melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

アメリカ

Teyana Taylor - K.T.S.E. [2018 GOOD, Def Jam]

音楽プロデューサーとして多くのヒット作を生み出すだけでなく、ミュージシャンとしても数多くの傑作を残し、レコード・レーベルのオーナーとしてジョン・レジェンドやビッグ・ショーンを成功させ、ファッション・デザイナ-としてルイ・ヴィトンとのコラボレーション・モデルを発表するなど、多芸っぷりを発揮し続けるカニエ・ウエスト。彼が率いるグッド・ミュージックから初めてアルバムをリリースした女性シンガーが、テヤーナ・テイラーだ。

ニューヨークのハーレム出身の彼女は、9歳のころからマイクを握り、多くのオーディションで好成績を収めるなど、アマチュア・ミュージシャンの世界では知られる存在だった。

そんな彼女は、ビヨンセの2006年のシングル”Ring the Alarm”の振付を担当したことで表舞台に出ると、翌年にはネプチューンズ率いるスター・トラックと契約。2008年には初のシングル”Google Me”を、2009年には初のミックステープ『From a Planet Called Harlem』を発表した。

また、2012年にはカニエ・ウエストの作品に客演したことをきっかけに、彼が率いるグッド・ミュージックへと移籍。2014年にはアルバム『VII 』を発売している。

このアルバムは、前作から4年ぶりとなる2枚目のスタジオ・アルバム。多くのプロデューサーやゲスト・ミュージシャンを招いた前作から一転、本作ではレーベルのボス、カニエ・ウエストが制作を統括。カニエとテイラーを中心に、ロドニー・ジャーキンスやマイク・ディーンなどの売れっ子を起用。ゲストとしてカニエとタイ・ダラ・サインだけが参加したシンプルな編成で、彼女の歌声にスポットを当てている。

1分弱という短い長さの”No Manners”から続く実質的な1曲目”Gonna Love Me”は、ノア・ディーンやマイク・ゴールドスタインが制作に関わったミディアム・ナンバー。インディア・アリーを彷彿させるアコースティック・ギターの伴奏と、デルフォニックスやマイケル・ジャクソンが70年代に残したソウル・クラシックのフレーズを組み合わせた伴奏が新鮮な楽曲だ。芯の強い声で、涼しげに歌うテイラーの存在が光っている。

これに対し、カニエ・ウエストが客演した”Hurry”は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの”Can't Strain My Brain”のギターとベースをさりげなく引用したバック・トラックが印象的な作品。60年代のソウル・ミュージックをサンプリングして、当時の音楽の雰囲気を再現したトラックの上で、切々と歌う彼女の姿が聴きどころ。ヒップホップ色の薄い伴奏に合わせ、往年のフォーク・シンガーのように淡々と言葉を紡ぐテイラーと、ソウル・ミュージックの伴奏の上でも平常運転のラップを聴かせるカニエの対比が面白い。

また、ダークチャイルドことロドニー・ジャーキンスを起用した”3Way”は、本作の収録曲では珍しい90年代のR&B作品を引用したバラード。シスコの”How Can I Love U 2nite”を使ったこの曲では、スタイリッシュな伴奏の上で、じっくりと歌い込む彼女の姿が堪能できる。ジョーの”Don't Wanna Be a Player”や、デスティニーズ・チャイルドの”Say My Name”といった、スロー・テンポの名曲を数多く手掛けてきたロドニーらしい、歌い手の表現力を引き出す美しいメロディが素敵だ。ゲストのタイ・ダラ・サインのシスコを意識した歌に、思わずニヤリとしてしまう。

そして、エレクトロ畑のクリエイター、エヴァン・マストを制作に招いた”Rose In Harlem”は、カニエがプロデュースしたトゥイスタの”Slow Jamz”を思い起こさせる変則ビートだが、こちらの曲は泥臭いバラード。地声を多用した鬼気迫るヴォーカルと、スタイリスティックスの楽曲を早回しした、おどろおどろしい声ネタの組み合わせが心に残る。

今回のアルバムでは、シンセサイザーを多用した前作から一転、カニエが得意とするサンプリングを駆使しつつ、歌とメロディをきちんと聴かせるR&B作品に仕上げている。流麗なメロディとダイナミックなヴォーカルは、トニ・ブラクストンやモニカなど、多くのシンガーが取り組み、音楽史に残る傑作を生み出してきた90年代のR&Bによく似ている。そこに、カニエ達の手によって2000年代以降の新しいサウンドを盛り込んだ点が本作の面白いところだ。この懐かしさと新しさを共存させた作風が本作の魅力だろう。

