melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

フランス

Morris Mobley - Movin' On [2018 Arcana]

モーリス・モブレイはゲイリー・グリットネスの名義での活動で知られるアーティスト。

フランス北部の工業都市、ナンシー出身の彼は、電子音楽とファンク、ディスコ音楽を融合した独特の作風で注目を集め、ニューヨークを拠点に多くのクラブ・ミュージックのレコードをリリースしているアーケインから、複数の作品をリリースしてきた。

本作は、モーリス・モブレイ名義で制作した初のスタジオ・アルバム。シンセサイザーやリズム・マシーンを駆使して曲を作っていたこれまでの作品に対し、本作ではギターなどの楽器も使用。複数の楽器を組み合わせて、80年代のソウル・ミュージックの魅力を、現代を生きる彼の感性で再解釈している。

本作の1曲目はタイトル・トラックの”Movin’ On”。煌びやかなシンセサイザーを駆使したバックトラックの上で、大人の色気を感じさせる歌声を響かせるモーリスの姿が印象的なアップ・ナンバー。ジョージ・ベンソンを彷彿させる艶めかしいギターも心地よい。

続く”Stop Playin’ Games”は、マスターピースやハイ・ファッションの作品を連想させるディスコ・ブギー。電子楽器を駆使したスタイリッシュな伴奏は、当時の音楽以上に、80年代の煌びやかな雰囲気を再現している。グラマラスな歌声でダイナミックな歌唱を披露する姿は、他の曲では聞けないものになっている。本作の収録曲では最も当時の音楽に近い。

これに対し、ニューヨーク出身のピアニスト、ドン・ブラックマンが82年に発表した『Don Blackman』の収録曲”Since You Been Away So Long”のカヴァーは、原曲のゆったりとした雰囲気のメロディの魅力を丁寧に引き出した演奏が魅力。女性ヴォーカルがなくなり、電子ドラムの音が重くなるなど、モーリスの制作環境に合わせたアレンジを施しつつ、原曲の流麗なメロディをじっくりと演奏し、歌う姿が光っている。

また、スティーリー・ダンの”Glamour Profession”は、 80年のアルバム『Gaucho』の収録曲のカヴァー。ディスコ音楽が音楽業界を席巻していた時代に、シンガー・ソングライターがディスコ音楽の要素を取り入れた楽曲を、電子音楽畑のモーリスがリメイクしている。80年代後半から90年代初頭のエレクトロ・ミュージックを思い起こさせる、太い電子音を使った伴奏は、ゲイリー名義の作品に近い。しかし、ソウル・シンガーとは違う、モーリスのあっさりとした歌い方が、原曲のメロディの良さを引き出している。ディスコ音楽風のポップスだった原曲を、本格的なクラブ・ミュージックに再構築した意欲作。

このアルバムは、元々ハウス・ミュージックなどを制作していたクリエイターの手によるものということもあり、80年代前半の華やかなディスコ・ミュージックの雰囲気を残してはいるものの、パワフルなヴォーカルよりも、スタイリッシュなトラックにフォーカスを当てたものになっている。また、ヴォーカルやコーラスを彼一人で担当し、楽器も一人で担当するなど、大人数のバンドによる派手な演奏が魅力のソウル・ミュージックとは一線を画した、現代のテクノ・ミュージックなどに近いものになっている。この、別のジャンルの音楽の制作手法を用いることで、既存の音楽に新しい解釈を加えている点が本作の面白いところだろう。

ソウル・ミュージックを聴いて育ったエレクトロ・ミュージックのクリエイターによる、独自の視点が魅力のソウル作品。アメリカのタキシードや日本のT-グルーヴのように、80年代のディスコ・ミュージックの魅力を現代に伝えるアーティストだ。

Producer
Morris Mobley

Track List
1. Movin’ On
2. Stop Playin’ Games
3. Since You Been Away So Long
4. Midnight Stroll
5. Glamour Profession
6. Rolodexes
7. First Class Hangin’
8. Charge It To The Game



