ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

R&B

Selina Albright - Conversations [2017 Selina Albright]

80年代後半から90年代にかけて、スムース・ジャズ界の名サックス・プレイヤーとして活躍していたジェラルド・アルブライトを父に持ち、自身もジャズ・シンガーとして活動してきたコロラド州デンバー出身、現在はテキサス州ダラスを拠点に活動するシンガー・ソングライター、セリーナ・アルブライト。彼女にとって初めてのフル・アルバムにして、初の本格的なR&B作品。

本作が初のフル・アルバムといっても、2000年代後半から父の録音でヴォーカルを務め、2013年には自身名義のシングル『Brighter』がイギリスのソウル・ミュージック・チャートで4週連続で1位を取るなど、実績豊富な彼女。このアルバムでは、エラ・フィッツジェラルドやダイナ・ワシントンと並んで、ホイットニー・ヒューストンやレイラ・ハザウェイから影響を受けてきたと公言している彼女らしい、ダイナミックなヴォーカルを聴かせている。

アルバムの1曲目はエリック・ロバーソンやカーク・フランクリンなどの作品を手掛けてきたジェイムス・ロバーソンとの共作による”Eat Something”。ジェニファー・ハドソンの”Why Is It So Hard”や、キキ・ワイアットの”Tap Out”など、多くの有名ミュージシャンのレコーディングに携わっている日本人ギタリスト、松野啓太が奏でる甘く艶っぽい音色のギターで幕を開けるこの曲は、SWVの『New Beggining』や、タミアの『Tamia』といった、90年代後半に流行したR&B作品に収録されていそうな、洗練されたトラックと、起承転結のはっきりとしたしなやかなメロディが印象的なミディアム・ナンバー。流れるようなメロディは、父の作風にも少し似ているが、芯の強い声でじっくりと歌っているあたりは、パワフルな歌声のシンガーを目標にする彼女の持ち味が出ていると思う。

一方、サックス奏者のランディ・エリスをフィーチャーした”If I Were a Boy”は、サックスにパーカッションとギターという、シンプルな編成の伴奏の上で、じっくりと歌い上げたバラード。少し線は細いが、高音を軸にした広い音域と、大胆に強弱をつけた表現は、ビヨンセのそれとよく似ていると思う。

これに対し、ジェイムス・ロバーソンが手掛けたミディアム・ナンバー”Victim”は、コンピューターを駆使して作られたモダンなビートの上で、力強い歌声を響かせた曲。スマートだが力強い歌声や、起承転結のはっきりしたメロディは、ブランディやモニカといった90年代に音楽シーンを席巻した女性シンガー彷彿させるが、重低音を効果的に使ったトラックのおかげで、2017年の新しい音楽に聴こえるから面白い。

そして、本作のハイライトと言っても過言でないのが、父であるジェラルド・アルブライトを招いた”Let Go”、ウィル・ダウニングやシャンテ・ムーアなど、多くの実力派シンガーに曲を提供してきたクリス”ビッグ・ドック”デイヴィスがペンを執った曲は、ドラムやベースとキーボードを使った、シンプルなトラックの上で、大人の色気をみせる流麗なミディアム・ナンバー。中盤以降に絶妙なタイミングでしなやかな演奏を聴かせるジェラルドの存在が、楽曲のロマンティックな雰囲気を盛り上げている。

今回のアルバムは、彼女が敬愛するシンガーの一人に挙げた、レイラ・ハザウェイの近作に近い路線の、シンプルで無駄のない伴奏と、洗練されたメロディが光る、大人向けの作品に仕上がっている。そんな彼女の作品の面白いところは、R&Bと並行してジャズも歌ってきた経験を活かして、複雑な表現とパワフルなヴォーカルを両立している点だと思う。

シャンテ・ムーアやレイラ・ハザウェイの流れを汲む、力強い歌声と洗練された表現力が魅力の本格的なR&B作品。女性ヴォーカルの美しい歌声を思う存分堪能できる数少ないアルバムだと思う。

Producer
Selina Albright, James Roberson, Chris "Big Dog" Davis

Track List
1. Eat Something
2. Possible
3. If I Were a Boy
4. Talk to Her
5. Highest High
6. Wifey Anthem (You Don't Have to Fight at Home)
7. Search My Name
8. Victim
9. Let Go
10. Uncharted Love






Niia - I [2017 Atlantic]

マサチューセッツ州のニードハム出身。幼いころからクラシック・ピアノと歌の教育を受け、13歳になると人前で歌うようになったという、シンガー・ソングライターでピアニストのニイアことニイア・ベルティーノ。イタリア出身で、オペラ歌手の娘という母の下で鍛えられた彼女は、ハイスクール時代からジュリアード音楽院やバークリー音楽大学のプログラムに参加し、腕を磨いていた。

高校卒業後は、ニューヨークのニュースクール大学に進学。同大学ではジャズ・ヴォーカルを専攻している。また、大学在学中には元フージーズのワイクリフ・ジョンと出会い、2007年には彼が発表したシングル『Sweetest Girl (Dollar Bill)』にフィーチャリング・ヴォーカルとして参加している。同曲は総合チャートで最高12位に登り詰め、プラチナ・ディスクに認定される大ヒットとなった。

