ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

オーストラリア

CDB - Tailored for Now [2017 Warner Music Australia]

91年に4人組のヴォーカル・グループとして結成。ピーター・アンドレのバック・コーラスとして、マドンナのツアーに帯同するなどして経験を積んだ後、95年にアルバム『Glide With Me』でメジャー・デビュー。”Hey Girl (This Is Our Time)”や、アース・ウィンド&ファイアのカヴァー”Let's Groove”が、ニュージーランドのチャートを制覇、オーストラリアの音楽賞を獲得するなど、一躍人気グループの仲間入りを果たした、メルボルン発の男性ヴォーカル・グループCDB。

97年にはメンバーのアンドリューがガンの治療のため脱退。ユダ・ニコラス加入して2枚目のアルバム『Lifted』をリリース。こちらもオーストラリアのヒット・チャートで46位に入るなど、一定の成果を残した。しかし、その後は各人が自身の活動に力を入れるため、99年にグループを解散してしまう。

その後、各人のソロ活動を経て2006年に再結成。2008年にマイケル・ジャクソンのカヴァー” P.Y.T. (Pretty Young Thing)”を発表すると、2010年には同曲を含むベスト・アルバムを発売している。

今回のアルバムは、彼らにとって実に20年ぶりとなる新作。彼らが活躍した90年代のR&Bを中心に、今も根強い人気のある曲を、原曲の雰囲気を活かしつつ、彼らのスタイルに合わせてアレンジ、カヴァーしている。

アルバムのオープニングを飾る”If I Ever Fall In Love”は、ゲフィンからデビューした、4人組男性ヴォーカル・グループ、シャイの93年のヒット曲のカヴァー。スロー・テンポのバラードを荘厳なアカペラに組み替えた発想の大胆さが光っている。90年代に活躍し、当時の空気を知る彼らのセンスと、長いキャリアで培われた実力が発揮された曲だ。

これに対し、ボビー・ブラウンの89年のヒット曲”Every Little Step”のカヴァーは、原曲を意識した明るくポップなダンス・ナンバー。ベイビーフェイス作の甘酸っぱいメロディと、跳ねるようなニュー・ジャック・スウィングのビートを忠実に再現するだけでなく、4人のヴォーカルも、当時の彼らを連想させるような、甘く爽やかな、ポップスのスタイルに寄せている。往年の名曲と彼らの輝きは、今も色あせていないことに気づかせてくれる名カヴァーだ。

また、この曲とは異なる手法でオリジナルを忠実に再現したのが、SWVが92年に発表した”Right Here ”のカヴァー。本作では、93年にリリースしたリミックス・ヴァージョンをベースにしているが、原曲でサンプリングしているマイケル・ジャクソンの”Human Nature”の音源は使わず、シンセサイザーなどを使ってイチから作っている。SWVのヴァージョンでは、ココ達の若く溌剌とした歌声が印象的だったが、今回のカヴァーでは成熟した4人の豊かな表現力と滑らかなハーモニーで、流麗なメロディの魅力を強調している。原曲ではマイケル・ジャクソンの声を使っているパートも、メンバーがマイケルそっくりに歌っているなど、凝った作りが面白い。

そして、本作の目玉といっても過言ではないのが、ボーイズIIメンが92年にリリース。総合チャートで13週連続1位を獲得し、92年のナンバー・ワン・ヒットになった”End of the Road”のカヴァーだ。ベイビーフェイスの手によるロマンティックなメロディと、メンバーの力強い歌声と高い技術力を生かしたダイナミックなアレンジが魅力のバラードを、原曲に忠実な形でカヴァーしている。オリジナル同様、キーボードなどを使ったきらびやかな伴奏と、年季を重ねてスケールが大きくなった4人のヴォーカルが堪能できる本格的なバラード。90年代の彼らを知る人が聴いたら、その進化に驚くと思う。

