ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

R&B

Jhené Aiko - Trip [2017 ARTium, Def Jam]

2000年代初頭から、姉であるミラJ達と一緒に音楽活動を開始。姉妹で結成したガールズ・グループのほか、裏方やゲスト・ミュージシャンとしてB2Kなどの作品に携わってきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、ジェネイ・アイコことジェネイ・アイコ・エフル・キロンボ(余談だが、母方の祖先が日本人のため”アイコ”というミドルネームを使っている。また、姉のミラJにも”アキコ”というミドルネームがある)。

2011年には自主制作のアルバムながら、ドレイクやカニエ・ウエスト、ケンドリック・ラマーといった豪華なゲストが参加したミックス・テープ『Sailing Soul(s)』を発表。同作が高い評価を受け、2014年にはヒップホップの名門デフ・ジャムと契約する。また、同年にリリースした初のフル・アルバム『Souled Out』はアメリカ国内だけで15万枚を売り上げるヒットとなり、グラミー賞の3部門にノミネート。それ以外にも多くの音楽賞にノミネート、もしくは受賞するなど、一気にスターダムを駆け上がった。

その後も、2016年にはラッパーのビッグ・ショーンとコラボレーションしたアルバム『TWENTY88』を発売。その一方で、 スラックと共作した”First Fuck”や、クリス・ブラウンと共演した”Hello Ego”など、新曲を次々と発表。それ以外にも、チェインスモーカーズやガラント、カシミア・キャットやマリ・ミュージックなど、様々なスタイルのミュージシャンの録音に参加し、あらゆるジャンルに適応する引き出しの多さと高いスキルを見せつけてきた。

本作は、そんな彼女にとって自身名義では3年ぶり2枚目となるフル・アルバム。既発曲の大半は収録せず、3曲目の”While We're Young”以外は全て新曲という予想外の構成だが、その新曲も含め、多くの曲で彼女の持ち味が存分に発揮された、ハイ・レベルな作品に仕上がっている。

その、本作からの先行シングル”While We're Young”は、これまでにも彼女の曲を数多く手掛けているフィスティカフスのプロデュース作品。シンセサイザーを駆使したみずみずしい音色のトラックに乗って、ゆったりと歌う姿が印象的なミディアム・ナンバー。彼女の透き通った歌声が、シンセサイザーのひんやりとした音色と相性のよい佳曲だ。

これに対し、ビッグ・ショーンが客演した”OLLA (Only Lovers Left Alive)”は、ドナ・サマーなどの70年代終盤のディスコ音楽やニュー・オーダーのような黎明期のエレクトロ・ミュージックを思い起こさせる、リズム・マシーンやアナログ・シンセサイザーの音色が新鮮なアップ・ナンバー。ビッグ・ショーンの作品に数多く携わってきたアメイア・ジョンソンが制作に参加したこの曲は、ダフト・パンクの”Get Lucky”やマーク・ロンソンの”Uptown Funk”などで注目を集め、最近では、ブルーノ・マーズの”24K Magic”やウィークエンド”Starboy”などのヒット曲にも取り入れられている、ディスコ・ミュージックを取り入れた、モダンなトラックといなたいメロディが光っている。

一方、カシミア・キャットとフランク・デュークスが制作を担当し、ロス・アンジェルス出身のベテラン・ラッパー、クラプトを招いた”Never Call Me”は、電子音を多用しつつも従来の作風を踏襲したミディアム・テンポの作品。声質もスタイルも異なる、二人の歌唱をスムーズにつなげるアレンジが面白い。

そして、本作の最後を締めるのが、マリ・ミュージックと共作した”Trip”だ。マリ・ミュージックが用意したトラックは、彼の作品を彷彿させるゴム毬のように跳ねる音色が気持ち良いもの。その上で、アフリカの民族音楽を連想させる軽妙なメロディを歌うジェネイの存在が光っている。メロディを大きく崩して歌うマリが、楽曲をポップな雰囲気に仕上げている。

今回のアルバムでは、前作までのクールなイメージを残しつつ、それを発展、応用した楽曲が目立っている。その最たる例が”OLLA (Only Lovers Left Alive)”や”Trip”のような曲で、これまでの作品では見られなかった、ディスコ音楽やアフリカの音楽の要素をメロディやトラックにふんだんに取り入れている。これだけ色々なスタイルを取り上げながら、自分の音楽に違和感なく混ぜ込めるのは、若いころから音楽業界の一線で活躍していた、彼女の豊富な経験と鋭いセンスによるところが大きいと思う。

