melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

ソウル

Nile Rodgers & Chic - It's About Time [2018 Virgin, EMI]

70年代初頭からジャズのセッション・ミュージシャンとして活動し、その後、ロック・バンド、ビッグ・アップル・バンドとしても活躍していた、ギタリストのナイル・ロジャースと、ベーシストのバーナード・エドワーズが中心になって77年に結成。ロキシー・ミュージックやキスを彷彿させる華やかなヴィジュアルと、フィリー・ソウルを連想させる流麗な伴奏、ファンクの要素を含むダイナミックなグルーヴで、人気バンドに上り詰めたシック。

彼らは”おしゃれフリーク”の邦題で知られる”Le Freak”や”Good Times”などのヒット曲を残し、後者はシュガー・ヒル・ギャングの”Rapper’s Delight”にサンプリングされるなど、ヒップホップを含む他の音楽ジャンルにも多大な影響を与えてきた。

また、ナイルとバーナードはプロデューサーとしても才能を発揮。ダイアナ・ロスの”Upside Down”やシスター・スレッジの”We Are Family”などを手掛け、70年代後半から80年代にかけて世界を席巻したディスコ音楽ブームを牽引してきた。

しかし、バーナードが96年に公演のために訪れた日本で急死(余談だが、彼の最後のステージは『Live at The Budokan』という形でCD化されている)。ナイル・ロジャーズは裏方として活動するようになる。しかし、2010年代に入ると、2013年に世界で最も売れた曲となったダフト・パンクの”Get Lucky”を筆頭に、彼が携わったアダム・ランバートやニッキー・ロメロなどの楽曲が相次いでヒット。ディスコ音楽が再評価されるきっかけを作った。

本作は、シック名義では26年ぶりとなるスタジオ・アルバム。オリジナル・メンバーはナイル・ロジャースのみになったが、キャッチーでスタイリッシュな往年のサウンドは本作でも健在。久しぶりの新作では、ムラ・マサステフロン・ドンといった気鋭の若手に加え、レディ・ガガやクレイグ・デイヴィッド、テディ・ライリーといった大物が続々と参加した豪華なものになっている。

本作の1曲目は、ムラ・マサとヴィック・メンサが参加した”Till The World Falls”。ムラ・マサの作品で何度も美しい歌を聴かせてきた、コシャの爽やかで透き通った声はデビュー作でヴォーカルを執ったノーマ・ジーン・ライトにも少し似ている。キャッチーでスタイリッシュなメロディはアンダーソン・パックやナオと共作したもの。偉大な先輩の持ち味を生かしつつ、現代の音楽にアップ・トゥ・デートした後進の活躍が光っている。

続く”Boogie All Night”は、ナオをフィーチャーしたダンス・ナンバー。跳ねるような四つ打ちのビートと、シンセサイザーを多用した煌びやかな伴奏、ナオのキュートな歌声は、シックの作品と言うより、同時代にヨーロッパで多く作られたシンセサイザー主体のディスコ音楽、ディスコ・ブギーに近いものだ。彼らが活躍した時代のサウンドを咀嚼して、現代の自身の音楽に還元する手腕は流石としか言いようがない。

しかし、本作の目玉は何と言ってもクレイグ・デイヴィッドとステフロン・ドンという、イギリス発の世界的な人気ミュージシャンを起用した”Sober”だろう。80年代後半から90年代にかけて音楽界を席巻し、2018年に各国のヒット・チャートを制覇した、ブルーノ・マーズの”Finesse”でも採用されている、ニュー・ジャック・スウィングを取り入れたものだ。3曲目のオリジナル・ヴァージョンは、ベースのグルーヴを強調したもので、90年代初頭に流行したテディ・ライリーのアレンジを再解釈したスタイルに近い。だが、本作はこれに留まらず、10曲目に収められたリミックス・ヴァージョン”(New Jack) Sober”では、このジャンルのオリジネイターであるテディ・ライリーをリミキサーとして招聘。ガイやボビー・ブラウンの作品で聴かせてくれた、跳ねるようなビートを現代に蘇らせている。一時代を築き、東アジアでもエグザイルやシャイニーなど、多くのアーティストに影響を与えてきたテディ・ライリーの健在を感じさせる良作だ。

