ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

エレクトロ

Calvin Harris - Funk Wav Bounces Vol. 1 [2017 Columbia]

10代のころ、魚の加工場のアルバイトで貯めたお金を元手にDJ機材を購入。エレクトロ・ミュージックのDJとしてキャリアをスタートした、スコットランドのダムフリーズ出身のDJ兼プロデューサー、カルヴィン・ハリスこと、アダム・リチャード・ウィリス。

その後、ロンドンに移住し、プロとしてのキャリアをスタート。また、次第にDJと並行してインターネット上に自作曲やDJミックスを発表するようになり、気鋭のクリエイターとして注目を集めるようになる。そして、最終的にはEMI、ソニーBMG、スリー・シックス・ゼロの3社と契約を結ぶに至る。

2007年にアルバム『I Created Disco』でメジャー・デビューすると、同作はイギリスのアルバム・チャートで8位を獲得、ゴールド・ディスクに認定され、同国のトップDJの一人として知らぬものはいない存在になる。そんな彼は、2012年に発売した3枚目のアルバム『18 Months』が複数の国でゴールド・ディスクに認定(うちイギリスとオーストラリアはプラチナ・ディスクを獲得)される大ヒット。リアーナに提供して各国のヒットチャートで1位を獲得した”We Found Love” や、ニーヨを起用した”Let's Go”など、多くのヒット曲を送り出し、彼の名を世界に轟かせた。

今回のアルバムは、前作『Motion』から約3年ぶりとなる、通算5枚目のオリジナル・アルバム。フランク・オーシャンファレル・ウィリアムス、ニッキー・ミナージュやジョン・レジェンドなど、アメリカのヒップホップ、R&B界隈でトップをひた走るアーティストが集結。世界屈指の人気を誇るトップDJの新作にふさわしい、豪華なものになっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、フランク・オーシャンとミーゴスが参加した”Slide feat”。エレクトリック・ピアノの伴奏で幕を開けるこの曲は、フランク・オーシャンの作風に近い、しなやかなメロディとサウンドが心地よいアップ・テンポのR&Bナンバー。アップ・テンポといっても、これまでの作品と比べるとBPMを10以上落としている、彼の録音の中ではゆったりとしたテンポの楽曲だ。シンセサイザーを駆使したモダンなサウンドはフランク・オーシャンの渋い歌声の良さを巧みに引き出しており、往年のソウル・ミュージックの泥臭さと、ニーヨなどの洗練されたサウンドを一つの作品に同居させている。

一方、ジョン・レジェンドとスヌープ・ドッグ、ヤング・サグの3人を招いた”Holiday”は、エレクトリック・ベースとゴムボールのように弾けるドラムの音色が印象的なミディアム・ナンバー。色々な音色を使った、鮮やかで爽やかなエレクトロ・サウンドは、山下達郎の”Sparkle”や、ネプチューンズの”Frontin’”などを連想させる。他の作品同様、変則ビートの上でもペースを崩すことなく飄々と言葉を繋ぐスヌープのラップ・スキルの高さも聴きどころだが、注目して欲しいはハジョン・レジェンドのヴォーカル。ファルセットを多用したヴォーカルは、マーヴィン・ゲイを連想、温かく色っぽいものだ。二人の巨頭に挟まれたヤング・サグもいい味を出している。

また、ニッキー・ミナージュを起用した ”Skrt”は、彼の作品では珍しいレゲトン・ナンバー。ファルセットを多用した可愛らしいヴォーカルと、地声を使った荒々しいラップを使い分けるニッキー・ミナージュの姿は、まるでデュエット曲のようだ。ラテン音楽を取り入れた作品といえば、直近でもDJキャレドの”Wild Thoughts”や、『ワイルド・スピード ICE BREAK』のサウンドトラックに収められているピットブルの”Hey Ma”など、色々なものがヒットしているが、彼女の曲はアメリカのR&Bに近いと思う。3曲を聴き比べしても面白そうだ。