アリシア・キーズシリーナ・ジョンソンの作品を通して、R&Bシンガーとの親和性を示唆してきたカニエ・ウエストの才能と、振付師や俳優など、R&Bシンガーの枠に囚われない豊かな才能を持つテイラーの表現力が遺憾なく発揮された良作。90年代、2000年代前半の美しいメロディのR&Bの魅力を現代に蘇らせつつ、それを2018年の流行の音と一体化させた素晴らしいR&Bだ。

Producer
Kanye West,Mark Batson, Mike Dean, Darkchild, Evan Mast etc

Track List
1. No Manners
2. Gonna Love Me
3. Issues / Hold On
4. Hurry feat. Kanye West
5. 3Way
6. Rose In Harlem
7. Never Would Have Made It
8. WTP





K.T.S.E. [Explicit]
Getting Out Our Dreams Inc. (G.O.O.D.) Music / IDJ
2018-06-23

June's Diary - All of Us [2018 Music of Sound]

90年代から2000年代にかけて、4枚のスタジオ・アルバムと”Say My Name”や”Survivor”などのヒット曲を残し、スパイス・ガールズやTLC、シュープリームスに匹敵する偉大なガールズ・グループとして、多くの足跡を残してきたデスティニーズ・チャイルド。

そのメンバーは、ビヨンセを筆頭に、全員がソロでも大きな成功を収めているが、いち早くソロで結果を残したのが、ネリーとのデュエット曲”Dilemma”を全世界で700万枚以上売ったケリー・ローランドだ。

ジューンズ・ダイアリーは、彼女がプロデュースする5人組のガールズ・グループ。アメリカの黒人向け放送局、BET(ブラック・エンターテイメント・テレビジョンの略)のオーディション番組を勝ち上がった面々によって結成されたこのグループは、2016年に”All of Us”でレコード・デビュー。その後も、R.ケリーやエクスケイプのツアーに帯同し、シャンテ・ムーアのアルバムに客演するなど、地道に経験を積んできた。

このアルバムは、彼女達に取って初のEP。プロデュースはケリー・ローランドやプロ2ジェイ、ハーモニー・サミュエルズが担当。ゲストとしてトリナやジャシー・スモレットが参加した、豪華なものになっている。

1曲目は、プロ2ジェイが制作に参加した”Good Time”。フィンガー・スナップとホーンの音色を組み合わせたバック・トラックと息の合ったコーラス・ワークが光るミディアム・ナンバーだ。4人組時代に、美しいハーモニーで勝負した作品を何度も録音していたデスティニーズ・チャイルドのスタイルを踏襲しつつ、バラードではなくダンサブルな楽曲で勝負した面白い作品だ。

続く”Take Me”は、前の曲から一転、シンセサイザーの音色を効果的に使った軽妙なビートと、甘酸っぱいメロディ、キュートな歌声の組み合わせたアップ・ナンバー。2000年代前半には、3LWやドリームなど、多くのグループが取り入れて成功してきた、ヒップホップのサウンドとポップなメロディを組み合わせたスタイルを2018年に再現した良曲だ。アメリカよりも、日本や韓国といったアジア圏でウケそう。

また、彼女達のデビュー曲である”All of Us”はケリー・ローランドがプロデュースを担当、ゲスト・ミュージシャンとしてトリナが参加したミディアム・ナンバー。アイズレー・ブラザーズの”Between The Sheets”を彷彿させるシンセサイザーの伴奏と、ヒップホップのビートを組み合わせ、彼女達の爽やかな歌声を乗せたロマンティックなバラードだ。SWVやエクスケイプ、TLCやブラック・アイヴォリーなど、多くのガールズ・グループが取り組み、成功してきた、ヒップホップとバラードを融合させた作品だ。

そして、ジャシー・スモレットを招いた”Hurt People”は、彼が2018年にリリースした『Sum of My Music』に収められているシングル曲のリメイク。ジャシーがリード・ヴォーカルを担当し、5人が脇を固めた本格的なコーラス作品になっている。原曲以上のトラックをよりシンプルなものに作り替え、6人の歌声が織りなす精密なアレンジとダイナミックな表現を際立たせている。5人の可愛らしい歌声が、ニーヨの音楽を思い起こさせる、爽やかなメロディの良さを際立たせている。

彼女達のヴォーカルは、後見人のケリー・ローランドに近い、爽やかでスタイリッシュなものだ。しかし、ケリー同様、歌の安定感は抜群で、メロディの良さを丁寧に引き出している。この、新人らしい溌剌さと可愛らしさ、新人離れした完成度の高いパフォーマンスが彼女達の魅力だと思う。

今やアメリカでは稀少な存在になった「R&Bを歌うポップ・スター」の座を受け継ぐ貴重なガールズ・グループ、新しいサウンドが生まれても、人間の声が生み出す音楽の魅力は変わらないことが再確認できる、良質なアルバムだ。

