melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

男性シンガー・ラッパー

Kanye West - Ye [2018 GOOD, Def Jam]

21世紀のヒップホップ・シーンにおいて、ジェイZファレル・ウィリアムスに匹敵するトレンド・セッターとして、常に新しいサウンドを生み出しているカニエ・ウエスト。

アトランタ生まれ、シカゴ育ちの彼は、90年代後半から音楽プロデューサーとしてジャギド・エッジやタリブ・クウェリなどにビートを提供。特に、ジェイZが2001年にリリースした”Izzo (H.O.V.A.)”では、ジャクソン5の”I Want You Back”のレコードを、回転数を変えてサンプリングする手法で、シンセサイザーをつかったトラックが主流だった当時のヒップホップの世界に、再びサンプリング・ブームを起こした。

また2004年に初のスタジオアルバム『The College Dropout』を発表。ソウル・ミュージックの早回しを用いたトラックと、自身の交通事故や大学中退といった、ユニークな題材を盛り込んだリリックがウケた彼は、アメリカ国内だけで340万枚を売り上げるなど、一気に大ブレイク。翌年には『Late Registration』を発売。映画「007」の主題歌としても有名な、同名曲をサンプリングした”Diamonds from Sierra Leone”( 邦題:ダイヤモンドは永遠に)などを収めた本作は、ヒップホップにおけるオーケストラの活用法を示して、多くの音楽賞を獲得した。

その後も、シンセサイザーだけでビートを組み立て、言葉数の多いラップではなく、オートチューンで声を加工した歌を乗せることで、大規模なロック・フェスが盛んな時代に対応した『808s & Heartbreak 』や、シンセサイザーを使いつつ、より尖ったサウンドで、ハードなヒップホップを作り上げた『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』など、斬新な作品を次々と発表。グラミー賞だけで34個獲得し、多くの全米ナンバー・ワン・ヒットを送り出すなど、多くの足跡を残してきた。

このアルバムは、2016年にリリースされた『The Life of Pablo』以来となる、通算8枚目のスタジオ・アルバム。配信限定で発表(後にアナログ盤も限定リリース)されるなど、メジャー・レーベル所属の人気ミュージシャンらしからぬ販売方法で、物議をかもした。本作も前作同様配信限定のリリースで、プロデューサーとして『Graduation』以降の作品に関わっているマイク・ディーンや、ドレイクなどの作品に携わっているフランシス&ライツなどが参加。7曲23分というこれまでの作品に比べると小粒な内容だが、密度の濃い作品になっている。

本作の1曲目は、ドレイクを彷彿させる歌うようなラップが印象的な”I Thought About Killing You”。冒頭では詩を読むように言葉を紡いでいた彼が、ベースの音が入ると同時に歌うようにラップをする姿が印象的な作品。4分超の曲ながら、複数のビートを使い分け、曲中でラップのスタイルを切り替える手法のおかげで、イントロのような短い曲に聴こえる。

続く”Yikes”は、『808s & Heartbreak 』に収録されている”Heartless”を連想させる、ベースの音を強調したシンプルなトラックと、歌とラップを組み合わせたパフォーマンスが光る作品。敢えて柔らかい音色を使うことで、サンプリング作品のような温かい雰囲気を演出する手法と、歌とラップを明確に切り分けて使うスタイルでメリハリをつけている点が面白い。個性的なクリエイターやゲストを招くことで、楽曲に起伏をつける方法が流行している中、それを一人で実現している点が聴きどころ。

これに対し、リバーランドW.A.ドナルドソンの”Baptizing Scene”を引用した”Wouldn't Leave”は、スロー・テンポでありながら、複数のドラムの音を組み合わせた軽妙なトラックが特徴の作品。ゴスペルの歌詞を取り入れたブルースををサンプリングした曲らしく、ラフに歌うラップとヴォーカルやパーカッションのように使われるシンセサイザーの演奏が面白い。電子楽器が多様される2018年であっても、ブルースの持つイナたい空気は醸し出せることを証明した良曲だ。

