melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Hip-Hop

Higher Brothers - Black Cab [2017 88rising]

ファレル・ウィリアムスカニエ・ウエストをプロデューサーに起用した楽曲を録音し、映画「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の主題歌にも採用されたことがあるテリヤキ・ボーイズや、フランク・オーシャンの”Nikes”にフィーチャーされたことも話題になったKOHHなどの日本勢。アジア屈指のポップ・スターでありながら、複雑なビートを使った本格的なヒップホップを披露しているビッグバンG-ドラゴンや、アイドル・グループのメンバーとは思えない、ハードなラップを繰り出すBTSのRMといった韓国勢。若干18歳でありながら、アジア系ミュージシャンの配給に強みを持つ88risingと契約。アメリカのリル・ヨッティなどと並んで、将来を嘱望されているインドネシア出身のリッチ・ブライアンなど、豊かな個性と高いスキルで注目を集めているアジア出身のヒップホップ・ミュージシャン達。

その中でも、個性的な音楽で高い評価を受けているのが中国の四川省にある成都出身の4人組、ハイヤー・ブラザーズ(簡体字では「海尔兄弟」表記)だ。

四川省の各地で活動していたメンバーが集結して結成したこのグループは、良質なアジア人ミュージシャンを取り上げて、彼らの作品を配給してきたアメリカの企業、88risingに取り上げられたことで世界にその名が知られるようになる。

そんな彼らは、2016年に初のミックス・テープ『Higher Brothers Mixtape』をリリース。アメリカとは大きく異なる中国の地方の文化が反映された独特のリリックと、トラップを組み合わせた個性的な作風が話題となった。

本作は、『Higher Brothers Mixtape』から約1年の間隔を挟んで発表された、彼らにとって初のスタジオ・アルバム。ロジェットやフェイマス・デックスといったアメリカのミュージシャンや、キース・エイプや元2PMのジェイ・パクといった韓国系のアーティストなどが制作に参加。出身地も音楽性も異なる個性豊かな面々を迎え、 自分達のカラーを強く打ち出した音楽を披露している。

本作の1曲目は、アルバムの目玉といっても過言ではないシングル曲”WeChat”。トラック・メイクはロジェットが担当し、キース・エイプをフィーチャーしたこの曲は、フェイスブックやツイッター、ラインが使えない中国で多くの人が利用しているチャット・アプリ、WeChatを題材に「モーメンツ(LINEでいうタイムラインのようなもの)ではブランドものが売られている」(=友人相手に転売ビジネスをしてる奴がいる)「あいつは俺に紅包(=少額の送金のこと)を送れとせがんでくる」など、現代の中国の文化をウィットに富んだ表現で綴った歌詞が面白い作品。楽曲のテーマに合わせて、縦長の画面にWeChatのインターフェイスを盛り込んだミュージック・ビデオにも注目してほしい。

また、もう一つのシングル曲”Made In China”は、アトランタ出身のトラックメイカー、リッチー・ソーフがトラックを作り、ニューヨーク出身のラッパー、フェイマス・デックスが客演した作品。「俺の周りのすべてのものがメイドインチャイナ」というご当地自慢ソングだ。自身のラップ・スキルを中国の有名な詩人、李白に例えるなど、自分達の文化に根差した表現で自分達をアピールしたラップが聴きどころだ。

それに続く、2017年にジェイZ率いるロック・ネイションと契約した元2PMのジェイ・パクをフィーチャーした”Franklin”は、謎多きビート・メイカー、ジェディ-Pを制作者に招いた楽曲。人気アクション・ゲーム「グランド・セフト・オート5」の主人公、フランクリン・クリントンに自分を例えたリリックと、90年代後半のティンバランドを連想させるチキチキ・ビートの組み合わせが光る好曲だ。

そして、ミネアポリス出身のトラック・メイカー、OG.アビを招いた”Bitch Don't Kill My Dab”は、グッチ・メインミーゴスのアルバムに入っていそうなトラップのビートが格好良い作品。2016年にミックス・テープを発表して以降、多くの賞賛の声とともに批判を浴びてきた彼らが、自分達を批判する人々にウィットに富んだ反論を繰り広げる姿が印象的だ。

