melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

イギリス

Gorillaz - The Now Now [2018 Parlophone, Warner]

ロック・バンド、ブラーの中心人物として活躍する一方、民族音楽やオペラにも取り組んでいるデーモン・アルバーンと、コミック「タンクガール」や、オペラ「Monkey: Journey to the West」(同作の音楽はデーモンが担当している)のビジュアルなど、幅広い仕事で知られる漫画家のジェイミー・ヒューレット。両者が中心になって作り上げたのが、架空のキャラクター4人によるバンド、ゴリラズだ。

英国人のベーシスト、マードック、同じく英国出身のヴォーカル兼キーボード奏者の2D(余談だが、彼の演奏を担当しているデーモンもライブではキーボードを弾くことが多い)、日本出身のマルチ・プレイヤー、ヌードル(彼女の声は日本人が担当している)、アメリカ出身のドラマー・ラッセル・ボブスからなるこのバンドは、2000年に初のシングル”Tomorrow Comes Today”を発表すると、電子音楽とロックを融合した個性的な作風と、架空のキャラクターを前面に打ち出したビジュアルで音楽ファンの間で話題になった。

また、翌年には初のスタジオ・アルバム『Gorillaz』をリリース。全世界で700万枚以上を売り上げる大ヒットになると、以後、2017年までに5枚のアルバムを発表。「世界で最も成功した架空のバンド」として、ギネス・ブックにも掲載されている。

本作は、彼らにとって通算6枚目のスタジオ・アルバム。前作から僅か1年という短い間隔で録音された作品で、制作にはアーキテック・モンキーズなどを手掛けたジェイムス・フォードが参加。前作の路線を踏襲しつつ、発展させた音楽を聴かせてくれる。

本作の1曲目は、伝説のジャズ・ギタリスト、ジョージ・ベンソンを招いた”Humility”。ティミー・トーマスの”Why Can't We Live Together”を彷彿させる、軽い音色の電子楽器をバックに、2Dが甘い歌声を響かせるミディアム・ナンバー。リトル・ビーヴァ―を連想させる、艶っぽいギターも心地よい。ベティ・ライトやジョージ・マクレーのような、マイアミ発のソウル・ミュージックに似ている爽やかな曲だ。

また、スヌープ・ドッグとシカゴのハウス・ミュージックのクリエイター、ジェイミー・プリンシプルを起用した”Hollywood”は、ハウス・ミュージックとロックやヒップホップの要素が入り混じったサウンドと、スヌープの飄々としたラップが光るミディアム。ハウス・ミュージックなどの電子音楽の要素を盛り込んだトラックと、2Dのグラマラスなヴォーカル、ロックの手法を盛り込んだ伴奏は、ウィークエンドの”Starboy”っぽい。

それ以外の曲では、”Lake Zurich”も見逃せない。リック・ジェイムスやシックのような70年代後半から80年代のディスコ音楽を連想させる洗練された伴奏と、しなやかなメロディが印象的な作品。ダフト・パンクの”Get Lucky”や、タキシードの諸作品で注目を集めているディスコ音楽を、ロックの視点から再構築した面白い曲だ。

そして、これまでの作品に近しいスタイルの楽曲が、ミディアム・テンポのバラード”Fire Flies”だ。シンセサイザーの伴奏をバックに、ゆったりと歌う2Dの姿が印象的な作品。シンセサイザーを駆使しながら、ブラーのような英国のロック・サウンドに纏め上げた手腕が光っている。

今回のアルバムでは、過去の作品で見られた大胆なアレンジは影を潜め、クラブ・ミュージックとロック、R&Bやヒップホップを違和感なく融合した楽曲が目立っている。イマジン・ドラゴンズやマルーン5のようなクラブ・ミュージックや黒人音楽を取り入れたロック・バンドが人気を博し、ウィークエンドやのようなロックの要素を盛り込んだR&Bがヒットしている2010年代。彼が活躍する10年以上前から、ヒップホップやソウル・ミュージックのアーティストと組んできたゴリラズは、このトレンドの先駆者らしい、リスナーに自然に聴こえる、高いレベルで融合した音楽を披露している。斬新なサウンドを追い求める姿勢と、それを磨き上げる技術の高さが、彼らの音楽の魅力だと思う。

様々な音楽を貪欲に飲み込み、10年先のトレンドを生み出してきたデーモンの先見性と、20年近い時間をかけて育て上げた緻密で斬新な世界観が遺憾なく発揮された良作。単なる企画バンドの枠を超えた「ヴァーチャルとリアルを融合させるプロジェクト」の最新型だ。

Producer
Gorillaz, James Ford, Remi Kabaka

Track List
01. Humility feat. George Benson
02. Tranz
03. Hollywood feat. Snoop Dogg, Jamie Principle
04. Kansas
05. Sorcererz
06. Idaho
07. Lake Zurich
08. Magic City
09. Fire Flies
10. One Percent
11. Souk Eye





