ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

アメリカ

Cameron Graves - Planetary Prince [2017 Mack Avenue]

キャメロン・グレイヴスはカリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のピアニスト。13歳の時に、同じハイスクールに通っていたカマシ・ワシントンと出会い、その後、2人にステファン・ブルーナー(後のサンダーキャット)、ステファンの兄であるロナルド・ブルーナー・ジュニアの4人で音楽ユニット、ヤング・ジャズ・ジャイアンツを結成。2004年に『Young Jazz Giants』でレコード・デビューを果たす。

その後、彼自身はリオン・ウェアが2008年にスタックスから発表したアルバム『Moon Ride』のタイトル曲をプロデュースしたほか、ロック・バンド、ウィックド・ウィズダムや、カマシも参加しているジャズ・バンド、ネクスト・ステップなどに参加。2015年にはスタンリー・クラークの来日公演や、カマシ・ワシントンのヒット作『Epic』に携わったことでも話題になった。

このアルバムは、そんな彼にとって初のソロ・アルバム。デトロイトに拠点を置くインディー・レーベル、マック・アヴェニューから複数のフォーマットで発売されており、プロデュースは彼自身。レコーディングには、『Truth』で共演したばかりのカマシ・ワシントンがサックスで参加している他、『Drunk』が好評のステファン・ブルーナー(”The End of Corporatism”と”Isle of Love”のみ)がベースを、彼の兄で、自身の名義では初のアルバムとなる『Triumph』を発表したばかりのロナルド・ブルーナー・ジュニアがドラムを担当している。それ以外にも、ジョン・マクラーリンとの共演したデビュー作も話題になった、先鋭的なセンスが魅力的なパリ出身のベーシスト、ヘイドリアン・フェラウドや、ネクスト・ステップの一員として活動しながら、アンソニー・ハミルトンの2011年作『Back To Life』やケンドリック・ラマーの2015年作『To Pimp A Butterfly』などでも演奏を披露しているトロンボーン奏者のライアン・ポーター、ビッグ・バンド・ジャズからロックまで、幅広いジャンルの作品に携わってきた、トランペット奏者のフィリップ・ダイザックなど、演奏技術と鋭い感性に定評のある面々を揃えている。

まず、ステファンが参加した2曲に目を向けると、アルバムの5曲目の収められている”The End of Corporatism”は、音の高低や強弱の激しい演奏が印象的なアップ・ナンバー。鍵盤の上で踊るようにフレーズを奏でるキャメロンのピアノを軸に、ピアノとデュエットをするかのように、複雑なフレーズを目にも止まらぬ速さでかき鳴らすステファンのベース、二人に負けじと、マシンガンのように音を飛ばすロナルドによるバトルが聴きどころ。3人の激しいプレイを脇から支えつつ、シンプルかつキャッチーなメロディで楽曲のバランスを整えているホーン・セクションの仕事も見逃せない。

一方、ミディアム・テンポの”Isle of Love”は、モーツァルトの月光を彷彿させるダイナミックなピアノと、力強く、激しいグルーヴを奏でるステファンの演奏が面白い楽曲。中盤で見せるカマシのソロ・パートの複雑で色っぽいサウンドも気持ち良い。この曲では脇役に徹しているが、緩急をつけつつ、難しいフレーズの正確に演奏しているロナルドの存在が楽曲の完成度を高めていると思う。

また、それ以外の曲に目を向けると、アルバムのオープニングを飾る”Satania Our Solar System”は、アリス・コルトレーンを思い起こさせる優雅で神秘的なピアノで幕を開けるアップ・ナンバー。その後、一気にテンポを上げ、各人が切れ味鋭いフレーズを繰り出すが、中でも目立ってるのはフィリップ・ダイザックのトランペット。エレクトリック・サウンドと生音の違いはあるが、マイルス・デイヴィスが”Bitches Brew”で見せたパフォーマンスにも通じる、音と音の隙間を効果的に使った、シンプルだが存在感のあるフレーズが光っている。

そして、しっとりとしたピアノの演奏から始まる”Adam & Eve”は、キャメロンのピアノにスポットを当てた楽曲。クラシック音楽の演奏家を彷彿させる、感情豊かな音色と、流麗で緻密な指捌きが光る楽曲。ピアノの鍵盤全てを効果的に使った、ダイナミックな演奏も魅力的だ。

