幼いころから、ジャズを中心に色々な音楽を聴いて育ち、成長すると次第に自分でも曲を作るようになったという、オーストラリアのメルボルン出身のシンガー・ソングライターでクリエイターの、ニック・マーフィーことニコラス・ジェイムス・マーフィー。
2011年には、チェット・フェイカーの名義で、ブラックストリートの96年のヒット曲をカヴァーした”No Diggity”を発表。90年代を代表するR&Bクラシックを、電子音楽とソウル・ミュージックの手法を用いてリメイクしたこの曲は、多くの音楽情報サイトで取り上げられ、2013年にはスーパーボールの中継で流されるCMソングにも採用された。
そして、2012年には同名義で初のEP『Thinking in Textures』をリリース。インディペンデント・レーベル発の作品ながら、世界各地でヒット。日本を含む複数の国でCDやアナログ・レコードが発売された。
その後も、アメリカ人シンガー、キロ・キッシュをフィーチャーしたシングル”Melt”や、自身がヴォーカルを執った”Talk Is Cheap”など、多くの曲を発表。オーストラリアのヒット・チャートに頻繁に登場する売れっ子ミュージシャンになった。また、2014年には初のフル・アルバム『Built on Glass』を発表。こちらはオーストラリアのヒット・チャートで1位を獲得、年間チャートでも12位に名を連ね、プラチナ・ディスクを取得した大ヒット作となった。
また、同作が成功した後は、オーストラリア国内を中心に、ツアーで多忙な日々を過ごす一方、精力的に新作を発表している。特に、2016年以降は、チェット・フェイカーの名義と並行して、ニック・マーフィーとしても、シングルを2枚リリースしている。
今回のアルバムは、ニック・マーフィーの名義で発売された初のEP。上述のシングルに収められている2曲は入っていない、新曲だけの作品となっている。
本作の目玉といえば、なんといっても、アルバムのオープニングを飾る”Your Time”だ。電子音楽にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた、2016年のアルバム『99.9%』も記憶に新しい、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダとコラボレーションしたこの曲。電子音を重ね合わせ、エフェクトをかけた幻想的なトラックと、カート・コヴァーンを彷彿させるニックの殺伐としたヴォーカルが印象的なミディアム・ナンバー。ケイトラナダの温かい歌声が、楽曲のアクセントになっている。
これに対し、2曲目の”Bye”は、強烈なエフェクトをかけた荒々しいギターとシンセサイザーの音色が、ジミ・ヘンドリックスやファンカデリックなどのサイケデリック音楽を思い起こさせるミディアム・ナンバー。1分弱の短い曲だが、鮮烈な印象を残している。
一方、ポコポコというテクノ・ポップっぽい電子音を使ったアップ・ナンバー”I’m Ready”は、彼の退廃的なヴォーカル・スタイルを活かした曲。レディオヘッドなどを連想させる、物悲しい雰囲気のメロディと、耳に刺さるような鋭いシンセサイザーの音色の組み合わせが格好良い。ニックのグラマラスな声が、ロックで多用されるメロディ・ラインをソウル・ミュージックのように聴かせている。
また、4曲目の”Forget About Me”は、太いシンセ・ベースやリズム・マシンの音色を使ったトラックが、ニュー・オーダーやデュラン・デュランのような、80年代に活躍したロック・ミュージシャンを思い起こさせる、モダンなアップ・ナンバー。地声を織り交ぜたワイルドな歌声も魅力的だ。
そして、アルバムの最後を締める”Weak Education”は、サックスの音色と電子音を絡めた、モダンだけど温かいトラックが、ティミー・トーマスの”Why Can't We Live Together”を思い起こさせる曲。ロー・ファイな音色を使った四つ打ちのビートが、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを連想させる。懐かしさと新鮮さが織り交ざった曲だ。
新しい名義でのリリースになっても、色々な音楽を取り入れて、自分の作風に昇華させるスタイルは変わらない。今回のアルバムを聴く限り、ヒット曲を、新作への期待に押しつぶされたり、周囲の目を意識しすぎて萎縮したりすることなく、雑駁なようで緻密な、聴き慣れたようで斬新な、不思議な音楽を聴かせている。
エレクトロ・ミュージックをベースにしつつ、ロックやフォーク、ソウルやジャズのエッセンスを詰め込み、一つになるまで煮詰めた、濃密な音楽を揃えた魅力的なアルバム。広く浅く、色々な音楽を聴く人なら思わずニヤリとする、一つのジャンルを深く突き詰めて聴く人には新鮮な、面白い作品だと思う。
Producer
Nick Murphy
Track List
1. Your Time feat. Kaytranada