ザ・ナウ・ナウ
GORILLAZ
ワーナーミュージック・ジャパン
2018-06-29

Jorja Smith - Lost & Found [2018 FAMM]

2016年に、ディジー・ラスカルの”Sirens ”をサンプリングした”Blue Lights”を公開して表舞台に登場。シャーデー・アデューやエンディア・ダヴェンポートを彷彿させる透き通った歌声と、ムラ・マサやナオの音楽を思い起こさせる、エレクトロ・ミュージックの要素を取り入れたサウンドで、カナダのドレイクや、イギリスのストームジー、アメリカのカリ・ウチスなど、様々な国のアーティストから絶賛された、イギリスのウエスト・ミッドランズにあるウォルソール出身のシンガー・ソングライター、ジョルジャ・アリシア・スミス。

彼女は子供の頃からトロージャンのレゲエ作品や、カーティス・メイフィールドなどのソウル・ミュージックを聴いて育ったという。また、父がソウル・バンドで活動していたこともあり、早くから音楽への強い興味を示していた。

そんな彼女は2016年に、音楽投稿サイト経由で”Blue Lights”を発表。同年にマーヴェリック・セイブルをフィーチャーした”Where Did I Go?”を公開。その後も、4曲入りのEP『Project 11』をリリースし、ドレイクのUKツアーに帯同するなど、一気にブレイクを果たした。

また、2017年に入るとドレイクのアルバム『More Life』に参加する一方、国際女性デーに”Beautiful Little Fool”を発売、年末にはMOBOアワードやブリット・アワードにノミネートし、後者を獲得するなど、華々しい活躍を見せてきた。

本作は、そんな彼女の初のフル・アルバム。自身のレーベル、FAMMからの配給だが、CD盤やアナログ盤も作られた力作。全ての収録曲で彼女自身がソングライティングを主導し、プロデューサーには、既発曲を一緒に作ったチャーリー・ペリーに加え、アメリカ出身のジェフ・クレインマンや、オーケストラで活動するマーキー・キト・リビングなど、世界各地で活躍する個性的なクリエイターが参加。21歳の瑞々しい歌声と若い感性を最大限引き出した良作になっている。

まず、本作に先駆けてリリースされた彼女のデビュー曲”Blue Lights”は、ディジー・ラスカルの”Sirens”のフレーズを引用し、ガイ・ボネット&ロナルド・ロマネリの”Amour, Émoi... Et Vous” の演奏をサンプリングしたトラックのミディアム・ナンバー。シンセサイザーを多用した哀愁を帯びた上ものが印象的なトラックは、ジャンルも作風も違うがロジックの”1-800-273-825”に似た雰囲気。事前情報がなければディジー・ラスカルの曲を借用したとはわからないジョルジャの歌唱は、歌とラップを織り交ぜた、ドレイクに近いもの。しかし、エリカ・バドゥから泥臭さを抜いたような、滑らかな歌声のおかげで、繊細なR&Bに聴こえる。

また、同じ年にリリースされた”Where Did I Go?”は、ペリーがプロデュースした作品。太く柔らかい音色のベースを強調したトラックは、エリカ・バドゥやエスペランザ・スポルディングのようなジャズの要素を取り込んだミディアム・ナンバー。彼女達に近しい声質の持ち主とはいえ、より爽やかなヴォーカルの彼女が歌うと、ポップで聴きやすい音楽に映る。

これに続く”February 3rd”は、プロデューサーにフランク・オーシャンケヴィン・アブストラクトの作品にも関わっているジェフ・クレインマンを招いた楽曲。オルゴールのような音色を取り入れて、繊細で神秘的、だけど少しポップな雰囲気を演出したミディアム・ナンバーだ。高音に軸足を置いて、丁寧に歌い込むスタイルは、ミニー・リパートンにも少し似ている。

そして、本作の隠れた目玉がオーストラリア在住のエレクトロ・ミュージックのプロデューサー、マーキー・キト・リビングを起用した”On Your Own”。バス・ドラムを強調したビートは、ヒップホップのスタイルだが、それに組み合わせる複雑な構成の伴奏はドラムン・ベースの手法という個性的な作品。ムラ・マサナオのような、エレクトロ・ミュージックとヒップホップを組み合わせたアレンジが印象的だ。

彼女の面白いところは、エンディア・ダヴェンポートやシャーデー・アデューのような、大胆なヴォーカル・アレンジと洗練された歌唱を使い分ける技術と、透き通った歌声を持ちながら、バック・トラックではエレクトロ・ミュージックの新しい手法を積極的に取り入れているところだ。アメリカのR&Bシンガーにも、電子音楽の技法を組み入れた作風の人は一定数いるが、彼女の場合は、他のイギリスのR&Bシンガー同様、より電子音楽に歩み寄ったサウンドを取り入れている。この、懐かしい歌声と、現代的なアプローチが彼女の個性を確立するのに一役買っていると思う。

