melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Electro

Nick Murphy - Missing Link EP [2017 Future Classic]

幼いころから、ジャズを中心に色々な音楽を聴いて育ち、成長すると次第に自分でも曲を作るようになったという、オーストラリアのメルボルン出身のシンガー・ソングライターでクリエイターの、ニック・マーフィーことニコラス・ジェイムス・マーフィー。

2011年には、チェット・フェイカーの名義で、ブラックストリートの96年のヒット曲をカヴァーした”No Diggity”を発表。90年代を代表するR&Bクラシックを、電子音楽とソウル・ミュージックの手法を用いてリメイクしたこの曲は、多くの音楽情報サイトで取り上げられ、2013年にはスーパーボールの中継で流されるCMソングにも採用された。

そして、2012年には同名義で初のEP『Thinking in Textures』をリリース。インディペンデント・レーベル発の作品ながら、世界各地でヒット。日本を含む複数の国でCDやアナログ・レコードが発売された。

その後も、アメリカ人シンガー、キロ・キッシュをフィーチャーしたシングル”Melt”や、自身がヴォーカルを執った”Talk Is Cheap”など、多くの曲を発表。オーストラリアのヒット・チャートに頻繁に登場する売れっ子ミュージシャンになった。また、2014年には初のフル・アルバム『Built on Glass』を発表。こちらはオーストラリアのヒット・チャートで1位を獲得、年間チャートでも12位に名を連ね、プラチナ・ディスクを取得した大ヒット作となった。

また、同作が成功した後は、オーストラリア国内を中心に、ツアーで多忙な日々を過ごす一方、精力的に新作を発表している。特に、2016年以降は、チェット・フェイカーの名義と並行して、ニック・マーフィーとしても、シングルを2枚リリースしている。

今回のアルバムは、ニック・マーフィーの名義で発売された初のEP。上述のシングルに収められている2曲は入っていない、新曲だけの作品となっている。

本作の目玉といえば、なんといっても、アルバムのオープニングを飾る”Your Time”だ。電子音楽にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた、2016年のアルバム『99.9%』も記憶に新しい、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダとコラボレーションしたこの曲。電子音を重ね合わせ、エフェクトをかけた幻想的なトラックと、カート・コヴァーンを彷彿させるニックの殺伐としたヴォーカルが印象的なミディアム・ナンバー。ケイトラナダの温かい歌声が、楽曲のアクセントになっている。

これに対し、2曲目の”Bye”は、強烈なエフェクトをかけた荒々しいギターとシンセサイザーの音色が、ジミ・ヘンドリックスやファンカデリックなどのサイケデリック音楽を思い起こさせるミディアム・ナンバー。1分弱の短い曲だが、鮮烈な印象を残している。

一方、ポコポコというテクノ・ポップっぽい電子音を使ったアップ・ナンバー”I’m Ready”は、彼の退廃的なヴォーカル・スタイルを活かした曲。レディオヘッドなどを連想させる、物悲しい雰囲気のメロディと、耳に刺さるような鋭いシンセサイザーの音色の組み合わせが格好良い。ニックのグラマラスな声が、ロックで多用されるメロディ・ラインをソウル・ミュージックのように聴かせている。

また、4曲目の”Forget About Me”は、太いシンセ・ベースやリズム・マシンの音色を使ったトラックが、ニュー・オーダーやデュラン・デュランのような、80年代に活躍したロック・ミュージシャンを思い起こさせる、モダンなアップ・ナンバー。地声を織り交ぜたワイルドな歌声も魅力的だ。

そして、アルバムの最後を締める”Weak Education”は、サックスの音色と電子音を絡めた、モダンだけど温かいトラックが、ティミー・トーマスの”Why Can't We Live Together”を思い起こさせる曲。ロー・ファイな音色を使った四つ打ちのビートが、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを連想させる。懐かしさと新鮮さが織り交ざった曲だ。

新しい名義でのリリースになっても、色々な音楽を取り入れて、自分の作風に昇華させるスタイルは変わらない。今回のアルバムを聴く限り、ヒット曲を、新作への期待に押しつぶされたり、周囲の目を意識しすぎて萎縮したりすることなく、雑駁なようで緻密な、聴き慣れたようで斬新な、不思議な音楽を聴かせている。

エレクトロ・ミュージックをベースにしつつ、ロックやフォーク、ソウルやジャズのエッセンスを詰め込み、一つになるまで煮詰めた、濃密な音楽を揃えた魅力的なアルバム。広く浅く、色々な音楽を聴く人なら思わずニヤリとする、一つのジャンルを深く突き詰めて聴く人には新鮮な、面白い作品だと思う。

Producer
Nick Murphy

Track List
1. Your Time feat. Kaytranada
2. Bye
3. I’m Ready
4. Forget About Me
5. Weak Education






FKJ (French Kiwi Juice) - French Kiwi Juice [2017 ROCHE MUSIQUE]

