melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

男性シンガー・ラッパー

Zion.T - ZZZ [2018 Blacl Label, YG Entertainment]

2016年にYGエンターテイメント傘下のブラック・レーベルに移籍後すると、翌年に発表したEP『OO』がビルボードのヒートシーカーズ・チャート(総合アルバム・チャートの100位以内、およびジャンル別チャートの10位以内に一度も入ったことのないアーティストが対象のチャート)に入るスマッシュ・ヒットとなり、2017年にはロンドン公演、2018年初頭には北米ツアーを敢行するなど、日本よりも欧米で人気のあるシンガー・ソングライター、ザイオン.Tこと、キム・ヘス。

2017年末に発表したシングル”Snow”が韓国チャートを制覇し、2018年にはサマー・ソニックに出演して日本デビューを果たすなど、着実に成果を上げてきた彼。個性的な音楽性とアプローチで、これまでに日本に進出した韓国人アーティストとは異なる方面からファンを増やしてきた。

本作は、『OO』から約1年半の間隔を経てリリースされた通算3枚目のEP。楽曲制作では、ピージェイやジョー・リーといったブラック・レーベルの同僚を起用し、ゲストにはレッド・ベルベットのスルギやヒョゴのオ・ヒュクといった、YGエンターテイメントのアーティストの作品ではあまり名前を見ない面々を招いている。

アルバムに先駆けて発表されたシングル曲”Hello Tutorial”は、SMエンターテイメント所属の女性グループ、レッド・ベルベットのスルギをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。ビッグバンや2Ne1の楽曲を手掛け、今年に入ってからはビッグバンのV.I.のアルバムからの先行シングル、”1,2,3!”を手掛けたことでも話題になったソ・ウンジンが制作に参加した曲だ。ミリオン・セラーを達成した前作のシングル曲”The Song”を彷彿させる柔らかいメロディを歌うザイオン.Tと、彼の声を優しく包むような柔らかいシンセサイザーの伴奏、線は細いが芯の強い声が印象的なスルギのヴォーカルの組み合わせが心に残るバラード。YGに移籍する前には、スルギの所属事務所の先輩にあたる、シャイニーのジョンヒョンの作品に客演したことがあるものの、傘下のレーベルとはいえYG所属のアーティストがSMの所属アーティストとコラボレーションするのは異例。G-ドラゴンやPSY、ダイナミック・デュオといった、韓国を代表する大物アーティストの作品に関わってきた彼の個性と社交性が遺憾なく発揮された楽曲だ。

これに対し、Eセンスと組んだ”Malla Gang”は、90年代のマスター・Pやティンバランドの音楽を思い起こさせる、バウンス・ビートを取り入れたヒップホップ作品。刺々しい音色を使うことが多いバウンス・ビートの作品では珍しい、バンドの生演奏のようにも聞こえる柔らかい音を使ったトラックが新鮮だ。しなやかなテナー・ヴォイスを活かした小回りの利くザイオン.Tのラップが堪能できる。ラップから歌へと、切れ目なく繋ぐ技術も光っている。Eセンスの荒っぽいラップが楽曲に起伏をつけている点も面白い。

また、一時はYG傘下のハイランドに在籍していたこともあるオルタナティブ・ロック・バンド、ヒョゴのオ・ヒュクが客演した”Sleep Talk”は、マーヴィン・ゲイの”Got To Give It Up”を連想させる、スタイリッシュでセクシーなグルーヴが心地よいアップ・ナンバー。マックスウェルを思い起こさせる繊細な声で囁きかけるように歌うザイオン.Tと、ブラッド・オレンジにも似た声で気だるそうに歌うオ・ヒュクのコンビネーションが聴きどころ。往年のソウル・ミュージックのエッセンスを盛り込みつつ、現代の新しい音楽として聴かせる両者の手腕には感服する。

そして、本作の隠れた目玉は、CD盤のボーナス・トラックである”Snow”だ。2017年末に発表されたこの曲は、韓国を代表するバラードの歌い手、イ・ムンセとのコラボレーション作品。ストリングスとキーボードの音色を組み合わせた伴奏の上で、切ないメロディに豊かな表情を吹き込む二人のヴォーカルが魅力的だ。歌謡曲の世界で育ったイ・ムンセと、ヒップホップの世界でキャリアを積んできたザイオン.Tという、世代も音楽性も異なる二人が、一つのメロディを異なる解釈で歌い上げている点に注目してほしい。アメリカのR&Bでは少なくなった、メロディを丁寧に歌い込むスタイルが心に残る曲だ。

今回のアルバムでは、『OO』で見せたアコースティック楽器の音色を積極的に取り入れつつも、ソウル・ミュージックのアレンジは影を潜め、ヒップホップの制作手法を用いた現代的な作品に仕上げている。しかし、過去のアルバムのように電子楽器を使わず、柔らかい音色のアコースティック系の楽器の音色を使ってヒップホップのビートを組み立てている点は新鮮だ。おそらく、彼の繊細な声と表現を活かすために、今回のような手法を取ったのだろう。