Movin’ On
Morris Mobley
MMM Records/BBQ
2018-07-29

T-Groove & Two Jazz Project - Nu Soul Nation [2018 LAD Publishing & Records, Kissing Fish Records]

小説家やデザイナーとしても活動しているエリック・ハッサンと、ギターやベースなど、複数の楽器を使いこなせるクリスチャン・カフィエロによるフランスの音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクト。2017年には、初のスタジオ・アルバムとなる『Move Your Body』を発表し、ヨーロッパを中心に多くの国で高い評価を受け、その後もG.リナの”想像未来”やウッディファンクの”N.Y.B.”をリミックスして話題になった、日本の音楽プロデューサー、T-グルーヴことユウキ・タカハシ。

住んでいる土地も年齢も経歴も違う彼らは、2016年ごろからリミックスなどを通して結びつき、同年には両者の連名による初のスタジオ・アルバム『Experiences』もリリースしてきた。

本作は彼らにとって、2枚目のコラボレーション・アルバム。配信版の配給は、両者の作品を取り扱ったこともあるポルトガルのLADパブリッシング、CD盤やアナログ盤の配給は、安藤裕子や比屋定篤子などの作品を販売している日本のキッシング・フィッシュが担当している。

本作に先駆けてリリースされた”Strong Love”は、T-グルーヴの”Family”でヴォーカルを担当し、今年2月に発売されたアルバム『Not Made For These Times』でも艶やかな歌声を披露している、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジョヴァンを招いた作品。メアリー・ジェーン・ガールズの”All Night Long”を彷彿させる、太い低音とゆったりとしたテンポが心地よいビートをバックに、じっくりと歌い込むジョヴァンの高い技術が印象的。一聴しただけで練り込まれたものとわかる表現を、優雅に歌い上げるジョヴァンの姿が光る作品だ。同じシングルに入っているハウス・ミュージック寄りのアップ・ナンバー”The More I Do”や、跳ねるようなベースの演奏が光るミディアム”Just Wanna”を含め、彼の参加曲にはハズレがない。

それ以外の曲では、エノイス・スクロギンスをフィーチャーした”Funky Show Time ”が面白い。49歳のときに初めてのスタジオ・アルバム『One For Funk And Funk For All』を発表した、遅咲きの名シンガーと組んだ2017年のシングル曲は、彼が得意とする、リック・ジェイムスのような80年代のファンク・ミュージックの要素を盛り込んだミディアム。キーボードの美しい音色とベースの演奏を強調した、スタイリッシュなトラックが格好よいミディアム・ナンバー。ドラムの音の跳ね具合が、ファンクの躍動感を演出している。きらびやかな上物と、ダイナミックなグルーヴの組み合わせは、両者のソウル・ミュージックに対する深い造詣を伺わせる。

また、 トロント出身のシンガー・ソングライター、ポーラ・レタンを起用した“Bring It Back Around”は、本作では異色のスロー・ナンバー。シンセサイザーの伴奏を駆使した作風は、アイズレー・ブラザーズやアンジェラ・ウィンブッシュが80年代後半に残してきたロマンティックなバラードを彷彿させる。しかし、当時の音楽との決定的な違いは豊かな低音。柔らかい音色のベースを用いて、楽曲に安定感を与えつつ繊細で滑らかなヴォーカルを引き立てている点は見逃せない。事あるごとに、70年代後半から80年代に作られた黒人音楽への愛を示してきた、彼らの持ち味が発揮された良質なスロー・ジャムだ。

そして、収録曲の約半数に携わっている、マリー・メニーが参加した曲の中では、”Diamonds”のエクステンデッド・ヴァージョンが光っている。前作『Experiences』からシングル・カットされた、彼らの人気曲のロング・ヴァージョンだ。前作に収録されたものと比べると、バス・ドラムの音が強調され、腰に訴えかける刺激的なグルーヴを堪能できるものになっている。シャーデーを思い起こさせる神秘的な雰囲気を醸し出すヴォーカルも気持ち良い。「ロング・ヴァージョン」を作った彼らの思いが垣間見える良曲だ。

