melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Funk

Sheila E. - Iconic: Message 4 America [2017 Stilettoflats Music]

プリンスのバンド・メンバーとして10年近く活動し、その後は安室奈美恵やビヨンセ、リンゴ・スターなど、様々な国のトップ・ミュージシャンと一緒に仕事をしてきた、カリフォルニア州オークランド出身のシンガー・ソングライターで演奏家の、シーラEことシーラ・セシリア・エスコヴェード。

ファンタジーやコンコードに録音を残しているパーカッショニストのピート・エスコヴェードを父に、サンタナやアズテカでも演奏していたコーク・エスコヴェードを叔父に持つ彼女は、10代の頃からレコーディングやステージを経験してきた。また、近年は自身のバンド、Eファミリーを結成し、ツアーやレコーディングを行うなど、バンドのリーダーとして、自身の音楽を世に送り出してきた。

本作は、2013年の『Icon』以来となる通算8枚目のオリジナル・アルバム。「メッセージ・フォー・アメリカ」というサブタイトルの通り、社会にメッセージを投げかけた作品で、ジェイムス・ブラウンやスライ&ザ・ファミリー・ストーン、かつて一緒に演奏していたプリンスなどの楽曲を、豊富な経験を活かした大胆な解釈でカヴァーしている。

アルバムのオープニングを飾るのは、ジェイムス・ブラウンの”Gonna Have A Funky Good Time”と、アメリカ国歌の”星条旗よ永遠なれ”を混ぜ合わせた”Funky National Anthem: Message 2 America”。父ピートや兄弟のユアン、ピーター・マイケルが参加したこの曲では、多くの打楽器を使ったダイナミックなグルーヴが堪能できる。曲の途中で、マーティン・ルーサー・キングの演説と、バラク・オバマの演説を挟み込むことで、時代が変わってもアメリカが抱え続ける課題と、それぞれの時代で問題へと立ち向かってきた人々の存在を浮き彫りした演出が面白い。

これに続くのはビートルズのヒット曲をメドレーで演奏した”Come Together / Revolution”。元ビートルズのリンゴ・スターがドラムで参加したこの曲では、彼女はヴォーカルも担当。マイケル・ジャクソンやシル・ジョンソンなど、多くの黒人ミュージシャンがカヴァーしてきたビートルズの有名曲を、彼女は原曲よりテンポを落とした、ドロドロとしたアレンジで演奏している。曲の途中で”All You Need Is Love”を盛り込んでいるのが心憎い。

また、スライ&ザ・ファミリーストーンの有名曲をカヴァーした”Everyday People”は、グループの初期から在籍していたフレディ・ストーンがギターとヴォーカルで参加。敢えて肩の力を抜いて、ラフに演奏したバンドが、爽やかなサウンドと軽妙なメロディが魅力であるスライ・ストーンの音楽をうまく再現している。

そして、彼女がブレイクするきっかけを生んだプリンスの曲からは”America” と”Free”の2曲をピックアップ。シンセサイザーを駆使した近未来的な雰囲気の伴奏をベースに、切れ味の鋭い歌と演奏が格好良い作品。ヴォーカルが粘っこい歌声のシーラEに変わったこと以外、オリジナルと大きく違わないのは、彼女の原点であるプリンスのバンドの音を大切にしたからだろうか。

このアルバムでは60年代から80年代まで、様々な時代の黒人ミュージシャンの作品を取り上げつつ、社会に向けたメッセージを盛り込んでいるのだが、彼女の凄いところは年代も作風も異なるミュージシャンの楽曲を、一つの作品に収めているところだと思う。おそらく、彼女自身が様々な音楽を経験できる環境で育ち、人一倍演奏技術への拘りが強いプリンスの下で腕に磨きをかけてきたことが大きいと思う。

黒人音楽の豊かな土壌をベースに、自身のスタイルと強いメッセージを打ち出した面白いアルバム。メッセージとは他人に押し付けるものではなく、投げかけるものだということを、彼女の音楽は教えてくれているように思う。

Producer
Gilbert Davison, Sheila E.

Track List
1. Funky National Anthem: Message 2 America
2. Come Together / Revolution
3. Everyday People
4. Inner City Blues / Trouble Man
5. It Starts With Us
6. Jesus Children Of America
7. James Brown Medley (Talkin' Loud And Sayin' Nothing, Mama Don't Take No Mess, Soul Power, Get Involved, Super Bad)
8. Blackbird
9. One Nation Under A Groove / Mothership Connection
10. Pusherman
11. Respect Yourself
12. I Am Funky
13. Yes We Can
14. America / Free
15. What The World Needs Now Is Love





ICONIC MESSAGE 4 AMERICA [LP] [Analog]
SHEILA E.
STILETTO FLATS MUSIC
2017-10-06

WILL SESSIONS - DELUXE [2017 Sessions Sounds]

