melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Soul

Aretha Franklin - Sings The Great Diva Classics [2014 RCA, Sony]

力強い歌声とダイナミックな表現で、クイーン・オブ・ソウルと呼ばれ、1987年には女性初のロックの殿堂入りを果たしたアレサ・フランクリン。

メンフィス生まれ、デトロイト育ちの彼女は、高名な牧師である父と、有名なゴスペル歌手の母(ただし、彼女はアレサとは別居していた)を両親に持っていたこともあり、幼いころから頻繁に教会で歌っていた。

そんな彼女は、1961年にコロンビア・レコードからレコード・デビューを果たすが、当初はジャズやポップスなど、様々なスタイルに取り組んでいた。

そんな彼女の転機になったのは、1966年のアトランティック・レコードへの移籍。同社を率いるジェリー・ウェクスラーは、彼女の並外れたスケールのヴォーカルに着目し、その魅力を引き出す重厚なソウル・ミュージックに力を入れるようになる。

1967年の移籍第一弾アルバム『I Never Loved a Man the Way I Love You』が、ゴールド・ディスクを獲得するヒット作となった彼女は、その後も多くの作品を発表。今も多くのシンガーに歌い継がれ、2018年にはアカデミー賞を獲得したチリ映画「ナチュラル・ウーマン」でも使われた”(You Make Me Feel Like) A Natural Woman”を収めた『Lady Soul』や、ポール・マッカートニーが彼女に歌ってもらうことを念頭に制作したという、ビートルズの”Let It Be”のカヴァーを含む『This Girl's in Love with You』など、多くの名作を録音してきた。

このアルバムは、2012年の『Aretha: A Woman Falling Out of Love』以来となる、彼女の通算41枚目のスタジオ・アルバム。また、彼女にとって、生前最後に録音されたスタジオ作品でもある。

本作では、エッタ・ジェイムスやグラディス・ナイトといった、彼女とともに60年代の音楽シーンを盛り上げてきたアーティストの作品から、アリシア・キーズやアデルといった、親子ほどの年の差がある現代のミュージシャンまで、新旧の人気女性シンガーの楽曲をカヴァー。プロデュースはクライヴ・デイヴィスやベイビーフェイスといったヴォーカル作品に強い人から、アンドレ3000のような個性派まで、バラエティ豊かな面々が担当している。

1曲目は、エッタ・ジェイムスが60年に発表した”At Last”。2008年の映画「キャデラック・レコード」でビヨンセがカヴァーし、同じ年にはバラク・オバマの大統領就任記念イベントで歌われたことで、幅広い年代の人に知られるようになったバラードだ(余談だが、エッタ・ジェイムスは自分の代表曲を他の人が大統領の就任記念イベントで歌ったことに激昂したらしい)。

ベイビーフェイスがプロデュースした今回のカヴァーは、オーケストラや管楽器を盛り込んだ上品な伴奏が印象的。緩急、強弱とも振れ幅が大きく、高い歌唱力が求められる楽曲をしっかりと歌い切っているのは流石としか言いようのない。オーケストラの繊細な音を活かしつつ、ヴォーカルの良さを引き立てるベイビーフェイスの制作技術も凄い。

続く”Rolling In The Deep ”は、本作の収録曲では最も新しい、アデルの2011年の楽曲のカヴァー。ロック色の強いアデルの作品の良さを生かした、荒々しい演奏とパワフルなヴォーカルの組み合わせが強く心に残る。武骨な演奏とゴスペルを連想させる分厚いコーラスを組み合わせたアレンジは、粗削りで泥臭いサウンドが魅力の60年代のサザン・ソウルに通じるものがある。曲中でさりげなくマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの”Ain't No Mountain High Enough”を挟み込む演出も気が利いている。

また、グロリア・ゲイナーが78年にリリースしたディスコ・クラシックを歌った”I Will Survive”は、ジャズ畑のハーヴィー・メイソンJr.とハウス・ミュージックに強いテリー・ハンターがプロデュースを担当。洗練されたバック・トラックの上で、楽曲の優雅な雰囲気を守りつつ、パワフルな歌声を響かせる姿が聴きどころ。アレサを含め、多くのシンガーを苦しめていたディスコ音楽だが、この時点のアレサは、完全に自分の音楽にしている。余談だが、曲の途中で「Survivor」に引っ掛けて、デスティニーズ・チャイルドの”Survivor”のフレーズを挟み込む演出は、2曲の音楽性の違いを感じさせないアレンジも含め非常に面白い。

そして、個人的に面白いと思ったのが、アリシア・キーズが2007年に発売した”No One”のカヴァー。元々レゲエ色の強い楽曲を、より緩く、明るい音色を多用した演奏で本格的なレゲエ作品としてリメイクしている。アレサのような力強く、雄大な歌唱が魅力の歌手と、ゆったりとした雰囲気のレゲエは、あまり相性が良くないが、彼女は起用に乗りこなしている。プロとしてのキャリアも半世紀を超え老練なパフォーマンスを身に着けた彼女の演奏が堪能できる。

