ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

男性シンガー・ラッパー

Ty Dolla Sign - Beach House 3 [2017 Hunnid, Taylor Gang, Atlantic]

2010年にYGの”Toot It and Boot It”にフィーチャーされたことで注目を集め、2012年にアトランティックと契約すると、同年にデビュー作となるミックス・テープ『Beach House』を発表。その後も多くのミックス・テープやシングルをリリースして、リスナーの耳目を惹きつけてきたカリフォルニア州サウス・ロス・アンジェルス出身のミュージシャン、タイ・ダラ・サインことタイロン・ウィリアム・グリフィンJr.。

父親はファンク・バンドのレイクサイドのメンバーだったという彼は、若いころはギャングのグループに入るなど、やんちゃな経歴を重ねてきたという。しかし、音楽に興味を持つようになると、次々に技術を習得。最後には自身の手でトラック制作からラップまで、一通りこなせるようになった。

そんな彼は、2015年に初のフル・アルバム『Free TC 』を発表。翌年にはフィフス・ハーモニーの”Work from Home”に参加し、多くの音楽賞を獲得。人気ミュージシャンの仲間入りを果たした。

本作は、彼にとって2年ぶり2枚目のフル・アルバム。前作に引き続き、アトランティックが配給を担当。プロデューサーにはマイク・ウィル・メイド・イットファレル・ウィリアムスといった売れっ子が参加。ゲスト・ミュージシャンとしてリル・ウェインやウィズ・カリファ、スクリレックスやダミアン・マーレイといった多彩な面々が顔を揃えた、豪華な作品になっている。

アルバムに先駆けてリリースされた”Love U Better”は、DJマスタードがプロデュースを担当、リル・ウェインとザ・ドリームをフィーチャーした作品。シンセサイザーを駆使した軽妙なビートと、二人の軽やかなラップの組み合わせが光る良曲だ。サビの部分を担当する、ザ・ドリームの甘酸っぱい歌声が、楽曲の爽やかな雰囲気を盛り上げている。

これに対し、ブレイクのきっかけとなった恩人YGを招いた”Ex”は、バッド・ボーイ発の男性ヴォーカル・グループ、112が96年に発表した大ヒット曲”Only You”のベース・ラインをサンプリングした(ヴォーン・メイソン・クルーの”Bounce, Rock, Skate, Roll”を再引用した)トラックが格好良いアップ・ナンバー。ビッグ・ショーンやオマリオンに楽曲を提供してきた、L&Fのボンゴ・バイ・ザ・ウェイが作ったトラックはダンス・ミュージックの古典を大胆に引用したものだが、シンセサイザーやリズム・マシーンを使った音楽が主流になった2017年には新鮮に映るから不思議だ。

また、マイク・ウィル・メイド・イットがプロデュースした”Dawsin’s Breek”は、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジェレミーを起用したミディアム・ナンバー。重いドラムと、チキチキというハットの音を強調したトラップのビートの上で、個性豊かなラップを披露した面白い作品だ。重厚なビートに合わせて、音数を絞ったライムと、所々にメロディのついたフレーズを盛り込んだ器用なラップを披露する二人の姿が印象的だ。歌とラップを使う分けるスタイルがウリの、二人の持ち味が発揮されている。

そして、本作の収録曲でも異彩を放っているのがスクリレックスが制作に携わり、彼とダミアン・マーレイが客演した”So Am I”、EDM畑出身のクリエイターながら、ダミアン・マーレイ以外にも、ザ・ドアーズのメンバーやビッグバンのG-ドラゴンスヌープ・ドッグなど、様々なジャンルのミュージシャンとコラボレーションしてきたスクリレックスが作ったビートは、ゆったりとしたテンポのバス・ドラムの上に、パーカッションの音色を盛り込んだ、レゲエとヒップホップを混ぜ合わせたようなもの。温かい歌声でヴォーカルとラガマフィンを使い分けるダミアンを軸に据えた作品だ。普段はヒップホップをベースにしたパフォーマンスを披露することが多い、タイ・ダラ・サインとスクリレックスがレゲエの手法に挑戦した点も面白い。