今回のカヴァー・アルバムは、彼ら自身も何度となく耳にしてきたであろう90年代の楽曲を中心に取り上げているだけあって、その完成度は非常に高い。しかも男性ヴォーカル・グループの作品だけでなく、男性ソロ・シンガーや女性グループ、キッズ・グループの作品も取り上げるなど、その守備範囲は生半可なものではない。これらの曲をアレンジも含め忠実に再現し、さらに自分達の色も盛り込めたのは、ロック・シンガーとして活躍していたゲイリーやアンドリュー達、各メンバーの努力の賜物だと思う。

90年代に活躍したポップ・グループの手によって、彼らが腕を磨き、飛躍していった時代の音楽を現代によみがえらせた。魅力的なカヴァー・アルバム。気にある曲があったら、ぜひ元ネタを検索して欲しい。豊かで奥深い、90年代のR&Bが思う存分堪能できると思う。

Producer

Gary Pinto, Andrew De Silva

Track List
1. If I Ever Fall In Love
2. She's Got That Vibe
3. Every Little Step
4. Right Here
5. The Floor
6. This Is How We Do It
7. End of the Road
8. Just Got Paid
9. I Want Her
10. All My Life
11. 90's Chill Medley [Can We Talk, That’s the Way Love Goes, I Like the Way (The Kissing Game), Candy Rain]





Deni Hines - Soul Sessions [2016 Bitchin' Productions]

70年代から80年代にかけて多くのヒット曲を残したシンガー、マルシア・ハインズを母に持ち、自身も早くからバック・コーラスやR&Bグループ、ロックメロンズなどの活動で頭角を現してきた、シドニー出身のシンガー・ソングライター、デニ・ハインズことデニ・シャロン・ハインズ。

90年代に入ると、オーストラリアのインディペンデント・レーベル、マッシュルーム・レコードと契約。同レーベルから96年に発表したソロ・デビュー曲”Imagination”と、同曲を収めたフル・アルバムが各国でヒットした。特に、アルバムはイアン・グリーンやマーティン・ウェアといった英国の有名プロデューサーを起用し、ロンドンで録音されたこともあり、UKソウルの傑作と評されることもあった。

その後は、2015年までに2枚の編集盤を含む5枚のアルバムを発売。2006年には母マルシアとのデュエット曲”Stomp”を発表して話題を読んだ。また、2008年以降はツアーと並行してテレビ番組などの仕事も担当。母同様、様々な分野で活躍していた。

そして、彼女にとって10年ぶりの新作となるこのアルバム。2006年にリリースしたジェイムス・モリソンとのコラボレーション作『The Other Woman』以来となる新作は、新旧のソウル・クラシックと、彼女が過去に発表した曲。そして新曲を含んだもの。オーストラリア国内のスタジオで、同国のミュージシャン達と録音した本作は、人間にしか出せない繊細な表現と、彼女のダイナミックな歌唱が光る本格的なソウル作品になっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、テキサス州フォート・ワース出身のサックス奏者、キング・カーティスの67年のヒット曲”Memphis Soul Stew”と、ルーファス&チャカ・カーンが74年に発表した大ヒット曲”You Got The Love”のメドレー。ワイルドで泥臭いサウンドが魅力の前者で、往年のソウル・ミュージックを懐かしむ人達の心を惹きつけながら、洗練されたサウンドとパワフルなヴォーカルで彼女達の世界へと一気に引き込む構成に圧倒される。彼女の歌は、10年の時を経て、さらに進化したようだ。

そして、これに続く”What About Love”は、アルバムに先駆けて発表された彼女の新曲。力強いドラムの演奏から始まる曲は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの”Everyday People”を彷彿させる、軽快な演奏が心地よいアップ・ナンバー。ポップなメロディを力強い歌唱で本格的なソウル・ミュージックに生まれ変わらせるデニのヴォーカルも魅力的。

