ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

ゴスペル

Sir The Baptist - Saint or Sinner [2017 Atlantic]

過去にはサム・クックやカーティス・メイフィールドなどの名シンガーを育て、近年はカニエ・ウエストやチャンス・ザ・ラッパーなどの人気ヒップホップ・アーティストを輩出している、イリノイ州最大の都市シカゴ。同地の出身で気鋭のラッパー兼プロデューサーとして注目を集めているのが、サー・ザ・バプティストこと、ウィリアム・ジェイムス・ストークスだ。

シカゴ近郊のブロンズビルで、バプテスト教会の牧師の父と宣教師の母の間に生まれた彼は、6歳のときにピアノを始め、10歳になるとドラムも叩くようになる。また、父親が運営する教会でゴスペルにも親しむなど、恵まれた環境でその才能を伸ばしてきた。そんな彼は、10代のころから映画やCM用の音楽などを制作するなど、その実力を発揮するようになる。

大学を卒業した後は、広告会社のマーケティング・ディレクターとして、音楽プロデューサーのロドニー・ジャーキンスと一緒にマクドナルドの案件を担当するなど、多くのプロジェクトに関わるようになる。しかし、26歳の時にミュージシャンに転身。2015年にチャーチPplをフィーチャーした自主制作のシングル”Raise Hell”を発表する。R&Bやヒップホップに、ゴスペルや説法の要素を盛り込んだ斬新なスタイルは音楽ファンの度肝の抜き、翌年のベット・アワードで「インパクト・トラック・オブ・ザ・イヤー(最もインパクトのあった曲)」にもノミネートした。

また、2016年には、アルバム未発売の新人ながら、多くの音楽フェスティバルやテレビ番組に出演。そこで知り合ったジェイZから高く評価され、彼が主催する音楽ストリーミングサイト「TIDAL」のイベントや、彼の妻であるビヨンセの公演のオープニング・アクトなどに起用されるなど、多くの人の目に留まる場へも進出するようになった。

本作は、そんな彼にとって初のフル・アルバム。彼の代表曲である”Rise Hell”を再録音したものや、2016年に発表したシングル”What We Got”を収録しているほか、ミシェル・ウィリアムズやキキ・ワイアット、キラー・マイクやレイJといった人気ミュージシャンがゲストに名を連ねる豪華なアルバムになっている。

さて、収録曲の中で一番最初に公開されたのが2曲目に入っている”Raise Hell”だ。アトランタ出身のラッパー、キラー・マイクが参加した新バージョンで、トラックもコーラスなどを追加し音のバランスを変えることで、ビートの躍動感やゴスペルのダイナミックさが強調されている。アウトキャストやオーガナイズド・ノイズの作品を彷彿させる、原曲のローファイなビートとロックの要素を盛り込んだアレンジのおかげで、キラー・マイクのラップが最初から入っていたように聞こえる点も面白い。

一方、カーク・フランクリンやクラーク・シスターズなどのゴスペル作品を手掛け、メアリーJ.ブライジやケリー・プライスなどのR&B作品にも携わってきた、シンガー・ソングライターでプロデューサーのドナルド・ロウレンスとコラボレーションした”Raise Hell”は、ギターの演奏やクワイア、コール・レスポンスなどを取り入れた、ゴスペル色の強い曲。曲の途中でビートを変え、歌とラップを違和感なく繋ぐアレンジ技術が光っている。

また、ミシェル・ウィリアムズをフィーチャーした”Southern Belle”は、ピアノの伴奏と、武骨な歌声が格好良いミディアム・ナンバー。ゆっくりとしたテンポのビートに乗って、ラップと歌をスムーズに繋ぐスタイルは、ドレイクとも少し似ているが、こちらの方がヴォーカルが太く、メロディもダイナミック。絶妙なタイミングで絡むミチェルのヴォーカルや、サビを盛り上げるクワイアも格好良い。歌詞がゴスペルのような内容のゴスペル・ラップという音楽はあるが、ゴスペルとヒップホップのが完全に融合した曲は珍しく、新鮮に聴こえる。