今回のアルバムは、過去の録音では使用していたキーボードを封印し、ピアノ一本で勝負した野心的な作品だ。だが、本作の彼は、テンポ、音域、強弱を自在に操り、1台のピアノから様々な音色を引き出している。その手法は、チック・コリアのようにダイナミックでもあり、ハービー・ハンコックのようにキャッチーでもあり、セシル・テイラーのように先鋭的でもある。

カマシ・ワシントンの『Truth』ロナルド・ブルーナーの『Triumph』マイルズ・モーズリーの『Uprising』と同様に、ジャズの醍醐味を残しつつ、ジャズに詳しくない人でも楽しめる、シンプルだが味わい深い作品。キャッチーなフレーズと、一聴しただけでハイレベルとわかる演奏技術を、ぜひ堪能してほしい。

Producer
Gretchen Valade, Cameron Graves

Track List
1. Satania Our Solar System
2. Planetary Prince
3. El Diablo
4. Adam & Eve
5. The End of Corporatism
6. Andromeda
7. Isle of Love
8. The Lucifer Rebellion





Planetary Prince [Analog]
Cameron Graves
Mack Avenue
2017-05-26

 

Ronald Bruner Jr. ‎– Triumph [2017 World Galaxy]

ダイアナ・ロスやグラディス・ナイト等の作品でドラムを叩いていた、ロナルド・ブルーナー・シニアを父に持ち、ベーシストのサンダーキャットことステファン・ブルーナーや、ジ・インターネットの元メンバーでもあるキーボーディストのジャミール・ブルーナーの兄でもある、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のドラマー、ロナルド・ブルーナー・ジュニア。

自身も2歳のころにドラムを始め、15歳のころにはウェイン・ショーターやダイアン・リーヴス、ロン・カーターのステージでドラムを叩きながら、ステファンと一緒に西海岸を拠点に活動するパンク・バンド、スーサイド・テンシーズの一員としても活動していた。

2000年代以降は、多くのレコーディング作品に参加。2004年にはカマシ・ワシントンやステファンと結成したユニットヤング・ジャズ・ジャイアンツの名義でアルバムを発表する一方、スタンリー・クラークやジョージ・デューク、ケニー・ギャレットといった大物ミュージシャンから、カマシ・ワシントンやサンダーキャットのような彼とは縁の深い面々、ケンドリック・ラマーやサイ・スミス、フライング・ロータスといったR&B、ヒップホップ、エレクトロ・ミュージックの録音まで、色々なミュージシャンの作品に携わってきた。

彼にとってキャリア初となるフル・アルバムは、マイルズ・モーズリーの『Uprising』や、ジョセフ・ライムバーグの『Astral Progressions』などを配給している、ワールド・ギャラクシーからのリリース。カマシ・ワシントンの『Epic』と同じ時期に録音された本作は、ベースをステファン、キーボードをジャミールが担当。多くのゲストとともに、彼自身がヴォーカルを担当した意欲作になっている。

アルバムの1曲目を飾る”True Story”は、彼の派手なドラム・ソロから始まるアップ・ナンバー。ドナルド・フェイゲンの『The Nightfly』に入ってそうな、緻密で爽やかなロック・ナンバー。楽曲の途中で披露されるドラムの乱れ打ちが、楽曲のアクセントになっている。

続く”Take The Time”も、”True Story”に近い、ロック色の強い楽曲。ヴォーカルをステファンが担当しているほか、曲中で複数のテンポとビートを使い分けた、起伏の激しい伴奏と、ステファンの甘い歌声が印象的なアップ・ナンバーだ。バラエティ豊かなビートと、エネルギー溢れるパフォーマンスは、スーサイド・テンシーズの影響を感じさせる。

これに対して、ソウル・ミュージックの影響が色濃いのは”Whenever”だ。柔らかい音色を響かせるホーン・セクションと力強いビート、ロナルドの甘い歌声が合わさった優しい雰囲気のミディアム。ナンバー。スマートだけど繊細で優しい歌声は、彼の音楽に多くの影響を与えた、スティーヴィー・ワンダーを連想させるものだ。

