melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Hip-Hop

SKY-HI - Free Tokyo [2018 avex]

AAAのメンバーとして、”恋音と雨空”や”逢いたい理由”などのヒット曲を残し、紅白歌合戦への出演や東京ドーム公演といった大舞台も経験する一方、一人のヒップホップ・アーティストとしても、Mother Ninjaや西風雲といったユニットを経て、着実に実績を残してきたのが、SKY-HIこと日高光啓だ。

ウィットに富んだ歌詞と、爽やかで耳当たりの良い声が魅力の彼は、ポップスの要素を取り入れた本格的なヒップホップ・アーティストとして、AAAのファンやヒップホップ好きに留まらない、様々な人々からの支持を集めてきた。また、2017年には上海や香港、ニューヨークやロンドン、パリでの公演を含むワールド・ツアーを成功させている。

そんな彼が、2018年8月7日から2週間限定で無料公開したのが、このミックス・テープ『Free Tokyo』(21日以降は有料で配信)だ。これまでにもアルバム『Marble』を600円で販売し、Ed Sheeranの”Shape of You”や、Logicの”1-800-273-8255”のトラックに自身のラップを乗せた作品を、自身のYouTubeのアカウントから発表するなど、大胆な発想と行動が話題になってきた彼。この作品は、日本のアーティストとしては史上初、海外でもBTSのJ-Hopeの『Hope World』くらいしか例のない、「無料で配布された商業作品」になっている。

アルバムの1曲目に収めらているタイトル・トラック”Free Tokyo”は、ピアノっぽい音色の演奏の伴奏に乗せて、自身の半生を綴ったラップが心に残る作品。「左耳の障害が俺にくれたフロウ&ライム」「AK(69)やAnarchy、Norikiyoにはなれないし、だからこそいつでも自分でいれることが大事」といったフレーズは、華やかな舞台で活躍し、新しい音楽と試みで周りを驚かせてきた彼の葛藤と、真摯に音楽に向きあってきた姿を反映している。

続く”Name Tag”は、”Free Tokyo”の曲中でも言及されていたSALUと、韓国のソウル出身、現在は大阪を拠点に活動するMoment Joonを招いた曲。リズム・マシーンを駆使した変則ビートと、日本のヒップホップ界では珍しい出自の三者による「出自ではなく、自分の実力で評価を勝ち得る」ことを綴ったリリックが面白い作品。なかでもMoment Joonのパートは「あ、銃の話?撃ったことのない癖に?」「俺の財布には札の代わりに在留カード、黙って働く、それが日本が提示する〇〇(聞き取れず「条件」などの意味か?)」など、日本に移住した韓国人という独特の立ち位置にいる彼にしか描けない、個性的なものになっている。

また、本作の収録曲では唯一、陽気な雰囲気の”I Think, I Sing, I Say”は、Paloalto率いるHi-Lite Records所属の韓国人ラッパーReddyを起用したもの。シンセサイザーの軽やかな伴奏に乗せて、「世界には色々な人がいるけど、俺はみんなを尊重するし、自分で考えて、歌うし、言葉を発するよ」(大意)という前向きなメッセージを打ち出した曲。日本語と韓国語、異なる言語で言葉を紡ぐ二人が、同じ方向を向いてメッセージを投げかける姿が印象的だ。

そして、本作の最後を締めるのが”The Story Of "J"”は、ホラー映画を思い起こさせるおどろおどろしい伴奏が心に残る楽曲。「全部聞かないとわからない、昔の話、覚えてない」というサビのフレーズの通り、最後まで聴かないと内容を誤解してしまう、細部まで作り込まれたラップが光る曲。Eminemの”Stan”にも通じる、起伏のあるストーリー性と、絶妙な言葉選びが光っている。

今回のアルバムは、これまでのソロ名義やグループでの活動を踏まえつつ、これらの活動と一線を画したものになっている。今年の3月に発売したベスト・アルバム『ベストカタリスト -Collaboration Best Album-』や、6月に発表したシングル”Snatchaway/Diver's High”では、バンドの演奏を盛り込んだトラックを取り入れ、2018年のツアー「SKY-HI TOUR 2018 -Marble the World-」では、大人数のバンドを帯同している。しかし、本作では、トラックの殆どをコンピュータで組み立てるなど、近年のスタイルとは大きく異なるものになっている。

