ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

ジャズ

Misia - MISIA SOUL JAZZ SESSION [2017 Ariola, Sony]

1998年にシングル”つつみ込むように...”でメジャー・デビューすると、レコード店やラジオなどを中心に大ブレイク。同年に発表された初のアルバム『Mother Father Brother Sister』は250万枚を売り上げるヒット作になり、宇多田ヒカルや小柳ゆきともに、日本にR&Bブームを巻き起こした、長崎出身のシンガー・ソングライター、ミーシア。

その後も、”Everything”や”眠れぬ夜は君のせい”などのヒット曲を送り出す一方、2010年の南アフリカ・ワールド・カップでは”MAWARE MAWARE ”をオフィシャル・ソングとして提供。2017年に入ってからも、映画「シング」の日本語吹替え版で、内気な象の少女ミーナ役を担当し、劇中ではスティーヴィー・ワンダーの”Don't You Worry 'bout a Thing”などを歌い上げるなど、「歌」がメイン・テーマの同作を盛り上げた。

このアルバムは、2016年の『Love Bebop』以来、約1年半ぶりの新作。2016年に『Blue Note Jazz Festival in Japan 』で共演したトランペッターの黒田卓也を迎えて制作された、彼女にとってソウル・ジャズ・アルバム。実力に定評のある面々を揃えた、黒田率いるバンド・メンバーの演奏をバックに、彼女の持ち味であるパワフルなヴォーカルと豊かな表現力を惜しげもなく披露している。

アルバムのオープニングを飾るのは、99年にリリースされたシングル曲”BELIEVE”。彼女自身が作詞を、佐々木潤が作曲を担当したミディアム・ナンバーのリメイクは、原曲よりも重くゆったりとしたビートの上で、じっくりと歌い込む姿が印象的だ。年齢を重ねても声量や表現力が安定している点も驚きだが、オリジナルに比べて一つ一つの言葉を丁寧に歌う緻密さが増した点も見逃せない。華やかなホーン・セクションやキーボードの伴奏も、彼女のグラマラスな歌声の良さを引き出している。

続く”来るぞスリリング”は、本作が初出の新曲。キヨシが作詞、林田健司が作曲したこの曲は、ジャズ・ギタリストとしても活躍しているラウル・ミドンがゲスト参加したアップ・ナンバー。勇壮なホーン・セクションや荒々しいパーカッションを響かせるバック・バンドが格好良い、ラテン色の強い曲だ。ダイナミックな演奏にあわせて、緩急を効かせた歌声を響かせるミーシアの存在感が光っている。日本人の琴線を突く歌謡曲のメロディと、インコグニートを彷彿させるジャズやソウルが融合したサウンド、そしてミーシアの豊かな表現力が合わさった名演だと思う。

また、テレビゲーム「信長の野望・大志」のテーマ曲として作られた新曲”運命loop” は”来るぞスリリング”と同じキヨシ&林田健司のコンビが手掛けた作品。インコグニートを思い起こさせるジャズとソウルが融合したサウンドは”来るぞスリリング”とよく似ているが、こちらは明るく洗練された雰囲気の曲。戦国時代を舞台にしたテレビ・ゲームのテーマ曲だが、曲調は現代のUKソウルっぽい。マーカス・ミラーの演奏がソウルフルなアレンジを引き立てている点も見逃せない。

それ以外の曲では、甲斐バンドが77年に発表した”最後の夜汽車”のカヴァーが面白い。しっとりとしたメロディの歌謡バラードを、なめらかでふくよかな歌声を駆使して丁寧に歌い上げている。ビートは抑え気味の、ヴォーカルを強調したアレンジだが、歌謡曲っぽさはあまり感じない。上田正樹やオリトのような、黎明期のジャパニーズR&Bにも通じる、絶妙なバランスが光る佳曲だ。

今回のアルバムでは、彼女のヒット曲から往年の名曲のカヴァーまで、色々なタイプの演奏を収録しているが、散漫な印象は感じられない。彼女の高い歌唱力や、黒田卓也を中心としたバンド・メンバーの絶妙なアレンジ技術も大きいと思うが、それ以上に大きいのは、彼女の代表曲に多い壮大なスケールのバラードが収録されていないことだと思う。バラード自体は取り上げているものの、「キャリア発のソウル・ジャズ・アルバム」という本作のコンセプトに合致したものに留め、手を広げすぎなかったことが本作に統一感を与えているのだと思う。

高い歌唱力を活かしつつ、本格的なバンド・サウンドを取り入れることで、成熟した大人向けのソウル・ミュージックに仕立て上げた傑作。海外産のポップスを愛聴している人には日本産の音楽のレベルの高さを、邦楽が好きな人には、音楽の世界の奥深さを教えてくれる、魅力的なアルバムだと思う。