そして、本作では異色の、ディスコ音楽の要素を取り込んだ曲が、レイJトジョーダン・ミッチェルが参加した”Replay”だ。洗練されたビートと滑らかなヴォーカルはタキシードブルーノ・マーズの作品を思い起こさせる。曲の途中でビートを止めたり、ワザと粗っぽい声で歌ったりして、曲にメリハリをつけている点も面白い。ゴスペルの要素もきちんと盛り込みつつ、キャッチーでセクシーなディスコ音楽に纏め上げている。

今回のアルバムは、リル・ヨッティブライソン・ティラーのような、気鋭の若手と比べても見劣りしない斬新なトラックを土台に、ドレイクやパーティネクストドアのように歌とラップの両方を巧みに使い分けつつ、随所にゴスペルや説法の要素を盛り込んだ、クリスチャン・ミュージックが盛んなアメリカでも珍しい作品だ。こんな音楽を作れるのは、彼がマーケティングの仕事を通して、色々な要素を盛り込みつつ、要点を漏れなくリスナーに届ける編集技術を身に着けてきたのが大きいのではないかと思う。

音楽に関する豊富な経験と、ビジネスの場で磨かれた流行を読み解くセンス、両者を組み合わせて一つの作品に落とし込む実務能力の三つが揃ったことで完成した、新しいタイプのヒップホップ作品。カニエ・ウエストやチャンス・ザ・ラッパーのように、音楽界に新しい風を吹き込んでくれそうだ。

Producer
Sir the Baptist, Greg Peterca

Track List
1. Prayers on a Picket Sign
2. Raise Hell feat. Killer Mike & ChurchPpl
3. What We Got feat. Donald Lawrence & Co. and ChurchPpl
4. Southern Belle feat. Michelle Williams
5. Deliver Me feat. Brandy
6. God Is on Her Way
7. Dance With the Devil
8. Saint or Sinner
9. High With God feat. DC Young Fly
10. Marley's Son
11. Good Ole Church Girl feat. The Deacons
12. Replay feat. Ray J & Jordan Mitchell
13. Let It Move Yah
14. Second Line Ball
15. The Wall
16. Heaven feat. Donald Lawrence & Co, Keke Wyatt and ChurchPpl



a

Saint or Sinner [Explicit]
Atlantic/Tympa Chapel Records
2017-05-12

CeCe Winans - Let Them Fall in Love [2017 Pure Springs Gospel]

スティーヴィー・ワンダーやダイアナ・ロスを輩出したことでも知られる、モータウン・レコードなどがオフィスを構えていたミシガン州の音楽の都デトロイト生まれ。ゴスペル・グループとして大成功を収めたワイナンスや、P.ディディ率いるバッド・ボーイからR&Bシンガーとしてデビューしたマリオ・ワイナンスなど、多くのシンガーやソングライターを輩出してきた音楽一家のワイナンス・ファミリーで育ち、自身も単独名義で9枚、兄のビービー・ワイナンスことベンジャミン・ワイナンスとのデュオ名義で7枚のオリジナル・アルバム(クリスマス・アルバムを含む)を発表してきた、シンガー・ソングライターのシーシー・ワイナンスこと、プリシラ・マリー・ワイナンス。彼女にとって2010年の『Songs of Emotional Healing』以来、約8年ぶりの新作となる通算10枚目のアルバムが本作。

彼女はこれまでに、グラミー賞のゴスペル部門や、ゴスペル界のグラミー賞とも例えられるステラ・アワードなどを何度となく獲得してきた、同業界のトップ・ランナー。そんな彼女の強みは、R&Bやソウル・ミュージックのトレンドを巧みに取り入れて、常に新鮮な作品を提示し続けている点だろう。今回のアルバムでも、過去の作品の路線を踏襲した、世俗音楽の録音にも負けないポップでバラエティ豊かな音楽を聴かせてくれる。

