ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

R&B

Glenn Lumanta - In My Element EP [2017 Glenn Lumanta]

フィリピン生まれ、オーストラリアのシドニー育ちのシンガー・ソングライター、グレン・ルマンタ。

2012年ごろから、SNSや動画投稿サイトに、フランク・オーシャンの”Super Rich Kids”やミュージックの”Half Crazy”、マックスウェルの”Pretty Wings”といった、男性R&Bシンガーによるヒット曲のカヴァーをアップロードする一方、ライブなども精力的に行ってきた。

そして、2016年には初のオリジナル曲となるシングル『What You Deserverd』を発表。翌年には本作にも収録されている『Silver』を発売。90年代のR&Bシンガーを思い起こさせる甘いメロディと柔らかい歌声で注目を集めた。そして、このアルバムは『In My Element』に続く彼の初のEPで、初のフィジカル・リリース作品でもある。

甘い歌声とロマンティックなトラックが印象的なイントロ”In My Element”に続く実質的な1曲目”Heart Strings”は”Half Crazy”を彷彿させる、。太く温かい音色の伴奏と滑らかな歌唱が魅力のミディアム・ナンバー。甘い歌声を活かして、悠々と歌うグレンの姿が耳に残るムーディーな楽曲だ。

一方、これに続く”Treat You Good (Your Mind)”は、ベイビーフェイスの”When I See You Again”を思い起こさせる、しっとりとしたメロディと甘酸っぱいヴォーカルが光るスロー・バラード。90年代のR&Bを連想させる、生楽器っぽい音色のシンセサイザーも当時の音楽の雰囲気を作るのに一役買っている。20代とは思えないR&Bへの造詣の深さと、高い歌唱力が堪能できる良曲だ。

そして、本作では希少なアップ・ナンバー”Know You Better”は、ジョンBの”Simple Melody”などを連想させる、洗練されたメロディとスマートな歌声が聴きどころ。他の曲とのバランスを考えたのか、ドラムの音圧を抑えているのは少し気になるが、耳元を駆け抜ける爽やかなヴォーカルは見逃せない存在だ。

また、キーボードとギターを軸にした伴奏に乗せて、一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎ出す姿が印象的なミディアム・バラード”Imagination”は、ライブで演奏する姿が目に浮かぶ、生演奏っぽい伴奏が格好良い楽曲。多くの曲で使われているフィンガー・スナップが、切ない雰囲気を際立たせている。

だが、本作のクライマックスはアルバムの最後を飾る”Silver”だろう。本作に先駆けて配信限定でリリースされたされたこの曲は、ベイビーフェイスっぽい甘ずっぱいメロディと、ギターやキーボードを巧みに配置した、優しい雰囲気と繊細な音色が印象的な伴奏、恋人に語り掛けるように、優しく歌うグレンのヴォーカルが合わさった美しいミディアム・バラード。若き日のアッシャーの代表曲”Nice & Slow”や、テヴィン・キャンベルの”Can We Talk”にも通じる、爽やかな歌声とロマンティックなメロディの相乗効果が魅力的だ。

彼の楽曲を聴いて、真っ先に思い出したのはベイビーフェイスやトニー・リッチなどの90年代に一世を風靡した男性シンガー達の音楽。スマートで繊細な歌声と、それを活かすロマンティックなメロディ、そして絶妙なさじ加減でヴォーカルの良さを引き立てる伴奏が揃った音楽は、90年代に流行した美しいメロディのR&Bナンバーを彷彿させる。

自主制作の限られた環境で、使える機材を最大限駆使して、自分の持ち味である甘い歌声を活かした甘い雰囲気のR&Bを作り上げた才能は恐ろしい。90年代のブラック・ミュージックに慣れ親しんできた世代の人にこそ聴いてほしい、歌とメロディを思う存分堪能できる傑作だ。

Producer
Glenn Lumanta

Track List
1. In My Element (int.)
2. Heart Strings
3. Treat You Good (Your Mind)
4. Know You Better
5. Imagination
6. Silver






 

MAAD - Le Funk [2017 The VAMP]

ニューヨークを拠点に、シンガー・ソングライターやDJ、モデルなど、幅広い活動を展開するMAAD。数年前から、サウンドクラウドや配信サイトで自身のオリジナル曲を公開するなど、精力的に活動してきた彼女が、2017年3月に配信限定で初のEP『Le Funk』をリリースした。

彼女と一緒に多くの曲を制作してきた、クリエイターのヴァンプが全ての収録曲に参加。アリーヤやブランディにも通じる透き通った歌声と、R&Bやハウス・ミュージックのエッセンスを取り入れたトラックによる、モダンなR&Bナンバーを揃えている。