彼らの魅力は、自分達が生まれ育った土地の文化をベースにして、それを笑いに変えるユーモアのセンスと、アメリカのヒップホップの手法を自分達の音楽に取り込む器用さだろう。アメリカで流行しているトラップのビートを採用しつつ、声域が高く、声質が軽い自分達の特徴を活かすため、多くの言葉を矢継ぎ早に繰り出すラップの技術は圧巻としか言いようがない。

また、物凄いスピードで発展し、日常生活に新しいツールが入る一方、経済成長の恩恵からこぼれる人々が存在し、多くの規制がある現代の中国社会で、自分達の現状に絶望するわけでもなく、現状を全面的に肯定するわけでもなく、誰かに怒りを向けるわけでもなく、ユーモアに富んだ言葉で表現するリリックは、人種差別が激しかった時代に、苦しみをそのまま表現するのではなく、ウィットに富んだ表現でエンターテイメントに変えた60年代のブルース・シンガーにもよく似ている。この、自分達が住む世界をユーモラスに語る技術が、アジア系の彼らの音楽に黒人音楽のフィーリングをもたらしているのかもしれない。

金の盾の向こう側で、私達と同じように笑ったり泣いたり、悩んだり苦しんだりしながら生きる人々の姿を見事に描いた良質なヒップホップ。「アーティストが生きる世界を描く」ことがリアルなヒップホップの条件なら、本作以上にリアルなヒップホップは滅多にないだろう。


Producer
Roget, Richie Souf, Jedi-P, Sauce Boss, Og.abi etc

Track List
1. WeChat feat. Keith Ape
2. Isabellae
3. Made in China feat. Famous Dex
4. Franklin feat. Jay Park
5. Black Cab
6. Why Not
7. Mine
8. Wudidong
9. Bitch Don't Kill My Dab
10. Aston Martin feat. Kenny Rebelife
11. Ding Mogu
12. Yahh feat. J. Mag
13. Young Master
14. 7-11






Kanye West - Ye [2018 GOOD, Def Jam]

21世紀のヒップホップ・シーンにおいて、ジェイZファレル・ウィリアムスに匹敵するトレンド・セッターとして、常に新しいサウンドを生み出しているカニエ・ウエスト。

アトランタ生まれ、シカゴ育ちの彼は、90年代後半から音楽プロデューサーとしてジャギド・エッジやタリブ・クウェリなどにビートを提供。特に、ジェイZが2001年にリリースした”Izzo (H.O.V.A.)”では、ジャクソン5の”I Want You Back”のレコードを、回転数を変えてサンプリングする手法で、シンセサイザーをつかったトラックが主流だった当時のヒップホップの世界に、再びサンプリング・ブームを起こした。

また2004年に初のスタジオアルバム『The College Dropout』を発表。ソウル・ミュージックの早回しを用いたトラックと、自身の交通事故や大学中退といった、ユニークな題材を盛り込んだリリックがウケた彼は、アメリカ国内だけで340万枚を売り上げるなど、一気に大ブレイク。翌年には『Late Registration』を発売。映画「007」の主題歌としても有名な、同名曲をサンプリングした”Diamonds from Sierra Leone”( 邦題:ダイヤモンドは永遠に)などを収めた本作は、ヒップホップにおけるオーケストラの活用法を示して、多くの音楽賞を獲得した。

その後も、シンセサイザーだけでビートを組み立て、言葉数の多いラップではなく、オートチューンで声を加工した歌を乗せることで、大規模なロック・フェスが盛んな時代に対応した『808s & Heartbreak 』や、シンセサイザーを使いつつ、より尖ったサウンドで、ハードなヒップホップを作り上げた『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』など、斬新な作品を次々と発表。グラミー賞だけで34個獲得し、多くの全米ナンバー・ワン・ヒットを送り出すなど、多くの足跡を残してきた。

このアルバムは、2016年にリリースされた『The Life of Pablo』以来となる、通算8枚目のスタジオ・アルバム。配信限定で発表(後にアナログ盤も限定リリース)されるなど、メジャー・レーベル所属の人気ミュージシャンらしからぬ販売方法で、物議をかもした。本作も前作同様配信限定のリリースで、プロデューサーとして『Graduation』以降の作品に関わっているマイク・ディーンや、ドレイクなどの作品に携わっているフランシス&ライツなどが参加。7曲23分というこれまでの作品に比べると小粒な内容だが、密度の濃い作品になっている。