アリーヤを彷彿させる冷たく透き通った歌声を持ちながら、彼女やそのフォロワーとは一線を画した独特の音楽を聴かせている。現代的な音楽を作りながら、90年代からR&Bに慣れ親しんできた人には懐かしい、そうでない人には新鮮に聴こえる魅力的なアーティストだ。

Producer
Jhené Aiko, Ketrina "Taz" Askew, Fisticuffs, Amaire Johnson, Frank Dukes, Dot da Genius etc

Track List
1. LSD
2. Jukai
3. While We're Young
4. Moments feat. Big Sean
5. OLLA (Only Lovers Left Alive) feat. TWENTY88
6. When We Love
7. Sativa feat. Swae Lee
8. New Balance
9. Newer Balance (Freestyle)
10. You Are Here
11. Never Call Me feat. Kurupt
12. Nobody
13. Overstimulated
14. Bad Trip (Interlude)
15. Oblivion (Creation) feat. Dr. Chill
16. Psilocybin (Love In Full Effect) feat. Dr. Chill
17. Mystic Journey (Freestyle)
18. Picture Perfect (Freestyle)
19. Sing To Me feat. Namiko Love
20. Frequency
21. Ascension feat. Brandy
22. Trip feat. Mali Music

a

Mila J - Dopamine [2017 Silent Partner]

後にイマチュアを成功に導く、同郷の音楽プロデューサー、クリス・ストークスが率いるダンス・グループで音楽業界入りのチャンスを掴み、幼いころからプリンスの”Diamonds & Pearls”などのミュージック・ビデオに出演。その一方で、姉妹と結成した女性版イマチュアのガールズ・グループGyrl(ギャル)の一員としても活動してきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身の日系アメリカ人のシンガー・ソングライター、ミラJことジャミーラ・アキコ・キロンボ。

ギャルの一員としては、イマチュアのツアーに帯同したほか、グループの名義でもシングル”Play Another Slow Jam”や”Get Your Groove On”などをヒットさせている。その後、彼女はデイム・フォーという別のグループに移籍。こちらでもシングル”How We Roll”などを残している。

そんな彼女は、2000年代初頭にソロへと転向。オマリオンなどの作品に客演しながら、マーカス・ヒューストンなどが参加した初のソロ作品『Split Personality』を制作するも、諸々の事情でお蔵入りとなる。しかし、2012年にジャパロニアの名義でミックス・テープを発表。その後、自身の名義でも作品を公開し70万ダウンロードを達成するヒット作となる。

その後、彼女はモータウンと契約、2014年にメジャー・レーベル作となるEP『M.I.L.A.』をリリースする。このアルバムは、DJマスタードやK.E.オン・ザ・トラックなどが制作を担当し、B.O.B.やタイ・ダラ・サインなどがゲストとして参加し、配信限定のデビュー作とは思えない豪華なもので、全米R&B/ヒップホップ・チャートの22位に入った。また、2016年には2作目のEP『213』を発表。クリス・ストークスやマーカス・ヒューストンとともに、彼女自身もプロデュースに携わり、R&Bが好きな人の間で高い評価を受けた。

このアルバムは、前作から約1年ぶりとなる、彼女にとって3枚目のEP。インディー・レーベルのサイレント・パートナーから発売された作品だが、収録曲のほぼすべてを、彼女の楽曲に携わってきたアイリッチことイマニュエル・ジョーダン・リッチがプロデュース。ソングライティングを彼女自らが手掛けた、アーティストとしてのミラJにスポットを当てたものになっている。

アルバムのオープニングを飾る”No Fux”はピアノの演奏をバックにしっとりと歌う姿が魅力的なスロー・ナンバー。低音を強調した艶めかしい歌声が、大人の色気を醸し出している。ピアノとヴォーカルを組み合わせた本格的なバラードを最初に持っていくスタイルは、バラードの表現力で名を上げたマーカス・ヒューストンを連想させる。