今回のアルバムは、流行のサウンドを乗りこなしてきた彼らしい、新鮮さと親しみやすさが両立された佳作だ。個性豊かなプロデューサー達が作る多彩なトラックをきちんと乗りこなしつつ、硬派なイメージと大衆性を両立できるのは、地道な活動で鍛え上げた彼の高いスキルのおかげだろう。

次々と新しいスタイルが生まれ、消えゆくヒップホップ・シーンの中で、ゲームのルールに適応しつつ、独自性を発揮したタイ・ダラ・サインの高い技術が発揮された良質なアルバム。「2017年のヒップホップ」を1枚のCDに凝縮したような、充実した内容の作品だと思う。

Producer
Ty Dolla Sign, DJ Mustard, Mike Will Made It, Pharrell Williams, Skrillex, Poo Bear etc

Track List
1. Famous
2. Famous Lies
3. Love U Better feat. Lil Wayne & The-Dream
4. Ex feat. YG
5. Famous Excuses
6. Droptop In The Rain feat. Tory Lanez
7. Don’t Judge Me feat. Future & Swae Lee
8. Dawsin’s Breek feat.. Jeremih
9. Don’t Sleep On Me feat. Future & 24hrs
10. Stare feat. Pharrell Williams & Wiz Khalifa
11. Famous Friends
12. So Am I feat. Damian Marley & Skrillex
13. Lil Favorite feat. Madeintyo
14. In Your Phone with Lauren Jauregui
15. All The Time
16. Famous Amy
17. Side Effects
18. Famous Last Words
19. Message In A Bottle
20. Nate Howard Intro





Beach House 3
Ty Dolla $Ign
Atlantic
2017-11-07

T-Pain – Oblivion [2017 Nappy Boy, RCA]

地元のラップ・グループで活動したあとソロに転向。インターネット上に公開したエイコンの”Looked Up”のカヴァー、”I'm Fucked Up”が本人の耳に入ったことをきっかけに、彼が率いるコンヴィクトと契約した、フロリダ州タラハシー出身のシンガー・ソングライターでプロデューサー、T-ペインことファヒーム・タラハシード・ナジム。

2005年にメジャー・デビュー曲”I'm Sprung”を発表すると、音程を補正するソフトウェア、オートチューンを使用してロボットのような声に加工したヴォーカルと、電子楽器を組み合わせた独特の作風がウケ、全米総合シングル・チャートの8位になる大ヒットとなる。また、同曲を含むアルバム『Rappa Ternt Sanga』も50万枚を売り上げるなど、大きな成功を収めた。

その後も、2016年までに3枚のアルバムと10枚以上のシングルをリリース。中でもヤング・ジョックをフィーチャーした2006年の”Buy U a Drank (Shawty Snappin')”はシングル・チャートを制覇し、同曲を収めたアルバム『Epiphany』もアルバム・チャートの1位に上り詰めるなど、商業的に成功。また、自身名義の作品以外にも、クリス・ブラウンの”Kiss Kiss”やフロー・ライダーの”Low”、ピットブルの”Hey Baby (Drop It to the Floor)”など、多くのヒット曲に客演。オートチューンを使ったスタイルが流行するあまり、ジェイZから”D.O.A.”(デス・オブ・オートチューンという意味)という曲で攻撃されるまでになった。

本作は、そんな彼にとって6年ぶり5枚目のフル・アルバム。コンヴィクトを離れてリリースした初めてのアルバムだが、彼のスタイルは変わらない。プロデュースは彼自身に加え、近作を一緒に制作しているドレ・ムーンやDJマスタードなどが担当。クリス・ブラウンやニーヨといった、これまでにコラボレーションしてきた面々がゲストとして参加した、充実の内容になっている。

アルバムの収録曲で最初に目を惹いたのは、クリス・ブラウンをフィーチャーした”Classic You”だ。ピアノっぽい音色を使った荘厳なトラックの上で、絶妙な掛け合いを聴かせるスロー・ナンバー。”Kiss Kiss”ではダイナミックなダンス・ナンバーを披露した二人が、ゆったりとしたテンポのトラックの上で、甘く切ない歌声で魅了する光景は、10年という時間の重みと、波乱万丈の人生を歩んできた二人の密度の濃い人生が反映されているようで面白い。