また、ミディアム・ナンバーの中では”One Night”も見逃せない存在だ。ギターとベース、ドラムが軸のシンプルな編成をバックに、泣き崩れるような歌を聴かせるロナルドの存在が光る佳曲。イーグルスやジャクソン・ブラウンのようなロック・ミュージシャンの音楽が好きな人には堪らない佳曲だと思う。

そして、本作の終盤で強烈な印象を残してくれるのが”To You / For You”だ。図太いビートとシンセサイザーの音色が心地よい、シックやシャラマーの音楽を彷彿させるスタイリッシュなディスコ・サウンドに乗せて、爽やかな歌声を響かせる前半から一転、後半に入るとトラップ・ビートの上でラップを披露する異色の楽曲。攻撃的な口調が、本職のラッパーっぽい点も面白い。

今回のアルバムは、彼より先にデビューした弟の作品同様、ヒップホップやR&B、ジャズやロックの要素を取り込み、自身の感性で編集したジャンルの枠にとらわれない作品になっている。しかし、このアルバムでは、色々な音楽のエッセンスを取り込みつつ、その要素をジャズの枠に落とし込んでいるように見える。おそらく、彼が多くのセッションを重ねてきた大物ジャズ・ギタリスト、スタンリー・クラークに代表されるフュージョンのスタイルを、積極的に採用していることが大きいのだろう。また、ジャズの要素に比重を置くことで、多くの音が乱れ飛ぶ、ダイナミックなドラム・ソロを随所に盛り込むことにも成功しているように映る。

ヒップホップやロックの要素を取り込んだ先鋭的な作風と、複雑で大胆なドラム演奏を両立した、長兄の面目躍如といえる佳作。CDで聴いても楽しいが、ぜひライブを観てみたいと思わせる。人間が演奏する音楽の面白味を再確認させられる充実の内容だ。

Track List
1. True Story
2. Take The Time feat. Thundercat
3. She'll Never Change
4. Geome Deome feat. George Duke
5. Whenever
6. Doesn't Matter
7. Open The Gate
8. One Night
9. Sensation feat. Mac Miller and Danielle Withers
10. To You / For You
11. Chick's Web

※動画は本作とは無関係のライブ映像





Triumph(トライアンフ)
Ronald Bruner Jr.(ロナルド・ブルーナ-・ジュニア)
rings
2017-04-19

 

Leela James - Did It for Love [2017 Shesangz, BMG]

2000年代の初め頃に、プロのミュージシャンとしてのキャリアをスタート。ブラック・アイド・ピーズやメイシー・グレイのライブでオープニング・アクトを務めるなどして経験を積んだ後、2005年にサム・クックの同名曲のカヴァーを含むアルバム『A Change Is Gonna Come』でメジャー・デビュー。60年代のソウル・シンガーを彷彿させる力強いヴォーカルと、ヒップホップの手法を取り込んだバック・トラックを組み合わせた楽曲で、老若男女幅広い世代から注目を集めた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、リーラ・ジェイムス。

その後も、スタックスやシャナチーといったR&B、ソウル・ミュージックの名門レーベルから、2016年までに通算5枚のアルバムと多くのシングルを発表。その中でも、ジェイムズ・ブラウンやローリング・ストーンズの名曲を歌った2009年の『Let's Do It Again』や、エッタ・ジェイムスの楽曲をカヴァーした2012年の『Loving You More...』などは、原曲を知らない若い世代に、往年の名曲の魅力を知らしめるきっかけになった。

このアルバムは、2014年の『Fall for You』以来、約3年ぶりとなる通算6枚目のフル・アルバム。配給元は前作と同じBMGで、プロデューサーには、BJ ザ・シカゴ・キッドの『In My Mind』など、多くのヒット作を手掛けている、レックス・ライドアウトを中心に多くの実力者が参加。今回も過去の作品同様、グラマラスな歌声と、重厚な伴奏が合わさったダイナミックなソウル・ミュージックを楽しませてくれる。

アルバムの1曲目”Hard For Me”は、シャーリー・マードックなどとも仕事をしているキーボード奏者、イーヴァン・ブリックが制作を担当したスロー・ナンバー。色々な音色のキーボードを組み合わせてた、オーケストラっぽい豪華な伴奏をバックに、艶っぽい歌声を響かせるスロー・ナンバー。エッタ・ジェイムスやアレサ・フランクリンにも見劣りしない迫力と、バーバラ・メイゾンやグラディス・ナイトにも通じるセクシーな歌唱が心地よい佳曲だ。

