melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

女性シンガー・ラッパー

Mariah Carey – Caution [2018 Epic]

91年にアルバム『Mariah』で表舞台に現れて以来、華々しい実績を残してきたマライア・キャリー。2017年にルイス・フォンシの”Despacito”に並ばれるまで、20年以上の間に渡って、全米シングル・チャートの連続1位の単独記録を保有していた95年のシングル”One Sweet Day”を筆頭に、ポップスの世界にヒップホップの手法を持ち込んだ”Honey”、ウータン・クランの鬼才、オール・ダーティー・バスタードを起用したリミックスも話題になった”Fantasy”など、アルバムをリリースする度にクラシックを残してきた。

その一方で、私生活は決して安定していたとはいえず、2000年代に入ると低迷。しかし、2005年にはアルバム、『The Emancipation Of Mimi』を発表。彼女の豊かな表現と、電子楽器を駆使したヒップホップのビートを融合したスタイルで復活。デビュー当時からの武器である天性の歌声と、キャリアを積んで磨きがかかった技術で、アメリカを代表する歌手として活躍している。

このアルバムは、彼女にとって4年ぶりとなる通算15枚目のスタジオ作品。ソニー傘下のEpicに移籍して録音された本作は、先行シングルを担当したDJマスタードを筆頭に、ティンバランドやナインティーン85といったヒップホップ界のヒットメイカーや、宇多田ヒカルとのコラボレーションも話題になった、エレクトロ・ミュージック畑のクリエイター、スクリレックスなど、尖ったサウンドが魅力のプロデューサーを迎え、新しい音に挑戦した作品になっている。

アルバムのオープニングを飾る”GTFO”は、ナインティーン85がプロデュースしたミディアム・ナンバー。空を浮かぶようなふわふわとしたシンセサイザーの音色は、アリーヤの”Rock The Boat”にも似ている。浮遊感のあるトラックの良さを活かしつつ、豊かな表情を吹き込むマライアのテクニックが印象的。パワフルな歌声だけでなく、繊細な表現も使いこなす2018年の彼女の歌を堪能できる佳曲だ。

続く”With You”は、DJマスタードが制作に携わった本作からの先行シングル。ピアノの伴奏を軸にしたシンプルなトラックと、彼女の歌声にフォーカスを当てた構成は、ジャム&ルイスがプロデュースした”Through the Rain”に通じるところがある、ヒップホップ畑のクリエイターらしい聴きどころをしっかり聴かせる構成と、彼女のダイナミックなヴォーカルが心に残る曲だ。

これに対し、スリック・リックとブラッド・オレンジをフィーチャーした”Giving Me Life”は、ヒップホップのビートと甘いメロディの組み合わせが面白いミディアム・ナンバー。ソランジュティナーシェなどの作品を手掛けているロック・ミュージシャン、ブラッド・オレンジが制作に参加したこの曲は、シンセサイザーを使って組み立てたトラックの上で、セクシーな歌声を披露するマライアの存在感が特徴的。キャムロンの”Oh Boy”をサンプリングした”Boy”を思い起こさせる本作の隠れた目玉だ。

そして、日本盤限定のボーナス・トラックとして収録されたのが”Runway”だ。世界屈指のDJであり、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした”Where Are U Now”などの、ポップスのヒット曲も残しているスクリレックスを起用した本作は、彼女の”Butterfly”と”We Belong Together”を引用したからか、90年代後半から2000年代前半にかけて、大人の色気と巧みな表現技術を身に着けた彼女の音楽を彷彿させる曲になっている。日本向けの配信版に収められている、Kohhのラップを加えたリミックス・ヴァージョンも見逃せない。

今回のアルバムは、これまでの路線を踏襲しつつ、現代のトレンドに合わせてメロディやトラックをアレンジした、良くも悪くも安定した作品になっている。病と闘いながら着実に前に向かって進んできた彼女の歩みと、今後への強い意志を感じさせる粒ぞろいの楽曲を揃えたところが、本作の面白いところだろう。

波乱万丈の人生を歩みながら、多くの名曲を残してきた彼女の豊かな経験と高い表現力が存分に楽しめる、質の高いアルバム。ベテランらしい老練さを身に着けながら、デビュー当時と変わらない美しい歌声を聴かせてくれるマライアの偉大さを確認できる内容だ。

Producer
Mariah Carey, DJ Mustard, Nineteen85, No I.D., Blood Orange, Skrillex etc

Track List
1. GTFO
2. With You
3. Caution
4. A No No
5. The Distance feat. Ty Dolla Sign
6. Giving Me Life feat. Slick Rick&Blood Orange
7. One Mo' Gen
8. 8th Grade
9. Stay Long Love feat. Gunna
10. Portrait
11. Runway
12. Runway feat.KOHH