一方、同曲に続く”Straight”は、彼の得意な電子楽器を多用したトラックと、オートチューンを強くかけたロボット・ヴォイスを強調したスタイルのミディアム・ナンバー。過去の作品で多用された手法を、6年ぶりの新作で採用しつつ、メロディやトラックを微妙にアレンジして、マンネリ化しないように工夫を凝らしている点は凄いと思う。

また、本作に先駆けてリリースされた”Textin' My Ex”は、色っぽい歌声と洗練された歌唱で人気があるシンガー・ソングライター、ティファニー・エヴァンスを起用したスロー・ナンバー。ドレ・ムーンが作ったトラックは、『Epiphany』でも見られたシンセサイザーを軸にしたものだが、低音が中心の柔らかい音を使って、ロマンティックな雰囲気に仕立てている。オートチューンを使ったT-ペインの人間っぽくない歌声と、ティファニー・エヴァンスのしなやかなヴォーカルの組み合わせが光っている。

そして、もう一つのシングル曲である”Goal Line”はメンフィス出身のラッパー、ブラック・ヤングスタを招いた曲。”Textin' My Ex”を制作したドレ・ムーンが用意したトラックは、ミーゴスやフューチャーを思い起こさせるトラップのビート。低音を強調して個性的なラップを際立たせた手法が功を奏し、シンプルだが親しみやすいヒップホップ作品に仕上がっている。

今回のアルバムは、T-ペインの持ち味であるオートチューンを使ったロボット・ヴォイスを使いつつ、新しい表現にも積極的に取り組んだ面白い作品だ。低音を強調したトラップやR&Bっぽいトラックなど、自身のスタイルをベースにしつつ、色々なサウンドに取り入れて、自分に合った音楽が生み出すことができるのは、彼自身が個性豊かなミュージシャン達と一緒に楽曲を作ってきたプロデューサーの顔を持っているからだろう。

強烈な個性を持つアーティストの顔と、流行を的確に捉えつつ、具体的な作品に落とし込むプロデューサーの顔を持つ彼だからこそ生み出せる、2017年版のT-ペインの音楽。単なる一発屋では終わらない、彼の確かな実力が堪能できる作品だ。

Producer
T-Pain, Dre Moon, DJ Mustard, Illangelo

Track List
1. Who Died
2. Classic You feat. Chris Brown
3. Straight
4. That's How It Go
5. No Rush
6. Pu$$y on the Phone
7. Textin' My Ex feat. Tiffany Evans
8. May I feat. Mr. TalkBox
9. I Told My Girl feat. Manny G
10. She Needed Me
11. Your Friend
12. Cee Cee from DC feat. Wale
13. Goal Line feat. Blac Youngsta
14. 2 Fine feat. Ty Dolla Sign
15. That Comeback with Ne-Yo
16. Second Chance (Don't Back Down) feat. Roberto Cacciapaglia



a

Oblivion [Explicit]
Nappy Boy/Konvict Muzik/RCA Records
2017-11-17


Sam Smith - The Thrill of It All [2017 Capitol]

エイミー・ワインハウスやワン・ダイレクション、アデルやマーク・ロンソンなどの相次ぐ成功で、再び注目を集めているイギリス出身のミュージシャン達。その一人で、2015年にアデル以来、実に5年ぶりとなる、外国出身者によるグラミー賞のベスト・ニュー・アーティストを獲得したことも記憶に新しい、ロンドン出身のシンガー・ソングライター、サム・スミスことサミュエル・フレデリック・スミス。

仲立人の家に生まれた彼は、ジャズ・バンドやミュージカルを通して音楽の世界に足を踏み込む。その後、2012年にエレクトロ・バンド、ディスクロージャーの”Latch”のゲスト・ヴォーカルでレコード・デビューすると、その後は自身の名義で複数のシングルをリリース。ブラック・ミュージックを扱うイギリスのラジオ・チャンネル、BBCレディオ1エクストラでお披露目する機会を得るなど、ブルー・アイド・ソウル(白人が歌うソウル・ミュージック)の旗手として、広く知られるようになった。