今回のアルバムは、前作以上にディスコ・ミュージックの面白さをアピールした作品になっている。軽快な音を響かせるギターや、シンセサイザーを多用した高級感溢れる伴奏、優雅で洗練されたヴォーカルを活かした曲作りは前作と変わらない。しかし、本作では上品な雰囲気を残しつつ、ベースやドラムの音を適度に強調することで、ソウル・ミュージックの持つ躍動感と親しみやすさを盛り込むことに成功している。

また、もう一つの面白いところは、この作品に複数の国の人が関わっていることだろう。日本とフランスのクリエイターが曲を作り、アメリカやカナダなどのヴォーカルが歌を吹き込み、ポルトガルや日本のレコード会社が配給する。そこには、「日本人らしさ」「フランス人らしさ」という枠を超えて、「ソウル・ミュージックへの愛」を「私達の音楽」で表現し、広めようと尽力する人達がいる。この2点が本作の大きな特徴だろう。

アメリカで生まれ、その後世界各地に広まり、それぞれの土地で独自の進化を遂げたソウル・ミュージック。そんな各地のミュージシャンが、21世紀に入り、通信技術などの発展で互いに結びつくようになったことで生まれた奇跡の1枚。世界各地で自分達の音楽を模索する、ソウル・ミュージック・ラバーの存在を再認識させてくれる作品だ。

Producer
Two Jazz Project, Yuki "T-Groove" Takahashi

Track List
1. New Humanist Whisper feat. Marie Meney
2. Funky Show Time (Extended Version) feat. Enois Scroggins
3. The More I Do feat. Jovan Benson
4. Soul Nation feat. Brae Leni
5. Bring It Back Around feat. Paula Letang
6. Venus feat. Marie Meney
7. Soho Sunset feat. Enois Scorggins
8. Stay With Me feat. Marie Meney
9. Diamonds (Extended Version) feat. Marie Meney
10. Strong Love feat. Jovan Benson
11. The Groove Revolution feat. Brae Leni & Marie Meney
12. Just Wanna feat. Jovan Benson
13. Under The Pressure feat. Enois Scroggins & Marie Meney
14. Take This Love (Album Version) feat Marie Meney
15. Last Humanist Whisper feat. Enois Scroggins





Nu Soul Nation
T-GROOVE & TWO JAZZ PROJECT
Kissing Fish Records
2018-05-02


Jovan - Not Made For These Times [2018 Diggy Down Recordz]

ロジャー・トラウトマンの遠戚であるアメリカのシンガー・ソングライター、B.トンプソンや、49歳の時に発表した初のスタジオ・アルバム『One For Funk And Funk For All』で、遅咲きのブレイクを果たしたエノイス・スクロギンス、東京在住ながら、複数の楽曲がイギリスやフランスのラジオ局でヘビー・ローテーションされているT-グルーヴなど、70年代、80年代のディスコ音楽から影響を受けたスタイリッシュなサウンドと、ダイナミックなヴォーカルを活かした曲作りで、高い評価を受けているフランスのディギー・ダウン・レコーズ