アメリカやカナダとは一線を画した、独自の進化を遂げたイギリスのR&Bの現在を象徴するようなアルバム。電子音楽が好きな人には、ヴォーカルの多彩な表現が、R&Bが好きな人には電子音楽の柔軟な発想が新鮮に感じられる面白い作品だ。

Track Data
1. Lost & Found
2. Teenage Fantasy
3. Where Did I Go?
4. February 3rd
5. On Your Own
6. The One
7. Wandering Romance
8. Blue Lights
9. Lifeboats (Freestyle)
10. Goodbyes
11. Tomorrow
12. Don't Watch Me Cry





LOST & FOUND
JORJA SMITH
COOKI
2018-06-08

Matador! Soul Sounds - Get Ready [2018 Color Red Records, P-Vine]

90年代後半、クラブ・イベントで演奏するためにニュー・マスターサウンドを結成し、以後20年、躍動感と高揚感が魅力の本格的なファンクを聴かせてきた、ウェールズ出身のギタリスト、エディ・ロバーツ。3人編成でありながら、大規模なバンドにも見劣りしない力強い演奏で、大小さまざまな会場を沸かせてきた、ニューヨーク発のファンク・バンド、ソウライブのドラマー、アラン・エヴァンス。出身地も演奏スタイルも違うが、ともにジャズやファンクへの深い愛情を感じさせる作風で、多くのファンを魅了してきた二人が手を組んだのが、このマタドール!ソウル・サウンド。

他のメンバーには、モニカやファーギーのような有名ミュージシャンの作品にも関わっているケヴィン・スコットや、クリスチャン・フランキやマーク・ストーンといった実力派のアーティストの録音にも参加しているクリス・スピーズ、オルゴンやニュー・マスター・サウンズの楽曲にも起用されているエイドリオン・ドゥ・レオンや、ロータスの作品にも名を連ねているキム・ドーソンなど、個性豊かな面々が顔を揃えている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされたシングル曲”Get Ready”、DJプレミアやピート・ロックの作品を彷彿させる複雑なビートと、ジミー・スミスやシャーリー・スコットを思い起こさせるダイナミックでポップなオルガンの演奏が光る佳曲。ジャズとヒップホップを融合した作風は、ニュー・マスターサウンドともソウライブとも一味違う。

これに対し、両者が在籍するバンドの作風を積極的に取り入れたのが”The State Of Affairs”だ。ファンクを基調にしたビートはニュー・マスターサウンドの作風に近いし、グラント・グリーンを連想させる軽やかなギターの演奏は、ソウライブの楽曲っぽい。両者が相手の在籍するバンドのスタイルを演奏し、一つの楽曲に融合させた遊び心が印象的だ。

また、”Get Ready”のB面に収録されていた”Mr Handsome”は、チャールズ・ライト&ワッツ103rdストリート・バンドの”Express Yourself”やジェイムス・ブラウンの”Hot Pants”などを連想させる、軽快なビートと陽気なオルガンの演奏が心地よいアップ・ナンバー。ドラムの音数を増やした複雑なビートでありながら、聴き手に軽やかな印象を与えるのは、アランの高い演奏技術の賜物か?ヒップホップ世代にも馴染みのあるビートを取り入れつつ、リラックスして楽しめる軽妙な演奏に昇華するスキルは流石としか言いようがない。

そして、陽気な楽曲が多い本作では異色の、ロマンティックな雰囲気が魅力なのが”Computer Love”だ。ベティ・ライトやグウェン・マクレーのようなアメリカ南部のソウル・ミュージックにも通じる、洗練されたビートの上で、全盛期のジョージ・ベンソンが演奏しているかのような艶めかしい音色を響かせるギターが魅力の作品。シンセサイザー全盛期の時代だからこそ、彼らのような楽器の音を丁寧に聴かせる音楽が新鮮に聴こえる。

このアルバムの面白いところは、アメリカのミュージシャンが好んでカヴァーする黒人音楽と、イギリスのミュージシャンが積極的に演奏する黒人音楽を一つの演奏に同居させているところだろう。今も多くのファンを魅了する60年代のソウル・ミュージックやファンク、ジャズを土台にしながら、好みが異なる両国のミュージシャンの個性を上手に反映している点が特徴だ。しかも、単に両者の趣味趣向を足して2で割った音楽を作るのではなく、アレンジの幅を広げる手段にしている点にも着目すべきだろう。

経験と知識が豊富な二人だからこそ作れた、独創的なファンク作品。往年の黒人音楽の豊かな表現のい美味しいところを抽出し、一枚のアルバムに凝縮した聴きどころだらけの良盤だ。

Producer
Eddie Roberts, Alan Evans

Track List
1. Get Ready
2. Stingy Love
3. Too Late
4. The State Of Affairs
5. Anything For Your Love
6. Mr Handsome
7. El Dorado
8. Cee Cee
9. Soulmaro
10. Covfefe
11. Theme For A Private Investigator
12. Computer Love
13. Ludvig
14. Move Move Move




ゲット・レディ
マタドール! ソウル・サウンズ
Pヴァイン・レコード
2018-03-02

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