そして、ファレル・ウィリアムスとケイティ・ペリー、ビッグ・ショーンをフィーチャーした”Holiday”は、乾いたギターの音色と、アナログ・シンセサイザーのコンビネーションが光るミディアム・ナンバー。シンセサイザーやギターの音だけ聞くと、ネプチューンズの新作と勘違いしそうな曲だが、レゲトンのビートを盛り込みつつ、スタイリッシュに纏めたアレンジはカルヴィン・ハリスの作風だ。ファレルのヴォーカルはもちろん、ケイティ・ペリーのキュートな歌声も眩しい。暑い季節に似合いそうな曲だ。

このアルバムでは、彼のトレード・マークともいえるEDMの要素は最小限に抑えられ、大部分の曲でヒップホップ、R&Bのアーティストとコラボレーションした作品になっている。21組のゲスト・ミュージシャンのうち、ケイティ・ペリーとジェシー・レイズ以外はヒップホップ、R&B作品をレコーディングしたことのある面々という点も、本作の方向性を端的に示していると思う。その一方で、R&Bやヒップホップのミュージシャンを招きながらも、近年のR&Bで多用される、トラップなどの変則ビートを取り入れず、しなやかで洗練されたフレーズや、ラテン音楽のエッセンス、エレクトリック・ベースやシンセサイザーを取り込んだ作風は、世界各地のステージに立ち、多くの聴衆を熱狂させてきた彼らしい、絶妙なバランス感覚が発揮されていると思う。端的に言えば、ダフト・パンクやマーク・ロンソンのような、リビングとクラブのフロア、そしてロック・フェスの全てに気を配った、全方位的な作品に聞こえるのだ。

エレクトロ・ミュージック界のトップ・クリエイターの独創的な解釈が光る。キャッチーで親しみやすいR&B,ヒップホップ作品。これからの季節に似合いそうな、陽気でポップな佳作だと思う。



Producer
Calvin Harris

Track List
1. Slide feat. Frank Ocean, Migos
2. Cash Out feat. D.R.A.M., PARTYNEXTDOOR, Schoolboy Q
3. Heatstroke feat. Ariana Grande, Pharrell Williams, Young Thug
4. Rollin feat. Future, khalid
5. Prayers Up feat. A-Trak, Travis Scott
6. Holiday feat. John Legend, Snoop Dogg, Takeoff
7. Skrt It feat. Nicki Minaj
8. Feels feat. Big Sean, Katy Perry, Pharrell Williams
9. Faking It feat.Kehlani, Lil Yachty
10. Hard To Love feat. Jessie Reyez






FUNK WAV BOUNCES VOL. 1 [CD]
CALVIN HARRIS
COLUMBIA
2017-06-30

Liz Aku - Ankhor [2017 Sonar Kollective]

ドイツのプロダクション・チーム、ジャザノバがベルリンに設立した音楽レーベル、ソナー・コレクティブ。同社が新たに送り出したのは、ベルギーのゲント出身のシンガー・ソングライター、リズ・アクだ。

彼女の武器は、強くしなやかな歌声と、高い技術を誇るバンド・メンバーによる繊細だが強靭なサウンド。そんな彼女は、シャーデーを彷彿させる神秘的な雰囲気と、ビラルやディアンジェロを連想させる、ジャズやヒップホップを取り込んだ作風で人気のシンガーだ。

本作は、彼女にとって初のフル・アルバム。マオリ族のサイケデリック・ロック・ミュージシャン、ビリーTKの息子で、自身も電子音楽の作品を数多く残している、ニュージーランド出身のプロデューサー、マラTKとの共同プロデュース作品だ。また、バンド・メンバーには、ピアノのデイヴィッド・ソーマエレや、ベースのジュアン・マンセンスなど、実力に定評のある面々を揃えている。

アルバムの1曲目”The Drum Major Instinct”は、マラTKをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。セルジュ・ヘルトージュのしっとりとしたギターの演奏と、マラTKが生み出す電子音を組み合わせ、フォーク・ソングの素朴さとR&Bの洗練されたサウンドを両立している。リズの涼しげな歌声が、透き通った音色の伴奏を際立たせている。