2. Bye
3. I’m Ready
4. Forget About Me
5. Weak Education
2011年には、チェット・フェイカーの名義で、ブラックストリートの96年のヒット曲をカヴァーした”No Diggity”を発表。90年代を代表するR&Bクラシックを、電子音楽とソウル・ミュージックの手法を用いてリメイクしたこの曲は、多くの音楽情報サイトで取り上げられ、2013年にはスーパーボールの中継で流されるCMソングにも採用された。
そして、2012年には同名義で初のEP『Thinking in Textures』をリリース。インディペンデント・レーベル発の作品ながら、世界各地でヒット。日本を含む複数の国でCDやアナログ・レコードが発売された。
その後も、アメリカ人シンガー、キロ・キッシュをフィーチャーしたシングル”Melt”や、自身がヴォーカルを執った”Talk Is Cheap”など、多くの曲を発表。オーストラリアのヒット・チャートに頻繁に登場する売れっ子ミュージシャンになった。また、2014年には初のフル・アルバム『Built on Glass』を発表。こちらはオーストラリアのヒット・チャートで1位を獲得、年間チャートでも12位に名を連ね、プラチナ・ディスクを取得した大ヒット作となった。
また、同作が成功した後は、オーストラリア国内を中心に、ツアーで多忙な日々を過ごす一方、精力的に新作を発表している。特に、2016年以降は、チェット・フェイカーの名義と並行して、ニック・マーフィーとしても、シングルを2枚リリースしている。
今回のアルバムは、ニック・マーフィーの名義で発売された初のEP。上述のシングルに収められている2曲は入っていない、新曲だけの作品となっている。
本作の目玉といえば、なんといっても、アルバムのオープニングを飾る”Your Time”だ。電子音楽にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた、2016年のアルバム『99.9%』も記憶に新しい、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダとコラボレーションしたこの曲。電子音を重ね合わせ、エフェクトをかけた幻想的なトラックと、カート・コヴァーンを彷彿させるニックの殺伐としたヴォーカルが印象的なミディアム・ナンバー。ケイトラナダの温かい歌声が、楽曲のアクセントになっている。
これに対し、2曲目の”Bye”は、強烈なエフェクトをかけた荒々しいギターとシンセサイザーの音色が、ジミ・ヘンドリックスやファンカデリックなどのサイケデリック音楽を思い起こさせるミディアム・ナンバー。1分弱の短い曲だが、鮮烈な印象を残している。
一方、ポコポコというテクノ・ポップっぽい電子音を使ったアップ・ナンバー”I’m Ready”は、彼の退廃的なヴォーカル・スタイルを活かした曲。レディオヘッドなどを連想させる、物悲しい雰囲気のメロディと、耳に刺さるような鋭いシンセサイザーの音色の組み合わせが格好良い。ニックのグラマラスな声が、ロックで多用されるメロディ・ラインをソウル・ミュージックのように聴かせている。
また、4曲目の”Forget About Me”は、太いシンセ・ベースやリズム・マシンの音色を使ったトラックが、ニュー・オーダーやデュラン・デュランのような、80年代に活躍したロック・ミュージシャンを思い起こさせる、モダンなアップ・ナンバー。地声を織り交ぜたワイルドな歌声も魅力的だ。
そして、アルバムの最後を締める”Weak Education”は、サックスの音色と電子音を絡めた、モダンだけど温かいトラックが、ティミー・トーマスの”Why Can't We Live Together”を思い起こさせる曲。ロー・ファイな音色を使った四つ打ちのビートが、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを連想させる。懐かしさと新鮮さが織り交ざった曲だ。
新しい名義でのリリースになっても、色々な音楽を取り入れて、自分の作風に昇華させるスタイルは変わらない。今回のアルバムを聴く限り、ヒット曲を、新作への期待に押しつぶされたり、周囲の目を意識しすぎて萎縮したりすることなく、雑駁なようで緻密な、聴き慣れたようで斬新な、不思議な音楽を聴かせている。
エレクトロ・ミュージックをベースにしつつ、ロックやフォーク、ソウルやジャズのエッセンスを詰め込み、一つになるまで煮詰めた、濃密な音楽を揃えた魅力的なアルバム。広く浅く、色々な音楽を聴く人なら思わずニヤリとする、一つのジャンルを深く突き詰めて聴く人には新鮮な、面白い作品だと思う。
Producer
Nick Murphy
Track List
1. Your Time feat. Kaytranada
2. Bye
3. I’m Ready
4. Forget About Me
5. Weak Education