10代のころ、魚の加工場のアルバイトで貯めたお金を元手にDJ機材を購入。エレクトロ・ミュージックのDJとしてキャリアをスタートした、スコットランドのダムフリーズ出身のDJ兼プロデューサー、カルヴィン・ハリスこと、アダム・リチャード・ウィリス。

その後、ロンドンに移住し、プロとしてのキャリアをスタート。また、次第にDJと並行してインターネット上に自作曲やDJミックスを発表するようになり、気鋭のクリエイターとして注目を集めるようになる。そして、最終的にはEMI、ソニーBMG、スリー・シックス・ゼロの3社と契約を結ぶに至る。

2007年にアルバム『I Created Disco』でメジャー・デビューすると、同作はイギリスのアルバム・チャートで8位を獲得、ゴールド・ディスクに認定され、同国のトップDJの一人として知らぬものはいない存在になる。そんな彼は、2012年に発売した3枚目のアルバム『18 Months』が複数の国でゴールド・ディスクに認定(うちイギリスとオーストラリアはプラチナ・ディスクを獲得)される大ヒット。リアーナに提供して各国のヒットチャートで1位を獲得した”We Found Love” や、ニーヨを起用した”Let's Go”など、多くのヒット曲を送り出し、彼の名を世界に轟かせた。

今回のアルバムは、前作『Motion』から約3年ぶりとなる、通算5枚目のオリジナル・アルバム。フランク・オーシャンファレル・ウィリアムス、ニッキー・ミナージュやジョン・レジェンドなど、アメリカのヒップホップ、R&B界隈でトップをひた走るアーティストが集結。世界屈指の人気を誇るトップDJの新作にふさわしい、豪華なものになっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、フランク・オーシャンとミーゴスが参加した”Slide feat”。エレクトリック・ピアノの伴奏で幕を開けるこの曲は、フランク・オーシャンの作風に近い、しなやかなメロディとサウンドが心地よいアップ・テンポのR&Bナンバー。アップ・テンポといっても、これまでの作品と比べるとBPMを10以上落としている、彼の録音の中ではゆったりとしたテンポの楽曲だ。シンセサイザーを駆使したモダンなサウンドはフランク・オーシャンの渋い歌声の良さを巧みに引き出しており、往年のソウル・ミュージックの泥臭さと、ニーヨなどの洗練されたサウンドを一つの作品に同居させている。

一方、ジョン・レジェンドとスヌープ・ドッグ、ヤング・サグの3人を招いた”Holiday”は、エレクトリック・ベースとゴムボールのように弾けるドラムの音色が印象的なミディアム・ナンバー。色々な音色を使った、鮮やかで爽やかなエレクトロ・サウンドは、山下達郎の”Sparkle”や、ネプチューンズの”Frontin’”などを連想させる。他の作品同様、変則ビートの上でもペースを崩すことなく飄々と言葉を繋ぐスヌープのラップ・スキルの高さも聴きどころだが、注目して欲しいはハジョン・レジェンドのヴォーカル。ファルセットを多用したヴォーカルは、マーヴィン・ゲイを連想、温かく色っぽいものだ。二人の巨頭に挟まれたヤング・サグもいい味を出している。

また、ニッキー・ミナージュを起用した ”Skrt”は、彼の作品では珍しいレゲトン・ナンバー。ファルセットを多用した可愛らしいヴォーカルと、地声を使った荒々しいラップを使い分けるニッキー・ミナージュの姿は、まるでデュエット曲のようだ。ラテン音楽を取り入れた作品といえば、直近でもDJキャレドの”Wild Thoughts”や、『ワイルド・スピード ICE BREAK』のサウンドトラックに収められているピットブルの”Hey Ma”など、色々なものがヒットしているが、彼女の曲はアメリカのR&Bに近いと思う。3曲を聴き比べしても面白そうだ。

そして、ファレル・ウィリアムスとケイティ・ペリー、ビッグ・ショーンをフィーチャーした”Holiday”は、乾いたギターの音色と、アナログ・シンセサイザーのコンビネーションが光るミディアム・ナンバー。シンセサイザーやギターの音だけ聞くと、ネプチューンズの新作と勘違いしそうな曲だが、レゲトンのビートを盛り込みつつ、スタイリッシュに纏めたアレンジはカルヴィン・ハリスの作風だ。ファレルのヴォーカルはもちろん、ケイティ・ペリーのキュートな歌声も眩しい。暑い季節に似合いそうな曲だ。

このアルバムでは、彼のトレード・マークともいえるEDMの要素は最小限に抑えられ、大部分の曲でヒップホップ、R&Bのアーティストとコラボレーションした作品になっている。21組のゲスト・ミュージシャンのうち、ケイティ・ペリーとジェシー・レイズ以外はヒップホップ、R&B作品をレコーディングしたことのある面々という点も、本作の方向性を端的に示していると思う。その一方で、R&Bやヒップホップのミュージシャンを招きながらも、近年のR&Bで多用される、トラップなどの変則ビートを取り入れず、しなやかで洗練されたフレーズや、ラテン音楽のエッセンス、エレクトリック・ベースやシンセサイザーを取り込んだ作風は、世界各地のステージに立ち、多くの聴衆を熱狂させてきた彼らしい、絶妙なバランス感覚が発揮されていると思う。端的に言えば、ダフト・パンクやマーク・ロンソンのような、リビングとクラブのフロア、そしてロック・フェスの全てに気を配った、全方位的な作品に聞こえるのだ。

エレクトロ・ミュージック界のトップ・クリエイターの独創的な解釈が光る。キャッチーで親しみやすいR&B,ヒップホップ作品。これからの季節に似合いそうな、陽気でポップな佳作だと思う。



Producer
Calvin Harris

Track List
1. Slide feat. Frank Ocean, Migos
2. Cash Out feat. D.R.A.M., PARTYNEXTDOOR, Schoolboy Q
3. Heatstroke feat. Ariana Grande, Pharrell Williams, Young Thug
4. Rollin feat. Future, khalid
5. Prayers Up feat. A-Trak, Travis Scott
6. Holiday feat. John Legend, Snoop Dogg, Takeoff
7. Skrt It feat. Nicki Minaj
8. Feels feat. Big Sean, Katy Perry, Pharrell Williams
9. Faking It feat.Kehlani, Lil Yachty
10. Hard To Love feat. Jessie Reyez






FUNK WAV BOUNCES VOL. 1 [CD]
CALVIN HARRIS
COLUMBIA
2017-06-30