また、”Secret Change”は、ジュアンのベースとジョルディ・ギーエンズのドラムが生み出す変則的なビートと、マラTKが生み出すエレクトロ・サウンドが一体化した、クレイグ・デイヴィッドのアルバムに入っていそうなガラージ色の強い曲。バンドによる演奏と、柔らかい音色のシンセサイザーを多用することで、癖のあるトラックを聴きやすくしている点も面白い。音数を減らしメロディをシンプルにすることで、ビートの衝突を避けながら、歌声をきちんと聴かせているヴォーカルのアレンジも魅力的だ。

そして、ズールー・ムーンを招いた”Ankhor”は、デイヴィッドの美しいピアノの演奏から始まるミディアム・ナンバー。古いレコードからサンプリングしたような、温かい音色を使ったビートと、ポロポロと鳴り響くピアノの伴奏が切ない雰囲気を醸し出している。ラップを交えつつ、気怠そうに歌うリズの歌唱は、エリカ・バドゥやアンジー・ストーンにもよく似ている。エリカ・バドゥやディアンジェロのような、ソウルとヒップホップを融合させた音楽をより洗練させたような印象を受ける曲だ。

それ以外にも、見逃せない曲が”Hunger”だ。電子音を多用したきらびやかな伴奏と、ヒップホップのビートを組み合わせたトラックが印象的な、ミディアム・ナンバー。サーラ・クリエイティブ・パートナーズやプラチナム・パイド・パイパーズを連想させる先鋭的なビートと、荒々しい歌唱の組み合わせは、ジョージ・アン・マルドロウの音楽を彷彿させる。本作の収録曲では異色だが、とても格好良い曲だ。

彼女の魅力は、透き通った歌声を活かしたしなやかなヴォーカルと、ジャズやソウル、ヒップホップや電子音楽を混ぜ合わせた先鋭的だけど聴きやすいサウンドだと思う。フォークソングと電子音楽を混ぜ合わせたり、生バンドにガラージの要素を取り入れたり、ヒップホップの手法を取り入れたりと、色々なスタイルに挑みながら、自身の持ち味である、流麗で洗練されたヴォーカルに個性を加えている。その手法は、エリカ・バドゥやインディア・アリーにも似ているが、エリカよりもシンプルで聴きやすく、アリーよりも個性的という、ありそうでなかったものだ。

ヒップホップや電子音楽の手法を取り入れて、感性の鋭い若者にアピールしつつ、緻密で洗練された演奏技術によって、大人の鑑賞にも耐えうる作品に纏め上げている。コンピューターと生演奏を対立項にするのではなく、両者を上手に使い分けることで新鮮で優雅な音楽に仕立てた、大人のための新しいR&B作品だと思う。

Producer
Liz Aku, Mara TK etc

Track List
1. The Drum Major Instinct feat. Mara TK
2. Slowly
3. Deceive The Mind
4. Seasons Change
5. Secrets Die
6. Flight & Fall
7. Just What I Need
8. Ashamed
9. Hiding Alone
10. Ankhor feat. Zulu Moon
11. Hunger
12. Breathing Underwater feat. Mara TK





Ankhor
Sonar Kollektiv
2017-05-05

Two Jazz Project & T-Groove - COSMOS 78 [2017 LAD Publishing & Records]

探偵小説などを書いている、マルセイユ出身の小説家でデザイナーのエリック・ハッサンと、ベースやギターの演奏家であるクリスチャン・カフィエロによる音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクト。そして、八戸出身、東京在住の音楽プロデューサー、ユウキ・タカハシによる音楽プロジェクト、T-グルーヴ。両者によるコラボレーション作品。

結成から10年を超え、『Hot Stuff』や『Experiences』といった、ジャズや電子音楽、ソウル・ミュージックなどを融合した、独創的なスタイルの傑作を残してきたトゥー・ジャズ・プロジェクトと、日本在住の若いクリエイターでありながら、UKソウル・チャートの2位を獲得したトム・グライドの“Party People”や、サン・ソウル・オーケストラの”Can't Deny It”のアレンジやリミックスに携わり、自身の名義でもソーシー・レディをフィーチャーした”Spring Fever”などのヒット曲を残しているT-グルーヴ。