同曲のヒットで知名度を上げた彼女は、MTVの企画で世界各地のステージを経験。帰国後は、ニューヨークでも大規模な公演を成功せさせている。

また、2013年には、自身の名義によるデビュー・シングル『Made For You』を発表。クールな歌声を活かした楽曲はもちろん、ヒストリーXなどの仕事で知られる、トニー・ケイトが制作したMVも注目を集めた。その翌年には、ロビン・ハンニバルのプロデュースで初のEP『Generation Blue』をリリース。洗練されたメロディと滑らかなヴォーカルで、若者の間だけに留まらず、幅広い年代の人々から高い評価を受けた。

そして、アトランティックと契約した彼女が、2017年に発表したのが本作。前作同様、Rhye(ライ)やケンドリック・ラマーなどを手掛けてきたロビン・ハンニバルが全曲をプロデュース。彼女の繊細な歌声と、流麗なメロディを生み出すセンスを活かした、スタイリッシュな作品に仕上げている。

イントロを挟んだアルバムの実質的な1曲目”Hurt You First”は、アイズレー・ブラザーズの”Between The Sheets”を思い起こさせる、シンセサイザーを使ったしっとりとした伴奏の上で、シャーデーのヴォーカリスト、シャーデー・アデュを彷彿させる透き通った歌声を響かせるミディアム・ナンバー。怪しげな雰囲気の演奏に乗って、爽やかなヴォーカルを聴かせる彼女の存在感が光る佳曲だ。

一方、キーボードやストリングスを使ったロマンティックな演奏が魅力のバラード”Sideline”は、丁寧な歌唱が心地よいスロー・ナンバー。生演奏っぽいドラムやキーボードの柔らかい音色と、優しく語り掛けるように歌うニイアの姿が心に残る名演だ。繊細な歌声を振り絞って力強く歌うサビの部分は、シェリル・クロウやジョニ・ミッチェルのような、女性フォーク・シンガーのパフォーマンスを思い起こさせる。

また、ジャズミン・サリヴァンが参加したリミックス・ヴァージョンでは、鋭い低音を強調したR&Bっぽいトラックに変更。曲の途中でジャズミンが地声のような低い声のラップを聴かせている。オリジナル・ヴァージョンと比べると、ヒップホップやR&Bに寄った作風が格好良い。

そして、見逃せないのは、スロー・ナンバーの”Last Night In Los Feliz”だ。シンセ・ドラムとピアノを核にしたシンプルな伴奏の上で、囁きかけるように歌う姿が美しいバラード。ピアノの演奏と、高音を軸にした繊細なヴォーカルの組み合わせは、アリシア・キーズの”Diary”にも少し似ている。

それ以外にもう一つ、是非きいてほしい曲が”Girl Like Me”だ。ギターとシンセサイザーを組み合わせた、シンプルなトラックに乗せて、しなやかな歌声を響かせるミディアム・ナンバー。こちらの曲も、”Sideline”のような、フォーク・ソングやジャズのエッセンスを取り入れたスタイリッシュな仕上がりが魅力的だ。

彼女の音楽性はライのそれを彷彿させる、洗練されたメロディと色っぽい歌声が光るものだ。だが、彼女の場合、そこにフォーク・ソングやジャズといった、色々な音楽の要素を取り込むことで、R&Bが好きな人だけに留まらない、色々な人の心に訴えかける大衆性も兼ね備えていると思う。

あらゆる音楽を飲み込み、スタイリッシュでセクシーなR&Bに還元するスタイルは、デビュー当時のシャーデーを彷彿させる。シャーデーやライのような、しなやかで美しいメロディのR&Bが好きな人にはぜひ聞いてほしい。洗練された作風が魅力のR&B作品だ。

Producer
Robin Hannibal

Track List
1. Prelude
2. Hurt You First
3. Sideline
4. Nobody
5. Last Night In Los Feliz
6. Girl Like Me
7. Day & Night
8. Constantly Dissatisfied
9. California
10. All I Need
11. Mulholland
12. Sideline feat. Jazmine Sullivan



a

I
Niia
Atlantic
2017-05-05

Jidenna - The Chief [2017 Wonderland Records, EPIC]

会計士の母と、ナイジェリア地域のイボ人(アフリカ大陸西部に住む民族)を研究する学者の父の間に生まれ、彼自身も一時期はナイジェリアに住んでいたという、アメリカ中西部の小都市、ウィスコンシン・ラピッズ出身のシンガー・ソングライター、ジデーナことジデーナ・セオドア・モビソン。

アメリカに戻った後は、同じハイスクールに通う友人とラップ・グループ、ブラック・スペーズを結成。同グループでは、学校の卒業制作としてアルバム1枚を録音している。同校を卒業した後、彼はアイビー・リーグの一つであるスタンフォード大学へと進む。大学時代は、リチュアリスティック・アート(直訳すると「儀式主義の芸術」だが、おそらく宗教などの特定の文化や制度と結びついた形式の芸術のことだと思われる)を専攻する一方で、サウンド・エンジニアリングなどの制作技術を習得している。卒業後は、教師の仕事をしながら本格的な音楽活動を開始。そして、2012年にジャネル・モネイが設立したワンダーランド・レコードと契約する。

