ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

ドイツ

Noah Slee - Otherland [2017 Majestic Casual Records]

2010年代前半からオーストラリアで活動。その後、同地での活躍が評価され、ダニエル・カエサルなどの気鋭のアーティストを擁することでも知られている、ドイツのシュトゥットガルドに拠点を置くマジェスティック・カジュアルと契約。現在はドイツを中心に活動するニュージーランド生まれ、オーストラリア育ちのシンガー・ソングライター、ノア・スリー。

ドイツに移住後は、継続的に新曲を発表しながら、キャッツ&ドッグスやカルマダなどの作品にも客演。ソウルフルな歌声と繊細なメロディ、先鋭的なトラックで耳の肥えた音楽ファンのみならず、ミュージシャンの間でも注目される存在になった。

今回のアルバムは、彼にとって初のフル・アルバム。今年の5月に発表した『Freedom TV』も話題になったウェイン・スノウや、ノアと同じニュージーランド出身のジョーダン・ラケイやレイチェル・フレイザー、アメリカを代表するソウル・シンガーの一人として知られているジョージア・アン・マルドロウなど、彼の豊かなバックグラウンドと人間関係を反映した、豪華な面々が参加した作品になっている。

ウェイン・スノウとレイチェル・フレイザーが参加したアルバムの実質的な1曲目”Instrore”は、マックスウェルを彷彿させるきめの細かいファルセットと、ディアンジェロを連想させるシンプルで抽象的なトラックやラップのようにリズミカルに言葉を繋ぐヴォーカルが印象的なスロー・ナンバー。柔らかく軽やかな歌声のノアと、芯の強い声のウェイン、ふくよかな歌唱のレイチェルと、三者三葉のヴォーカルを披露している点が面白い。少し気になるのは、サビのファルセットが3人の声と明らかに異なる点だが、歌っているのは誰なのだろうか。

これに対し、ニュージーランド出身のラッパー、メロダウンズを招いた”Lips”はサンファの作品を思い起こさせる、荘厳な雰囲気のエレクトロ・サウンドが印象的なミディアム・ナンバー。ノアの繊細な歌唱と、ヴォーカルと一体化した淡々としたラップの組み合わせが格好良い。エレクトロとソウル、ヒップホップを巧みに融合した佳曲だ。

また、”Sunrise”は太い音のベースと温かい音色のビートが格好良いアップ・ナンバー。電子音と生演奏を組み合わせたスタイルは、スティーブ・レイシーの作品にも少し似ている。ディアンジェロやエリカ・バドゥの作風を踏襲しつつ、彼らとは違う新鮮な音楽に落とし込む技術とセンスが光っている。

そして、女性フォーク・シンガーのシロー・ダイナスティが客演した”DGAF”は、彼女の繊細なヴォーカルをアクセントに使ったアップ・ナンバー。ギターの演奏をR&Bのトラックと組み合わせた手法は、マックスウェルやインディア・アリーにも似ているが、この曲はもっとタイトなビートを取り入れた本格的なR&B作品になっている。緻密な表現力を持つ二人だからこそできる曲だろう。

彼の音楽は、ウェイン・スノウやサンファホセ・ジェイムスのようなR&Bと電子音楽を融合したものだが、彼らの音楽と比べると、緻密な演奏が目立つ一方、それぞれの曲は斬新なアイディアを前面に押し出した粗削りな作品が多いように見える。それは、彼の音楽が若々しい感性と、強力なエネルギーによって生み出されたものだからかもしれない。

ウェイン・スノウに続き、ドイツから世界に羽ばたいた気鋭のクリエイター。今後の活躍が楽しみな逸材だ。

Producer
Noah Slee etc

Track List
1. Kamata‘anga (Intro)
2. Instore feat.Wayne Snow & Rachel Fraser
3. Radar
4. Invite (Interlude)
5. Lips feat.MeloDownz
6. Told
7. Sunrise
8. Dawn (Interlude) feat.Georgia Anne Muldrow
9. Reality feat.Jordan Rakei
10. DGAF feat.Shiloh Dynasty
11. Wander (Interlude)
12. Stayed
13. Way Back
14. Kiez (Interlude)
15. 100
16. Silence
17. Ngata‘anga (Outro)





アザーランド
ノア・スリー
Pヴァイン・レコード
2017-08-18

Wayne Snow ‎– Freedom TV [2017 Tartelet Records]

ナイジェリア出身、現在はベルリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ウェイン・スノー。

ベルリン移住後は、マックス・グリーフやニュー・ギニアといった電子音楽、ヒップホップ畑のクリエイターの作品でマイクを握る一方、自身の名義でも、2014年にシングル『Red Runner』を、翌年には『Rosie』を発表。それ以外にも、ベルリンをはじめ、ニューヨークやロンドン、シドニーなど、世界各地のステージでパフォーマンスを披露。精力的に活動してきた。

