melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

演奏者・プロデューサー

Thundercat - Drank [2018 Brainfeeder]

サンダーキャットことステファン・ブルーナは、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のベーシスト兼プロデューサー。

15歳のころからプロ・ミュージシャンとして活動し、エリカ・バドゥやフライング・ロータスの作品でも演奏。2011年に、自身名義では初となるスタジオ・アルバム『The Golden Age of Apocalypse』を発表すると、電子音楽にジャズやヒップホップの手法を盛り込み、最小限度の音数で、楽器の響きと音の隙間を効果的に聴かせた独特の作風で、多くの音楽ファンを唸らせた。

その後も、自身名義の作品を発表しながら、多くの人気ミュージシャンのアルバムに参加。ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』や『Damn』、NERD『No One Ever Really Dies』、カマシ・ワシントンの『Harmony Of Difference』など、先鋭的な音楽性で人気の作品に携わってきた。

本作は、2017年に発売した3枚目のスタジオ・アルバム『Drunk』のリミックス盤。90年代半ばにアメリカ南部の都市ヒューストンから広まった「チョップド&スクリュード」という手法を用いて、既存の曲に新しい表情を吹き込んできたオージー・ロン・シーと、彼が率いるチョップスターズのDJキャンドルスティックがリミックスを担当。多くの人に親しまれたアルバムに、ヒップホップの技術で新しい表情を吹き込んでいる。

本作の特徴を端的に示したのは、2曲目の”Drink Dat”。オリジナルが『Drunk』の17曲目に収録されているこの曲は、サンダーキャットの甘い声と、爽やかなラップを繰り出すウィズ・カリファのパフォーマンスが魅力のミディアム・ナンバー。チョップド&スクリュードの手法で加工されたサウンドは、何日も煮込まれたシチューのようにドロドロで、聴いているこちらもとろけそうなもの。音の足し引きは最小限に抑え、再生速度とエフェクトに工夫を凝らすだけで、全く違う曲に聴かせるテクニックは流石だと思う。

これに対し、大きくテンポを変えているにもかかわらず、聴き手に違和感を抱かせないアレンジを披露しているのが7曲目の”Tokyo”だ、『Drunk』ではベースの速弾きが格好良かったこの曲だが、テンポを落として弱めのエフェクトをかけたことで、ミディアム・テンポのスタイリッシュなR&Bに仕立てなおしている。この曲自体がオリジナル作品に聴こえるのは、原曲の高い完成度と、リミキサーの優れた技術おかげだろうか。

また、ファレルを起用した”The Turn Down”は、お馴染みのネプチューンズ・サウンドを使った軽快なトラックを、サイケデリックなスロー・ナンバーに落とし込んだ異色の作品。ドラムやシンセサイザーの音色では、ファレルのテイストを残しているが、遅いテンポのドロドロとしたトラックに改変している面白い曲だ。

そして、ケンドリック・ラマーをフィーチャーした”Walk On By”は、リズム・マシーンを使ったモダンなトラックと、サンダーキャットの繊細なヴォーカルが魅力のR&B作品だったが、この曲ではテンポを落として、じっくりと歌い込んだソウル・バラードのように聴かせている、繊細で滑らかなヴォーカルを丁寧に聴かせるアレンジは、ロナルド・アイズレーがバラーディアとして一時代を築いた、80年代のアイズレー・ブラザーズを思い起こさせる。

今回のアルバムは、既存の作品のテンポや響きに手を加えたもの。リミックス作品としては比較的シンプルなアレンジを施したものになっているが、原曲のイメージを残しながら、全く違う曲に聴こえるのは、「チョップド&スクリュード」との高い相性を見抜いた両者の嗅覚と、原曲の持つソウル・ミュージックやヒップホップ、ジャズのテイストと、電子音楽の醍醐味である、楽器の響きと音の隙間を活かしたアレンジによるものが大きいと思う。

オリジナル曲に対する鋭い視座と、それを具体的な作品に昇華する技術が揃ったことで生まれた良質なリミックス作品。リミックスやカヴァーといった、既存の作品を利用する音楽を扱うミュージシャンが、どのようにして原曲と向き合っていくか、考える一助になりそうな良盤だ。

