ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Jazz

Gregory Porter - Nat "King" Cole & Me [2017 Blue Note, Decca]

グレゴリー・ポーターはカリフォルニア州サクラメントに生まれ、同州のベイカーズで育ったシンガー・ソングライター。

牧師の母のもとに生まれた彼は、フットボールの実績を認められ、生活費を含む一切の面倒を見てもらえるフルブライト奨学金を得て大学に進むなど、将来を嘱望されていた。しかし、大学時代に負った怪我が原因でスポーツの道を断念。ニューヨークに移住し、料理人をしながら音楽の道を模索するようになる。

音楽活動を続ける中で、高いパフォーマンスの技術が周囲の耳目を引くようになった彼は、2010年に初のフル・アルバム『Water』をリリース。音楽ファンだけでなく、批評家からも高い評価を受け、グラミー賞にノミネートするなど、大きな成功を収める。その後も、ブルー・ノートを含む複数のレーベルから作品を発表した彼は、豊かな低音と滑らかな高音、それらを組み合わせた巧みな表現を武器に、2010年代を代表するジャズ・シンガーの一人に挙げられるまでになった。

このアルバムは、2016年にブルー・ノートから発売された『Take Me to the Alley』以来、約1年ぶりの新作となる通算5枚目のスタジオ・アルバム。収録曲の全てが1940年代から60年代にかけて、多くのヒット作を残した、シンガー・ソングライター、ナット・キング・コールの楽曲に取り組んだカヴァー集。配給元にジャズの名門、デッカが加わり、制作には6回もグラミー賞を獲得しているプロデューサーのヴィンス・メンドーサのほか、ベースのルーベン・ロジャースやドラムのユリシーズ・オーウェンズといった名うてのミュージシャンが参加。グレゴリーが敬愛するナットの名曲と真摯に向き合った、本格的なカヴァーを披露している。

アルバムの1曲目は、50年に発表された”Mona Lisa”。ドラムの音を抜きオーケストラをバックに、甘い歌声を響かせるスロー・ナンバー。羽毛布団のように柔らかい音色のオーケストラと、メロディをじっくり歌うグレゴリーのコンビネーションは、50年代の音楽の持つ上品で優雅な雰囲気を忠実に再現している。

続く”Smile”は、54年にリリースされた彼の代表曲。喜劇王チャップリンが作曲した映画『モダン・タイムズ』のテーマ曲に歌詞をつけたこの曲は、「笑っている限りは明るい明日が来る」という風刺映画のテーマ曲が元ネタとは思えない、前向きな歌詞と美しいメロディが多くのアーティストに愛され、カヴァーされてきた作品。今回の録音では、流れるようなストリングスの音色をバックに、恵まれた歌声を活かした、力強さと優しさを兼ね備えたヴォーカルを披露している。

また、彼のキャリアの絶頂期である64年にリリースされた”Love”はピアノ、ベース、ドラムの所謂ピアノ・トリオによる伴奏を取り入れた演奏。原曲よりシンプルな編成で、アップ・テンポにアレンジした演奏の上で軽やかな歌を聴かせる姿が印象的。メロディを崩して歌うグレゴリーのスタイルも、オリジナルのメロディを大きく弄らずに歌ったナットのバージョンとは一味違うものだ。ジョス・ストーンやダイアナ・クラールなど、様々なジャンルのミュージシャンが歌ってきた名曲に、大胆なアレンジを加えることで、新鮮な作品に聴かせた発想が光っている。

そして、キューバの作曲家、ファレス・オズヴァルドの作品をカヴァーした演奏が元ネタの”Quizás, Quizás, Quizás”は、パーカッションの音色を効果的に使った、妖艶なラテン・ナンバーをオーケストラの伴奏に乗ってしっとりと歌い上げた斬新なアレンジが光る曲。サビの一部に原曲の面影を感じる箇所もあるが、それ以外は、ラテン音楽がオリジナルとは思えない、ジャズやブルースのエッセンスを取り込んだ50年代風のスロー・ナンバーに仕上げた、ヴィンスのアレンジが功を奏した良曲だ。元々、色々なタイプの曲に対応できる歌手だが、グレゴリーはふくよかな歌声をじっくりと聴かせる曲がよく似合う。