2000年代中盤に音楽活動を開始。2013年にシングル『Time For A Change』でレコード・デビューすると、その後はライブやDJといった表舞台での活動も精力的にこなしつつ、オリジナル曲やテンプテーションズの"Cloud Nine"やイーライ・ペイパーボーイ・リードの"WooHoo"などのリミックスをサウンドクラウド上で発表。電子音楽の手法を用いてR&Bやヒップホップに独自の視点からアプローチをしてきた、パリを拠点に活動するクリエイターのフレンチ・キウイ・ジュース。彼にとって、初のフル・アルバムが本作だ。

フランスの音楽シーンに目を向けると、ダフト・パンクやディミトリ・フロム・パリ、ステファン・ポンポニャックといったエレクトロ・ミュージック畑のミュージシャンや、レ・ヌビアンズやフィンガズ、ベン・ロンクル・ソウルなどのヒップホップ、R&Bに強いアーティストなど、日本にも負けず劣らずの(もしかしたら日本以上に)バラエティ豊かな市場がある。また、それ以外にも、マイルス・デイヴィスやアート・ブレイキーの魅力をアメリカ人より先に見出し、評価してきた鋭い審美眼と、人種に囚われず、良い音楽を評価する厳しくも温かいがある。そんなフランスの音楽シーンで磨かれ、育まれた彼の豊かな感性は、本作でも遺憾無く発揮されている。

アルバムの1曲目に入っている"We Ain't Feeling Time"はジミー・スミスを彷彿させる、激しい鍵盤楽器のアドリブで幕を開けるミディアム・ナンバー。そこからメロウな管楽器(多分サックス)と甘いコーラスが絡み合うイントロへと続き、絶妙なタイミングで彼のヴォーカルが展開されるミディアム・ナンバー。電子楽器と生楽器を組み合わせた、モダンだけど柔らかいサウンドと、マックスウェルやレミー・シャンドを連想させる繊細なファルセットが気持ち良い佳曲だ。

そして、同曲に続く"Skyline"はポロポロと鳴り響くキーボードやギターなどの音色と、フライング・ロータスやジェイムズ・ブレイクなどの作品を思い起こさせる、シンプルで音の隙間を強調したビートの組み合わせが、日本の「能」のように優雅で神秘的な雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。演奏やヴォーカルで垣間見える、色々な音楽に触れてきた彼ならではの、絶妙な力加減、多彩なフレーズ選びが堪能できる良曲だ。

これに対し、(((o)))が参加した"Vibin' Out"は、アメール・ラリューを連想させるスタイリッシュな女性ヴォーカルをフィーチャーした、甘酸っぱい雰囲気のミディアム・バラード。ミニー・リパートンやシリータ・ライトのように繊細な表現を聴かせるヴォーカルが胆になった、清涼感のある楽曲だ。

そして、本作の中でも最初期に作られた曲の一つである”Lying Together”は、女性ヴォーカルやハンド・クラップを効果的に使った、インストゥルメンタル・ナンバー。ヒップホップの軽快なビートと、シンセサイザーを使った重厚なハーモニーが癖になる、軽妙なようで荘厳、温かいようでどこか冷たい、不思議な感覚を覚える作品だ。

全体を通して感じることは、豊かな感情表現や絶妙な揺らぎを含む歌や演奏のような、ソウル・ミュージックやR&Bの醍醐味とも言える要素をきちんと押さえている一方、テンプテーションズやオーティス・レディング、ジョン・レジェンドやビヨンセの曲を聴いたときに感じるような、泥臭さ、汗臭さ、迫りくるような威圧感といったR&B、ソウル・ミュージックのシンガーの魅力になっている要素を削り落とした、スタイリッシュで洗練された音楽になっている。おそらく、電子楽器と生楽器の両方を使いこなしてきた経験や、インストゥルメンタル作品とヴォーカル曲の両方を手掛けてきた経験が、彼の音楽を特定のジャンルに束縛されない、柔軟で個性的なものにしたのだと思う。

電子音楽畑の経験と、ブラック・ミュージックのリミックスを経験してきた彼独特の、鋭い視点と楽曲構築技術が光る良作。ジェイムズ・ブレイクやアンダーソン・パック、フランク・オーシャンのような、異ジャンルの音楽を取り入れるセンスが魅力のR&Bシンガーが好きな人にはたまらない。ジャンルを横断した作風が魅力の良作だ。

Producer
French Kiwi Juice

Track List
1. We Ain't Feeling Time
2. Skyline
3. Better Give U Up
4. Go Back Home
5. Vibin' Out feat. (((O)))
6. Canggu
7. Blessed
8. Die With A Smile
9. Lying Together (interlude)
10. Lying Together
11. Joy
12. Why Are There Boundaries





French Kiwi Juice
Fkj
Roche Musique
2017-03-03

 

Kingdom - Tears In The Club [2017 Fade to Mind]