Caution
Mariah Carey
Epic
2018-11-16

Traci Braxton - On Earth [2018 Soul World Entertainment]

トニ・ブラクストンの妹であり、彼女も在籍していた姉妹グループ、ブラクストンズの一員でもある、トレイシー・ブラクストン。

メリーランド州出身の彼女は、牧師の父とオペラ歌手から宣教師に転じた母を持ち、幼いころから姉妹と一緒に教会で歌うなど、恵まれた環境で腕を磨いてきた。

1989年にアリスタと契約した彼女達は、1990年に初のシングル“Good Life”をリリース。R&Bチャートに入るなど、一定の成果を収めたが、91年にトニがベイビーフェイスのプロデュースでデビューするためグループを脱退。トレイシー達は4人組としてグループを再開するが、95年にトレイシーもグループを離脱してしまう(そのため、96年のアルバム『So Many Ways』には参加していない)。

そんな彼女が表舞台に戻ってきたのは、2011年に制作されたリアリティ・ショウ。その後は、2014年に初のソロ・アルバム『Crash & Burn』を録音し、翌年には、トニも参加した5人体制のブラクストンズによるクリスマス・アルバム『Braxton Family Christmas』を発売。表舞台での経験が乏しいことが信じられない、豊かな表現力を発揮してきた。

本作は彼女にとって2枚目のソロ・アルバム。前作にも携わっていたデイブ・リンゼイが、全ての曲のプロデュースを担当。彼女自身も曲作りに参加し、ゲストにはトニ達ブラクストン姉妹も参加するなど、 前作も見劣りしない、豪華なものになっている。

本作の1曲目である”On Earth”は、四つ打ちのビートを採用したタイトル・トラック。セオ・パリッシュやムーディーマンの曲にも似ている、陰鬱で洗練されたビートの上で、滑らかに歌うトレイシーの姿が光るダンス・ナンバーだ。音数が少ないトラックと、起伏を抑えたメロディを乗りこなしつつ、きちんと表情をつける歌唱が聴きどころ。

続く”Lifeline”は、バス・ドラムを軸にしたシンプルなR&Bのトラックと、低い音域を強調した艶めかしいヴォーカルの組み合わせが魅力のスロー・ナンバー。重厚で色っぽい歌声を活かすスタイルは、トニ・ブラクストンの90年代の作品にも似ている。

しかし、本作の目玉は何と言っても”Broken Things”だろう。この曲は、ブラクストンズとして一緒に活動したトニ、トワンダ、トリーナの3人が参加したバラード(テイマーのみ不参加)。曲調の関係もあって、5人で録音した“Good Life”に比べると落ち着いた雰囲気だが、声質や歌い方の微妙な違いを効果的に使って、各人の個性と4人の一体感を表現している。4人でこの完成度ということは、5人が揃ったらどんな曲に仕上がっていたのだろうか。

また、本作では唯一ラッパーが客演した”To The Side”は、チキチキというハットの音を効果的に使った現代的なビートと、トレイシーの持つ大人の色気を引き出した、艶やかなメロディが魅力のスロー・ナンバー。クリス・ブラウントレイ・ソングスのアルバムに入っていそうなワイルドで大人っぽい雰囲気の曲でも、彼女が歌うと違って聴こえる。

彼女の作品は、他のブラクストン姉妹の作品同様、ブラクストンズやトニの作風を踏襲した、美しいメロディで歌声の魅力を丁寧に伝えるものだ。しかし、彼女の場合は他の姉妹の作品と違うのは、四つ打ちのビートや落ち着いた雰囲気のメロディの曲が目立つことだ。5人姉妹の中ではソロ作品を出していないトワンダを除くと、最もデビューが遅かったこともあり、他の姉妹と差別化を図るために工夫を凝らしたのだろう。そのことが、結果的に彼女の独自性を打ち出している。

ソウル・ミュージックの歴史上、最も成功した姉妹であるブラクストンズ。その中では一番最後に表舞台に登場した彼女だが、実力は他の4人に見劣りしないことを再認識させられる良作。90年代のトニ・ブラクストンのような、歌をじっくり聴かせるタイプのR&Bが好きな人には見逃せないアーティストだ。

Producer
Dave Lindsey

Track List
1. On Earth
2. Lifeline
3. Boy Bye
4. Broken Things feat. Toni Braxton, Towanda Braxton, Trina Braxton
5. Out The Box
6. To The Side feat. Ridge Long
7. White Noise
8. I Wont Cry




On Earth [Explicit]
Soul World Entertainment, LLC.
2018-08-24

H.E.R. - I Used to Know Her: The Prelude – EP [2018 RCA]

H.E.R.ことガブリエル・ウィルソンは、カリフォルニア州ヴァレーホ出身のシンガー・ソングライター。

出身地や本名、1997年生まれの21歳(本稿執筆時点)であること以外、自身に関する情報を殆ど公表していない彼女。あえて自身の素性を隠すことで、リスナーの関心を自身の音楽に向けさせてきた。

