melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

男性シンガー・ラッパー

Jamie Isaac - (04:30) Idler [2018 Marathon Artists]

ジェイミー・アイザックは、ロンドン南部のクロイドン出身のシンガー・ソングライター兼プロデューサー。

アデルやジェシーJ、フロエトリーの二人を輩出した芸術学校、ブリット・スクール時代に、後にキング・クルーとしてブレイクするアーチー・イヴァン・マーシャルと出会った彼は、多くの音楽プロジェクトを経験。その一方で、映像制作や脚本作りにも強い関心を抱くなど、好奇心旺盛な青年だった。

そんな彼は、2013年のEP『I Will Be Cold Soon』を皮切りに、年間1枚のペースで新作を発表。ビル・エヴァンスからビーチ・ボーイズまで、様々な音楽から触発された個性的な作風で、好事家から注目を集めてきた。

本作は、彼にとって2枚目のフル・アルバム。前作に引き続き、ヴォーカル、ソングライティング、プロデュースを彼自身が担当する一方、演奏にはルディ・クレスウィックやジェイク・ロングといった新しい面々も参加。電子音楽やジャズ、ロックやソウル・ミュージックを取り込み、融合させた独特のスタイルを深化させている。

本作の幕開けを飾る”Wings”は、ビル・エヴァンスを彷彿させるロマンティックなピアノと、ダニー・ハザウェイやロバータ・フラックのような、70年代のソウル・ミュージックを彷彿させる洗練されたリズム・セクション。ボサノバを取り入れたアレンジとメロディが心に残る、お洒落なミディアム・ナンバー。ジェイミーの繊細なヴォーカルを強調しつつ、スタイリッシュに纏め上げた曲作りが素敵。

続く”Doing Better”は、ヒップホップのビートと電子音楽のエッセンスを混ぜ合わせた、スロー・テンポのR&B作品。ごつごつとしたビートはディアンジェロの、電子音楽を組み合わせた抽象的なトラックはサンダーキャットの音楽性に近しいが、スマートで滑らかなヴォーカルはマックスウェルに似ているという不思議な作品。方向性の全く異なる演奏スタイルを吸収し、独創的な音楽に還元したジェイミーのセンスが光っている。

これに対し、3曲目の”Maybe”は、ボサノバと電子音楽の要素を強調した、優雅で前衛的な作風が印象的な曲。ソウル・ミュージックの要素は皆無だが、リスナーの琴線を刺激する哀愁を帯びたメロディと繊細なヴォーカルのコンビネーションは魅力的。ロックに強いミュージシャンを招いたことで、曲中にロック・ミュージシャンらしいアドリブを盛り込んでいる点も心憎い。

そして、本作の収録曲でも特に異彩を放っているのが”(04:30) Idler / Sleep”、ビル・エヴァンスのような優雅なピアノが心地よい伴奏に、声楽家のような女性の歌声や、壮年の男性による「Sleep」という声を挟み込んだ奇抜なアレンジと、ファルセットを多用した切ない雰囲気のヴォーカルを組み合わせが新鮮な曲だ。斬新な曲でありながら、緊張せず、リラックスして楽しめるのは、彼の美しい歌声と、優しい音色の楽器のおかげだろうか。

彼の音楽の魅力は、ジャズや電子音楽といった、多くの人を魅了する一方で、繊細さや複雑な表現に敷居の高さを感じるジャンルの手法を、わかりやすくかみ砕き、誰もが楽しめるポピュラー音楽として再構築しているところだ。テディ・ウィルソンやデイブ・ブルーベックのようなジャズ、ブライアン・ウィルソンのような先鋭的なポップス、クラシック音楽にも造詣の深い彼は、高度な演奏技術だけでなく、一つのスタイルを複数の視点から分析して、自分の楽曲に合わせた表現に組み替えている。この、多角的なものの見方と構成能力が、彼の音楽に独自性質をもたらしているのだろう。

