サイケデリック・ロックやフリー・ジャズ、ソウル・ミュージックなどを融合した独特の音楽で頭角を現し、2014年にビースティーボーイズのサポートとしても知られるマニー・マークや、LCDサウンド・システムのジェイミー・リデル、ファラオ・サンダースやチャールズ・ロイドといったジャズ界の大御所らと結成したスーパー・グループ、アトミック・ボム・バンドでは、イギリスの前衛的なロック・サウンドやアフリカのファンク・ミュージックが混ざり合った、個性的な音楽を聴かせてくれた、スーダン系イギリス人のシンガー・ソングライター、シンケインことアーメッド・アブローラ・ギャラッブ(余談だが、ムスリムっぽい名前なのは、スーダンを含む北アフリカ地域にイスラム教徒が多いため)。

一口にイギリスの黒人ミュージシャンと言っても、そのルーツは人によって様々で、シャーデー・アデューやシールのようなナイジェリア系の人もいれば、ガイアナにルーツを持つデズ・リーのような南米系の人、祖先はアンティグア島の人々というソウルIIソウルのジャジーBのようなカリブ系の人など、その系譜は多岐に渡っている。彼らの多くは、自身のルーツと、これまでに触れてきた西欧の文化の両方を取り込みながら、アメリカのミュージシャンとは一味違う、独自の音楽を育んできた。アーメッドの場合も、英国生まれでありながら、スーダンやアメリカなど、色々な国で暮らしてきた経験の中で磨き上げた、西欧のポピュラー・ミュージックの技術と、スーダンの音楽のリズムやメロディを織り交ぜ、他とは違う特徴的な音楽を生み出してきた。

今回のアルバムも、これまでの作品のスタイルを踏襲したもので、ブラッド・オレンジやツイン・デンジャーのようなロックとブラック・ミュージックを融合させたサウンドをベースに、スーダン音楽のビートやメロディを混ぜた個性的な演奏と、男性版シャーデー・アデューと言った趣の、ファルセットを多用したスタイリッシュなヴォーカルを組み合わせた、個性的な音楽を披露している。

まず、このアルバムで印象に残るのは、スーダン音楽の個性的なビートとホーン・アレンジを取り入れたアップ・ナンバー”U’Huh”だ。アフリカ音楽を取り入れたロックといえば、ナウ・アゲインから再発されたザンビアのロック・バンド、ウィッチやザンビアのロック・バンド、ウェルス・ファーゴなどの録音を通して、ヨーロッパや日本でも人気を集めているが、彼の音楽は、よりアフリカ音楽に寄ったもの。メロディはほとんどスーダンのポップスで、リズム楽器やホーン・セクションも現地の音楽に近づけたものだが、西洋の音階や曲の構成を取り入れることで、「アフリカ風ロック」に落とし込んだ、大胆な試みが光る作品。

続く”Favorite Song”も、スーダン音楽のメロディを取り入れた、日本の歌謡曲っぽい、イナたいヴォーカルが格好良い曲。欧米のポップスには珍しいメロディを取り入れながら、アナログ・シンセっぽいチープな音色のキーボードやエフェクターを適度にかけたギターなどを使ったアレンジで、高価な楽器が使えなかったアフリカのバンド・サウンドを再現したような音になっている。

一方、”Telephone”はトーキング・ヘッズやニュー・オーダーを彷彿させる、電子音をアクセントに使った刺々しいサウンドが目立つアップ・ナンバー。空気を切り裂くようなアーメッドのファルセットが80年代のパンク・シンガーを連想させる、刺戟的な演奏だ。

それ以外にも、70年代中期のジェイムズ・ブラウンを思い起こさせる、リズミカルなギターと、フェラ・クティの音楽をマイルドにしたようなアフロ・ビートを組み合わせた”Theme from Life & Livin’ It”では、黒人のファンクと白人のポピュラー音楽を融合した、ポップなアフロ・ビートを聴かせてくれたり、キーボードをバンドの核に据えた素朴な伴奏の上で、滑らかなファルセットを惜しげもなく聴かせてくれるミディアム・ナンバー”Won’t Follow”、パーカッションと重いエレキ・ギターの音色効果的に使ったR&Bナンバー”The Way”など、スーダン音楽をルーツに持ちつつ、西洋音楽に触れて育った彼のセンスとバランス感覚が発揮された、一癖も二癖もある楽曲が並んでいる。

彼の音楽は、ユッスン・ドゥールやフェラ・クティが登場したときに盛り上がったアフリカ音楽とは少し違うと思う。これまでのアフリカ音楽は、アフリカと西洋を対立軸に捉えて、アフリカのアイデンティティを強調しすぎたり、自分達の音楽性を正当化するために「アフリカ」を持ち出しただけで、具体的なアフリカ音楽の要素は不透明という作品も少なくなかった。だが、彼の場合は、スーダン、アメリカ、イギリスという3つのルーツを対立項にすることなく自分の人生の一部分として受け入れたところが大きいのだと思う。

アフリカと西欧という、制度も文化も異なる世界に育ったことで、どちらの音楽とも一味違う、彼は独自の音楽を作り上げた。人種や国境に囚われることも、反発することもなく、受け入れ、乗り越えた本作のような音楽こそ「地球人の音楽」と呼ぶのにふさわしいのかもしれない。

Track List
1. Deadweight
2. U’Huh
3. Favorite Song
4. Fire
5. Telephone
6. Passenger
7. Theme from Life & Livin’ It
8. Won’t Follow
9. The Way




Life & Livin' It
Sinkane
City Slang
2017-02-10