2008年にアルバム『Many Faces』でレコード・デビュー。ジェイムズ・ブラウンやファンカデリックなど、多くの先人のスタイルを吸収、混ぜ合わせた音楽性と、それを具体的な作品に落とし込む高い演奏技術で、熱心な音楽ファンを惹きつけたデトロイト発のファンク・バンド、ウィル・セッションズ。

2011年には、元スラム・ヴィレッジのエルザイが、ナズの代表作『Illmatic』をカヴァーしたアルバム『Elmatic』で、バック・トラックを担当。昔のレコードをサンプリングして作られたビートを、生演奏で忠実に再現したことで、一気に名を上げた。その後も、ヒップホップの有名曲のトラックをバンド演奏で再現した『Mix Takes』シリーズなど、複数の録音作品を発表。リリースの度に、その評価を高めていった。

この作品は、彼らにとって初のオリジナル曲によるアルバム。過去に7インチ・レコードで発売された曲の長尺版を含むもので、プリンスやジョージ・クリントンなど、多くのミュージシャンと仕事をしてきたデトロイト出身のキーボーディスト、アンプ・フィドラーや、ジェイムズ・ブラウンにそっくりな歌唱が注目を集め、ダップトーンズとのコラボレーション曲も残している、マイアミ出身のベテラン・シンガー、リッキーキャロウェイのほか、元ブラックバーズのフルート奏者アラン・バーンズや、『Elmatic』でも歌声を披露しているココ・バタフライなど、豪華な面々が終結している。

アルバムの1曲目、アンプ・フィドラーをフィーチャーした”In the Ride”は、ティム・シェラバーガーのブリブリと唸るベースと、ジェイムズ・ブラウンを支えた名手、フェルプス・キャットフィッシュ・コリンズを彷彿させる軽妙でセクシーなライアン・ジンパートのギターが光るアップ・ナンバー。絶妙なタイミングでリスナーを盛り上げるホーン・セクションや、複雑なリズムを最後まで正確にたたき続けるブライアン・アーノルドの存在も見逃せない。

続く ”Shake It Up, Shake It Down”はリッキー・キャロウェイがヴォーカルを担当した楽曲。曲の冒頭で流れる声を聴いた瞬間、ジェイムズ・ブラウンの録音をサンプリングしたのかと勘違いしたが、全てリッキーによるものらしい。奔放なようで計算されつくした歌唱など、ジェイムズ・ブラウンのスタイルにそっくりなリッキーのパフォーマンスも面白いが、ジェイムズの音楽を忠実に再現した精密だが荒々しい演奏も聴きどころ。彼が参加したもう一つの曲”Come On Home”は、ジェイムズの”Hot Pants”を意識したような、軽快なベースの演奏が光るミディアム・ナンバー。どちらの曲も、往年の名手を意識しつつ、彼らの音楽を自分達のセンスと演奏技術で再構築した魅力的な作品だ。

一方、ココ・バタフライを起用した”Run, Don't Walk Away”は、ギターやベースの粘っこい演奏と、マーサ・ハイやマーヴァ・ホイットニーを彷彿させる、グラマラスな歌声と、アグレッシブなパフォーマンスが格好良いミディアム・ナンバー。スロー・テンポでも、安定感抜群の泥臭いグルーヴを聴かせる演奏者にも注目してほしい。

だが、このアルバムの一番の聴きどころは、なんといっても彼らの高い演奏技術だろう。彼らのスキルを堪能できる単独名義の楽曲は”Off the Line”と”The Diesel”の2曲。中でも、2016年にシングル化された”The Diesel”は、『Elmatic』での演奏を思い起こさせる、ジェイムズ・ブラウン一派のスタイルを継承した、複雑だが精密なグルーヴと、リスナーの心を掻き立てる華やかなホーン・セクションが魅力の、インストゥメンタル作品。フルートやオルガンが次々と飛び出し、リスナーを飽きさせない構成も素晴らしい。

このアルバムは、『Elmatic』で彼らのことを知ったリスナーを意識しつつ、ジェイムズ・ブラウンやPファンク一派など、ファンクの歴史を築き上げてきた先達の手法を丁寧に継承した曲作りが目立つ。リッキー・キャロウェイやアンプ・フィドラーを起用したことも、当時の雰囲気を再現するのに一役買っているし、バンドと頻繁にコラボレーションしているココ・バタフライのパワフルなヴォーカルも、往年の女性ファンク・シンガーを彷彿させる。彼らの個性を取り込むことで、自分達の演奏に、往年のファンクの名手のダイナミックで奇抜な作風と、何度聴いても飽きることのない、普遍的な面白さを加えているように見える。

ドラムとベースを軸に組み立てた安定したグルーヴを核に、新旧のブラック・ミュージックのエッセンスを取り込んだバラエティ豊かな楽曲で、懐かしさと新鮮さを両立した魅力的なファンク作品。ヒップホップのサンプリング・ソースを通してファンクに興味を持った人にはぜひ聞いてほしい。ファンク・ミュージックの奥深さと、コンピュータとは一味違う、バンド演奏の面白さを体験できると思う。