また、私的な事柄を扱ったものや、複雑怪奇な表現を織り込んだリリック、通好みのラッパーを起用したゲスト陣などは、ヒップホップとポップス、両方の世界で活躍する彼の作品としては、非常にヒップホップ界寄りで、尖ったものになっている。この、過去の作品とは一線を画した独特の制作スタイルが、日本では異例の無料配信を実現したのだと思う。

発売日翌日の彼のブログでは、日本の音楽業界に対する危機意識が鋭い筆舌で語られていたが、この問題意識に対する一つの答えを、作品という形で表明した歴史的なアルバム。CD、テレビ、ラジオ、ライブ、そしてインターネット、あらゆるメディアを舞台に表現者として活躍してきた彼にしか生み出せない、作品の内容と配布方法、両方の視点から新しい音楽のビジネスの可能性を打ち出した歴史に残る名作だ。

Producer
Sky-Hi

Track List
1. Free Tokyo
2. Name Tag feat. SALU & Moment Joon
3. What are you talking about? feat. Hideyoshi & Novel Core
4. I Think, I Sing, I Say feat. Reddy
5. Dystopia
6. The Story Of "J"






88rising - Head in the Clouds [2018 88rising]

多くの日本人ダンサーが目標に掲げるブライアン・パスポスのような、アメリカの実力派アーティストを扱いつつも、ユーモアに富んだ独特のリリックで、中国国内のラップ禁止令のきっかけを作ったハイヤー・ブラザーズ、10代の若さでアジアを代表するラッパーの一人に上り詰めたインドネシアのリッチ・ブライアン、韓国のキース・エイプのような、アジア各国のヒップホップ・アーティストを世界に紹介してきたアメリカの音楽レーベル、88ライジング

音楽メディアとレコード・レーベルの機能を持ち、母国でも音楽好きの間でしか知られていなかった、隠れた名アーティストを紹介してきた同レーベルの、初のコンピレーション・アルバムが本作。リッチ・ブライアンやハイヤー・ブラザーズといった、同社と契約しているアーティストの新曲と既発曲のリミックスを収録。ゲストとしてゴールドリンクやプレイボーイ・カルディといったアメリカの人気ラッパーに加え、日本からもm-floのバーバルが参加するなど、国際色豊かな同レーベルらしい豪華なアルバムになっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、大阪出身のジョージと、インドネシアのニキという、二人のシンガー・ソングライターが組んだ”La Cienega”。電子楽器を使った、もっさりとしたビートの上で気だるく歌うニキと、時に彼女に寄り添うように優しく、時にマックスウェルのように鋭いファルセットを聴かせるジョージの歌唱力が光るスロー・ナンバーだ。二人の繊細な歌声は、アメール・ラリューやレミー・シャンドのような、ネオ・クラシック・ソウルのシンガーに通じるものがあるが、この曲では、電子楽器を駆使した現代的なビートと組み合わせることで、彼らと差別化している。

これに対し、ハイヤー・ブラザーズと、ロス・アンジェルス近郊のワッツ出身の03グリードががコラボレーションした”Swimming Pool ”は、タイ・ダラ・サインなどの作品に関わっているフランス出身のキャッシュマネーAPと、ロイ・ウッズdvsnなどを手掛けているカナダ出身のアキール・ヘンリーがプロデュースを担当した国際色豊かな曲。ドレイクグッチ・メインのアルバムに収録されていそうな、電子楽器中心のシンプルなトラップ・ビートの上で、英語と中国語を使い分けながらラップする姿が印象的な曲。アメリカで流行しているサウンドを自分の音楽に染め上げるハイヤー・ブラザーズの強烈な個性が心に残る。

だが、本作の隠れた目玉はシカゴ出身の24歳のラッパー、フェイマス・デックスが2018年に発表して、アメリカの総合シングル・チャートの28位に入った”JAPAN ”のリミックス・ヴァージョンだろう。「日本でドラックを5万回もやったぜ」と歌った原曲を、韓国出身のキース・エイプと日本出身のバーバルが改変。バーバルは英語で「女の子からLINEが来たら楽しい時間の始まり」「朝までカラオケで歌うぜ」とラップし、キースは「みんなは俺を日本人か?と聞くけど、俺は韓国人だ」「腕にも拳にもNIGOのグッズがあるぜ」と、英語と韓国語を織り交ぜたパフォーマンスを繰り出している。余談だが、バーバルのパートには「P.K.C. on his boys」(EXILEの元メンバー、ヒロやマキダイ達と組んだラップ・グループPKCZのこと)というフレーズをさり気なく盛り込んでいるのが心憎い。