Track List
1. BELIEVE
2. 来るぞスリリングfeat.Raul Midon
3. 真夜中のHIDE-AND-SEEK
4. 運命loop feat.Marcus Miller
5. オルフェンズの涙
6. It's just love
7. The Best of Time
8. 陽のあたる場所
9. 最後の夜汽車





MISIA SOUL JAZZ SESSION
MISIA
アリオラジャパン
2017-07-26

Liz Aku - Ankhor [2017 Sonar Kollective]

ドイツのプロダクション・チーム、ジャザノバがベルリンに設立した音楽レーベル、ソナー・コレクティブ。同社が新たに送り出したのは、ベルギーのゲント出身のシンガー・ソングライター、リズ・アクだ。

彼女の武器は、強くしなやかな歌声と、高い技術を誇るバンド・メンバーによる繊細だが強靭なサウンド。そんな彼女は、シャーデーを彷彿させる神秘的な雰囲気と、ビラルやディアンジェロを連想させる、ジャズやヒップホップを取り込んだ作風で人気のシンガーだ。

本作は、彼女にとって初のフル・アルバム。マオリ族のサイケデリック・ロック・ミュージシャン、ビリーTKの息子で、自身も電子音楽の作品を数多く残している、ニュージーランド出身のプロデューサー、マラTKとの共同プロデュース作品だ。また、バンド・メンバーには、ピアノのデイヴィッド・ソーマエレや、ベースのジュアン・マンセンスなど、実力に定評のある面々を揃えている。

アルバムの1曲目”The Drum Major Instinct”は、マラTKをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。セルジュ・ヘルトージュのしっとりとしたギターの演奏と、マラTKが生み出す電子音を組み合わせ、フォーク・ソングの素朴さとR&Bの洗練されたサウンドを両立している。リズの涼しげな歌声が、透き通った音色の伴奏を際立たせている。

また、”Secret Change”は、ジュアンのベースとジョルディ・ギーエンズのドラムが生み出す変則的なビートと、マラTKが生み出すエレクトロ・サウンドが一体化した、クレイグ・デイヴィッドのアルバムに入っていそうなガラージ色の強い曲。バンドによる演奏と、柔らかい音色のシンセサイザーを多用することで、癖のあるトラックを聴きやすくしている点も面白い。音数を減らしメロディをシンプルにすることで、ビートの衝突を避けながら、歌声をきちんと聴かせているヴォーカルのアレンジも魅力的だ。

そして、ズールー・ムーンを招いた”Ankhor”は、デイヴィッドの美しいピアノの演奏から始まるミディアム・ナンバー。古いレコードからサンプリングしたような、温かい音色を使ったビートと、ポロポロと鳴り響くピアノの伴奏が切ない雰囲気を醸し出している。ラップを交えつつ、気怠そうに歌うリズの歌唱は、エリカ・バドゥやアンジー・ストーンにもよく似ている。エリカ・バドゥやディアンジェロのような、ソウルとヒップホップを融合させた音楽をより洗練させたような印象を受ける曲だ。

それ以外にも、見逃せない曲が”Hunger”だ。電子音を多用したきらびやかな伴奏と、ヒップホップのビートを組み合わせたトラックが印象的な、ミディアム・ナンバー。サーラ・クリエイティブ・パートナーズやプラチナム・パイド・パイパーズを連想させる先鋭的なビートと、荒々しい歌唱の組み合わせは、ジョージ・アン・マルドロウの音楽を彷彿させる。本作の収録曲では異色だが、とても格好良い曲だ。

彼女の魅力は、透き通った歌声を活かしたしなやかなヴォーカルと、ジャズやソウル、ヒップホップや電子音楽を混ぜ合わせた先鋭的だけど聴きやすいサウンドだと思う。フォークソングと電子音楽を混ぜ合わせたり、生バンドにガラージの要素を取り入れたり、ヒップホップの手法を取り入れたりと、色々なスタイルに挑みながら、自身の持ち味である、流麗で洗練されたヴォーカルに個性を加えている。その手法は、エリカ・バドゥやインディア・アリーにも似ているが、エリカよりもシンプルで聴きやすく、アリーよりも個性的という、ありそうでなかったものだ。

ヒップホップや電子音楽の手法を取り入れて、感性の鋭い若者にアピールしつつ、緻密で洗練された演奏技術によって、大人の鑑賞にも耐えうる作品に纏め上げている。コンピューターと生演奏を対立項にするのではなく、両者を上手に使い分けることで新鮮で優雅な音楽に仕立てた、大人のための新しいR&B作品だと思う。