また、2017年にシングル化されたもう一つの新曲”I Got Your Back”は、彼女がロックメロンズ時代にカヴァーしたビル・ウィザーズや、彼と同じ時代に活躍したジャクソン5などを思い起こさせる、ポップで柔らかい音色の伴奏と、ふくよかで滑らかな歌声が心地よいミディアム・ナンバー。しなやかなメロディのR&Bや、パワフルな歌声を響かせるバラードが多かった彼女なので、この曲で見せるチャーミングな歌声はちょっと意外に感じる。

だが、本作の主役はなんと言ってもカヴァー曲。アレサ・フランクリンの”Rock Steady”や、その妹アーマ・フランクリンの”Piece of My Heart”といった、女性歌手が歌うソウル・クラシックから、ホイットニー・ヒューストンの”Exhale”や、ジル・スコットの”A Long Walk”のような、比較的最近のシンガーの曲、そして、マイケル・ジャクソンの”P.Y.T. (Pretty Young Thing)”やスティーヴィー・ワンダーの”Jesus Children of America”といった男性シンガーの曲まで、幅広く取り上げている。いずれの曲も、器用な歌唱と力強い歌声、彼女を支えるバンド・メンバーのテクニックが光っているが、この中でも特に強烈な印象を残したのが、マイケル・ジャクソン”P.Y.T. (Pretty Young Thing)”のカヴァー。2002年にモニカが”All Eyes On Me”でサンプリングで再び脚光を浴びた、ポップで軽快なダンス・ナンバーだが、彼女は原曲の雰囲気を損ねることなく。グラマラスな歌声でパワフルに歌い上げている。

今回のアルバムでは、ソウル・クラシックス、90年代以降のR&B、ポップス寄りの曲、そして自身の曲をバランスよく選んで、曲調にバラエティを持たせつつ、名うての演奏者達による伴奏で、楽曲に安定感と豊かな表情を与えている。そして、最大の強みは彼女のヴォーカル。デビュー当時から芯の強く、しなやかな歌声が魅力的だったが、ジャズに取り組むなど、キャリアを重ねる中で、その表現の幅は大きく広がり、ディープなソウル・ナンバーや軽快なディスコ音楽まで、あらゆる音楽を自分の色に染め上げられる技を獲得している。

年齢を重ねるごとに、新しい一面を見せ続ける、ベテラン・ディーヴァの本領が発揮された佳作。原曲を知る人にも知らない人にも楽しめる、新しいタイプのカヴァー・アルバムだ。

Producer
Insider Trading & Eddie Said

Track List
1. Memphis Soul Stew / You Got The Love
2. Rock Steady
3. What About Love [Album Version]
4. P.Y.T. (Pretty Young Thing)
5. I Got Your Back
6. Been So Long
7. Exhale
8. A Long Walk
9. Runnin'
10. Piece of My Heart
11. Jesus Children of America
12. If





ザ・ソウル・セッションズ
デニ・ハインズ
Pヴァイン・レコード
2016-11-16


Nick Murphy - Missing Link EP [2017 Future Classic]

幼いころから、ジャズを中心に色々な音楽を聴いて育ち、成長すると次第に自分でも曲を作るようになったという、オーストラリアのメルボルン出身のシンガー・ソングライターでクリエイターの、ニック・マーフィーことニコラス・ジェイムス・マーフィー。

2011年には、チェット・フェイカーの名義で、ブラックストリートの96年のヒット曲をカヴァーした”No Diggity”を発表。90年代を代表するR&Bクラシックを、電子音楽とソウル・ミュージックの手法を用いてリメイクしたこの曲は、多くの音楽情報サイトで取り上げられ、2013年にはスーパーボールの中継で流されるCMソングにも採用された。

そして、2012年には同名義で初のEP『Thinking in Textures』をリリース。インディペンデント・レーベル発の作品ながら、世界各地でヒット。日本を含む複数の国でCDやアナログ・レコードが発売された。