そして、本作の最後を締めるのが、ロス・アンジェルス出身のプロデューサー、バーニー・ボーンズとジョージが共作したタイトル曲”Head In The Clouds”。レゲエの緩いビートと、EDMのような高揚感があるシンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックの上で、甘い歌声を響かせるスロー・ナンバーだ。曲の後半ではストリングスのような音色を加え、最後までゆったりとしたバラードとして聴かせる演出が印象的。

今回のアルバムを通して感じるのは、アメリカのミュージシャンにも見劣りしないアジア勢の高いスキルと豊かな個性だ。各国の言語に慣れ親しんだ人でもなければ、誰がどの国のアーティストか判別するのは難しい。むしろ、同じ言語を使うアーティストでも、声質やキャラクターによって表現の方法が全然違う。この各人の際立った個性と、それを活かすレーベルの編集能力が本企画の面白さを生んでいると思う。

世界各地で腕を磨いてきた名手たちの素晴らしいパフォーマンスを、存分に楽しめる良作、アメリカで生まれ、世界に散らばったヒップホップが、各国の文化を飲み込んでで進化していることを僕らに教えてくれる貴重なアルバムだ。

Producer
NIKI, CashMoneyAP, Akeel Henry, J Gramm, Barney Bones, joji etc

Track List
1. La Cienega feat. ​joji & NIKI
2. Red Rubies feat. Don Krez, Higher Brothers, Rich Brian, Yung Bans & Yung Pinch
3. Swimming Pool feat. 03 Greedo & Higher Brothers
4. Peach Jam feat. BlocBoy JB & ​joji
5. Midsummer Madness feat. AUGUST 08, Higher Brothers, ​joji & Rich Brian
6. Plans feat. NIKI & Vory
7. History feat. Rich Brian
8. Lover Boy (88 Remix) by Phum Viphurit feat. Higher Brothers
9. Poolside Manor feat. AUGUST 08 & NIKI
10. Beam by Rich Brian feat. Playboi Carti
11. Let It Go feat. BlocBoy JB & Higher Brothers
12. Disrespectin feat. AUGUST 08, Higher Brothers & Rich Brian
13. Warpaint feat. NIKI
14. I Want In (feat. AUGUST 08 & NIKI
15. JAPAN (88 Remix) by Famous Dex feat. Keith Ape & Verbal
16. Nothing Wrong (Remix) by Higher Brothers & Harikiri feat. GoldLink
17. Head In The Clouds feat. ​joji





Head In The Clouds [Explicit]
88rising Music/12Tone Music, LLC
2018-07-20

Epik High - We've Done Something Wonderful [2017 YG Entertainment]

ビッグバンBTS、2Ne1など、ヒップホップやR&Bを取り入れたダンス・ヴォーカル・グループが、世界を舞台に活躍している韓国発のミュージシャン達。彼らのように、デビュー直後からテレビ番組や大きなステージでスポット・ライトを浴び続ける面々がいる一方で、クラブやライブ・ハウスで地道に結果を残し、トップまで上り詰めた人々もいる。その代表格が、タブロ、ミスラ・ジン、DJトゥーカッツからなる3人組のヒップホップ・グループ、エピック・ハイだ。

スタンフォードの大学院を修了し、韓国に戻ってきた韓国系カナダ人のタブロと、韓国出身のミスラ・ジン、DJトゥーカッツが2001年に結成したこのグループは、ソウル市のクラブなどでライブを重ねつつ、2004年に初のスタジオ・アルバム『Map of the Human Soul』をリリースした。

また、2005年の『Swan Songs』以降は、メイン・ストリームのポップスを取り入れた作風にシフトし、2007年の『Remapping the Human Soul』は、アンダー・グラウンド・シーン出身のミュージシャンとしては異例の、12万枚を売り上げるヒットを記録。以後、韓国を代表するヒップホップ・グループとして広く知られるようになった。

しかし、2009年にトゥーカッツが、2010年にミスラが兵役のため活動を休止すると、同じ時期にタブロ(彼はカナダの市民権があるため兵役には就いていない)の学歴を巡る誹謗中傷事件(この事件は大学がコメントを発表し、多くの逮捕者が出るなど、単なる誹謗中傷とは呼べない激しいものだった)が発生。一転して苦境に立たされる。しかし、この事件が解決したのとほぼ同じ時期に、タブロの奥さんが所属していた縁でYGエンターテイメントと契約。2014年には自分達を中傷した人々へのメッセージ・ソング”Born Hater”で華々しい復活を遂げた。