ジャズやボサノバの歌手を連想させるきめ細やかな表現力で、日本や欧米で人気のパワフルな歌い越えのR&Bシンガーとは一線を画した独創的なR&Bが堪能できる良作。何回も時間をかけて聴きたくなる、大人の鑑賞に堪えうる緻密で完成度の高いアルバムだ。

Producer
Zion.T, Joe Rhee, Oh Hyuk, Park Jun Woo, PEEJAY, Seo Wonjin, Slom, Yoon Suk Chul

Track
1. Ideal
2. Hello Tutorial feat. SEULGI from Red Velvet
3. My Luv
4. Malla Gang feat. E SENS
5. Uh Huh
6. Sleep Talk feat. Oh Hyuk
7. Untold Story
8. SNOW feat. Lee Moon Sae





6lack - East Atlanta Love Letter [2018 LoveRenaissance, Interscope]

ドレイクのように新しいサウンドを乗りこなし、歌とラップを織り交ぜたスタイルを繰り出すアーティストや、トレイ・ソングスのように、シンプルなトラックの上で、歌声とメロディを丁寧に聴かせるスタイルのシンガー、はたまた、ボーイズIIメンのように往年のソウル・ミュージックの良さを現代に蘇らせる手法がウケているベテランなど、様々なスタイルのシンガーが凌ぎを削るアメリカのR&B市場。その中で、独特のスタイルで頭角を現しているのが、ジョージア州アトランタ出身のシンガー・ソングライター、スラックこと、ロドリゲス・バルデス・ヴァレンティン。

フロー・ライダーが経営するレーベルと2011年に契約すると、大学を中退し、音楽ビジネスを学びながら、楽曲を制作。一時期はマイアミで自身の音楽レーベルも経営していた。

そんな彼は、2015年にインタースコープ参加のラブルネッサンスと契約。2016年にアルバム『Free 6lack』をリリースすると全米総合アルバム・チャートの34位に入り、ゴールド・ディスクを獲得。収録曲の”Prblms”はダブル・プラチナに認定され、グラミー賞にノミネートするなど、気鋭のシンガー・ソングライターとして高い評価を受けた。

このアルバムは前作から2年ぶりとなる彼にとって2枚目のスタジオ・アルバム。2017年にリリースされた、タイ・ダラ・サインカリードが客演した”OTW”などは未収録なものの、多くの新録曲を収録、フューチャーやミーゴスのオフセットやJ.コールなどの豪華なゲストが参加し、T-マイナスやStwoなどが制作に関わった力作になっている。

本作の1曲目は、フランスのプロデューサーStwoが制作に携わった”Unfair”。ケイトラナダやジョルジャ・スミスの作品も手掛けているStwoの繊細なバック・トラックと、スラックの物悲しい歌声の組み合わせが心地よいミディアム・ナンバー。エレクトロ・ミュージックやヒップホップと、マックスウェルやディアンジェロのような現代のソウル・シンガーの音楽を融合した面白い曲だ。

これに対し、ジャスティン・ビーバーやドレイクなどを手掛けているカナダのクリエイター、T-マイナスが制作に関与した”Pretty Little Fears”は、語り掛けるようなJ.コールのラップと、ささやきかけるような歌声が絡みあう切ない雰囲気のミディアム・バラード。極端に音数の少ないトラックは、電子音楽のクリエイターの作品かと錯覚させる。

また、本作に先駆けて発売されたシングル曲”Switch”は、サム・スミスやカリッドなどのキャッチーなR&Bを作ってきた、ニュージーランドの作家、ジョー・リトルを起用した楽曲。90年代中期のヒップホップのような、粗削りな音を使った伴奏と、派手ではないが味わい深いメロディを丁寧に歌い込むヴォーカルが心に残るミディアム・ナンバー。音数を絞り込み、音と音の隙間を効果的に聴かせるスタイルは、ジェイ・ディラやディアンジェロの音楽にも似ている。90年代に一世を風靡した手法を、現代向けにアップデートした技術が光っている。

そして、本作のリリース直前に発表された”Nonchalant”は、Stwoがトラック・メイクを主導した作品。電子音を組み合わせたトラックはFKJムラ・マサの音楽にも似た神秘的な雰囲気を醸し出している。その上に乗る、歌ともラップとも詩の朗読とも形容しがたい、微妙な抑揚で紡がれる言葉が心に残る良曲だ。

今回のアルバムは、前回の路線を踏襲しつつ、トラックやヴォーカルのアレンジを前作以上に練り込んだ印象がある。音楽投稿サイトで話題になるような、尖った作風の電子音楽やヒップホップのエッセンスを盛り込みつつ、大衆向けのキャッチーで洗練されたR&Bに落とし込む、この新鮮さと安心感の絶妙なバランスが本作の良さだと思う。