高度で複雑な音楽を闇鍋のように一つの作品に放り込みながら、破綻させることなく、誰もが楽しめる魅力的なポップスとして楽しめる作品に落とし込んだ面白いアルバム。電子音楽ともロックとも異なる個性的なスタイルは、あらゆる人にとって新鮮な音楽に映るだろう。

Producer
Jamie Isaac

Track List
1. Wings
2. Doing Better
3. Maybe
4. (04:30) Idler / Sleep
5. Interlude (Yellow Jacket)
6. Eyes Closed
7. Slurp
8. Counts for Something
9. Melt
10. Drifted / Rope
11. Delight




04:30 IDLER/DIGIPAK
JAMIE ISAAC
MARA
2018-06-01


Drake ‎– Scorpion [2018 Young Money, Cash Money, Republic]

2016年のアルバム『Views』がアメリカ国内だけで160万枚を売り上げ、グラミー賞で2部門を獲得する一方、賞レースにおけるラップ作品とヴォーカル作品の区分けについて論争を巻き起こすなど、色々な形で音楽界に波紋を呼んだ、カナダのトロント出身のヒップホップ・アーティスト、ドレイク。

2017年には「プレイリスト」と銘打たれた配信限定の作品『More Life』を配信限定でリリースする一方、複数のシングルを発表しながら、欧州とオセアニアを舞台に大規模なツアーを敢行。2018年には”Nice For What”が、前週まで1位だった彼の”God's Plan”からトップをもぎ取り、ビルボードの総合シングル・チャートでは史上初となる、「同じアーティストの別の楽曲による2週連続1位」という大記録を打ち立てた。

このアルバムは、彼にとって2年ぶり通算5枚目のスタジオ作品。彼にとって初の2枚組作品で、プロデューサーにはマーダ・ビーツやボイ・ワン・ダなどのお馴染みの面々に加え、DJプレミアやDJポールといったアメリカの大物クリエイターも参加。ゲストにはジェイZタイ・ダラ・サインのほかに、マイケル・ジャクソンの名前も入った豪華なものになっている。

本作に先駆けて発表された”God’s Plan”は、2018年にリリースされ、全米総合シングル・チャートで11週連続1位を取った楽曲。シンセサイザーの伴奏とドロドロしたビートを組み合わせたトラックの上で、ヴォーカルともラップとも言い難い不思議なフロウを聴かせるアップ・ナンバー。2017年のグラミー賞で、ヒップホップとR&Bの区分について疑問を投げかけた彼が、両者の融合をさらに推し進めた面白い曲だ。

これに続く”I’m Upset”は、フィラデルフィアを拠点に活動する音楽プロデューサー、ウージー・メインを制作者に起用した作品。リル・ウジ・バートなどの楽曲をプロデュースしてきたウージーが作るビートは、華やかな音色を使ったトラップ。このあくの強いビートの上で、歌うようにラップするドレイクの姿が印象的。「歌うようにラップをする」という彼の芸風が、実は才能と努力の賜物であることに気づかされる曲だ。

また、マーダ・ビーツがプロデュースした”Nice For What”は、ローリン・ヒルの”Ex-Factor”をサンプリングした楽曲。原曲のフレーズを再生速度を上げてループさせた手法は、2000年代のカニエ・ウエストやジャスト・ブレイズを連想させる。メロディをつけず、次々と言葉を繰り出すラップは、彼の作品では珍しい分、新鮮に映る。

そして、本作の収録曲で異彩を放っているのが ”Don’t Matter To Me”だ。1983年に録音され、2014年にリリースされたマイケル・ジャクソン”Love Never Felt So Good”と同じ時期に作られた未発表曲に、ノアー・シャビブとナインティーン85がビートをつけ、ドレイクのヴォーカルを加えた仮想デュエット曲だ。現代では少なくなった起承転結のはっきりしたメロディに、現代の流行である、シンセサイザーの太い音色を使ったシンプルなトラックを組み合わせたミディアムだ。ニーヨマックスウェルのように、流麗なメロディを歌う姿は、本職のシンガーにも見劣りしない。