それ以外の曲では、レディ・ガガをフィーチャーした”I Want Your Love”も見逃せない。78年に発表した彼らの全米ナンバー・ワン・ヒットをリメイクしたこの曲は、オージェイズやスリー・ディグリーズといったフィラデルフィア発のソウル・ミュージックにも似ている、原曲の柔らかい伴奏を忠実に再現したサウンドと、ガガの丁寧で豊かな歌唱表現が聴きどころの良質なカヴァーだ。奇をてらうことなく楽曲の良さを引き出すヴォーカルでありながら、自身の個性を発揮してしまうのは、彼女らしくて興味深い。

今回のアルバムは、ヒット曲を量産した70年代後半のシックが持つ、洗練された雰囲気と親しみやすさを両立しつつ、単なる懐メロに留まらない、2018年のシックの音楽に纏めている。本作に収められた曲では、R&B畑の歌手を中心に、瑞々しい声と豊かな表現力を持つシンガーを揃え、ディスコ音楽に造詣の深いエレクトロ・ミュージック畑のクリエイターとR&Bのソングライターを組み合わせることで、当時の雰囲気を残しつつ、きちんと現代の音に仕上げている。恐らく、21世紀に入ってもクリエイターとして一線で活動してきた経験が反映しているのだろう。

昔の杵柄ではなく、現代の感性と技術で勝負した彼の、高い実力が遺憾なく発揮された良作。ダフト・パンクやマーク・ロンソンなど、多くのフォロワーが取り組んできたディスコ・サウンドを当時のミュージシャンが蘇らせた、充実の内容だ。

Producer
Nile Rodgers, Russell Graham, Mura Masa, NAO, Teddy Riley etc

Track List
1. Till The World Falls feat. Mura Masa, Cosha and Vic Mensa
2. Boogie All Night feat. Nao
3. Sober feat. Craig David and Stefflon Don
4. Do Ya Wanna Party feat. Lunch Money Lewis
5. Dance With Me feat. Hailee Steinfeld
6. I Dance My Dance
7. State Of Mine (It's About Time!) feat. Philippe Saisse
8. Queen feat. Elton John & Emeli Sande
9. I Want Your Love feat. Lady Gaga
10. (New Jack) Sober feat. Craig David and Stefflon Don - Teddy Riley Version
11. A Message From Nile Rodgers



It's About Time
Nile Rodgers & Chic
Universal
2018-09-27


Aretha Franklin - Sings The Great Diva Classics [2014 RCA, Sony]

力強い歌声とダイナミックな表現で、クイーン・オブ・ソウルと呼ばれ、1987年には女性初のロックの殿堂入りを果たしたアレサ・フランクリン。

メンフィス生まれ、デトロイト育ちの彼女は、高名な牧師である父と、有名なゴスペル歌手の母(ただし、彼女はアレサとは別居していた)を両親に持っていたこともあり、幼いころから頻繁に教会で歌っていた。

そんな彼女は、1961年にコロンビア・レコードからレコード・デビューを果たすが、当初はジャズやポップスなど、様々なスタイルに取り組んでいた。

そんな彼女の転機になったのは、1966年のアトランティック・レコードへの移籍。同社を率いるジェリー・ウェクスラーは、彼女の並外れたスケールのヴォーカルに着目し、その魅力を引き出す重厚なソウル・ミュージックに力を入れるようになる。

1967年の移籍第一弾アルバム『I Never Loved a Man the Way I Love You』が、ゴールド・ディスクを獲得するヒット作となった彼女は、その後も多くの作品を発表。今も多くのシンガーに歌い継がれ、2018年にはアカデミー賞を獲得したチリ映画「ナチュラル・ウーマン」でも使われた”(You Make Me Feel Like) A Natural Woman”を収めた『Lady Soul』や、ポール・マッカートニーが彼女に歌ってもらうことを念頭に制作したという、ビートルズの”Let It Be”のカヴァーを含む『This Girl's in Love with You』など、多くの名作を録音してきた。

このアルバムは、2012年の『Aretha: A Woman Falling Out of Love』以来となる、彼女の通算41枚目のスタジオ・アルバム。また、彼女にとって、生前最後に録音されたスタジオ作品でもある。

本作では、エッタ・ジェイムスやグラディス・ナイトといった、彼女とともに60年代の音楽シーンを盛り上げてきたアーティストの作品から、アリシア・キーズやアデルといった、親子ほどの年の差がある現代のミュージシャンまで、新旧の人気女性シンガーの楽曲をカヴァー。プロデュースはクライヴ・デイヴィスやベイビーフェイスといったヴォーカル作品に強い人から、アンドレ3000のような個性派まで、バラエティ豊かな面々が担当している。