2015年にデビュー・シングル『Classic Man』をリリースすると、全米R&Bチャートの6位、総合チャートの22位を獲得。デビュー曲ながら、ダブル・プラチナ・ディスクを獲得する大ヒットになった。また、同年には初のEP『Wondaland Presents:The Eephus』を発売。こちらもR&Bチャートの5位、総合チャートの22位と、R&Bシンガーのデビュー作としては異例のヒットを記録した。そして、同年のソウル・トレイン・アワードやグラミー賞では、複数の部門にノミネート。このうち、ソウル・トレイン・アワードでは新人賞を獲得している。

今回のアルバムは、前作から約2年の間隔を経て発表された、彼にとって初めてのフル・アルバム。 前作の発売後に発表されたシングルの収録曲のうち、”Knickers”と”Extraordinaire”を除く4曲のほか、ナナ・クワベナやロマン・ジャンアーサーといったワンダーランド所属のアーティストを中心に、多くの人気ミュージシャンやプロデューサーが参加した新曲を収録。華々しいデビューを飾った彼にふさわしい、豪華な作品に仕上げている。

さて、収録曲に目を向けると、アルバムの2曲目に収められている”Chief Don't Run”が存在感を発揮している。ナナ・クワベナがプロデュースしたトラックはカニエ・ウエストの”Jisus Walk”を彷彿させる、重いドラムとベースの上に、ゴスペル・クワイアっぽい荘厳なコーラスが乗っかったもの。このビートの上で、カニエ・ウエストの近作やかつてのエイコンを彷彿させる、ラップのようなヴォーカルを聴かせるジデーナが、重々しい伴奏の曲を聴きやすいものにしている。ゲスト・シンガーにロマン・ジャンアーサーの名前が入っている点も見逃せない。

これに対し、彼自身がプロデュースを担当した”Bambi”は、アフリカの民謡っぽいメロディを引用したトラックが、エイコンっぽくも聴こえる曲。ほのぼのとした雰囲気のトラックは、彼のふくよかで柔らかく、温かい歌声との相性が抜群に良い。ナイジェリアに住み、アメリカの大学でアートを学んできた彼にしか作れない、視野の広さと引用の巧みさが光るミディアム・ナンバーだ。

一方、2015年にシングルで発売された”Long Live The Chief”は、ウェイルやライムフェストなどの作品を手掛けている、ワシントンD.C.を拠点に活動するプロダクション・クルー、ベスト・ケプト・シークレットが制作した楽曲。ブリブリと唸りを上げるシンセ・ベースがキモのトラックに乗せて、荒々しいラップを聴かせるヒップホップ・ナンバーだ。ワイルドな声と、言葉数を絞って一つ一つのフレーズをじっくり聴かせるライムは、彼が敬愛するKRSワンのスタイルを踏襲したもの。80年代から続くラップの手法と、現代のトレンドを取り込んだトラックが融合した、懐かしさと新鮮さが同居した楽曲だ。

そして、R&Bが好きな人にはぜひ聴いてほしいのが、ロマン・ジャンアーサーがペンを執った”Little Bit More”だ。レゲトンにも似たコミカルなビートが面白いアフリカのポピュラー・ミュージック、ハイライフを取り入れたトラックの上で、柔らかい歌声を響かせたダンス・ナンバーだ。シンセサイザーを多用したアップ・テンポの曲にもかかわらず、どこか牧歌的な音楽に聴こえるのは、パーカッションを織り交ぜた華やかなリズムと、彼の優しい歌声のおかげだろうか。

本作も、既発のシングルやEP同様、アメリカのヒップホップやR&Bに、アフリカや中南米のポップスの要素を盛り込んだ、軽妙で親しみやすい曲が目立っている。先鋭的で通好みのフレーズを織り交ぜながら、色々な人に親しまれるポップな作品に仕上がっているのは、キャッチーなメロディを生み出す彼のセンスと、親しみやすい歌声のおかげだと思う。

様々なリスナーを引き付ける大衆性と、コアな音楽好きを納得させる緻密さや斬新さを兼ね備えた、親しみやすく奥深いアルバム。彼が所属するレーベルのボス、ジャネル・モネイのような音楽が好きな人は是非きいて欲しい。

Producer
Fear & Fancy, Jidenna, Nana Kwabena, The Wondaland Arts Society

Track List
1. A Bull's Tale
2. Chief Don't Run feat. Roman GianArthur
3. Trampoline
4. Bambi
5. Helicopters / Beware
6. Long Live The Chief
7. 2 Pointt
8. The Let Out feat. Nana Kwabena
9. Safari feat. Janelle Monáe, Nana Kwabena, St. Beauty
10. Adaora
11. Little Bit More
12. Some Kind Of Way
13. White N****s
14. Bully Of The Earth





Chief
Jidenna
Wondaland Records
2017-02-17

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