2000年代序盤からロス・アンジェルスを拠点に活動しているプロデューサーでビート・メイカーのエズラ・ルービン。これまでにケレラの”The High”やボーイズ・ノイズの”Femme Litre”を手掛けてきた彼が、自身のソロ・プロジェクト、キングダムの名義では初となるフル・アルバムをリリース。

本作では、2017年のアルバム『Fin』の傑出した収録曲も記憶に新しいオッド・フューチャー、ジ・インターネットのシドや、2014年のEP『Z』が配信限定にも関わらず多くの音楽ファンから注目を集めたSZAなど、熱心な音楽愛好家の間では評価の高い、実力派ミュージシャンが参加したヴォーカルもの。シンセサイザーを多用したエズラのトラックは、ゲストのクールで透き通った歌声と相まって、神秘的なムードを醸し出している。

アルバムの1曲目”What Is Love”はSZAをヴォーカルに起用したミディアム・ナンバー。ジ・インターネットの『Ego Death』を彷彿させるシンセサイザーを多用したトラックの上で、ミニー・リパートンを思い起こせる繊細で透き通った歌声を響かせるスタイリッシュな楽曲。エズラの作るビートは複雑で奇抜なものだが、それを感じさせない緻密さと一体感が印象的だ。彼女はもう1曲”Down 4 Whatever”にも参加しているが、こちらは90年代後半に流行したチキチキというビートに、シンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックをバックに、力強い歌を聴かせている。多くの言葉を複雑なメロディに組み込んだ曲は、”No Scrubs”の作者として有名なキャンディの楽曲を連想させる。

また、これ以外のヴォーカル・トラックでは女性シンガーのナジー・ダニエルをフィーチャーした”Each & Every Day”と、男性シンガーのシェイカーが参加した”Breathless”の2曲が特筆すべき存在だ。2人は本作が初めてのレコーディング作品ということで、手に入る情報が限られているが、収録された2曲を聴く限り、実力はエズラのお墨付きのようだ。まず、ナジー・ダニエルだが、こちらはネリー・ファータードの声を少しスマートにしたような癖のある歌声で、東南アジアの民族音楽に触発されたようなメロディがよく似合っている。彼女のヴォーカルを軸に、複数のドラム音、パーカッション音を組み合わせた複雑なビートを聴かせた”Each & Every Day”は、「アメリカ人が抱くアジア音楽のイメージ」を西洋の電子音楽の技術を用いて具現化したようで大変興味深い。一方、シェイカーがヴォーカルを担当した”Breathless”は、ロビン・シックやホセ・ジェイムスの系譜に近いスタイリッシュな歌唱と、R&Bではあまり使わないタイプの、個性的な電子音を使ったビートを使ったシンプルだが癖のあるトラックが面白いアップ・ナンバー。エレクトロ・ミュージックの技術を駆使してR&Bを作ると、斬新な音楽が生まれるのかと関心してしまう名曲。

だが、本作の目玉といえば、やはりシドがヴォーカルを担当した”Nothin”だろう。『Fin』でも聴かせてくれたシドのクールな歌声と、シンセサイザーを駆使して作られたシックなトラックが上手くマッチした、しっとりとした雰囲気のミディアム・ナンバー。『Fin』に収録されていた”Body”を聴いたときも同じことを感じたが、彼女の透き通った歌声には、電子楽器を使ったシンプルなトラックがよく似合うと思う。同曲のリミックスが11曲目に入っているが、こちらはオリジナル程ではないが、魅力的。

今回のアルバムは、ゲスト・ヴォーカルの面々によるものが大きいと思うが、全般的にR&B、ヒップホップのリスナーを意識した楽曲が目立っている。インストゥメンタルの楽曲でも、”Nurtureworld”や”Tears in the Club”などはその傾向が顕著だが、他の曲でも同様の傾向が見られる。これまでに彼が携わってきた録音が必ずしもヒップホップやR&Bの楽曲ではなかったことを考えると、彼は自分の感性や技術、ヴォーカルのイメージや個性を勘案しながら、今回の作品に落とし込んだのかもしれない。

個人的には、電子音楽やロック出身のクリエイターが生み出すR&Bには、ソウルやR&Bを聴いて育ったミュージシャンが見落としがちな音色やフレーズ、構成が取り入れられていてとても面白い作品が多いと思っている。その点、今回のアルバムは、エレクトロ畑出身のキングダムらしい、斬新な音色と「間」の使い方が随所で見られて、非常に新鮮だった。R&Bをマンネリと感じている人にこそ聴いてほしい、適度に斬新な作風が魅力の佳作だ。

Producer
Kingdom

Track List
1. What Is Love feat. SZA
2. Each & Every Day feat. Najee Daniels
3. Nurtureworld
4. Breathless feat. Shacar
5. Tears in the Club
6. Haunted Gate
7. Nothin feat. Syd
8. Into the Fold
9. Timex
10. Down 4 Whatever feat. SZA
11. Nothin feat. Syd (Club Mix)
12. Down 4 Whatever (Instrumental) (Vinyl Only)






 
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