今回のアルバムでは、ジェイZ、2パック、アウトキャストなど、多くのアーティストが挑み、苦しんできたCD2枚組というフォーマットでありながら、最後まで間延びすることなく、クオリティの高い音楽を聴かせている。この中では、メロディを抑えたラップ作品から、ラップとヴォーカルを混ぜ合わせた作品、純粋な歌もの作品まで、多彩な表現を披露しており、正味1時間半の大作ながら、最後まで集中して楽しめる。また、トラックには、シンセサイザーを使ったモダンなサウンドと、サンプリングを利用したものの両方を揃え、音楽の幅を広げている。この、色々なスタイルを取り入れ、組み合わせるアレンジ能力と、高いスキルが彼の作品にバラエティをもたらしているのだ。

2010年代のヒップホップ・シーンをけん引してきた彼の、豊かな音楽性を存分に堪能できる傑作。彼の成功が偶然ではないことを確信させられる充実の内容だ。

Producer
Noah "40" Shebib, Boi-1da, DJ Paul, DJ Premier, Murda Beatz, No I.D. etc

Track List
Disc 1
1. Survival
2. Nonstop
3. Elevate
4. Emotionless
5. God’s Plan
6. I’m Upset
7. 8 Out Of 10
8. Mob Ties
9. Can’t Take A Joke
10. Sandra’s Rose
11. Talk Up feat. Jay-Z
12. Is There More

Disc 2
1. Peak
2. Summer Games
3. Jaded
4. Nice For What
5. Finesse
6. Ratchet Happy Birthday
7. That’s How You Feel
8. Blue Tint
9. In My Feelings
10. Don’t Matter To Me feat. Michael Jackson
11. After Dark feat. Static Major & Ty Dolla $IGN
12. Final Fantasy
13. March 14




Scorpion
Drake
Universal / Island
2018-07-13

Ne-Yo – Good Man [2018 Compound, Motown]

2006年に発売した初のスタジオ・アルバム『In My Own Words』 がアメリカ国内だけで140万枚 も売れ、多くの音楽賞を獲得したことで、ソングライターがアーティストの有力なキャリア・パスとして再評価されるきっかけになった、アーカンソー州カムデン出身のシンガー・ソングライター、ニーヨことシャイファー・シミア・スミス。

デビュー作が成功した後も、2017年までにリリースした5枚のアルバム全てをアメリカの総合アルバム・チャートの10位以内に送り込みながら、ソングライターやプロデューサーとして、リアーナラトーヤといったR&Bシンガーから、セリーヌ・ディオンのようなポップ・スターまで、多くのアーティストに楽曲を提供。2012年にモータウンへ移籍してからは、A&R(アーティストの発掘と育成を担当する部門)のヴァイス・プレシデント(トップを補佐する役員)に就任。BJザ・シカゴ・キッドラポーシャ・ラナエリル・ヨッティといった、高いセンスとスキルが魅力の名手を送り出してきた。

このアルバムは、彼にとって通算7枚目のスタジオ・アルバム。ソングライター、クリエイターであり、会社経営者としても多くの仕事を抱えながら録音された本作は、全ての曲で彼自身がソングライティングを担当。プロデューサーには、彼の代表曲”So Sick”を一緒に制作したスターゲイトのほか、OGパーカーやステレオタイプスといったヒット・メイカーが多数参加。しなやかで親しみやすいメロディと爽やかな歌声というニーヨの魅力を引き出した作品になっている。

アルバムの実質的な1曲目となる”1 MORE SHOT”は、エリック・ベネイアン・ヴォークなどを手掛けてきたカーティス”ソース”ウィルソンをフィーチャーし、メイジャーの名義でも活躍するブランドン・グリーンと気鋭のクリエイター、マントラ・ビーツを制作者に迎えたダンス・ナンバー。ジェイソン・デルーロの近作を彷彿させる、鮮やかな音色を多用したカリプソっぽいアレンジと、ニーヨの繊細なメロディが光る好作。ハウス・ミュージックのビートを取り入れつつ、上物を強調してラテン音楽っぽく仕立てるアレンジが面白い。