Producer

Flying Lotus, Sounwave, Thundercat

Remixer
DJ Candlestick, OG Ron "C"

Track List
1. Rabbot Hoe (Chopnotslop Remix)
2. Drink Dat (Chopnotslop Remix) feat. Wiz Khalifa
3. Lava Lamp (Chopnotslop Remix)
4. Weakstyle (Chopnotslop Remix)
5. Show You The Way (Chopnotslop Remix) feat. Kenny Loggins, Michael McDonald
6. Where I'm Going (Chopnotslop Remix)
7. Tokyo (Chopnotslop Remix)
8. Uh Uh (Chopnotslop Remix)
9. Inferno (Chopnotslop Remix)
10. Them Changes (Chopnotslop Remix) 11. I Am Crazy (Chopnotslop Remix)
12. 3AM (Chopnotslop Remix)
13. Jethro (Chopnotslop Remix)
14. The Turn Down (Chopnotslop Remix) feat. Pharrell
15. Walk On By (Chopnotslop Remix) feat. Kendrick Lamar
16. Day & Night (Chopnotslop Remix)
17. A Fan’s Mail (Tron Song Suite II) (Chopnotslop Remix)
18. Jameel’s Space Ride (Chopnotslop Remix)
19. Captain Stupido (Chopnotslop Remix)
20. Friend Zone (Chopnotslop Remix)
21. Bus In These Streets (Chopnotslop Remix)
22. DUI (Chopnotslop Remix)
23. Blackkk (Chopnotslop Remix)
24. Drunk (Chopnotslop Remix)




Drank
Thundercat
Brainfeeder
2018-03-16

Chris Dave And The Drumhedz - Chris Dave And The Drumhedz [2018 Blue Note]

クリス・デイヴことクリストファー・デイヴィスは、テキサス州ヒューストン出身のドラマー。

10代のころから教会やジャズ・バンドなどでドラムを叩いていた彼は、「黒人のハーバード」の異名を持つハワード大学に在学していたころ、プリンスやジャネット・ジャクソンの作品を手掛けていたジャム&ルイスの知己を得る。

彼らとの出会いをきっかけに、ミント・コンディションのレコーディングにかかわるようになったクリスは、その後も、マックスウェルやディアンジェロのようなR&Bシンガーや、ミッシェル・ンデゲオチェロやロバート・グラスパーのような複数のジャンルに跨る作風のミュージシャン、アデルや宇多田ヒカルといったポップス畑の大物まで、様々なジャンルのアーティストの作品に参加。高い演奏技術と豊かな表現力で、ミュージシャン達から高い評価を受けてきた。

本作は、彼にとって初のスタジオ・アルバム。この作品は、ロバート・グラスパーのバンドで共演したこともあるデリック・ホッジや、マイルス・デイヴィスの作品でも演奏しているフォーリー、メイサ・リークやQ-ティップなどのアルバムにも携わっているゲイリー・トーマス、坂本龍一からエド・シーランまであらゆるジャンルのミュージシャンとセッションしているピノ・パラディノの4人と結成した、ドラムヘッズ名義のアルバム。この中では、アンダーソン・パックやミント・コンディションのストークリーといった、過去に共演経験のある面々のほか、ゴアペレやサー、ビラルやトゥイートなど、多くの人気R&Bシンガーがヴォーカルを担当。ジャズ・バンドで磨き上げた高い演奏技術と、個性豊かなシンガーの表現力を組み合わせた、魅力的なヴォーカル作品に仕上げている。

アルバムの収録曲で最初のヴォーカル曲は、ケンドリック・ラマーなどを擁する、トップドーグ所属の女性シンガー、サーを招いた”Dat Feelin’”。ファンクの要素を盛り込んだ泥臭く、躍動感のある演奏をバックに、しゃがれ声が響き渡るアップ・ナンバー。どことなく、スリーピー・ブラウンの音楽を思い起こさせる武骨さが面白い。

続く、”Black Hole”は、アンダーソン・パックが制作とヴォーカルを担当した楽曲。変則的なビートとエフェクターを多用したサイケデリックな音色の伴奏のインパクトが強い曲だ。ヒップホップともジャズともファンクとも異なる、一癖も二癖もあるサウンドと、歌とラップを混ぜ合わせた歌唱の組み合わせが光っている。