今回のカヴァー集では、彼の持ち味であるふくよかで温かい歌声を活かし、シンプルだがよく練り込まれた演奏をバックに、丁寧な歌唱を聴かせる作品が目立っている。声の太さこそ違うものの、聴き手を包み込むような優しい歌声を武器に、多くの足跡を残してきたナット。彼の音楽を研究し、自分の声質や歌唱スタイルと似た部分を取り入れつつ、異なる部分については自分に合わせてアレンジしたグレゴリーの試みが、見事に成功していると思う。また、現代のジャズとは大きく違う、グルーヴよりも上品で洗練された伴奏の作品が多かった50年代の音楽を、当時のテイストを残しつつ、現代のリスナーの耳にも合うよう、細かい調整をかけている。この、歌と演奏、両方の視点から、当時の音楽を現代向けにアレンジしたことが、本作の面白い点だと思う。

ナットの音楽の普遍的な魅力を引き出しつつ、2017年を生きる彼の音楽に還元した良質なカヴァー集。60年代以降の音楽に比べ、目を向けられることの少ない50年代以前の音楽の良さを現代に伝える貴重な録音だと思う。

Producer
Vince Mendoza

Track List
1. Mona Lisa
2. Smile
3. Nature Boy
4. L-O-V-E
5. Quizas, Quizas, Quizas
6. Miss Otis Regrets
7. Pick Yourself Up
8. When Love Was King (arrangement of an original Gregory Porter composition from Liquid Spirit)
9. The Lonely One
10. Ballerina
11. I Wonder Who My Daddy Is
12. The Christmas Song





ナット・キング・コール&ミー
グレゴリー・ポーター
ユニバーサル ミュージック
2017-10-27


Kamasi Washington - Harmony Of Difference [2017 Young Turks]

カリフォルニア州ロス・アンジェルス生まれ、イングルウッド育ちのサックス奏者、カマシ・ワシントン。

高校時代から音楽を学んでいた彼は、大学に進むと音楽民族学を専攻しながら、ジャズ・ミュージシャンとしても活動を開始。ケニー・バレルやビリー・ヒギンスといった大物とも共演してきた。その後、ハービー・ハンコック等のジャズ・ミュージシャン達と仕事をしながら、ローリン・ヒルやスヌープ・ドッグといった、ヒップホップやR&Bのミュージシャンともレコーディングをするようになった彼は、名うての演奏者として同業者の間では知られた存在となった。

その一方で、2000年代中頃から、自身の名義でも2000年代中頃から継続的に作品を録音するなど、精力的に活動していた彼。そんな彼は2014年から2015年にかけて、フライング・ロータスの『You're Dead! 』、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly 』、サンダーキャットの『The Beyond / Where The Giants Roam』という3枚の傑作に携わったことで注目を集める。これらの作品で印象的な演奏を残した彼は、2015年にフライング・ロータス等の作品を配給しているブレインフィーダーからアルバム『The Epic』をリリース。CD3枚組という大作ながら、壮大なスケールと先鋭的なアレンジ、緻密な構成で高く評価された。

このアルバムは、今年の4月に配信限定で発売した13分にも及ぶ大作シングル”The Truth”から約5か月という、短い間隔でリリースされたEP。同曲に5作の新録曲を加えた本作では、ベーシストのマイルズ・モズリーや、サンダーキャットの実兄としてもお馴染みのドラマー、ロナルド・ブルーナー、アルバム『Planetary Prince』も好評なキャメロン・グレイブスなど、彼と縁の深い人気ミュージシャン達が集結。高い演奏技術と豊かな表現力を惜しみなく聴かせている。