また、エドウィン・ホーキンズ・シンガーズの”Children Get Together”などをサンプリングした”No Mistakes”は、ゴスペル音楽の荘厳で躍動感のあるパフォーマンスと、重低音を効果的に使ってグルーヴを生み出すヒップホップの手法を混ぜ合わせた作品。シンセサイザーを軸にしたシンプルな伴奏が、限られた楽器しか使えない中、歌の表現で多彩な楽曲を生み出したゴスペルと上手く一体化している。早回しに頼らないサンプリングが多い近年の彼らしい楽曲だ。

今回のアルバムは、過去の作品に比べると、リスナーの度肝を抜く斬新さは乏しいかもしれない。しかし、収録曲をじっくりと聴くと、ブルースやゴスペルのスタイルを取り入れ、全く違う発声法の歌とラップを使い分けるなど、多くのアーティストが取り組んできた難題に挑み、具体的な作品に落とし込んでいる。この、「簡単そうで難しいこと」を積み上げて、派手さはないが、ありそうでなかった音楽を作り上げたのは、彼の技術とセンスの賜物だろう。

近年は作品よりもゴシップが目立つ彼だが、音楽に対する鋭い嗅覚と、具体的な作品を構築するスキルは全く衰えていない。そう感じさせる良作だ。

Producer
Kanye West, Mike Dean, Francis and the Lights, Apex Martin, Benny Blanco, Che Pope

Track List
1. I Thought About Killing You
2. Yikes
3. All Mine
4. Wouldn't Leave
5. No Mistakes
6. Ghost Town
7. Violent Crimes

BTS - Love Yourself: Tear [2018 Big Hit Entertainment]

2016年にリリースしたアルバム『Wings』が世界的なヒットになったことで、その名を世界に知らしめた、韓国のボーイズ・グループBTS(漢字圏では「防弾少年団」表記)。

2017年には5作目のEP『Love Yourself: Her』を発表。全米総合アルバムチャートの7位に入り、63年に坂本九のベスト・アルバムが記録した14位を上回っただけでなく、アジア出身の歌手としては史上初のトップ10入りを達成するなど、アジアのポップス史に残る大きな成功を収めた。また、同作からのリカット・シングル”Mic Drop”スティーヴ・アオキによるリミックスは、全米総合シングル・チャートの25位に入り、ゴールド・ディスクを獲得。73年にピンクレディの”Kiss In The Dark”が残した37位を超えただけでなく、フィフス・ハーモニーの”Down”の44位を押さえて、ヴォーカル・グループ作品の同年最高位を記録するなど、多くの足跡を残した。

また、2018年に入るとラップ担当のJ-Hopeの初のソロ作品『Hope World』を公開。韓国出身のソロ・アーティストとしては最高記録となる、全米総合アルバム・チャートの38位に入っただけでなく、インターネット経由で無料ダウンロードも可能だったにも関わらず、初週だけで8000ユニットが購入されたことでーも話題になった。

そして、4月にはデフ・ジャム・ジャパンから発売されたシングル曲に新曲を加えた日本語アルバム『Face Yourself』を発表。外国人でありながら、男性グループの日本語作品で、初めて欧米のヒット・チャートに入るという珍しい記録も打ち立てた。

本作は、韓国語の録音作品としては『Love Yourself: Her』以来、約半年ぶりとなる新作。プロデュースは『Wings』同様、彼らの作品を数多く手掛けてきたビッグヒット所属のプロデューサー、Pドッグが大部分の曲を担当。それ以外にも”Mic Drop”のリミックスで腕を振るったスティーヴ・アオキや、タイラー・アコードといった海外のヒットメイカーが携わった曲や、メンバーのジョングクがプロデュースした曲も収めるなど、大きな成功を収めた後の作品とは思えない、堅実な構成のアルバムになっている。

