名の由来にもなったジョージ・クリントンや、多大な影響を受けたプリンスやジャム&ルイス、活動を共にすることが多いソランジュやブラッドオレンジといった、繊細で鋭い音楽センスと、ち密な曲作りで歴史に名を残した面々から多くの影響を受けつつ、多くの人にとって親しみやすいポップな作品に仕上がっているところだろう。ポピュラー音楽の世界に革命を起こすような、斬新なサウンドのミュージシャンから影響を受けたアーティストは、多くの場合、彼らのサウンドを踏襲したり、彼らの方向性をさらに突き詰めたりしている。そのことによって、新しい音楽が生まれたことも少なくないが、その一方で、一部のコアなファンにしか受け入れられない、マニアックな作品になってしまうことも少なくない。しかし、彼は難解な音楽から影響を受けつつも、流行の音楽をきちんと研究してきた経験を活かし、R&Bやソウル・ミュージックにあまり馴染みのない人にも親しみやすい作品に落とし込んでいる。この絶妙なバランス感覚が、彼の良さだと思う。

コンピュータを駆使して前衛的なビートを組み、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックに近づくR&Bシンガーが多いなかで、尖った音楽性のミュージシャンから影響を受けつつも、キャッチーで親しみやすい音楽を、バンド演奏で表現する彼の存在はとても新鮮。ジョージ・クリントンやプリンスが、ロックとソウル・ミュージック、両方のファンから愛され続けたように、音楽ジャンルの壁を越えて多くの人に愛される可能性を感じさせる充実の内容だ。

Producer
Bryndon Cook

Track List
1. Language
2. Mood
3. Only If U Knew
4. Hands Off
5. Hangin On
6. Black Diamond
7. Ophelia’s Room
8. Some People I Know
9. Can I Come Over?
10. Doubts
11. Good Stuff
12. Boys Choir
13. Lost Boys
14. Hand To God







Janelle Monáe - Dirty Computer [2018 Bad Boy, LLC, Atlantic]

アウトキャストの2006年作『Idlewild』に客演したことで表舞台に登場。同グループのビッグ・ボーイの口添えで、ショーン・コムズの知己を得たことをきっかけに、彼が経営するバッド・ボーイと契約。2007年に配信限定のアルバム『Metropolis』でメジャー・デビューを果たした、カンザス州カンザスシティ出身のシンガー・ソングライター、ジャネール・モネイことジャネール・モネイ・ロビンソン。

同作に収録された”Many Moons”がグラミー賞にノミネートするなど、個性的な音楽性が評価された彼女は、2010年に初のフル・アルバム『The ArchAndroid』発表。その後は、コンスタントに新曲を発表しながら、エイミー・ワインハウスやメイヤー・ホーソンとツアーを行う一方、役者としても「ムーンライト」や「ドリーム」などのオスカー作品で、存在感を発揮してきた。

本作は、自身名義の作品としては2013年の『The Electric Lady』以来、実に5年ぶりとなる3枚目のスタジオ・アルバム。プロデュースは、彼女が率いる音楽レーベル、ワンダーランド・アーツ・ソサエティに所属するネイト・ワンダーやチャック・ライトニング、ナナ・クワベナなどが担当。その一方で、ゲスト・ミュージシャンには、「ドリーム」のサウンドトラックでコラボレーションしたことも記憶に新しいファレル・ウィリアムスや、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンなどが名を連ねるなど、自社のクリエイターと外部のアーティストを上手に使い分けた作品になっている。

アルバムの収録曲で一番最初に公開されたのは、クワベナとワンダーの共同プロデュース作品である”Django Jane”。音数を絞ったシンプルなトラックの上で、ラップと歌を織り交ぜたパフォーマンスを披露するミディアム・ナンバーだ。ラップと歌を組み合わせる手法と、一音一音を丁寧に聴かせるミディアム・テンポのビートは、パーティーネクストドアの作風にも少し似ている。

また、同日に発表された”Make Me Feel”は、テイラー・スウィフトやブリトニー・スピアーズの曲を書いたこともある、スウェーデンのプロダクション・チーム、マットマン&ロビンが制作したミディアム・ナンバー。軽やかなギターのカッティングを盛り込んだ伴奏は、ジェイムス・ブラウンが活躍していた時代のファンク・ミュージックを彷彿させるが、ビートなど含めたアレンジ全体に目を向けると、ブリトニーの新作に入っていても不思議ではない、ポピュラー・ミュージック作品に落とし込まれているから面白い。ヒップホップの枠組みに囚われない彼女の絶妙なバランス感覚と、それを引き出すプロダクション技術が光っている。

そして、本作のリリース直前に発売されたシングル曲”Pynk”は、ワンダーとロス・アンジェスを拠点に活動する気鋭のクリエイター、ワイン・ベネットをプロデューサーに起用したミディアム・ナンバー。フィンガー・スナップとシンセベースを組み合わせて、ドゥー・ワップの軽妙さとヒップホップの躍動感を一つの曲に同居させた演出が面白い。他の曲ではあまり見られない繊細なヴォーカルや、サビの箇所で挿入されるハードなギターの音色など、色々な演出を盛り込んで、楽曲に起伏をつけつつ、ひとつのストーリーを持った作品に落とし込むアレンジ聴きどころだ。

それ以外の曲では、”I Got The Juice”も見逃せない。映画「ドリーム」のサウンドトラックでもタッグを組んだ、ファレル・ウィリウアムスをフィーチャーしたこの曲は、ワンダーランド・アーツ・ソサエティ所属のクリエイターがトラックを制作。ファレルの作品ではあまり耳にしない音色を使いつつ、彼が作りそうなビートを組み立てるセンスが面白い。ファンクやロック、レゲトンやカリプソのエッセンスを盛り込みつつ、ヒップホップに落とし込むファレルの手法を自分の音楽の糧にした良曲だ。

今回のアルバムでも、彼女の音楽性は変わることなく、ロックやファンク、ポップスやエレクトロ・ミュージックの要素を飲み込んだ、独創的な音楽を披露している。そんな彼女の音楽の面白いところは、経営者としてのしたたかさとバランス感覚を、奇抜で先鋭的な音楽性と両立しているところだ。楽曲制作は彼女を中心に、自身が率いるワンダーランド所属のクリエイターで行いつつ、楽曲に彩を添えるフィーチャリング・アーティストには、ファレルやブライアンといった有名ミュージシャンを起用する。この、自身の音楽性と、商業的な成功の両方を大切にできる意志の強さと狡猾さが、彼女の魅力だと思う。

多くのミュージシャンが鎬を削り、生き馬の目を抜くような厳しい競争にさらされながらも、自分の強みを見失うことなく、したたかに世を渡る彼女の強さが発揮された良盤。華やかなスポット・ライトを浴びるポップ・スターであると同時に、自分や後進のために、新たな光を灯し続ける彼女の姿が印象的だ。

Producer
Janelle Monae, Nate “Rocket” Wonder, Chuck Lightning, Mattman & Robin etc

Track List
1. Dirty Computer feat. Brian Wilson
2. Crazy, Classic, Life
3. Take A Byte
4. Jane's Dream
5. Screwed feat. Zoë Kravitz
6. Django Jane
7. Pynk feat. Grimes
8. Make Me Feel
9. I Got The Juice feat. Pharrell Williams
10. I Like That
11. Don't Judge Me
12. Stevie's Dream
13. So Afraid
14. Americans





DIRTY COMPUTER
JANELLE MONAE
ATLAN
2018-04-27

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