本作の1曲目は、艶めかしいサックスの音色が印象的な”Desire”。マイルス・モズリーのグラマラスなベースと、目立たないが安定した演奏で主役を引き立てるロナルド・ブルーナーのドラム。そして、各人が絶妙なタイミングで流麗なフレーズを挟み込む構成が魅力の作品だ。ミディアム・テンポで滑らかなメロディの楽曲ということもあり、過去の録音にはないくらい、ロマンティックな印象を受ける。

また、これに続く”Humility”は、前曲とほぼ同じ編成でダンス・サウンドに取り組んだ作品。カマシ・ワシントンを含む3人のホーン・セクションが奏でるダイナミックなメロディと、荒々しいアドリブ、脇を固めるリズム・セクションと鍵盤楽器のコンビネーションが光っている。60年代初頭、ハンク・モブレーやリー・モーガンが残したような、力強く躍動感に溢れるパフォーマンスが堪能できる佳作だ。

それ以外の曲では、サックスが奏でる滑らかなメロディが魅力の”Perspective”が目立っている。ヒップホップやファンクのビートを取り入れたミディアム・ナンバーは、スライ&ザ・ファミリーストーンの”Family Affair”を連想させるしなやかなグルーヴが格好良い曲だ。

そして、本作の収録曲では異彩を放っているのが、5曲目の”Integrity”だ。この曲で取り入れたのは、なんとボサノバのリズム。軽妙で洗練されたボサノバのグルーヴに乗って、艶っぽい演奏を披露している。キャノンボール・アダレイやスタン・ゲッツなど、ブラジル音楽のエッセンスを取り入れたジャズ・ミュージシャンは沢山いるが、彼のような極端にセクシーなパフォーマンスを披露した例はあまりないかもしれない。

今回のアルバムでは、前作の路線を踏襲しつつ、60年代のジャズに歩み寄った作品といえるかもしれない。ファンクやブラジル音楽など、ジャズ以外の音楽エッセンスを取り入れた音楽は、60年代から70年代にかけて流行したが、彼はそこにヒップホップやエレクトロ・ミュージックのミュージシャンとコラボレーションする中で培った、DJやトラックメイカーの編集技術を盛り込むことで、異なる音楽を混ぜることで生まれる違和感をコントロールし、楽曲に起伏を付けている。

DJやトラック・メイカーの柔軟な発想と、求める音を確実に具体化する演奏者としての高い技術が同居した魅力的な作品。昔のジャズに慣れ親しんだ人にも、ジャズをあまり聞かない人にも、親しみやすく新鮮な面白いアルバムだと思う。


Track List
1. Desire
2. Humility
3. Knowledge
4. Perspective
5. Integrity
6. Truth




Diggs Duke - Civil Circus [2015 Following Is Leading]

一人で様々な楽器を使いこなす技術力と、ジャズとソウル・ミュージックやヒップホップを融合させた独創的な音楽性で、新しい音楽に敏感な人々の間で注目を集めていた、インディアナ州ゲイリー出身のアーティスト、ディグス・デュークことジョナサン・ディグス・デューク。

2013年には、初めてのフル・アルバム『Offering For Anxious』を、ジャイルズ・ピーターソンのレーベル、ブランズウッドから発売。ディアンジェロやプリンスを思い起こさせる、様々な音楽を飲み込み、自分の音楽に昇華した作風が話題となり、ジャズ・ファンに留まらず、ヒップホップやR&Bが好きな人にも愛聴された。

このアルバムは、2015年の終わりに発表された、彼にとって2枚目のフル・アルバム。彼が立ち上げたフォローイング・イズ・リーディングから、配信限定(CD-R盤もある)でリリースされたもので、2017年に日本のウルトラ・ヴァイヴからCD盤が発売された。