アルバムの1曲目”He's Never Failed Me Yet”はピアノの伴奏に乗せて彼女が美しい歌声を張り上げるミディアム・ナンバー、シンプルな伴奏と主役の歌声だけで勝負したゴスペル作品というと、アレサ・フランクリンのライブ・アルバム『Amazing Grace』を思い出してしまうが、彼女にも負けず劣らずの力強く、流麗な歌声が楽しめる。中盤以降に流れるオーケストラの上品で雄大な演奏も、彼女の可愛らしい歌声を引き立てている。

続く”Run To Him”は、ディオンヌ・ワーウィックの代表曲”I Say a Little Prayer”にも通じる、ポップで爽やかなアップ・ナンバー。ハンド・クラップやパーカッションを駆使したリズム・セクションや、小川のせせらぎのように軽やかなストリングスが楽曲に軽妙さを与えている点も面白いが、ディオンヌ・ワーウィックのように繊細で可憐な歌声を聴かせるプリシラの歌唱も前曲と対照的で面白い。それ以外では、ゴスペルの醍醐味ともいえる、大人数のゴスペル・クワイアを、楽曲のアクセントに使うアレンジ技術にも注目してほしい。

一方、多くの人がイメージするゴスペル像を形にしたのが、クラーク・シスターズをフィーチャーしたシングル曲”Hey Devil!”だ。1960年代から活動する、ワイナンス一家にも負けず劣らずの名門ファミリー・グループとして知られる、彼女達とコラボレーションしたこの曲は、オルガンやパーカッションを活用した軽妙な伴奏と、力強いコール&レスポンスを含むダイナミックな歌唱が堪能できる。ゴスペルの王道といっても過言ではない楽曲。起伏の激しいトラックに合わせて色々な表情を見せるベテラン・シンガー達の、老練な姿が印象的。スピーカーの音量をマックスに上げて、彼女らが放つ音の波に飲み込まれてほしい。

これに対し、彼女自身の歌唱力に光を当てたのが、もう一つのシングル曲”Never Have To Be Alone”だ。ピアノやギターを軸にしたシンプルな演奏をバックに、語り掛けるように歌う序盤から、全てを包み込むような勢いでダイナミックな歌声を響かせるクライマックスに続く展開は、”ボディガードのテーマ”としても有名になった”I Will Always Love You”でホイットニー・ヒューストンが見せた、クールだけど力強いパフォーマンスを彷彿させる。彼女の確かな実力を感じさせる傑出したバラードだ。

今回のアルバムも、過去の作品同様、流行のサウンドやメロディを取り入れた、親しみやすい作風にまとまっている。だが、本作の面白いところは、R&Bの流行を意識しつつ、ディオンヌ・ワーウィックやアレサ・フランクリン、ホイットニー・ヒューストンといった、R&Bやソウル・ミュージックの歴史を彩った名シンガーの作風を大胆に取り込んだ点だと思う。もちろん、キキ・ワイアットやリーラ・ジェイムスが往年のソウル・クラシックをカヴァーしたアルバムを発表したように、昔の名曲を評価する動きは以前からあるが、彼女のように新作でクラシックの要素を取り込む発想は、ちょっと大胆だと思う。

いつまでも廃れない往年の名曲のエッセンスを取り入れつつ、2017年の新しい音楽として纏め上げたセンスと歌唱力は、流石としか言いようがない。ゴスペルに興味を持った人にはもちろん、R&Bやヴォーカル作品に興味を持っている人はぜひ聴いてほしい。歌の奥深さに圧倒されると思う。

Producer
Alvin Love, Tommy Sims

Track List
1. He's Never Failed Me Yet
2. Run To Him
3. Hey Devil! feat. The Clark Sisters
4. Peace From God
5. Why Me
6. Lowly
7. Never Have To Be Alone
8. Dancing In The Spirit feat. Hezekiah Walker And The Love Fellowship Choir
9. Marvelous
10. Let Them Fall In Love





Let Them Fall in Love
Cece Winans
Pure Springs Gospel
2017-02-03

 
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