続く”Don’t Mean A Thang”は、”Hard For Me”にも携わっているカルヴィン・フレイザー(デトロイトのギタリストとは同名の別人と思われる)が手掛けるアップ・ナンバー。ドラムを軸に据えたスタイリッシュなビートに乗せて、妖艶な歌唱を聴かせている。落ち着いた雰囲気の伴奏と流麗なメロディ、ふくよかで色っぽい歌声の組み合わせはクリセット・ミッチェルの人気曲”Like a Dream”を連想させる。

そして、本作の目玉が、シングル化された”Don't Want You Back”だ。彼女とレックスが主導したロマンティックなバラードは、カニエ・ウエストのプロデュース作品を思い起こさせる、ソウル・ミュージックっぽい音色を加工してコラージュしたようなトラックに乗せ、派手ではないが味わい深いメロディをじっくりと歌い上げた作品。オーケストラの使い方が、ディオンヌ・ワーウィックやローラ・リーの作品にもちょっと似ている。

また、味わい深さでいえば、エリック・ベネイの最新作『Eric Benét』にも関わっている、ジャイラス・モジーがソングライターに名を連ねるミディアム・バラード”I Remember”も捨てがたい。ドラムとベースを強調した落ち着いた雰囲気のトラックに乗せ、色っぽいファルセットを聴かせる妖艶な雰囲気の楽曲。ストリングスやギターの演奏を随所に挟み込んで、楽曲にメリハリをつけつつ、ロマンティックな雰囲気を強調している点も注目してほしい。

最後に取り上げたいのは、本作では珍しいアップ・ナンバー”Good To Love You”だ。R.ケリーの”Step In The Name of Love”を彷彿させるスタイリッシュなビートを取り入れたこの曲は、90年代に一世を風靡した男性ヴォーカル・グループ、ブラックストリートのリード・シンガー、デイヴ・ホリスターと組んだ曲。豊かな歌声をウリにした音楽スタイルや、レーベルの先輩後輩(デイヴ・ホリスターの2016年作『The MANuscript 』はシャナチー配給)など、音楽的には近しい二人だけあって、相性は抜群。豊かな声量を誇る二人が、自慢の喉を軽々と操り、ダイナミックな歌を聴かせるパフォーマンスは贅沢としか形容できない。

全曲を通して聴いた印象は、デビュー当時からの武器であったヴォーカルが、経験を積んで表現の幅と安定感が増したということ。元々、奇抜なトラックやキャッチーなメロディで勝負するタイプのシンガーではなかったが、新作を発表するごとに、ファルセットを効果的に使った色っぽい楽曲がら、地声を響かせるパワフルな作品まで、一筋縄ではいかない高い難易度の曲を着実に乗りこなし、自分の色に染め上げてきた。本作は、その総決算と呼んでも過言ではない作品で、高い表現力が求められる楽曲を着実に歌い込みつつ、力強さと大人の女性の色気が同居した、彼女らしさに溢れる音楽に仕立て上げてくれた。

アレサ・フランクリンやチャカ・カーンの系譜に立つ、恵まれた歌声と高い技術を持ちつつ、彼女独特の大人の色気を感じさせるパフォーマンスで、先人と差別化したも両立した、本格的なヴォーカル作品。往年のソウル・ミュージックが好きな人はもちろん、ビヨンセやリアーナを通してブラック・ミュージックを知った人にも是非聴いてほしい。「歌」や「声」奥深さと面白みを思う存分堪能できると思う。

Producer
Leela James, Rex Rideout, Evan Brice, Butta-N-Bizkit, Calvin Frazier, Jairus Mozee

Track List
1. Hard For Me
2. Don’t Mean A Thang
3. Don’t Want You Back
4. Real Talk – Relationships (Interlude)
5. I Remember
6. Good To Love You feat. Dave Hollister
7. There 4 U
8. This Day Is For You
9. Take Me
10. All Over Again
11. Our Love
12. Did It For Love





Did It for Love
Leela James
Bmg Rights Managemen
2017-03-31

 
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