同レーベルが2018年の第1弾作品として送り出したのは、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジョヴァンの初のスタジオ・アルバム。現在はカリフォルニア州のヴァレーホを拠点に活動する彼は、2017年にT-グルーヴのアルバム『Move Your Body』に収録されている”Family”で、美しい歌声を披露したことでも話題になった実力者。その一方で、以前から、多くの楽曲をインターネット経由で発表し、耳の早いリスナーから注目を集めてきたことでも知られている。そんな彼の、初のスタジオ・アルバムは、先述のT-グルーヴのほか、コラボレーション作品が予定されている、タッチ・ファンクのDJネスDとD.ゴズ、フランスのビートメイカー、ワズなど、個性豊かな面々をプロデューサーに起用した力作。同時に、全ての曲で彼自身がペンを執り、美しいメロディと躍動感あふれるビートを同居させた、独創的な音楽に仕立て上げている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされた”Chi-Town Lovin'”。フランスのラップグループ、ヴォイジャー・ワンの一員としても活躍している、プロデューサーのソヴァンがトラックを担当したアップ・ナンバー。ビヨビヨというアナログ・シンセサイザーの音色と、軽やかに刻まれるギターの伴奏が心地よい、ゆったりとしたテンポのダンス・ナンバー。スタイリッシュなディスコ・ブギーをベースにしつつ、生の声と、エフェクターを通した声を使い分けることで曲にメリハリをつけている。80年代のディスコ音楽を、ヒップホップを意識したゆるいビートと融合した面白い曲だ。

これに対し、フランスのトラックメイカー、ワズが制作に参加した”Stayin'Powers”は、カシーフやキース・スウェットを思い起こさせる洗練された伴奏と、豊かな低声を活かしたダンディなヴォーカルが魅力のスロー・ナンバー。ヒップホップやソウル、ファンクに強いワズらしい、太いベースや重いビートと、シンセサイザーを使った煌びやかな伴奏を組み合わせたトラックと、アーロン・ホールを思い起こさせるグラマラスなバリトン・ヴォイスのコンビネーションが聴きどころ。

また、タッチ・ファンクのDJネスDとD.ゴズがプロデュースした”Like A Siren”は、彼らが得意とする、太いシンセ・ベースのサウンドを活かした、ダイナミックなグルーヴが心地良いダンス・ナンバー。シンセ・ベースの跳ねるような演奏が、スレイヴやブーツィー・コリンズを思い起こさせる。躍動感が魅力の佳曲だ。

そして、T-グルーヴがプロデュースした”L.O.V.E”は、彼をフィーチャーしたT-グルーヴの”Family”のスタイルを踏襲した、洗練されたサウンドが魅力のミディアム・ナンバー。ボコーダーを使ったロボット・ヴォイスによるイントロから、テンポを落としたハウスのビートへと繋ぎ、テンプテーションズのデヴィッド・ラフィンを彷彿させる、甘くしなやかなヴォーカルへと展開していく構成が心を揺さぶる。『Move Your Body』で多用された音色を使うことで、さりげなく存在感をアピールするT-グルーヴの遊び心が憎い。

このアルバムで彼が聴かせているのは、70年代や80年代のディスコ・ミュージックから多くの影響を受けたアーティストが在籍する、ディギー・ダウンの作風を踏襲しつつ、80年代後半以降に流行した、じっくりと歌を聴かせるR&Bのエッセンスを盛り込んだ作品。尖ったサウンドでリスナーを魅了したディスコ音楽と、歌手のパフォーマンスを丁寧に聴かせるR&Bの手法を、一つの作品に同居させた点が、一番の特徴だ。そのために、既に確固たる個性を築き上げたプロデューサー達とコミュニケーションを取りながら、普段の彼らの作品とは一味違う音楽を作り上げたところが、このアルバムの聴きどころだと思う。

個性豊かなアーティストとプロデューサーが交わることで、アメリカで流行しているR&Bとも、レーベルが得意とするディスコ音楽とも異なる、独創的な作品に落とし込んだ魅力的なアルバム。「コラボレーション」のお手本のような作品だと思う。

Producer
Jovan Benson, Sick-So, Wadz, Yuki T-Groove Takahashi, DJ Ness D, Goz etc
Track List
1. Chi-Town Lovin'
2. Ghetto Superman
3. That Kind Of Love
4. Stayin'Powers
5. Carte Blanche
6. Guilty
7. Smile
8. Like A Siren
9. Not Made For These Times Feat. Sammy
10. Don't Take My Joy
11. Funk In You
12. L.O.V.E
13. Wait For You
14. Funky Side Of The Moon
15. Let The Rain Fall
16. Special Flower
17. Don't Say Goodbye




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