アルバムからの先行シングル”FAKE LOVE”は、Pドッグのプロデュース作品。シンセサイザーを駆使してスタイリッシュに纏め上げたトラックと、滑らかなメロディの組み合わせは、アッシャートレイ・ソングスの近作を思い起こさせる。ミディアム・バラード向けのトラックで、テンポよく言葉を繰り出す3人のラップと、4人の色っぽい歌声の組み合わせが光る好曲だ。アメリカやヨーロッパで流行しているサウンドを取り入れつつ、きちんと韓国のポップスに落とし込んでいる。

続く、”The Truth Untold”は、スティーヴ・アオキとの2度目のコラボレーション曲。しかし、この曲が本作最大の曲者。伴奏にはシンセサイザーを多用しているものの、躍動感のあるビートも高揚感のあるフレーズも一切入っていない、切ない雰囲気のスロー・バラードなのだ。事前情報を一切入れずに聴いた人なら、まず、スティーヴの作品とは思わない、哀愁を帯びたメロディが魅力のバラード。だが、余計な情報を忘れて、純粋に音楽として聴くと、7人の個性豊かな歌声と、シンプルなメロディの相性が素晴らしいことに気づかされる。世界を相手に知恵と実力で戦ってきた両者らしい、意外性に富んだ発想と、高い実力が伺える楽曲だ。

また、それ以外の曲で見逃せないのは、Pドッグがプロデュースした”Airplane pt.2 ”だ。J-Hopeのソロ作品『Hope World』の収録曲の続編という位置づけだが、注目すべきはそのサウンド。レゲトンやサルサのエッセンスをふんだんに盛り込み、熱く妖艶な雰囲気のラテン・ポップスに落とし込んでいる。本場の歌手と比べても遜色のないエロティックなものになっている、ダディ・ヤンキーのスタイルを取り込んだRMやSugaのラップも堂に入っている。2017年にはルイス・フォンシの“Despacito”が世界的なヒットになり、2018年に入ってからも、韓国の男性グループ、スーパー・ジュニアがラシール・グレースをフィーチャーした“Lo Siento“をリリースするなど、北米を中心に世界の音楽市場で人気のある、中南米の音楽を取り入れた良曲だ。

そして、”The Truth Untold”以上に、異彩を放っているのがPドッグがプロデュースしたヒップホップ作品”Anpanman“だ。自らをアンパンマン(これは、グループ名の韓国語発音Bangtanに引っ掛けている)になぞらえ「僕には逞しい筋肉や特別な能力もないし、バットマンのような凄い自動車も持ってないけど、愛する君のところに直ぐに飛んでいくし、君のために全てを捧げるよ。だから(アンパンマンみたいに)僕の名前を呼んで(大意)」という、ウィットに富んだ歌詞と、レゲトンのリズムを取り入れた軽妙なサウンドの組み合わせが面白い曲だ。前作『Wings』でも、ケブ・モーの渋いブルース作品”Am I Wrong“をポップなダンス・ナンバーにリメイクしたことも記憶に新しい、彼らのセンスが遺憾なく発揮されている。

このアルバムの面白いところは、R&Bやヒップホップ、ラテン音楽のエッセンスをふんだんに取り入れながら、歌、ダンス、ラップを織り交ぜたパフォーマンスを繰り出す、ヴォーカル・グループの強みを遺憾なく発揮している点だ。平均年齢24歳(発売時点)という、若さを活かした爽やかな歌声と、厳しい鍛錬や年齢の割に豊富な音楽経験を活かした多彩な表現。様々なビートを乗りこなしてきたラッパー達の変幻自在なパフォーマンスが、個性豊かな楽曲の魅力を引き出しつつ「彼らの音楽」に落とし込むのに一役買っている。また、バラードを含むバラエティ豊かな楽曲が、ハードで複雑なパフォーマンスが魅力の彼らの手によって、ステージではどのように披露されるのか、想像を掻き立てるものになっている点も見逃せない。