アルバムの1曲目を飾るのは2016年にシングル化された”Black Ice”。マスターピースやハイ・ファッションあたりのディスコ・グループを彷彿させる、ズンズンと響く太いベースの音色に乗せて、爽やかな歌声を響かせるミディアム・ナンバー。繊細なヴォーカルや起承転結が明確なメロディは、アリーヤなどの90年代に活躍したR&Bシンガーっぽくも聴こえる。

これに対し、シンセサイザーを駆使したディスコ・ミュージック、ディスコ・ブギーの手法を取り込んだのが”Satisfied”。ギターの演奏やストリングスっぽい音色のシンセサイザー等を取り入れた、洗練された音色が生み出す、躍動感たっぷりのビートが光るダンス・ナンバー。ヴォーカルの汗が飛んできそうな、エネルギッシュな歌唱も聴きどころ。

そして、2015年に発表された彼女のデビュー曲”Sweet & Low”は、プラッシュあたりの音楽を思い起こさせるダイナミックなシンセサイザーの伴奏と、スタイリッシュなビート、艶やかなヴォーカルが合わさった、ロマンティックなディスコ・チューン。ハウス・ミュージックを連想させるフィルターを使ったイントロやアクセントのように使われるギターのカッティングもいい味を出している。

一方、2016年にリリースされた”90s Love”は、ブランディやアリーヤあたりの90年代のR&B作品を連想させるシンプルなビートと、透き通った歌声を活かした美しいメロディが魅力のミディアム・バラード。使っている音色自体は、他の曲と同じだが、作曲やアレンジの技術で全く異なるタイプの曲に仕立て上げている。同じ機材でも、使い方ひとつで色々な楽曲を生み出せる楽曲制作の面白さを再確認させられる、本作の隠れた目玉ともいえる楽曲だ。シドの『Fyn』が好きだった人は、ぜひ耳を傾けてほしい。

それ以外の、本作が初収録となる新曲の中でも、特に注目を集めているのがアルバムの最後を締める”Touch Me”だ。2017年のグラミー賞にデビュー・アルバム『Eldrado』がノミネートしたことも話題になったシンガー・ソングライター、ロー・ジェイムスをフィーチャーしたこの曲は、本作の収録曲では珍しい、ハンド・クラップや太い音色のベース、ギターなどを組み合わせた、ロー・ジェイムスの作風に近い、今時のR&Bっぽい楽曲。決して派手な曲ではないが、セクシーな歌声で、恋人のように語り合う2人の姿など、聴きどころが盛り沢山の面白い曲だ。

アルバム全体を通して感じたことだが、このアルバムは、DJ、モデル、シンガー・ソングライターという異なる3つの分野で積み上げた経験が発揮された、「魅せる」ダンス・ミュージック作品だと思う。役者やモデルなどミュージシャン以外の仕事と2足(3足以上)の草鞋を履いているアーティストといえば、『8 Ounces』を発表したジャスティン・スカイ『Good Look For You EP』が好評のゲヴィン・トゥレックなど、有名無名関係なく多数いるが、彼女達同様、MAADの場合も、活動の幅を広げることで、「他人の目に映る自分のイメージを意識する感性」や「ダンス・ミュージックとして繰り返し聴かれる音楽を生み出すセンス」、「自分の持ち味を相手にきちんと伝える技術」など、ミュージシャンには欠かせない色々なスキルを習得したように見える。

アルバムの方向性は、タキシードの『Tuxed 2』ナイト・ファンクの『Nite-Funk EP』に近い、70年代後半から80年代初頭のソウル・ミュージックのスタイルを踏襲したものだと思う。だが、本作では、90年代の女性シンガーを彷彿させる彼女の繊細で透き通った歌声を念頭に作ることで、彼ら以上に当時のサウンドを大胆に取り込みつつ、オリジネーター達と差別化することに成功している。タキシードなどの作品が好きな人には是非お勧めしたい、2017年を代表するといっても過言ではない、本格的なディスコ・ミュージック・アルバム。アナログ盤で聴きたいけど、出てくれないかなー。

Producer
MAAD, VAMP

Track List
1. Black Ice
2. Satisfied
3. Sweet & Low
4. 90s Love
5. Lost Together
6. Stingy Lover
7. Touch Me feat. Ro James






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6LACK - Free 6LACK [2016 LoveRenaissance, Interscope]

メリーランド州ボルティモア生まれ、ジョージア州アトランタ育ちのシンガー・ソングライター、6LACK(どうやら「ブラック」と読むらしい)こと、ロドリゲス・バルデス・ヴァレンティン。2011年にインディペンデント・レーベルと契約したことをきっかけに、当時通っていた大学を中退して音楽活動に専念。サウンドクラウドに自作曲などをアップロードするなどして、新しい音に敏感な人々を中心に、少しずつ着実にファンを増やしてきた。