本作の1曲目は、ドレイクを彷彿させる歌うようなラップが印象的な”I Thought About Killing You”。冒頭では詩を読むように言葉を紡いでいた彼が、ベースの音が入ると同時に歌うようにラップをする姿が印象的な作品。4分超の曲ながら、複数のビートを使い分け、曲中でラップのスタイルを切り替える手法のおかげで、イントロのような短い曲に聴こえる。

続く”Yikes”は、『808s & Heartbreak 』に収録されている”Heartless”を連想させる、ベースの音を強調したシンプルなトラックと、歌とラップを組み合わせたパフォーマンスが光る作品。敢えて柔らかい音色を使うことで、サンプリング作品のような温かい雰囲気を演出する手法と、歌とラップを明確に切り分けて使うスタイルでメリハリをつけている点が面白い。個性的なクリエイターやゲストを招くことで、楽曲に起伏をつける方法が流行している中、それを一人で実現している点が聴きどころ。

これに対し、リバーランドW.A.ドナルドソンの”Baptizing Scene”を引用した”Wouldn't Leave”は、スロー・テンポでありながら、複数のドラムの音を組み合わせた軽妙なトラックが特徴の作品。ゴスペルの歌詞を取り入れたブルースををサンプリングした曲らしく、ラフに歌うラップとヴォーカルやパーカッションのように使われるシンセサイザーの演奏が面白い。電子楽器が多様される2018年であっても、ブルースの持つイナたい空気は醸し出せることを証明した良曲だ。

また、エドウィン・ホーキンズ・シンガーズの”Children Get Together”などをサンプリングした”No Mistakes”は、ゴスペル音楽の荘厳で躍動感のあるパフォーマンスと、重低音を効果的に使ってグルーヴを生み出すヒップホップの手法を混ぜ合わせた作品。シンセサイザーを軸にしたシンプルな伴奏が、限られた楽器しか使えない中、歌の表現で多彩な楽曲を生み出したゴスペルと上手く一体化している。早回しに頼らないサンプリングが多い近年の彼らしい楽曲だ。

今回のアルバムは、過去の作品に比べると、リスナーの度肝を抜く斬新さは乏しいかもしれない。しかし、収録曲をじっくりと聴くと、ブルースやゴスペルのスタイルを取り入れ、全く違う発声法の歌とラップを使い分けるなど、多くのアーティストが取り組んできた難題に挑み、具体的な作品に落とし込んでいる。この、「簡単そうで難しいこと」を積み上げて、派手さはないが、ありそうでなかった音楽を作り上げたのは、彼の技術とセンスの賜物だろう。

近年は作品よりもゴシップが目立つ彼だが、音楽に対する鋭い嗅覚と、具体的な作品を構築するスキルは全く衰えていない。そう感じさせる良作だ。

Producer
Kanye West, Mike Dean, Francis and the Lights, Apex Martin, Benny Blanco, Che Pope

Track List
1. I Thought About Killing You
2. Yikes
3. All Mine
4. Wouldn't Leave
5. No Mistakes
6. Ghost Town
7. Violent Crimes

August Greene - August Greene [2018 Original Amazon Records]

92年にアルバム『Can I Borrow a Dollar? 』を発表して以降、サンプリングと電子楽器を効果的に組み合わせたトラックと、詩的でありながら随所にウィットに富んだ表現を盛り込んだラップで人気を博し、近年は俳優としても活動しているコモン。ジャズとヒップホップやR&Bを混ぜ合わせた独特の音楽性が注目を集め、2014年には、ジャズ・ピアニストでありながら、グラミー賞の最優秀R&Bアルバム部門を獲得したロバート・グラスパー。DJやラッパーとしても活動している経験を活かし、既存のジャズの形式には囚われない、多彩なビートを繰り出すスタイルで、多くのミュージシャンの作品を裏表から支えてきたカリーム・リギンス

独創的な作風で、確固たる地位を築いてきた3人が結成した音楽ユニットが、このオーガスト・グリーンだ。

ネットフリックスで放送され、アカデミー賞にもノミネートしたドキュメンタリー「13th -憲法修正第13条-」(「修正第13条」とは奴隷制度の廃止条項のこと)に提供し、エミー賞を獲得した”Letter to The Free”を一緒に制作したことをきっかけに、三人のコラボレーションはスタート。