今回のアルバムも、前作同様、全ての曲が彼自身のプロデュースによるもの。しかし、ほぼ全ての楽器を一人で演奏していた前作に対し、本作では多くのミュージシャンを起用。彼の鋭い音楽センスを活かしつつ、彼とは異なるキャリアを積んできた面々の感性を取り込むことで、よりバラエティ豊かになった音楽を聴かせている。

アルバムの最初に入っている”Busker”は、テナー・サックスにジャラニ・ブルックス、ドラムにウォーレンG.クラダップIII世、ベースにルーク・スチュアートを招いた、3人編成による録音。3人の演奏にエフェクトをかけて、ダブやエレクトロニカのように幻想的な雰囲気に仕立て上げた曲だ。エフェクトを活かすため、サックスのフレーズをシンプルにした手法は、マイルス・デイヴィスがエレクトリック・サウンドに適応するために、音数を絞った演奏を吹き込んだ『Bitches Brew』の表現を連想させる。

これに対し、ダンテ・ポープをヴォーカルに起用した”Compensation”は、19世紀に公民権運動を題材にした多くの作品を残している、作家で詩人のポール・ローレンス・ダンバーの詩に曲をつけたもの。ニーナ・シモンなど、多くのミュージシャンに引用されてきた、有名な文学作品を取り入れつつ、フルートやギターを使った抽象的なサウンドで、前衛的なR&Bに仕立て上げたセンスが面白い。全ての楽器を彼自身が演奏したトラックも聴きどころだ。

一方、本作では最長の5分半に及ぶ大作、”Ambition Addiction”は、ヴォーカルにレイチェル・ブロットマンを招いたミディアム・ナンバー。音と音の隙間を意識したトラックは、ジェイムス・ブレイクを彷彿させる、エレクトロ・ミュージックとジャズやソウル・ミュージックが融合した伴奏の上で、繊細な歌声を響かせる2人の姿が印象的な曲だ。電子楽器を使った抽象的なビートと、フルートやギターの演奏を組み合わせた温かい演奏を、うまく使い分けたアレンジ技術は圧巻の一言だ。

そして、本作では2番目に長い4分弱の曲”Warming Warning”は、電子楽器を多用したポップなサウンドが光るミディアム・ナンバー。70年代のスティーヴィー・ワンダーを思い起こさせる音色のエレクトリック・ピアノや、パーカッションのように軽快な音を鳴らす電子ドラムを使ったバック・トラックと、しなやかなディグスのヴォーカルと、グラマラスな歌声のフィーチャリング・シンガー、ジャダ・アーヴィンの対照的な個性が上手く噛み合った、ソウルフルな曲だ。ローファイな音色の電子楽器を使うことで、昔のソウル・ミュージックの雰囲気を再現した手法が格好良い。

今回のアルバムは、1分から2分の曲が中心で、全体では30分に満たない、EPに近い作品だ。しかし、ソウル・ミュージックやエレクトロニカ、アフロ・ミュージックまで色々なジャンルの音楽のエッセンスを取り込み、曲の全てをハイライトのように聴かせる彼の創作能力のおかげで、1時間超の大作にも負けないくらい、多くの見せ場を作っている。

最初から最後まで、全てがヤマといっても過言ではない、密度の濃い作品。このアルバムを聴いて、彼の音楽に興味を持った人がいたら、ぜひ彼のホームページを覗いてほしい。そこには、未だCD化されてない、多くの名曲があるのだ。

Producer
Diggs Duke

Track List
1. Busker
2. Compensation
3. Ambition Addiction
4. Stoplight Lessons
5. Postcard
6. Street Preacher
7. Bumper To Bumper
8. Warming Warning
9. Damn Near Home
10. We Don't Need Love






記事検索
タグ絞り込み検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター


    にほんブログ村 音楽ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 音楽ブログ ブラックミュージックへ
    にほんブログ村

    音楽ランキングへ

    ソウル・R&Bランキングへ
    LINE読者登録QRコード
    LINE読者登録QRコード
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    • ライブドアブログ