その甲斐もあって、2016年にはインタースコープと契約。同年7月にフューチャーの”Perkys Calling”をサンプリングしたシングル『Ex Calling』でデビューすると、同9月には2作目のシングル『PRBLMS』を発表。こちらは、ビルボードのホット100チャートで最高88位という、新人R&Bシンガーとしては上々の結果を残した。

このアルバムは、上の2枚のシングルを収録した、彼にとって初のフル・アルバム。2016年11月に発売されると、配信限定ながらアルバム・チャートの54位(R&Bのアルバム・チャートでは最高11位)まで上り詰め、翌年にはCD盤、LP盤も発売されるヒット作になった。

まず、本作の新録曲から目を向けると、2曲目に収められた”Rules”は、リュダクリスなどの作品を手掛け2017年にはキャリッドのデビュー作『American Teen』を手掛けたことでも話題になったシック・センスがプロデュースした作品。メロディを乗せやすい、起伏にとんだ変則ビートとトラックを巧みに乗りこなすブラックの歌唱力が光る、味わい深い楽曲だ。

これに対しミュージック・ビデオも制作された”Free””は、カナダ出身の女性ヒップホップ・アーティスト、ノヴァ・ロッカフェラがプロデューサーとして参加した楽曲。シンセサイザーを駆使した、ダークで重いビートに乗せて、切々と歌う彼の姿が印象的なミディアム・バラード。中盤でビートが変化して、楽曲にメリハリをつけるテクニックも面白い。シンガーらしい、トラックの特徴や展開に応じて、声をコントロール技術と、ラッパーのように言葉を上手につなぐスキルが見事に両立された佳曲だ。

一方、ジェイソン・デルーロやブリトニース・ピアーズにも曲を提供している、ブライアン・アイザックが手掛けた”Gettin' Old”は、ブラックの歌唱力にスポットを当てた本格的なヴォーカル曲。恋人に語り掛けるような優しいヴォーカルが心地よいミディアム・バラードだ。ドラムを軸にした、主役の歌声を引き立てる役に徹したシンプルなトラックも、楽曲の切ない雰囲気を盛り立てている。

だが、本作の目玉といえば、やっぱりシングル化された2曲だろう。アトランタ出身のラッパー、フューチャーのミックステープ『Purple Reign』に収められている楽曲のトラックを引用した"Ex Calling"は、原曲の制作もおこなっているアトランタ出身のプロデューサー、サウスサイドがプロデュースをを担当。バウンズ・ビートと哀愁を帯びたピアノの伴奏が印象的なトラックを活かした、切ない雰囲気のミディアム・ナンバーだ。R&Bシンガーというよりもラッパーに近いガラガラとした声で、淡々と言葉を紡ぎ出す姿が耳に残る、どこか悲しい雰囲気の楽曲だ。

そして、ノヴァをプロデューサーに招いたヒット曲”PRBLMS”は、シンセサイザーを使ったダークな雰囲気の伴奏とビートに乗せて、歌ともラップとも形容しがたい、絶妙な起伏のヴォーカルを聴かせてくれるミディアム・ナンバー。なんとなくだけど、 ドレイクパーティネクストドアの作風に似ている気がするのは自分だけだろうか。

アルバムをリリースした時点で24歳(パーティネクストドアの1歳年上で、ウィークエンドよりも2歳若い)と、若者らしい新鮮な視点を見せつけてくれる一方、シンガー・ソングライターとして5年以上活動してきた経験に裏付けられた、自身の感性を具体的な作品に落とし込む確かな技術も兼ね備えている。実力派シンガー、華やかさやスター性では見劣りする部分もあるが、それ以上に、聴き手の心を確実に惹きつける、存在感のある声とフロウが光っている。

同作がヒットした翌年には、ガラントのデビュー・アルバム『Ology』で強烈なパフォーマンスを聴かせてくれた、日系アメリカ人シンガーのジェーン・アイコとコラボレーションしたシングル『First Fuck』を発表するなど、1作目の結果に驕ることなく、素敵な新曲を生み出し続けている。アンダーソン・パックケラーニと並んで、これからのR&B業界をけん引する台風の目になるかもしれない。2010年代のR&Bの醍醐味が凝縮された、現代のR&Bを象徴する作品だと思う。

Producer

6LACK, Frank Dukes, Dot da Genius, Breyan Isaac etc

Track List
1. Never Know
2. Rules
3. PRBLMS
4. Free
5. Learn Ya
6. MTFU
7. Luving U
8. Gettin' Old
9. Worst Luck
10. Ex Calling
11. Alone / EA6





Free 6lack
6lack
Interscope Records
2017-03-17

 
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