2018年1月にお披露目のライブを行うと、3月には初のスタジオ・アルバムとなる本作を大手通販サイト、アマゾンの配信サービス限定でリリース。その後、他のサービスでも順次配給されるようになった。

このアルバムでは、サウンズ・オブ・ブラックネスの同名曲のリメイク”Optimistic”を除く、ほぼ全ての曲で3人がプロデュースとソングライティングを担当。ゲストには、ブランディのほか、キーボード奏者のサモーラ・ピンダーヒュージスが参加。実績と実力には定評のある面々によって、徹底的に練り上げられた作品になっている。

収録曲の中で最初に目を惹いたのは、2曲目の”Black Kennedy”。スネアの音をずらすことで、聴き手の心に微妙な違和感と強い印象を残すトラックに、リズミカルなラップやポロポロとつま弾かれるピアノの伴奏を組み合わせた作品だ。癖のあるサウンドとロマンティックな演奏を一つの楽曲に同居させる繊細な感性と高い技術が光っている。ロバートのヴォーカルが、ジョン・レジェンドに少し似ている点も面白い。

これに続く”Let Go”は、カリーム・リギンスやロバート・グラスパーの真骨頂ともいえる、生演奏で構成されたヒップホップのビートと、哀愁を帯びたフレーズが印象的な作品。派手なトラックで耳目を惹くことが多いヒップホップの世界では異色のトラックだが、ボビー・コールドウェルの”Open Your Eyes”をサンプリングした”The Light”などのヒット曲を残してきたコモンだけあって、派手さはないが味わい深いビートも、きちんとキャッチーなヒップホップに落とし込んでいる。

これに対し、3人の個性が強く打ち出されているのが”The Time”だ。ドラムンベースの要素を取り入れた癖のあるビートで聴き手を揺さぶるカリームに、複数の鍵盤楽器を用いた優雅な伴奏を鳴らすロバート、複雑かつ上品という、個性的なトラックに合わせて、言葉を選びつつ、器用にラップを繰り出すコモンという、三者の個性が上手く噛み合った良曲だ。

だが、本作の目玉はなんといってもサウンズ・オブ・ブラックネスが91年にリリースした”Optimistic”のカヴァー。原曲でリード・ヴォーカルを担当していたアン・ネスビーのパートを、この曲ではブランディ―が歌唱。サンプリングを多用した太いビートを生演奏で再現する演出や、楽曲の大半をブランディが歌うR&B作品に仕立てながら、絶妙なタイミングでラップを挟み込む構成など、細かい気配りが心に残る。90年代から活躍するアーティストや、当時の音楽に造詣の深い面々が揃ったことで実現した、懐かしさと新鮮さが入り混じった作品だ。

このアルバムの魅力は、生演奏やサンプリングを用いたヒップホップを得意としながら、異なるアプローチと手法で、自分の音楽を確立してきた3人の個性が一つの音楽に同居しているところだと思う。カリーム・リギンスが生み出すビートは、ヒップホップだけでなく、ジャズやドラムン・ベースなど、様々なジャンルの手法を取り込みつつ、ヒップホップのウリである腰を刺激するグルーヴになっているし、ロバート・グラスパーの伴奏は、音の配置や音色だけでなく、曲の展開に応じて音の強弱やテンポまで大きく変える、ピアニストならではのアレンジを披露している。また、この強烈な個性を持つトラックの上で、コモンは伴奏のリズムを崩すことなく、リズミカルかつ丁寧にコンシャスなメッセージ言葉を繰り出している。この3者の共通点を意識しながら、各人の持ち味がきちんと発揮される。

三者三葉のアプローチで、ヒップホップやR&Bの世界に多くの足跡を残してきた3人にしか作れない。ありそうでなかった独創的なアルバム。このプロジェクトを経験した3人が、次はどんな音楽を生み出してくれるのか期待が膨らむ充実の内容だ。

Producer

Karriem Riggins, Robert Glasper

Track List
1. Meditation
2. Black Kennedy
3. Let Go feat. Samora Pinderhughes
4. Practice feat. Samora Pinderhughes
5. Fly Away
6. Aya
7. Piano Interlude
8. No Apologies
9. The Time
10. Optimistic feat. Brandy
11. Swisha Suite







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