そして、エリック・ロバートソンに加え、元スラム・ヴィレッジのエルザイと元リトル・ブラザーのフォンテをフィーチャーした”Destiny n Stereo”は、クリスの力強いドラムと、ピノが鳴らす太いベースの音が、ジェイ・ディラの作品を連想させるミディアム・ナンバー。ヒップホップのビートを人力で再現する手法は、ウィル・セッションズやザ・ルーツが行っているし、クリスもロバート・グラスパー・エクスペリメンツで経験している。今回の演奏は、そのスタイルを踏襲したものだが、ほかのアーティスト以上に、楽器の音色を強調しながら、ヒップホップのビートのように聴かせて演出は新鮮。天国のジェイ・ディラが、彼らを後ろから操っているのではないかと錯覚してしまう曲だ。

そして、サーに加えて、アナ・ワイスをヴォーカルに迎えた”Job Well Done”は、ジャズともロックとも形容しがたい摩訶不思議なアレンジと、急激にテンポが変わる構成、レディオヘッドを思い起こさせる幻想的なメロディの組み合わせが斬新な作品。ジャズやヒップホップ以外の音楽のエッセンスをふんだんに盛り込みつつ、ダイナミックなグルーヴや表情豊かな歌唱で、ジャズとして聴ける曲に落とし込む技は圧巻の一言。

このアルバムの面白いところは、ハード・バップやモダン・ジャズのような「ステレオタイプのジャズ」とも、ヒップホップやR&Bのような現代のブラック・ミュージックとも適度に距離を置きながら、ジャズが好きな人にも、ブラック・ミュージシャンが好きな人にも楽しめる音楽を作り上げていることだろう。ソウル・ミュージックやゴスペル、ファンクやロックといった色々な音楽を取り込み、ジャズの枠を広げた、70年代のマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンの思想を取り込み、現代の音楽に当てはめる発想が功を奏したのだと思う。

ロバート・グラスパーやサンダーキャットとは異なるアプローチで、ジャズ・ミュージシャンの可能性を示した良質な作品。ジャズに馴染みのない人にはジャズの面白さを、ジャズが好きな人には、楽器の持つ無限の可能性を教えてくれる名盤だと思う。

Producer
Chris Dave and the Drumhedz

Track List
1. Rocks Crying
2. Universal Language
3. Dat Feelin’ feat. SiR
4. Black Hole feat. Anderson .Paak
5. 2n1
6. Spread Her Wings feat. Bilal &Tweet
7. Whatever
8. Sensitive Granite feat. Kendra Foster
9. Cosmic Intercourse feat. Stokley Williams
10. Atlanta, Texas feat. Goapele
11. Destiny n Stereo feat. Elzhi, Phonte Coleman & Eric Roberson
12. Clear View feat. Anderson .Paak
13. Job Well Done feat. Anna Wise& SiR
14. Lady Jane
15. Trippy Tipsy






Chris Dave & the Drumhedz
Chris Dave And The Drumhedz
Blue Note Records
2018-01-26

Steve Aoki - Steve Aoki Presents Kolony [2017 Ultra Records, Sony]

2010年代以降、クラブ・ミュージックの主役になりつつあるEDM。ディプロやカルヴィン・ハリスのようなDJやクリエイターは、ウィル・アイ・アムやリアーナといったヒップホップ、R&B畑のミュージシャンを巻き込むことで、お茶の間にも進出。オーディオ機器のアイコンとして採用されるなど、クラブとは縁遠い人々の間も知られる存在となった。

スティーヴ・アオキも、このムーブメントを代表するクリエイターの一人。フロリダ州のマイアミに生まれ、カリフォルニア州のニューポートで育った彼は、ロッキー青木の名前でプロレスラーとして活躍し、のちに鉄板焼きレストラン「ベニハナ」を創業した青木廣彰を父に持つ日系人。大学生のころから、音楽活動をしていた彼は、96年に自身のレーベルを設立。アクロバティックなDJとキャッチーな作風で人気を集めてきた。