これまでにも、いくつかの作品を一緒に録音してきた彼らのEPは、「ファンタスティック・レトロ・フューチャリスト・ファンク・オデッセイ」をテーマにしたコンセプト・アルバム。制作にはトゥー・ジャズ・プロジェクトの楽曲でも素敵なパフォーマンスを披露してきた、女性シンガーのマリー・メニーとサックス奏者のディダーラ・ラ・レジー、T-グルーヴの作品で躍動感溢れるベースを聴かせてくれたタカオ・ナカシマも参加。隙の無い強力な布陣でクールなダンス・ミュージックを作り上げている。

本作に先駆けて発表された”Night Flight”は、オクラホマ州出身のシンガー、エノイス・スクロギンスをフィーチャーした曲。フランスのディスコ音楽レーベル、ブーギー・タイムスからデビューするなど、ヨーロッパでの知名度が高い彼は、これまでにも2016年のシングル『Soho Sunset 』、2017年のシングル『Funky Show Time』などで共演している旧知の間柄。自身の作品ではグラマラスでファンキーな歌唱が魅力のエノイスだが、この曲ではバリー・ホワイトを彷彿させる優雅な歌声を聴かせてくれる。マリーの透き通った歌声と絶妙なタイミングで入り込むディダーラのサックスも格好良い。

これに続く”Space Machine”は、マリーがメイン・ヴォーカルを担当。ハウス・ミュージックのような四つ打ちのビートや、シンセサイザーを多用した伴奏は、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを彷彿させる楽曲。ディム・ファンクやダフト・パンクなど、70年代や80年代のディスコ音楽を咀嚼した作品を発表しているミュージシャンは少なくないが、ハイ・エナジーの要素を取り入れた曲は珍しい。

また”Passion”は、ピアノっぽい音色のキーボードを活かしたトラックが、ロリータ・ハロウェイのようなハウス・ミュージック寄りのディスコ音楽を連想させる佳曲。涼しげな声でメロディを歌いながら、曲間では急に色っぽい声を出すマリーの意外な一面が面白い。

そして、本作唯一のインストゥルメンタル作品”Cosmos 78”はニュー・オーダーの”Blue Monday”を思い起こさせるロー・ファイな電子音が格好良いテクノ色の強い曲。電子音とファンク寄りの太いベースを一つの音楽に組み合わせる技術が光っている。

アルバムの最後を飾るのは、マリーがヴォーカルを担当した”You Are My Universe”。温かい音色のキーボードやサックスを効果的に使ったサウンドは、ディミトリ・フロム・パリのような、きらびやかでおしゃれな雰囲気のハウス・ミュージックの影響も垣間見える。マリーの豊かな声量と表現力も見逃せない。

彼らの音楽の醍醐味は、機械を使った精密なビートと、ギターやキーボード、パーカッションといった人間が演奏する楽器を組み合わせながら、それを一つの音楽に落とし込むセンスだと思う。それが可能なのは、各人の技術の高さと感性の鋭さによる部分が大きいが、その中でも、ギターやベースを担当する、クリスチャン・カフィエロやタカオ・ナカシマによるダイナミックかつ緻密な演奏が、機械を使ったビートと人の手による生演奏を一体化するのに大きく貢献していると思う。また、各人の演奏を一つの作品に纏め上げる、録音、編集技術の妙も大きいだろう。

ダフトパンクやマークロンソンなど、70年代、80年代のディスコ音楽を意識した作品を発表するアーティストがひしめき合うなか、楽器の演奏と機械のビートを組み合わせた、モダンでファンキーな作風で、彼らとは一味違う「21世紀のディスコ音楽」を提示してくれた傑作。ディスコ音楽やクラブ・ミュージックが好きな人なら、思わずニヤリとしてしまう演出が盛り沢山の面白いアルバムだ。一つでも気になる曲があったら、ほかの作品も手に取ってほしい。そのクオリティの高さに驚くと思う。

Producer
Yuki T-Groove Takahashi & Two Jazz Project

Track List
1. Night Flight feat. Enois Scroggins & Marie Meney & Didier La Regie
2. Space Machine feat. Marie Meney & Didier La Regie
3. Passion feat. Marie Meney & Didier La Regie
4. Cosmos 78
5. You Are My Universe feat. Marie Meney & Didier La Regie




COSMOS 78
LAD Publishing & Records
2017-05-12

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