本作は、彼にとって初めてのフル・アルバム。プロデューサーにはマックス・グリーフやニュー・ギニア、ニュー・グラフィックといった、これまでにコラボレーションをしたことのあるクリエイターが集結。彼自身もヴォーカルだけでなく、ソングライティングやプロデュースなどで腕を振るった力作になっている。

アルバムの1曲目”Cooler”は、彼が他のミュージシャンとは一線を画していることをリスナーに感じさせる、このアルバムの作風を象徴するような楽曲。フライング・ロータスやトキモンスタのようなエレクトロ・ミュージック畑のクリエイターが多用するような電子音を使った、マックス・グリーフ作のトラックと、マックスウェルのような繊細さと、ディアンジェロのように絶妙な力加減を兼ね備えたウェインのヴォーカルが光る、神秘的な雰囲気のミディアム・ナンバー。音と音の隙間を長めに取り、「響き」を聴かせるトラックは、電子音楽畑の人間の持ち味が発揮されていると思う。

これに対し、2014年にシングル化された”Red Runner”は、ギターっぽい音色の伴奏や、ハウス・ミュージックのビートを取り入れたアップ・ナンバー。フランキー・ナックルズやジョーイ・ネグロのようなハウス・ミュージックの要素を取り入れつつ、テンポを変化させたり、色々な音色を挟んだりすることで、起伏に富んだ楽曲に仕上げている。

これに対し、もう一つのシングル曲である”Fall”は、電子音楽とソウル・ミュージックを融合させたR&B寄りの作品。甘い音色を響かせるギターや、ビヨビヨという電子音、R&Bではあまり耳にしない、変則的なビートなど、多くの要素を詰め込みながら、音数は少なく、シンプルなトラックをバックに、幻想的な歌声を響かせる楽曲。楽曲の中盤で、ビートが四つ打ちに変化するなど、ヒップホップのクリエイターとは一味違う曲作りに、電子音楽のクリエイターの矜持を感じる。余談だが、この曲のほか、”Red Runner”を含む序盤の4曲など、10曲中6曲がマックス・グリーフのプロデュース。一人のクリエイターがこれほどのバラエティ豊かな楽曲を作ったあたりに、エレクトロ・ミュージックの表現の幅広さと奥深さを再認識させられる。

だが、本作の隠れた目玉は”Rosie”だと思う。昔のレコードからサンプリングしたような温かい音色のドラムに、アナログ・シンセシンセサイザーの音とデジタル機材を使い分けた癖のある伴奏を組み合わせたトラックと、抽象的なメロディやファルセットを多用したヴォーカルのコンビネーションが素晴らしい、ディアンジェロの”Brown Sugar”を彷彿させるミディアム・ナンバー。本作の中では最も電子音楽の影響が薄い曲だが、楽器の音の並べ方や、ヴォーカルの使い方は、他の曲と同じスタイル。彼らの表現の幅の広さにも驚かされるが、それ以上に、ディアンジェロの先見性を再認識させられる魅力的なミディアム・ナンバーだ。

今回のアルバムは、電子音楽のバラエティ豊かなビートを用いて、アメリカのR&B作品とは一味違う、独創的な作品に仕上がっている。もっとも、サンファの『Process』FKJの『French Kiwi Juice』ケイトラナダの『‎99.9%』を聴いたときにも感じたのだが、電子音楽のクリエイターが作るR&Bは、メロディ、歌声、トラックの三つのバランスをとるのが凄く難しいように映る。だが、このアルバムで、上述の三者同様、主役の歌声や楽曲のメロディを大切にしつつ、多彩な楽曲を「R&Bに聴こえる範囲で」作り上げた彼らの技術と、ウェインの作曲、歌唱能力には目を見張るものがある。

本作は、R&Bには生演奏やサンプリング音源、美しいメロディが欠かせないと思っていた人には異色に映るだろう、だが、抽象的なトラックや、様々な電子音を駆使したトラック、繊細なメロディやヴォーカルを用いても、きちんと「R&B」に聴こえるのがこの作品の面白いところ。カンやクラフトワークといった、音楽業界に革命を起こしたアーティスト達を輩出した、ドイツのポピュラー・ミュージック・シーンの奥深さを感じさせる魅力的な作品だ。

Producer
Max Graef, Neue Grafik, Nu Guinea, Wayne Snow

Track List
1. Cooler
2. Still In The Shell
3. Drunk
4. Red Runner
5. The Rhythm
6. Rosie
7. Fall
8. Nothing Wrong
9. Freedom RIP
10. Nothing But The Best
11. Rosie (Hubert Daviz Remix) [Japan Bonus Track]
12. Red Runner (Glenn Astro & IMYRMIND Remix) [Japan Bonus Track]





Freedom TV
Wayne Snow
SWEET SOUL RECORDS
2017-04-12


 
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