Producer
Pro2Jay, Harmony Samuels, Kelly Rowland etc

Track List
1. Good Time
2. Take Me
3. Have You Ever
4. His Phone
5. All of Us feat. Trina
6. Hurt People with Jussie Smollett




All of Us
Music Of Sound LLC
2018-06-30

The Carters - Everything Is Love [2018 Roc Nation, Parkwood Entertainment, Sony Music]

総合エンターテイメント企業のロック・ネイションや、音楽ストリーミング・サービスのTIDALなどを経営しながら、コンスタントに新作を発表し、ヒップホップ界をけん引する、ジェイZことショーン・カーター。2003年に初のソロ・アルバム『Dangerously in Love』を発表して以来、稀代の名シンガー、エッタ・ジェイムスを演じきった映画「キャデラック・レコード」や、ストリーミング限定(後にダウンロード版やCD盤も発売)した『Lemonade』など、新しいことに挑戦し、成功してきた、ビヨンセことビヨンセ・ジゼル・ノウルズ-カーター。

このアルバムは、21世紀の音楽業界で最も成功している夫婦による、初のコラボレーション作品。

これまでにも、ビヨンセの”Crazy In Love”や”Déjà Vu”などで共演してきた二人だが、アルバム1枚を一緒に録音するのは今回が初。事前のプロモーションをほとんど行わず、『Lemonade』に続いてTIDALで先行配信されるなど、斬新な試みに挑んできた彼女達らしい作品になっている。

本作に先駆けて公開された”Apeshit”は、ファレル・ウィリアムスがプロデュースした楽曲。使われている楽器の音色こそ、ファレルが多用するシンセサイザーのものだが、彼が提供したビートはミーゴスグッチ・メインのアルバムに入っていそうなトラップ。その上では、ラップのような抑揚を抑えたメロディを歌うビヨンセと、普段通りのダイナミックなラップを繰り出すジェイZという、今までの作品ではなかったタイプのパフォーマンスを披露している。トラップのビートを取り入れているからか、ファレルのプロデュース作品にも関わらず、彼のかわりにミーゴスのクェーヴォとオフセットがコーラスで参加している点も新鮮だ。

これに対し、TLCメアリーJ.ブライジの作品にも携わっているD’マイルと、アーティストとソングライターの両方で活躍しているタイ・ダラ・サインを起用した”Boss”は、ヒップホップの要素を取り入れたスロー・バラード。タイ・ダラ・サインの端正なコーラスは、ヨーロッパの教会音楽にも少し似ている。ビヨンセのヴォーカル・パートは、滑らかなメロディとラップを組み合わせたもの。近年流行のスタイルを、自分の音楽に咀嚼したパフォーマンスに注目。

一方、ジェイZのラップに重きを置いた”713”はクール&ドレがプロデュースを担当。威圧的にも感じるキーボードの伴奏が印象的なビートに乗せて、パンチの効いたパフォーマンスを繰り出すジェイZの姿が聴きどころ。キーボードの伴奏を強調したトラックに引っ掛けて、Dr.ドレの”Still Dre”やコモンの”The Light”などのフレーズを引用した点も面白い。

それ以外では、内田裕也やジョー山中が在籍していた日本のサイケデリック・バンド、フラワー・トラベリング・バンドの”"Broken Strings”をサンプリングした”Black Effect”も見逃せない。昔のレコードから、ヴォーカルや楽器の演奏など、様々なフレーズを抜き出して組み合わせる手法は、ヒップホップではお馴染みのものだが、サンプルの組み合わせ方を変えることで新しい音楽に聴かせている。

本作の面白いところは、既に多くのアーティストが取り組んできた手法を用いながら、他の作品とは一線を画した独自の音楽に仕立て上げているところだろう。歌とラップを組み合わせる手法やサンプリング、トラップといった、流行のスタイルを盛り込みつつ、少し変化をつけることで、独自性を打ち出している。この引用とアレンジのセンスの良さが、二人の音楽の醍醐味だ。

音楽業界のトップをひた走る二人の、鋭い感性と作品に落とし込む技術が光る良作。「ヒップホップはみんな同じ」と思っている人にこそ聴いてほしい、流行のサウンドを用いながら、他のアーティストとは一味違う新鮮に聴こえるセンスと技術が楽しめると思う。

Producer
Beyoncé, Jay-Z, Cool & Dre, Pharrell Williams, D'Mile etc

Track List
1. Summer
2. Apeshit
3. Boss
4. Nice
5. 713
6. Friends
7. Heard About Us
8. Black Effect
9. Lovehappyt
t


EVERYTHING IS LOVE [Explicit]
Parkwood Entertainment/Roc Nation
2018-06-18


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