そんな彼は、2010年にウィル・アイ・アムとのコラボレーション曲”I'm in the House”を発表すると、イギリスのシングル・チャートにランクイン。2012年には初のアルバム『Wonderland』をリリース。LMFAOやリル・ジョンを招いた本作は、エレクトロ・ミュージックのアルバムとしては異例の全米アルバム・チャート入りを果たした。

その後も、DJやレコーディングを精力的にこなした彼は、現在では世界で五指に入る人気DJと称されるまでになった。

このアルバムは、2015年の『Neon Future』以来となる、通算4枚目のフル・アルバム。前作同様、多くのラッパーを招いた、ヒップホップ色の強い作品になっている。

本作の収録曲で最初に目を引いたのは、オランダを拠点に活動するDJチーム、イエロー・クロウとのコラボレーション・シングル”Lit”。オートチューンを使ったT-ペインのヴォーカルと、グッチ・メインの重いラップが格好良い作品。シンセサイザーを刺々しいビートと、T-ペインのロボット・ヴォイスがうまく噛み合った良作だ。

また、カナダのDJユニット、DVBBSやジョージア州出身のラッパー、2チェインズが参加した”Without You”は、サイレンのような音色が印象的なビートをバックに、泥臭いラップを聴かせる2チェインズの存在が光っている。2チェインズの作品同様、シンセサイザーを駆使したトラップ寄りの楽曲だが、エレクトロ・ミュージックの世界で育った面々がトラックを作ると、よりキャッチーで躍動感のあるものに聞こえるから不思議だ。

また、ミーゴスとリル・ヨッティをフィーチャーした”Night Call”は、本作の収録曲でも特にヒップホップ寄りの作品。チキチキという高音と、唸るような低音の組み合わせが心地よいビートに乗って軽妙なラップを聴かせている佳曲。リル・ヨッティやミーゴスのアルバムに入っていそうな作品だが、細かいところに工夫を凝らして、差別化を図っている点は流石の一言。

そして、バッド・ボーイに多くの作品を残しているメイスを招いた”$4,000,000”は、スティーヴ・アオキと同じ西海岸発のEDMユニット、バッド・ロイヤルが制作に携わり、ビッグ・ギガンティックのサックスやドラムの演奏を盛り込んだ作品。昔のソウル・ミュージックをサンプリングしたサウンドで一世を風靡したバッド・ボーイの音楽を彷彿させる部分と、EDMの手法を混ぜ合わせたトラックが新鮮に映る。

今回のアルバムは、彼の前作やディプロやカルヴィン・ハリスの近作同様、ヒップホップやR&Bのトレンドをエレクトロ・ミュージックに取り入れたものだ。その中でも、彼の音楽はEDMの高揚感とヒップホップの奇抜さを丁寧に取り入れたサウンドが印象的、EDM畑のクリエイターは、変則的なビートにも対応できる、アメリカ南部出身のラッパーや、海外のミュージシャンとコラボレーションが多いが、彼もその流れを踏襲している。

本格的なクラブ・ミュージックでありながら、自宅や通勤、通学中の鑑賞にも耐えうる良質なポップス作品。エレクトロ・ミュージックを聴いたことがない人にこそ、手に取ってほしいアルバムだ。

Producer
Steve Aoki, Yellow Claw, DVBBS, Bad Royale, Ricky Remedy

Track List
1. Kolony Anthem feat. Bok Nero, ILoveMakonnen
2. Lit feat. Gucci Mane, T-Pain
3. Without You feat. 2 Chainz
4. How Else feat. ILoveMakonnen, Rich The Kid
5. Been Ballin feat. Lil Uzi Vert
6. Night Call feat. Lil Yachty, Migos
7. $4,000,000 feat. Big Gigantic, Ma$e
8. If I Told You That I Love You feat. Wale
9. No Time feat. Jimmy October
10. Thank You Very Much feat. Sonny Digital







記事検索
タグ絞り込み検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター


    にほんブログ村 音楽ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 音楽ブログ ブラックミュージックへ
    にほんブログ村

    音楽ランキングへ

    ソウル・R&Bランキングへ
    読者登録
    LINE読者登録QRコード
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    • ライブドアブログ