そして、2014年には初のアルバム『In the Lonely Hour』をリリース。複数の国のヒット・チャートで1位を獲得し、全世界で1200万枚も売り上げる大ヒット作となる。また、同作からシングル・カットされた楽曲の多くが全英チャートを制覇、これらの実績を引っ提げて、日本を含む世界各地でライブを行うなど、英国を代表するシンガーの一人として、縦横無尽の活躍を見せてきた。

このアルバムは、前作から3年ぶりの新作となる2枚目のフル・アルバム。プロデュースは前作にも関わっているスティーヴ・フィッツモーリスやジミー・ネイプスなどが担当。それ以外にも、スターゲイトやティンバランドなどの有名プロデューサーが参加した、人気ミュージシャンらしい豪華な布陣になっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、本作に先駆けてシングル・カットされた”Too Good At Goodbyes”。スターゲイトのミッケル・エリクセンがソングライティングで参加したこの曲は、生バンドのしっとりとした雰囲気が魅力的なトラックをバックに、じっくりと歌い込むサムの姿が印象的なミディアム・バラード。ニーヨやビヨンセに美しいメロディの楽曲を提供してきたエリクセンのセンスが加わることで、サムの洗練されたヴォーカルが際立った良曲だ。

これに対し、テイラー・スウィフトやジョン・レジェンドなどの作品を手掛けているアメリカの音楽プロデューサー、タイラー・ジョンソンを招いた”One Last Song”は、ディクシー・チックスやテイラー・スウィフトのような、カントリーやフォーク・ソングよりのミュージシャンの作品に近い、ゆったりとしたリズムが心地よい曲。ジャズやミュージカル音楽からキャリアをスタートしたサムだけあって、朴訥とした雰囲気のフォーク・ミュージックもきちんと乗りこなしている。

また、ロス・アンジェルスを拠点に活動するプロダクション・チーム、オーディブルズに所属するドミニク・ジョーダンと、コネティカット出身のソングライター、プーペーア制作に携わっているる”Burning”は、ピアノをバックに瑞々しい歌声を響かせるバラード、滑らかな歌声はマックスウェルやレミー・シャンドにも通じる洗練されたものだが、生楽器を多用したことでどこか柔らかい印象を受ける。

そして、本作の収録でも異彩を放っているのが、ティンバランドがプロデュースした”Pray”だ。ティンバランドに加え、彼と一緒にジョデシィのデヴァンテの元で腕を磨いてきたダリル・ピアソンが制作に携わったこの曲は、チキチキというハイハット以外は、シックに纏められた伴奏というティンバランドっぽくないスタイルの作品。しかし、ゴスペルの影響を感じさせるダイナミックで粘り強いヴォーカルや、荘厳でキャッチーなメロディなど、ジョデシィのような「歌」をウリにするアメリカのR&Bの影響が随所に盛り込まれている点は面白い。

今回のアルバムでは、前作に引き続き、往年のソウル・ミュージックを現代に合わせて再解釈した、美しいメロディと豊かな表現力、しなやかなアレンジが光る良曲を揃えている。スターゲイトやティンバランドなど、多くのヒットメイカーを起用して、彼らの持つ音楽への造詣の深さと、現代のブラック・ミュージックのトレンドを押さえる嗅覚の良さを取り入れつつ、ソウル・ミュージックがベースになっている自分のスタイルに昇華出来ているのは、スティーヴ・フィッツモーリスやジミー・ネイプスのような、前作にも携わってる面々と二人三脚でやっていることも大きいだろう。

斬新なサウンドや強烈な個性がなくても、高い歌唱力や演奏技術があれば、人の心を動かす音楽が作れることを再確認させてくれる良作。若い人には新鮮さを感じさせつつ、大人の鑑賞にも堪える稀有な作品だと思う。

Producer
Steve Fitzmaurice, Jimmy Napes, Timbaland  etc

Track List
1. Too Good At Goodbyes
2. Say It First
3. One Last Song
4. Midnight Train
5. Burning
6. Him
7. Baby, You Make Me Crazy
8. No Peace feat. YEBBA
9. Palace
10. Pray
11. Nothing Left For You
12. The Thrill Of It All
13. Scars
14. One Day At A Time



a

Thrill of It All
Sam Smith
Capitol
2017-11-03

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