1曲目は、エッタ・ジェイムスが60年に発表した”At Last”。2008年の映画「キャデラック・レコード」でビヨンセがカヴァーし、同じ年にはバラク・オバマの大統領就任記念イベントで歌われたことで、幅広い年代の人に知られるようになったバラードだ(余談だが、エッタ・ジェイムスは自分の代表曲を他の人が大統領の就任記念イベントで歌ったことに激昂したらしい)。

ベイビーフェイスがプロデュースした今回のカヴァーは、オーケストラや管楽器を盛り込んだ上品な伴奏が印象的。緩急、強弱とも振れ幅が大きく、高い歌唱力が求められる楽曲をしっかりと歌い切っているのは流石としか言いようのない。オーケストラの繊細な音を活かしつつ、ヴォーカルの良さを引き立てるベイビーフェイスの制作技術も凄い。

続く”Rolling In The Deep ”は、本作の収録曲では最も新しい、アデルの2011年の楽曲のカヴァー。ロック色の強いアデルの作品の良さを生かした、荒々しい演奏とパワフルなヴォーカルの組み合わせが強く心に残る。武骨な演奏とゴスペルを連想させる分厚いコーラスを組み合わせたアレンジは、粗削りで泥臭いサウンドが魅力の60年代のサザン・ソウルに通じるものがある。曲中でさりげなくマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの”Ain't No Mountain High Enough”を挟み込む演出も気が利いている。

また、グロリア・ゲイナーが78年にリリースしたディスコ・クラシックを歌った”I Will Survive”は、ジャズ畑のハーヴィー・メイソンJr.とハウス・ミュージックに強いテリー・ハンターがプロデュースを担当。洗練されたバック・トラックの上で、楽曲の優雅な雰囲気を守りつつ、パワフルな歌声を響かせる姿が聴きどころ。アレサを含め、多くのシンガーを苦しめていたディスコ音楽だが、この時点のアレサは、完全に自分の音楽にしている。余談だが、曲の途中で「Survivor」に引っ掛けて、デスティニーズ・チャイルドの”Survivor”のフレーズを挟み込む演出は、2曲の音楽性の違いを感じさせないアレンジも含め非常に面白い。

そして、個人的に面白いと思ったのが、アリシア・キーズが2007年に発売した”No One”のカヴァー。元々レゲエ色の強い楽曲を、より緩く、明るい音色を多用した演奏で本格的なレゲエ作品としてリメイクしている。アレサのような力強く、雄大な歌唱が魅力の歌手と、ゆったりとした雰囲気のレゲエは、あまり相性が良くないが、彼女は起用に乗りこなしている。プロとしてのキャリアも半世紀を超え老練なパフォーマンスを身に着けた彼女の演奏が堪能できる。

今回のアルバムの良いところは、原曲の魅力とアーティストの個性を絶妙なバランスで融合していることだ、エッタ・ジェイムスやグロリア・ゲイナー、アデルといった新旧の名シンガーが世に送り出した名曲を、原曲の良さを損ねることなく、自分の音楽に染め上げている。原曲を忠実になぞるわけでも、独創的なアレンジを聴かせるわけでもなく、大ベテランの経験を活かして、丁寧に歌い込む手法が本作の良さを生み出している。

アレサ・フランクリンという唯一無二の名歌手と、彼女を支える名プロデューサー達の技術によって、ソウル・ミュージックの可能性を広げた傑作。歌い手や演奏者の数だけ、色々な表情を見せるヴォーカル曲の醍醐味が堪能できる傑作だ。

Producer
André "3000" Benjamin, Antonio Dixon, Aretha Franklin, Clive Davis, Kenny "Babyface" Edmonds, Harvey Mason, Jr. etc

Track Listt (括弧内は原曲を歌ったアーティスト)
1. At Last (Etta James)
2. Rolling In The Deep (Adele)
3. Midnight Train To Georgia (Gladys Knight & the Pips)
4. I Will Survive (Gloria Gaynor)
5. People (Barbra Streisand)
6. No One (Alicia Keys)
7. I’m Every Woman (Chaka Kahn & Whitney Houston) / Respect (Aretha Franklin)
8. Teach Me Tonight (Dinah Washington)
9. You Keep Me Hangin’ On (The Supremes)
10. Nothing Compares 2 U (Sinead O'Connor)