2016年から17年にかけて、2枚のEP『H.E.R. Vol. 1』『H.E.R. Vol. 2』を発表。2017年10月には、2作の収録曲を一枚に纏めた初のスタジオ・アルバム『H.E.R.』をリリース。配信限定の新人の作品ながら、エリカ・バドゥやシドを思い起こさせる、神秘的でモーダルな彼女の歌声と、ロバート・グラスパーやアンドレ・ハリスが制作に携わった楽曲で注目を集めてきた。

本作は、『H.E.R.』から約9か月の間隔で発売された彼女にとって3枚目のEP。制作は過去の作品にも関わっているスワッガー・シリアスらに加え、ドレイクなどのアルバムに参加しているウィリス・レーンや、タイ・ダラ・サインなどの楽曲を作っているD’マイルなどが担当。これまでの録音とは一味違う、新しいスタイルの楽曲に挑戦している。

アルバムの1曲目は、DJスクラッチをフィーチャーした”Lost Souls ”。ローリン・ヒルの名曲”Lost Ones”からインスピレーションを受けたというこの曲は、同曲のフレーズをサンプリングし、ローリンnのように歌とラップを織り交ぜたパフォーマンスを披露したミディアム・ナンバー。”Lost Ones”自体が、シスター・ナンシーが82年に発表したシスター・ナンシーの”Bam Bam”をサンプリングした泥臭いビートの楽曲ということもあり、この曲もDJプレミアやピート・ロックが作りそうな、 90年代のサンプリングを効果的に使ったヒップホップに落とし込まれている。

続く”Against Me”はウィリス・レーンが制作を主導したスロー・ナンバー。シンセサイザーを使った幻想的なサウンドの上で、丁寧に歌い込む彼女の姿が光っている。ドラムの音圧を抑え、低音の伴奏で重厚さを醸し出したトラックは、ドレイクの作品に少し似ている。前作までの彼女の作風を踏襲しつつ、切り口を変えた曲作りが魅力だ。

インターリュードを挟んだ後の”Could've Been”は、デビュー前から何度も共演してきたブライソン・ティラーとのデュエット曲のデュエット曲。エリック・ベリンガートレイ・ソングスの作品も手掛けているD’マイルズが作るトラックは、重いドラムの音を軸にしたしっとりとした雰囲気のもの。他の曲では、尖ったビートを取り入れることが多い両者が、ここでは滑らかな歌声で丁寧な歌を聴かせているのが新鮮だ。

そして、これに続く”Feel a Way”はリアーナアッシャーミゲルなどの楽曲に関わっているフリッパが手掛けた作品。ドレイクの”God’s Plan”を思い起こさせる、リズミカルなシンセサイザーの伴奏が印象的な曲だ。軽快な伴奏を含むトラックを、切ない雰囲気のメロディが魅力のミディアムに取り入れて、楽曲に軽妙な雰囲気を与える演出が面白い。

本作の最後を締めるのは、カリ・ウチスなどの作品を手掛けてきたジェフリー・ギトルマンがプロデュースした”As I Am”。ギターやフィンガー・スナップを用いた、フォーク・ソングっぽい演奏の上で、みずみずしい歌声を響かせるゆったりとした楽曲。透き通った歌声とR&Bのビート、ギターなどのアコースティックな伴奏を組み合わせたスタイルは、インディア・アリーにも少し似ているが、この曲では彼女の持つは少し陰鬱な雰囲気で独自性を打ち出している。

今回のEPは、ごく少数のクリエイターと制作してきたこれまでの作品から一転、色々なR&Bシンガーの曲に関わってきたプロデューサー達を起用し、流行のサウンドを積極的に取り入れたものになっている。しかし、多くのヒット・メイカーを起用しながら、流行の音をそのまま使うのではなく、自分の音楽性に合わせて咀嚼している。この一作品ごとに少しずつスタイルを変えて、リスナーを飽きさせず、次回作への期待を抱かせる手法が、彼女の音楽が注目される一因だと思う。

自身の音楽で勝負してきたH.E.R.の、第二章の幕開けを飾る作品といっても過言ではない、新しいスタイルに挑戦した良作。独創的な作風で周囲を驚かせてきた彼女が、次のステップに踏み出した新境地だ。

Producer
BassmanFoster, Cardiak, Dernst "D'Mile" Emile II, Flippa, Jeff Gitelman, Jeffrey Gitelman, Swagg R'Celious & Wallis Lane

Track List
1. Lost Souls feat. DJ Scratch
2. Against Me
3. Be On My (Interlude)
4. Could've Been feat. Bryson Tiller
5. Feel a Way
6. As I Am






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