今回のアルバムの良いところは、原曲の魅力とアーティストの個性を絶妙なバランスで融合していることだ、エッタ・ジェイムスやグロリア・ゲイナー、アデルといった新旧の名シンガーが世に送り出した名曲を、原曲の良さを損ねることなく、自分の音楽に染め上げている。原曲を忠実になぞるわけでも、独創的なアレンジを聴かせるわけでもなく、大ベテランの経験を活かして、丁寧に歌い込む手法が本作の良さを生み出している。

アレサ・フランクリンという唯一無二の名歌手と、彼女を支える名プロデューサー達の技術によって、ソウル・ミュージックの可能性を広げた傑作。歌い手や演奏者の数だけ、色々な表情を見せるヴォーカル曲の醍醐味が堪能できる傑作だ。

Producer
André "3000" Benjamin, Antonio Dixon, Aretha Franklin, Clive Davis, Kenny "Babyface" Edmonds, Harvey Mason, Jr. etc

Track Listt (括弧内は原曲を歌ったアーティスト)
1. At Last (Etta James)
2. Rolling In The Deep (Adele)
3. Midnight Train To Georgia (Gladys Knight & the Pips)
4. I Will Survive (Gloria Gaynor)
5. People (Barbra Streisand)
6. No One (Alicia Keys)
7. I’m Every Woman (Chaka Kahn & Whitney Houston) / Respect (Aretha Franklin)
8. Teach Me Tonight (Dinah Washington)
9. You Keep Me Hangin’ On (The Supremes)
10. Nothing Compares 2 U (Sinead O'Connor)






Morris Mobley - Movin' On [2018 Arcana]

モーリス・モブレイはゲイリー・グリットネスの名義での活動で知られるアーティスト。

フランス北部の工業都市、ナンシー出身の彼は、電子音楽とファンク、ディスコ音楽を融合した独特の作風で注目を集め、ニューヨークを拠点に多くのクラブ・ミュージックのレコードをリリースしているアーケインから、複数の作品をリリースしてきた。

本作は、モーリス・モブレイ名義で制作した初のスタジオ・アルバム。シンセサイザーやリズム・マシーンを駆使して曲を作っていたこれまでの作品に対し、本作ではギターなどの楽器も使用。複数の楽器を組み合わせて、80年代のソウル・ミュージックの魅力を、現代を生きる彼の感性で再解釈している。

本作の1曲目はタイトル・トラックの”Movin’ On”。煌びやかなシンセサイザーを駆使したバックトラックの上で、大人の色気を感じさせる歌声を響かせるモーリスの姿が印象的なアップ・ナンバー。ジョージ・ベンソンを彷彿させる艶めかしいギターも心地よい。

続く”Stop Playin’ Games”は、マスターピースやハイ・ファッションの作品を連想させるディスコ・ブギー。電子楽器を駆使したスタイリッシュな伴奏は、当時の音楽以上に、80年代の煌びやかな雰囲気を再現している。グラマラスな歌声でダイナミックな歌唱を披露する姿は、他の曲では聞けないものになっている。本作の収録曲では最も当時の音楽に近い。

これに対し、ニューヨーク出身のピアニスト、ドン・ブラックマンが82年に発表した『Don Blackman』の収録曲”Since You Been Away So Long”のカヴァーは、原曲のゆったりとした雰囲気のメロディの魅力を丁寧に引き出した演奏が魅力。女性ヴォーカルがなくなり、電子ドラムの音が重くなるなど、モーリスの制作環境に合わせたアレンジを施しつつ、原曲の流麗なメロディをじっくりと演奏し、歌う姿が光っている。

また、スティーリー・ダンの”Glamour Profession”は、 80年のアルバム『Gaucho』の収録曲のカヴァー。ディスコ音楽が音楽業界を席巻していた時代に、シンガー・ソングライターがディスコ音楽の要素を取り入れた楽曲を、電子音楽畑のモーリスがリメイクしている。80年代後半から90年代初頭のエレクトロ・ミュージックを思い起こさせる、太い電子音を使った伴奏は、ゲイリー名義の作品に近い。しかし、ソウル・シンガーとは違う、モーリスのあっさりとした歌い方が、原曲のメロディの良さを引き出している。ディスコ音楽風のポップスだった原曲を、本格的なクラブ・ミュージックに再構築した意欲作。

このアルバムは、元々ハウス・ミュージックなどを制作していたクリエイターの手によるものということもあり、80年代前半の華やかなディスコ・ミュージックの雰囲気を残してはいるものの、パワフルなヴォーカルよりも、スタイリッシュなトラックにフォーカスを当てたものになっている。また、ヴォーカルやコーラスを彼一人で担当し、楽器も一人で担当するなど、大人数のバンドによる派手な演奏が魅力のソウル・ミュージックとは一線を画した、現代のテクノ・ミュージックなどに近いものになっている。この、別のジャンルの音楽の制作手法を用いることで、既存の音楽に新しい解釈を加えている点が本作の面白いところだろう。