Morris Mobley - Movin' On [2018 Arcana]

モーリス・モブレイはゲイリー・グリットネスの名義での活動で知られるアーティスト。

フランス北部の工業都市、ナンシー出身の彼は、電子音楽とファンク、ディスコ音楽を融合した独特の作風で注目を集め、ニューヨークを拠点に多くのクラブ・ミュージックのレコードをリリースしているアーケインから、複数の作品をリリースしてきた。

本作は、モーリス・モブレイ名義で制作した初のスタジオ・アルバム。シンセサイザーやリズム・マシーンを駆使して曲を作っていたこれまでの作品に対し、本作ではギターなどの楽器も使用。複数の楽器を組み合わせて、80年代のソウル・ミュージックの魅力を、現代を生きる彼の感性で再解釈している。

本作の1曲目はタイトル・トラックの”Movin’ On”。煌びやかなシンセサイザーを駆使したバックトラックの上で、大人の色気を感じさせる歌声を響かせるモーリスの姿が印象的なアップ・ナンバー。ジョージ・ベンソンを彷彿させる艶めかしいギターも心地よい。

続く”Stop Playin’ Games”は、マスターピースやハイ・ファッションの作品を連想させるディスコ・ブギー。電子楽器を駆使したスタイリッシュな伴奏は、当時の音楽以上に、80年代の煌びやかな雰囲気を再現している。グラマラスな歌声でダイナミックな歌唱を披露する姿は、他の曲では聞けないものになっている。本作の収録曲では最も当時の音楽に近い。

これに対し、ニューヨーク出身のピアニスト、ドン・ブラックマンが82年に発表した『Don Blackman』の収録曲”Since You Been Away So Long”のカヴァーは、原曲のゆったりとした雰囲気のメロディの魅力を丁寧に引き出した演奏が魅力。女性ヴォーカルがなくなり、電子ドラムの音が重くなるなど、モーリスの制作環境に合わせたアレンジを施しつつ、原曲の流麗なメロディをじっくりと演奏し、歌う姿が光っている。

また、スティーリー・ダンの”Glamour Profession”は、 80年のアルバム『Gaucho』の収録曲のカヴァー。ディスコ音楽が音楽業界を席巻していた時代に、シンガー・ソングライターがディスコ音楽の要素を取り入れた楽曲を、電子音楽畑のモーリスがリメイクしている。80年代後半から90年代初頭のエレクトロ・ミュージックを思い起こさせる、太い電子音を使った伴奏は、ゲイリー名義の作品に近い。しかし、ソウル・シンガーとは違う、モーリスのあっさりとした歌い方が、原曲のメロディの良さを引き出している。ディスコ音楽風のポップスだった原曲を、本格的なクラブ・ミュージックに再構築した意欲作。

このアルバムは、元々ハウス・ミュージックなどを制作していたクリエイターの手によるものということもあり、80年代前半の華やかなディスコ・ミュージックの雰囲気を残してはいるものの、パワフルなヴォーカルよりも、スタイリッシュなトラックにフォーカスを当てたものになっている。また、ヴォーカルやコーラスを彼一人で担当し、楽器も一人で担当するなど、大人数のバンドによる派手な演奏が魅力のソウル・ミュージックとは一線を画した、現代のテクノ・ミュージックなどに近いものになっている。この、別のジャンルの音楽の制作手法を用いることで、既存の音楽に新しい解釈を加えている点が本作の面白いところだろう。

ソウル・ミュージックを聴いて育ったエレクトロ・ミュージックのクリエイターによる、独自の視点が魅力のソウル作品。アメリカのタキシードや日本のT-グルーヴのように、80年代のディスコ・ミュージックの魅力を現代に伝えるアーティストだ。

Producer
Morris Mobley

Track List
1. Movin’ On
2. Stop Playin’ Games
3. Since You Been Away So Long
4. Midnight Stroll
5. Glamour Profession
6. Rolodexes
7. First Class Hangin’
8. Charge It To The Game



Movin’ On
Morris Mobley
MMM Records/BBQ
2018-07-29

記事検索
タグ絞り込み検索
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

アクセスカウンター


    にほんブログ村 音楽ブログへ
    にほんブログ村
    にほんブログ村 音楽ブログ ブラックミュージックへ
    にほんブログ村

    音楽ランキングへ

    ソウル・R&Bランキングへ
    LINE読者登録QRコード
    LINE読者登録QRコード
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    • ライブドアブログ