このアルバムは、2014年の『Shoebox』以来となる通算9枚目、YGエンターテイメント移籍後の作品としては2枚目となるスタジオ・アルバム。YGエンターテイメントの看板タレント、テディ・パクやビッグバンのSOLといったビック・ネームは不参加だが、プロデューサーにはクワイエットやドックスキンといったストリート発の人気ミュージシャンが参加。ゲストにはクワイエットやサイモン・ドミニクのようなヒップホップ界の大物から、ウィナーのミノやリー・ハイといったYGエンターテイメントの後輩、”Good Day や”You & I”などのヒット曲を持つ韓国を代表する女性シンガーIUや、韓国の人気ロック・バンド、ヒュゴのオ・ヒュクのような、ヒップホップ以外のジャンルのミュージシャンまで、バラエティ豊かな面々を揃えている。

本作からのリード・シングルは”Love Story”はIUをフィーチャーした作品。ヒップホップのビートとストリングスを組み合わせたロマンティックなトラックや、終わりを迎える恋人達の姿を、絶妙な言葉選びで克明に描いたラップが印象的な曲。『Shoebox』に収録されている、彼らの代表曲”Happy Ending”の流れを踏襲した作品だ。日本盤に収められている日本語バージョンでは楽童ミュージシャンのスヒュンがヴォーカルを担当しているので、両者を聴き比べてほしい。

これに続く”No Thanxxx”は、元2PMのジェイ・パクと一緒にAOMGを経営しているサイモン・ドミニクと、イリオネア・レコードを経営するクワイエットという、韓国のヒップホップ界を代表する大物二人に加え、人気オーディション番組「Show Me The Money」での活躍も話題になった、ウィナーのミノも参加しているハードなヒップホップ作品。ウッド・ベースの音をループさせた大人っぽい雰囲気のトラックで、良識派が聴いたら眉をひそめそうな過激な言葉を繰り出している。ミノとサイモン・ドミニクの歌詞の内容を巡って論争が巻き起こるなど、良くも悪くもアメリカのヒップホップのスタイルを踏襲した彼らしさが発揮されている。

また、ヒョゴのオ・ヒュクが参加した”Home Is Far Away ”はタブロがプロデュースした作品。切ない雰囲気のトラックと、哀愁を帯びたメロディを丁寧に歌うヴォーカルをフィーチャーした作風は”Love Story”の男性版といった趣。ドラマや映画を通して、多くの名バラードが生まれている韓国の音楽文化と、彼らが傾倒するヒップホップを上手く融合させた良曲だ。

これに対し、先日、日本デビューを果たしたリー・ハイをフィーチャーした”Here Come The Regrets”はDJトゥーカッツが制作を主導した変則ビートの楽曲。ラップ・パートではティンバランドやジャーメイン・デュプリを思い起こさせるチキチキ・ビートを取り入れつつ、リー・ハイが歌うサビではアデルの”Hello”を連想させるロック・バラードの要素を盛り込んでいる。ロックとヒップホップ、両方の美味しいところを融合させた佳曲だ。

彼らの魅力は、歌謡曲やR&Bが人気の韓国の音楽市場に適応しつつ、その中で独創的なヒップホップを作り上げたところだ。アイドル・グループやロック・バンド、歌謡曲の歌手がしのぎを削る韓国で、クラブで磨き上げた自分達のスタイルを貫きつつ、流行の音を取り込むことで、商業的な成功と個性的な作風を両立している。この、自分達の環境に適応しつつ、自国の音楽を本格的なヒップホップに組み込んだところが、彼らの面白いところだと思う。

世界各地に広まり、現地の文化と融合して個性的な進化を遂げたヒップホップの面白さを再確認できる良作。アメリカのヒップホップに傾倒しつつ、アメリカとは異なる文化を持つ国で、自分達の音楽を磨き上げた彼らの、逞しさとしたたかさが心に残る作品だ。

Producer
Tablo, DJ Tukutz, DOCSKIM, The Quiett, The Chancellor etc

Track List
1. People Scare Me
2. Love Story feat.IU
3. No Thanxxx feat.Mino, Simon Dominic & The Quiett
4. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk
5. Here Come The Regrets feat.Lee Hi
6. The Benefits Of Heartbreak feat.Lee Suhyun Of Akmu
7. Bleed
8. Tape 2002 7 28
9. Us Against The World
10. Lost One feat.Kim Jong Wan Of Nell
11. Munbae-Dong feat.Crush
12. Love Story feat.Lee Suhyun Of Akmu -Japanese Version- -Bonus Track- 13. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk -Japanese Mix- -Bonus Track-






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