これに対し、”New Crib”はシンセサイザーを多用したヒップホップ寄りのトラックと、ゆったりとしたミラJのヴォーカルが心地よいミディアム・ナンバー。バラードにヒップホップの要素を取り入れたスタイルは、トレイ・ソングスやオマリオンの音楽によく似ている。大人の色気と表現力が発揮された佳作だ。

また、ヒップホップ色の強い作品としては”Move”が面白い。トラップやクランクを取り入れた高揚感のあるトラックに、ラガマフィンを取り入れた荒々しいヴォーカルが格好良いミディアム・ナンバーだ。地声を織り交ぜたワイルドな歌唱はリル・キムやフォクシー・ブラウン、ニッキー・ミナージュといった人気女性ラッパーの手法を踏襲したものだ。ハードなヒップホップとセクシーなR&Bを混ぜ合わせるスキルが光っている。

そして、本作の収録曲でも異彩を放っているのが”Fuckboy”だ。一度発表された曲をリミックスして再リリースした、彼女の思い入れの強さを感じさせる曲。90年代のヒップホップを連想させる。古いレコードからサンプリングしたような太く温かい音色を使ったビートをバックに、軽妙なヴォーカルを聴かせるミディアム・ナンバーだ。ヒップホップの要素を取り入れたミディアム・テンポのトラックと、グラマラスなヴォーカルの組み合わせはメアリーJ.ブライジの『My Life』の収録曲を思い起こさせる。

今回のアルバムは、モータウンを離れ、気心の知れたプロデューサーと二人三脚で制作した、彼女の個性が強く反映されたアルバムだ。しかし、その作風は流行の音を適度に取り入れつつ、歌とラップを上手に使い分けた、バランスの取れたものになっている。自らが制作の主導権を握り、持ち味を存分に発揮しつつも、流行の音をしっかりと取り入れて、リスナーの心を掴むスタイルは、若いころから流行のサウンドに触れてきた彼女の本領が発揮されたものといっても過言ではないだろう。

妹、ジェーン・アイコがガラントの作品に起用されるなど、注目を集める中、経験も実績も豊富な姉の存在感をアピールした面白いアルバムだと思う。本作をきっかけに彼女が再び注目を集め、表舞台に返り咲いてくれたらいいなと思わせる、高いクオリティの作品だ。

Producer
iRich

Track List
1. No Fux
2. La La Land
3. Transform U
4. I Do Love You feat. IRich
5. New Crib
6. Lit
7. Doomed
8. Longway
9. Move
10. Fuckboy
11. Drippin
12. Body
13. Bonfire





Dopamine
SILENT PARTNER ENTERTAINMENT/NOVEMBER REIGN
2017-04-07

Goapele - Dreamseeker EP [2017 Skyblaze, EMPIRE]

南アフリカでアパルト・ヘイトと戦っていた父と、イスラエルにルーツを持つユダヤ系の母を持つ、カリフォルニア州オークランド出身のシンガー・ソングライター、ゴアペレことゴアペレ・モーラバーン。

南アフリカからの亡命者が多い環境で育った彼女は、早くから音楽に強い興味を示し、様々な分野の芸術家と交友を重ねてきた。その一方で複雑な家庭環境で育ってきた彼女は、人種問題や性差別の問題にも早くから関心を持ち、学生時代には人権運動にもかかわっていた。そんな彼女は、ハイスクールを卒業するとアーティストを目指してバークリー音楽院に進学。ヴォーカルとソング・ライティングを専攻して、プロのシンガー・ソングライターへの道を歩み始める。

大学を卒業した彼女は、オークランドに戻り、自身にとって初の録音作品となるアルバム『Closer』を制作。自主制作の録音ながら、ジェフ・バクスターやソウライブといった、音楽通にはお馴染みのクリエイター達を集め、アレサ・フランクリンとプリンスの音楽を融合したような、前衛的でありながらヴォーカルを丁寧に聴かせたアルバムは、その独特の作風で、新しい音に敏感な人々の間で注目の的となった。

その後、彼女は自身のレーベル、スカイブレイズを設立。ソニーBMG(どちらもソニー系列)と配給契約を結んで4枚のアルバムを発表したほか、2003年にはMTVが企画した、HIV/AIDSの啓発キャンペーンにアヴリル・ラヴィーンやピンクなどと一緒に参加するなど、自身の個性を発揮しつつ、着実にファンを増やしていった。