Producer
Sam Beaubien

Track List
1. In the Ride feat. Amp Fiddler
2. Shake It Up, Shake It Down feat. Rickey Calloway
3. Run, Don't Walk Away feat. Coko
4. Off the Line
5. Jump Back feat. Rickey Calloway
6. Cherry Juice feat. Allan Barnes
7. Come On Home feat. Rickey Calloway
8. The Diesel






Ephemerals - Egg Tooth [2017 Jalapeno Records]

イギリス出身のギタリスト、ニコラス・ヒルマンと、フランス系アメリカ人のサックス奏者、ウォルフガング・パトリック・ヴァルブルーナが中心になって結成したファンク・バンド、エフェメラルズ。60年代、70年代のブラック・ミュージックを取り込んだサウンドと、ヴァルブルーナのエネルギッシュな歌唱が話題になり、ジャイルズ・ピーターソンやクレイグ・チャールズなどのラジオ番組でヘビー・プレイ。2016年にはフランスのDJ、クンズのシングル『I Feel So Bad』に参加。フランスを中心に、複数の国でヒットチャートに入る、彼らにとって最大のヒット曲となった。

このアルバムは、2015年の『Chasin Ghosts』以来となる、通算3枚目のオリジナル・アルバム。本作でも楽曲制作とプロデュースをヒルマンが、ヴォーカルをヴァルブルーナが担当。ファンクやソウル・ミュージックの要素をふんだんに取り入れた楽曲を披露している。

アルバムの2曲目、本作に先駆けて発売されたシングル曲”The Beginning”は、ゆったりとしたテンポのバラード。分厚いホーンセクションを軸にしたバンドをバックに、思いっきり声を張り上げるヴァルブルーナの姿が格好良い。余談だが、彼の歌い方が”Don't Look Back in Anger”を歌っていた時の、オアシスのリアム・ギャラガーに少し似ていると思うのは自分だけだろうか。

一方、これに続く”In and Out”は、陽気な音色のキーボードと、柔らかい音色のホーン・セクションに乗せて、切々と言葉を紡ぎ出すミディアム・ナンバー。ビル・ウィザーズを彷彿させる、スタイリッシュだがどこか温かい雰囲気の歌声が心に残る。良質なポップ・ソングだ。

そして、本作からのもう一つのシングル曲『Astraea』は、ストリングスを取り入れた、切ない雰囲気のアップ・ナンバー。徐々にテンポを上げていく伴奏と、何かに追い立てられるように、せかせかと言葉を吐き出すヴァルブルーナのヴォーカルが印象的な楽曲だ。

また、同曲のカップリングとしてシングル化された”And If We Could, We’d Say”はハモンド・オルガンの音色で幕を開けるミディアム・ナンバー。ヒップホップのエッセンスを取り入れた伴奏に乗せ、ギル・スコット・ヘロンの作品を引用したポエトリー・リーディングを聴かせるという通好みの楽曲。大衆向けとは言い難い素材を集めつつ、アイザック・ヘイズが”Ain’t No Sunshine”や”Never Can Say Goodbye”のカヴァーで見せた、テンポを落として低音をじっくりと聴かせる、キャッチーで粘っこいファンク・サウンドを使ってポップに纏め上げた名演だ。

そして、黒人音楽が好きな人には見逃せない曲が、スティーヴィー・ワンダーの”AnotherStar”にも似た雰囲気のアップ・ナンバー”Get Reborn”だ。オルガンのキラキラとした音色を軸に、華やかな伴奏と軽妙なヴォーカルを組み合わせた楽曲。ライブで聴いたら盛り上がりそうだ。

英国出身のファンク・バンドというと、ジャミロクワイのような世界中で人気のグループから、ストーン・ファンデーションジェイムズ・ハンター・シックスのように、好事家達を唸らせる実力派ミュージシャンまで、あらゆる趣向の人々に対応する層の厚さが特徴的だ。その中で、彼らを他のグループと差別化しているのは、古今東西の色々なソウル・ミュージックを取り込むヒルマンの制作技術と、デーモン・アルバーンやリアム・ギャラガーにも通じる、ヴァルブルーナの存在感のある歌声によるものが大きいと思う。

60年代、70年代のソウル・ミュージックに軸足を置きつつ、その子孫ともいえる90年代以降のブリティッシュ・ロックのエッセンスを混ぜ込むことで、先人や現行の同業者とは違う独自の音楽性を確立した面白い作品。ロック、もしくはブラック・ミュージックをあまり聴かない人にこそ聴いてほしい、ジャンルの壁を越えた魅力的なバンドだ。

Producer
Hillman Mondegreen

Track List
1. Repeat All +
2. The Beginning
3. In and Out
4. Go Back to Love
5. The Omnilogue
6. Coming Home
7. And If We Could, We’d Say
8. Get Reborn
9. Cloud Hidden
10. If Love Is Holding Me Back
11. Astraea
12. Repeat All





Egg Tooth
Ephemerals
Jalapeno
2017-04-21


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