YouTubeや大規模な音楽フェスの隆盛によって、「リスナーにどれだけ新鮮な印象を与えるか?」ということに重きを置くミュージシャンが多い中、細部にまで気を配った曲作りと、丁寧なパフォーマンスでリスナーの耳目を惹いた個性的な作品。歌で勝負するR&Bの原点に立ち返りつつ、楽曲全体で新鮮さを感じさせる曲作りが光る佳作だ。

Producer
Stwo, T-Minus, JT Gagarin, Bobby Johnson, DJDS, Joel Little etc

Track List
1. Unfair
2. Loaded Gun
3. East Atlanta Love Letter feat. Future
4. Let Her Go
5. Sorry
6. Pretty Little Fears feat. J. Cole
7. Disconnect
8. Switch
9. Thugger's Interlude
10. Balenciaga Challenge feat. Offset
11. Scripture
12. Nonchalant
13. Seasons feat. Khalid
14. Stan






Morris Mobley - Movin' On [2018 Arcana]

モーリス・モブレイはゲイリー・グリットネスの名義での活動で知られるアーティスト。

フランス北部の工業都市、ナンシー出身の彼は、電子音楽とファンク、ディスコ音楽を融合した独特の作風で注目を集め、ニューヨークを拠点に多くのクラブ・ミュージックのレコードをリリースしているアーケインから、複数の作品をリリースしてきた。

本作は、モーリス・モブレイ名義で制作した初のスタジオ・アルバム。シンセサイザーやリズム・マシーンを駆使して曲を作っていたこれまでの作品に対し、本作ではギターなどの楽器も使用。複数の楽器を組み合わせて、80年代のソウル・ミュージックの魅力を、現代を生きる彼の感性で再解釈している。

本作の1曲目はタイトル・トラックの”Movin’ On”。煌びやかなシンセサイザーを駆使したバックトラックの上で、大人の色気を感じさせる歌声を響かせるモーリスの姿が印象的なアップ・ナンバー。ジョージ・ベンソンを彷彿させる艶めかしいギターも心地よい。

続く”Stop Playin’ Games”は、マスターピースやハイ・ファッションの作品を連想させるディスコ・ブギー。電子楽器を駆使したスタイリッシュな伴奏は、当時の音楽以上に、80年代の煌びやかな雰囲気を再現している。グラマラスな歌声でダイナミックな歌唱を披露する姿は、他の曲では聞けないものになっている。本作の収録曲では最も当時の音楽に近い。

これに対し、ニューヨーク出身のピアニスト、ドン・ブラックマンが82年に発表した『Don Blackman』の収録曲”Since You Been Away So Long”のカヴァーは、原曲のゆったりとした雰囲気のメロディの魅力を丁寧に引き出した演奏が魅力。女性ヴォーカルがなくなり、電子ドラムの音が重くなるなど、モーリスの制作環境に合わせたアレンジを施しつつ、原曲の流麗なメロディをじっくりと演奏し、歌う姿が光っている。

また、スティーリー・ダンの”Glamour Profession”は、 80年のアルバム『Gaucho』の収録曲のカヴァー。ディスコ音楽が音楽業界を席巻していた時代に、シンガー・ソングライターがディスコ音楽の要素を取り入れた楽曲を、電子音楽畑のモーリスがリメイクしている。80年代後半から90年代初頭のエレクトロ・ミュージックを思い起こさせる、太い電子音を使った伴奏は、ゲイリー名義の作品に近い。しかし、ソウル・シンガーとは違う、モーリスのあっさりとした歌い方が、原曲のメロディの良さを引き出している。ディスコ音楽風のポップスだった原曲を、本格的なクラブ・ミュージックに再構築した意欲作。

このアルバムは、元々ハウス・ミュージックなどを制作していたクリエイターの手によるものということもあり、80年代前半の華やかなディスコ・ミュージックの雰囲気を残してはいるものの、パワフルなヴォーカルよりも、スタイリッシュなトラックにフォーカスを当てたものになっている。また、ヴォーカルやコーラスを彼一人で担当し、楽器も一人で担当するなど、大人数のバンドによる派手な演奏が魅力のソウル・ミュージックとは一線を画した、現代のテクノ・ミュージックなどに近いものになっている。この、別のジャンルの音楽の制作手法を用いることで、既存の音楽に新しい解釈を加えている点が本作の面白いところだろう。

ソウル・ミュージックを聴いて育ったエレクトロ・ミュージックのクリエイターによる、独自の視点が魅力のソウル作品。アメリカのタキシードや日本のT-グルーヴのように、80年代のディスコ・ミュージックの魅力を現代に伝えるアーティストだ。

Producer
Morris Mobley

Track List
1. Movin’ On
2. Stop Playin’ Games
3. Since You Been Away So Long
4. Midnight Stroll
5. Glamour Profession
6. Rolodexes
7. First Class Hangin’
8. Charge It To The Game



Movin’ On
Morris Mobley
MMM Records/BBQ
2018-07-29

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