その後も、アメリカ人シンガー、キロ・キッシュをフィーチャーしたシングル”Melt”や、自身がヴォーカルを執った”Talk Is Cheap”など、多くの曲を発表。オーストラリアのヒット・チャートに頻繁に登場する売れっ子ミュージシャンになった。また、2014年には初のフル・アルバム『Built on Glass』を発表。こちらはオーストラリアのヒット・チャートで1位を獲得、年間チャートでも12位に名を連ね、プラチナ・ディスクを取得した大ヒット作となった。

また、同作が成功した後は、オーストラリア国内を中心に、ツアーで多忙な日々を過ごす一方、精力的に新作を発表している。特に、2016年以降は、チェット・フェイカーの名義と並行して、ニック・マーフィーとしても、シングルを2枚リリースしている。

今回のアルバムは、ニック・マーフィーの名義で発売された初のEP。上述のシングルに収められている2曲は入っていない、新曲だけの作品となっている。

本作の目玉といえば、なんといっても、アルバムのオープニングを飾る”Your Time”だ。電子音楽にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた、2016年のアルバム『99.9%』も記憶に新しい、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダとコラボレーションしたこの曲。電子音を重ね合わせ、エフェクトをかけた幻想的なトラックと、カート・コヴァーンを彷彿させるニックの殺伐としたヴォーカルが印象的なミディアム・ナンバー。ケイトラナダの温かい歌声が、楽曲のアクセントになっている。

これに対し、2曲目の”Bye”は、強烈なエフェクトをかけた荒々しいギターとシンセサイザーの音色が、ジミ・ヘンドリックスやファンカデリックなどのサイケデリック音楽を思い起こさせるミディアム・ナンバー。1分弱の短い曲だが、鮮烈な印象を残している。

一方、ポコポコというテクノ・ポップっぽい電子音を使ったアップ・ナンバー”I’m Ready”は、彼の退廃的なヴォーカル・スタイルを活かした曲。レディオヘッドなどを連想させる、物悲しい雰囲気のメロディと、耳に刺さるような鋭いシンセサイザーの音色の組み合わせが格好良い。ニックのグラマラスな声が、ロックで多用されるメロディ・ラインをソウル・ミュージックのように聴かせている。

また、4曲目の”Forget About Me”は、太いシンセ・ベースやリズム・マシンの音色を使ったトラックが、ニュー・オーダーやデュラン・デュランのような、80年代に活躍したロック・ミュージシャンを思い起こさせる、モダンなアップ・ナンバー。地声を織り交ぜたワイルドな歌声も魅力的だ。

そして、アルバムの最後を締める”Weak Education”は、サックスの音色と電子音を絡めた、モダンだけど温かいトラックが、ティミー・トーマスの”Why Can't We Live Together”を思い起こさせる曲。ロー・ファイな音色を使った四つ打ちのビートが、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを連想させる。懐かしさと新鮮さが織り交ざった曲だ。

新しい名義でのリリースになっても、色々な音楽を取り入れて、自分の作風に昇華させるスタイルは変わらない。今回のアルバムを聴く限り、ヒット曲を、新作への期待に押しつぶされたり、周囲の目を意識しすぎて萎縮したりすることなく、雑駁なようで緻密な、聴き慣れたようで斬新な、不思議な音楽を聴かせている。

エレクトロ・ミュージックをベースにしつつ、ロックやフォーク、ソウルやジャズのエッセンスを詰め込み、一つになるまで煮詰めた、濃密な音楽を揃えた魅力的なアルバム。広く浅く、色々な音楽を聴く人なら思わずニヤリとする、一つのジャンルを深く突き詰めて聴く人には新鮮な、面白い作品だと思う。

Producer
Nick Murphy

Track List
1. Your Time feat. Kaytranada
2. Bye
3. I’m Ready
4. Forget About Me
5. Weak Education






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