スパイス・ガールズが「イギリス人らしさ」を、ジャスティン・ビーバーが「カナダ人らしさ」を打ち出すよりも、「自分らしさ」を前面に押し出して多くの人から愛されたように、「韓国人らしさ」よりも「BTSらしさ」を強くアピールすることで、流行のサウンドを自分達の音楽に昇華させた魅力的な作品。新しい音を取り込みながら、あくまでもポップスターであり続ける、センスの良さとバランス感覚が光る親しみやすさと奥深さが心に残る名盤だ。

Producer
Pdogg, Steve Aoki, lophiile, Jungkook, Hiss noise, ADORA etc

Track List
1. Intro : Singularity
2. FAKE LOVE
3. The Truth Untold feat. Steve Aoki
4. 134340
5. Paradise
6. Love Maze
7. Magic Shop
8. Airplane pt.2
9. Anpanman
10. So What
11. Outro : Tear




Childish Gambino - This Is America [2018 RCA]

2016年に発表したアルバム『Awaken, My Love!』が、アメリカ国内だけで50万枚を売り上げ、グラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネートするなど、ミュージシャンとしても大きな成功を収めた、チャイルディッシュ・ガンビーノこと、ドナルド・グローヴァー。

その一方で、俳優としても、コメディ・ドラマ「アトランタ」で高い評価を受け、スター・ウォーズのスピンオフ作品や、実写版「ライオン・キング」に出演するなど、着実に実績を残していった。

この曲は、『Awaken, My Love!』以来となる新作。チャイルディッシュ・ガンビーノとしては最後のアルバムになると発表している、次回作に先駆けて公開された楽曲だが、同じ時期に「同作には収録されない」というコメントが出るなど、様々な情報が錯綜している。

今回のシングルは、これまでも彼の音楽を一緒に作ってきた、ルドヴィグ・ゴランソンとグローヴァーの共同制作、共同プロデュース作品。電子音の冷たく、刺々しい音色を使ったビートは、現在流行しているヒップホップやトラップのものだが、低音を抑え気味にして、パーカッションなどの音を強調することで、フェラ・クティや彼の息子、ショーン・クティが得意とするアフロ・ビートっぽく仕立てている点が面白い。曲の途中で、リズムを細かく変える演出を盛り込むことで、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックの象徴である「中毒性のあるループ」と、アフリカ音楽やアメリカのブルースを含む、世界各地の土着の音楽が持つ「変幻自在のアレンジ」を同居させている点も見逃せない。

また、この上に乗るヴォーカルは、ラップやブルース、フォーク・ソングなど、様々な音楽の手法を用いて、「現代のアメリカ」を描写したもの。社会問題に切り込む作品自体は無数にあるが、この曲では、抽象的で比喩的な表現を採り入れることで、政治的な作品に芸術性と娯楽性を付け加えている。

この曲の魅力は、歌、トラック、振付、映像表現など、あらゆる手段を用いて「アメリカ社会」に切り込みつつ、きちんとエンターテイメント作品に落とし込んでいるところだろう。歌やトラック以外に目を向けると、本作のミュージック・ビデオでは、ミンストレル・ショウやアフロ・ビートの表現や、現代舞踏の手法を織り交ぜたパフォーマンスを披露する一方、映像そのものも、カメラワークから小物まで、細部にも気を配った作品になっている。おそらく、コメディから先鋭的な音楽まで、あらゆる表現の世界を経験してきた彼の感性によるものが大きいだろう。

コメディアン、俳優、ミュージシャンと、多彩な顔を持ちながら、全ての分野で高い成果を上げてきたドナルドの豊かな才能が凝縮された珠玉の一品。インターネットによって、映像作品を気軽に楽しめるようになった現代ならではの傑作だ。

Producer
Donald Glover Ludwig Göransson

Track List
1. This Is America



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