これに対し、スターゲイトがプロデュースを担当した”PUSH BACK”は、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、ビービー・レクサとロンドン出身のラッパー、ステフロン・ドンをゲストに招いた作品だ。この曲は、スタイリッシュな作風が持ち味のスターゲイトのプロデュース曲では珍しい、レゲトンのビートを用いたダンス・ナンバー。ニーヨの流麗なヴォーカルと、ステフロンのラガマフィン、ポップス畑出身らしい、硬い声質のビービーのヴォーカルのコントラストが聴きどころ。

また、本作のリリース直前に発表された”APOLOGY”は、彼同様、ソングライターの実績が評価され、エンパイア配給のスタジオ・アルバムも発売しているコンプトン出身のシンガー・ソングライター、エリック・ベリンガーと共作したバラード。重いドラムの音を土台にしたヒップホップ色の強いトラックと、ラップのように多くの言葉を詰め込んだメロディという、エリックのカラーが強い曲。 爽やかな歌声としっとりとしたメロディが魅力のニーヨが、ラップのようなメロディに取り組む姿は新鮮だ。

それ以外の曲では、本作のタイトル・トラック”GOOD MAN”も見逃せない作品だ。DJキャンパーがプロデュースを担当、ソングライティングにラファエル・サディークが参加したこの曲は、ディアンジェロが2000年に発表した”Untitled (How Does It Feel)”をサンプリングしたバラード。随所に印象的なフレーズを織り込みつつ、楽曲全体の展開に目を配る構成が特徴的なニーヨの楽曲では珍しい、様々なメロディをモザイクのように組み合わせたスタイルの作品だ。ディアンジェロの楽曲を引用して、彼のスタイルを取り入れつつ、ニーヨの洒脱な歌唱法の組み合わせが新鮮なスロー・ナンバーだ。

このアルバムで彼が披露したのは、多くのソングライターやプロデューサーを招き、彼らの作風を取り入れることで、音楽の幅を広げているところだろう。エリック・ベリンガーやパーティー・ネクストドアといった、楽曲とキャラクターの両方が評価されて頭角を現したシンガー・ソングライターや、ステレオタイプスやDJキャンパーのような尖った作風がウリのヒット・メーカーを揃えつつ、自身も制作に関与することで、楽曲のバラエティと一貫性を確保している。このアルバムからは、「実績豊富なミュージシャンのニーヨ」を「音楽プロデューサーのニーヨ」の目で分析し、伸びしろを活かそうとしているように映る。

マネージメントという新しい仕事を通して、自分の可能性を広げた魅力的な作品。プレイヤーの能力ととマネージメントの技術は相対するものではなく、互いの可能性を引き出す車の両輪であることを教えてくれる優れたアルバムだ。

Producer
Ne-Yo, Darhyl Camper Jr, OG Parker, StarGate, The Stereotypes, DJ Camper etc

Track List
1. ""Caterpillars 1st"" (INTRO)
2. 1 MORE SHOT
3. LA NIGHTS
4. NIGHTS LIKE THESE feat. Romeo Santos
5. U DESERVE
6. SUMMERTIME
7. PUSH BACK feat. Bebe Rexha & Stefflon Don
8. BREATHE
9. ON UR MIND feat. PARTYNEXTDOOR
10. BACK CHAPTERS
11. HOTBOX feat. Eric Bellinger
12. OVER U
13. WITHOUT U
14. APOLOGY
15. OCEAN SURE feat. Candice Boyd & Sam Hook
16. ""The Struggle..."" (Interlude)
17. GOOD MAN





グッド・マン
NE-YO(ニーヨ)
ユニバーサル ミュージック
2018-06-08

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