この作品は、2014年の『Strong as Glass』以来、約3年ぶりの新作となる、彼女にとって6枚目のオリジナル・アルバム。10曲中4曲がインターリュードと、実質的な収録曲数は6曲だが、プロデューサーには、ベッドロックやマイク・タイガーのような、過去作にも携わっている面々に加え、リーラ・ジェイムスBJザ・シカゴ・キッドの作品で名を上げたコーネリオ・オースティンや、タイガの楽曲を手掛けたクラックウェブが参加した密度の濃い作品。本作で彼女は、時間をかけて築き上げた自身のイメージを大切にしつつ、新しいサウンドも積極的に取り入れた、独創的な音楽を聴かせている。

アルバムに先駆けて公開された”$ecret”は、クラックウェブのプロデュース作品。キラキラとした高音と、唸るような重低音が印象的なトラックは、電子楽器を多用し音数を絞ったトラップのスタイルを応用したものだ、抽象度の高いトラックに乗せて、シャーデー・アデューを彷彿させる神秘的な声を使い、じっくりとメロディを歌い上げるこの曲には、彼女の持ち味が凝縮されていると思う。

一方、本作の収録曲の中でもとりわけ異彩を放っているのは、コーネリオ・オースティンが制作に参加した”Power”だ。フェラ・クティの音楽を思い起こさせる華やかな打楽器の音色が乱れ飛ぶイントロから、ダイナミックなベース・ラインと変則ビートが格好良いヒップホップへと繋がっていくミディアム・ナンバー。アフリカ音楽のにぎやかなパーカッションとファンクの躍動感溢れる低音を組み合わせたアレンジに、アフリカ音楽の要素を取り入れたメロディを組み合わせるセンスの高さが光る曲だ。

また、これに続く”Take It Over”は気鋭の若手クリエイター、ネイト・ヘンドリックスがプロデュースを担当。レゲトンやダンス・ホール・レゲエを連想させる爽やかで軽妙なトラックをバックに、透き通った歌声を伸び伸びと響かせる姿が魅力のアップ・ナンバー。しなやかだが起承転結のはっきりしたメロディは、シャーデーにそっくりだが、シンセサイザーを駆使したトラックを取り入れることで、バンド・サウンドが中心のシャーデーと差別化を図っている。

そして、本作の目玉といっても過言ではないのが、2017年のグラミー賞にノミネートしたことも話題になった、BJザ・シカゴ・キッドをフィーチャーした”Stay”だ。重いビートとストリングスのように荘厳な伴奏が心地よいトラックの上で、大胆にメロディを崩して歌う二人の歌唱が光るスロー・ナンバー。実力を持った歌手から刺激を受けたかのように、メロディに解釈を加え合う二人の姿が心に残る作品。優れた才能を持つ二人が、互いの能力を引き出し合った名演だ。

3年ぶりの新作となる今回のアルバムは、EMPIREからのリリースということで、制作環境の変化が気になったが、大方の心配をよそに、これまでとは大きく変わらない、安定した音楽を聴かせている。初期の作品から、アフリカ音楽やジャズを取り入れてきた彼女らしく、トラップやアフロ・ミュージックも違和感なく乗りこなしている。こんな作品を生み出せるのは、音楽を体系的に学びつつ、幅広い交友関係を通して視野を広げてきた彼女の、高度な思考力と鋭い感性、それを具現化する技術によるところが大きいだろう。

色々な音楽を取り込み、編集し、自分の作品に落とし込む。単純だが難しいプロセスを丁寧に実行する能力がある彼女だからこそ生み出せる。緻密さと新鮮さを両立した作品。彼女の音楽は、往年のソウル・ミュージックを現代の音楽にアップデートするという、多くのミュージシャンが取り組み、苦戦してきた難題への一つの回答だと思う。

Producer
Mike Tiger, Crakwav, Cornelio Austin, Nate Hendrix, Bedrock

Track List
1. Dreamseeker Intro
2. $ecret
3. As Bright As The Sun (Interlude)
4. Power
5. Take It Over
6. Giving Me Life (Interlude)
7. Stay feat. BJ the Chicago Kid
8. Full Circle (Interlude)
9. Stand
10. Cool Breeze






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