Producer
Liz Aku, Mara TK etc

Track List
1. The Drum Major Instinct feat. Mara TK
2. Slowly
3. Deceive The Mind
4. Seasons Change
5. Secrets Die
6. Flight & Fall
7. Just What I Need
8. Ashamed
9. Hiding Alone
10. Ankhor feat. Zulu Moon
11. Hunger
12. Breathing Underwater feat. Mara TK





Ankhor
Sonar Kollektiv
2017-05-05

Selina Albright - Conversations [2017 Selina Albright]

80年代後半から90年代にかけて、スムース・ジャズ界の名サックス・プレイヤーとして活躍していたジェラルド・アルブライトを父に持ち、自身もジャズ・シンガーとして活動してきたコロラド州デンバー出身、現在はテキサス州ダラスを拠点に活動するシンガー・ソングライター、セリーナ・アルブライト。彼女にとって初めてのフル・アルバムにして、初の本格的なR&B作品。

本作が初のフル・アルバムといっても、2000年代後半から父の録音でヴォーカルを務め、2013年には自身名義のシングル『Brighter』がイギリスのソウル・ミュージック・チャートで4週連続で1位を取るなど、実績豊富な彼女。このアルバムでは、エラ・フィッツジェラルドやダイナ・ワシントンと並んで、ホイットニー・ヒューストンやレイラ・ハザウェイから影響を受けてきたと公言している彼女らしい、ダイナミックなヴォーカルを聴かせている。

アルバムの1曲目はエリック・ロバーソンやカーク・フランクリンなどの作品を手掛けてきたジェイムス・ロバーソンとの共作による”Eat Something”。ジェニファー・ハドソンの”Why Is It So Hard”や、キキ・ワイアットの”Tap Out”など、多くの有名ミュージシャンのレコーディングに携わっている日本人ギタリスト、松野啓太が奏でる甘く艶っぽい音色のギターで幕を開けるこの曲は、SWVの『New Beggining』や、タミアの『Tamia』といった、90年代後半に流行したR&B作品に収録されていそうな、洗練されたトラックと、起承転結のはっきりとしたしなやかなメロディが印象的なミディアム・ナンバー。流れるようなメロディは、父の作風にも少し似ているが、芯の強い声でじっくりと歌っているあたりは、パワフルな歌声のシンガーを目標にする彼女の持ち味が出ていると思う。

一方、サックス奏者のランディ・エリスをフィーチャーした”If I Were a Boy”は、サックスにパーカッションとギターという、シンプルな編成の伴奏の上で、じっくりと歌い上げたバラード。少し線は細いが、高音を軸にした広い音域と、大胆に強弱をつけた表現は、ビヨンセのそれとよく似ていると思う。

これに対し、ジェイムス・ロバーソンが手掛けたミディアム・ナンバー”Victim”は、コンピューターを駆使して作られたモダンなビートの上で、力強い歌声を響かせた曲。スマートだが力強い歌声や、起承転結のはっきりしたメロディは、ブランディやモニカといった90年代に音楽シーンを席巻した女性シンガー彷彿させるが、重低音を効果的に使ったトラックのおかげで、2017年の新しい音楽に聴こえるから面白い。

そして、本作のハイライトと言っても過言でないのが、父であるジェラルド・アルブライトを招いた”Let Go”、ウィル・ダウニングやシャンテ・ムーアなど、多くの実力派シンガーに曲を提供してきたクリス”ビッグ・ドック”デイヴィスがペンを執った曲は、ドラムやベースとキーボードを使った、シンプルなトラックの上で、大人の色気をみせる流麗なミディアム・ナンバー。中盤以降に絶妙なタイミングでしなやかな演奏を聴かせるジェラルドの存在が、楽曲のロマンティックな雰囲気を盛り上げている。

今回のアルバムは、彼女が敬愛するシンガーの一人に挙げた、レイラ・ハザウェイの近作に近い路線の、シンプルで無駄のない伴奏と、洗練されたメロディが光る、大人向けの作品に仕上がっている。そんな彼女の作品の面白いところは、R&Bと並行してジャズも歌ってきた経験を活かして、複雑な表現とパワフルなヴォーカルを両立している点だと思う。

シャンテ・ムーアやレイラ・ハザウェイの流れを汲む、力強い歌声と洗練された表現力が魅力の本格的なR&B作品。女性ヴォーカルの美しい歌声を思う存分堪能できる数少ないアルバムだと思う。

Producer
Selina Albright, James Roberson, Chris "Big Dog" Davis

Track List
1. Eat Something
2. Possible
3. If I Were a Boy
4. Talk to Her
5. Highest High
6. Wifey Anthem (You Don't Have to Fight at Home)
7. Search My Name
8. Victim
9. Let Go
10. Uncharted Love






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