ソウル・ミュージックを聴いて育ったエレクトロ・ミュージックのクリエイターによる、独自の視点が魅力のソウル作品。アメリカのタキシードや日本のT-グルーヴのように、80年代のディスコ・ミュージックの魅力を現代に伝えるアーティストだ。

Producer
Morris Mobley

Track List
1. Movin’ On
2. Stop Playin’ Games
3. Since You Been Away So Long
4. Midnight Stroll
5. Glamour Profession
6. Rolodexes
7. First Class Hangin’
8. Charge It To The Game



Movin’ On
Morris Mobley
MMM Records/BBQ
2018-07-29

The Temptations - All The Time [2018 Universal]

1961年にシングル”Oh Mother of Mine”でレコード・デビューを果たして以来、”My Girl”や”Cloud Nine”、”Papa Was a Rollin' Stone”や”Treat Her Like a Lady”など、今も多くの人に愛される名曲を数多く残している、デトロイト発のヴォーカル・グループ、テンプテーションズ。

現在は、デビュー当時からバリトンを担当しているオーティス・ウィリアムスを中心に、若いメンバー(といっても全員40歳以上だが)と一緒に活動。日本を含む世界各地のステージに立ち続けるなど、今も現役の人気グループとして、音楽業界の一線で活躍している。

このアルバムは、2010年の『Still Here』以来、約8年ぶりの新作となるスタジオ・アルバム。ブルーノ・マーズサム・スミスといった、現代のR&Bシンガーのヒット曲のカヴァーと、彼らのオリジナル曲を収めた、バラエティ豊かな作品になっている。

本作の1曲目は、2014年にロンドン出身の白人のソウル・シンガー、サム・スミスが発表した”Stay With Me”。全英、全米のシングル・チャートを制覇した切ない雰囲気のスロー・ナンバーを、5人の温かい歌声で、優しい雰囲気のバラードに仕立て直している。原曲のミュージック・ビデオでも、曲中で聖歌隊が登場するなど、ゴスペルの影響を匂わせる演出があったが、今回のカヴァーはその要素を強調したものになっている。

続く”Earned It”は、イギリスの同名の官能小説を題材にした、2015年のアメリカの映画 「Fifty Shades Of Grey」のサウンドトラックに収められている、ウィークエンドの楽曲のカヴァー。ストリングスを効果的に使った威圧感のある伴奏や、往年のリズム&ブルースを彷彿させるスウィング、ゴスペルでは頻繁に用いられるコール&レスポンスなど、昔の黒人音楽のエッセンスと現代のポピュラー音楽の要素を組み合わせた楽曲は、当時の音楽を熟知した彼らによって、本格的なソウル・ミュージックに生まれ変わっている。伴奏をギターやベースを用いたシンプルなバンド・サウンドに変え、コール&レスポンスを強調したアレンジは、60年代初頭の彼らの音楽を彷彿させる、ポップでダイナミックなものだ。

また、マックスウェルが2009年にリリースした”Pretty Wings”のリメイクは、繊細さと大胆さを兼ね備えた彼の歌唱を忠実に再現した作品。メロディやアレンジは原曲のものを活かしつつ、声域の異なる5人のヴォーカルを巧みに使い分けることで、楽曲に起伏をつける演出が光っている。

そして、彼らのオリジナル曲である”Waitin’ On You”は、5人のしなやかなヴォーカルを活かした、流麗なメロディが心地よいスロー・ナンバー。変則的なリズムを刻むベースとドラムの伴奏と洗練されたメロディのおかげか、他のアーティストの作品のカヴァー以上に、現代のR&Bっぽく聴こえる。

このアルバムの面白いところは、高いヴォーカル・スキルを使って、既存の音楽を新鮮な音楽に聴かせているところだろう。そして、彼らの音楽が新鮮に映るのは、若いアカペラ・グループのように大胆な改変を行わず、あくまでも原曲の良さを生かしつつ、それに合ったヴォーカル・アレンジを施していることが大きい。この、アカペラの原点に立ち返りつつ、現代の楽曲を意識したアレンジが、ソロ・アーティストがヒット・チャートの大半を占める現代のポップス・シーンでは新鮮に映るのだろう。

アジア出身のヴォーカル・グループを中心に、個性豊かなメンバーのマイク・リレーを武器にしたグループが主流の時代に、美しい歌声と精密なヴォーカル技術を活かした巧妙なアレンジで勝負した意欲作。DAWソフトのような、高機能が機材がなかった時代、自分達の声を駆使して多彩な音楽を生み出してきたベテランの豊かな経験が遺憾なく発揮されている。

Producer
Otis Williams, Dave Darling

Track List
1. Stay With Me
2. Earned It
3. Pretty Wings
4. Thinking Out Loud
5. Waitin’ On You
6. Remember The Time
7. Be My Wife
8. Still Feel Like Your Man
9. When I Was Your Man
10. Move Them Britches



All the Time
Temptations
Ume
2018-05-04




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