ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

ナイジェリア

Wayne Snow ‎– Freedom TV [2017 Tartelet Records]

ナイジェリア出身、現在はベルリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ウェイン・スノー。

ベルリン移住後は、マックス・グリーフやニュー・ギニアといった電子音楽、ヒップホップ畑のクリエイターの作品でマイクを握る一方、自身の名義でも、2014年にシングル『Red Runner』を、翌年には『Rosie』を発表。それ以外にも、ベルリンをはじめ、ニューヨークやロンドン、シドニーなど、世界各地のステージでパフォーマンスを披露。精力的に活動してきた。

本作は、彼にとって初めてのフル・アルバム。プロデューサーにはマックス・グリーフやニュー・ギニア、ニュー・グラフィックといった、これまでにコラボレーションをしたことのあるクリエイターが集結。彼自身もヴォーカルだけでなく、ソングライティングやプロデュースなどで腕を振るった力作になっている。

アルバムの1曲目”Cooler”は、彼が他のミュージシャンとは一線を画していることをリスナーに感じさせる、このアルバムの作風を象徴するような楽曲。フライング・ロータスやトキモンスタのようなエレクトロ・ミュージック畑のクリエイターが多用するような電子音を使った、マックス・グリーフ作のトラックと、マックスウェルのような繊細さと、ディアンジェロのように絶妙な力加減を兼ね備えたウェインのヴォーカルが光る、神秘的な雰囲気のミディアム・ナンバー。音と音の隙間を長めに取り、「響き」を聴かせるトラックは、電子音楽畑の人間の持ち味が発揮されていると思う。

これに対し、2014年にシングル化された”Red Runner”は、ギターっぽい音色の伴奏や、ハウス・ミュージックのビートを取り入れたアップ・ナンバー。フランキー・ナックルズやジョーイ・ネグロのようなハウス・ミュージックの要素を取り入れつつ、テンポを変化させたり、色々な音色を挟んだりすることで、起伏に富んだ楽曲に仕上げている。

これに対し、もう一つのシングル曲である”Fall”は、電子音楽とソウル・ミュージックを融合させたR&B寄りの作品。甘い音色を響かせるギターや、ビヨビヨという電子音、R&Bではあまり耳にしない、変則的なビートなど、多くの要素を詰め込みながら、音数は少なく、シンプルなトラックをバックに、幻想的な歌声を響かせる楽曲。楽曲の中盤で、ビートが四つ打ちに変化するなど、ヒップホップのクリエイターとは一味違う曲作りに、電子音楽のクリエイターの矜持を感じる。余談だが、この曲のほか、”Red Runner”を含む序盤の4曲など、10曲中6曲がマックス・グリーフのプロデュース。一人のクリエイターがこれほどのバラエティ豊かな楽曲を作ったあたりに、エレクトロ・ミュージックの表現の幅広さと奥深さを再認識させられる。

だが、本作の隠れた目玉は”Rosie”だと思う。昔のレコードからサンプリングしたような温かい音色のドラムに、アナログ・シンセシンセサイザーの音とデジタル機材を使い分けた癖のある伴奏を組み合わせたトラックと、抽象的なメロディやファルセットを多用したヴォーカルのコンビネーションが素晴らしい、ディアンジェロの”Brown Sugar”を彷彿させるミディアム・ナンバー。本作の中では最も電子音楽の影響が薄い曲だが、楽器の音の並べ方や、ヴォーカルの使い方は、他の曲と同じスタイル。彼らの表現の幅の広さにも驚かされるが、それ以上に、ディアンジェロの先見性を再認識させられる魅力的なミディアム・ナンバーだ。

今回のアルバムは、電子音楽のバラエティ豊かなビートを用いて、アメリカのR&B作品とは一味違う、独創的な作品に仕上がっている。もっとも、サンファの『Process』FKJの『French Kiwi Juice』ケイトラナダの『‎99.9%』を聴いたときにも感じたのだが、電子音楽のクリエイターが作るR&Bは、メロディ、歌声、トラックの三つのバランスをとるのが凄く難しいように映る。だが、このアルバムで、上述の三者同様、主役の歌声や楽曲のメロディを大切にしつつ、多彩な楽曲を「R&Bに聴こえる範囲で」作り上げた彼らの技術と、ウェインの作曲、歌唱能力には目を見張るものがある。

本作は、R&Bには生演奏やサンプリング音源、美しいメロディが欠かせないと思っていた人には異色に映るだろう、だが、抽象的なトラックや、様々な電子音を駆使したトラック、繊細なメロディやヴォーカルを用いても、きちんと「R&B」に聴こえるのがこの作品の面白いところ。カンやクラフトワークといった、音楽業界に革命を起こしたアーティスト達を輩出した、ドイツのポピュラー・ミュージック・シーンの奥深さを感じさせる魅力的な作品だ。

Producer
Max Graef, Neue Grafik, Nu Guinea, Wayne Snow

Track List
1. Cooler
2. Still In The Shell
3. Drunk
4. Red Runner
5. The Rhythm
6. Rosie
7. Fall
8. Nothing Wrong
9. Freedom RIP
10. Nothing But The Best
11. Rosie (Hubert Daviz Remix) [Japan Bonus Track]
12. Red Runner (Glenn Astro & IMYRMIND Remix) [Japan Bonus Track]





Freedom TV
Wayne Snow
SWEET SOUL RECORDS
2017-04-12


 

Ycee - First Wave Ep [2017 Tinny Entertainment, Sony Music]

ナイジェリアのラゴス州にあるフェスタック・タウン出身。2015年に発表した、パトランキングをフィーチャーした配信限定のシングル『Condo』がヒット。ナイジェリア・エンターテイメント・アワードにもノミネートしたことで一気に知名度を高めた、ラッパーでソングライターの、ワイシーことオルデミラド・マーティン・アレージョ。

そんな彼が現在も所属する、ナイジェリアのタイニー・エンターテイメントと契約したのは2012年。だが、その頃は大学生だった彼は、音楽活動と学業(海洋生物学を専攻していた)を両立するため、積極的な活動は控えていた。しかし、大学を卒業すると、音楽活動を本格的に開始。2015年には『Condo』や『Jagaban』などが立て続けにヒットさせると、アフロ・ビートとトラップ・ミュージックの要素を融合した独特の音楽性で、人気ミュージシャンの仲間入りを果たした。

今回のアルバムは、2016年に契約したソニー・ミュージック・エンターテイメント(厳密には南アフリカに拠点を置くソニー・ミュージック・エンターテイメント・アフリカ)から発売された、彼にとって初のEP。本作では、彼とのコラボレーション経験もある、ナイジェリアの総合音楽レーベル、マーヴィン・レコード所属のプロデューサーやミュージシャンが多数参加した、本格的なナイジェリアの国産ヒップホップ作品になっている。

肝心のアルバムの中身はというと、まず、このアルバムを手にした人に、最初に聴いてほしいのがカリブリを起用した”Kill Nobody”だ。色々な音色の打楽器が絡み合う複雑で陽気なビートと、アフリカの民族音楽を思い起こさせる、伸び伸びとしたヴォーカルが印象的なアップ・ナンバー。アフリカ音楽や中南米音楽とアメリカのブラック・ミュージックを融合させたミュージシャンには、エイコンやワイクリフ・ジョンなど、多くの成功者がいるので、このアルバムもアメリカのヒップホップに馴染んだ人々に受け入れられると思う。

これに対し、同郷のシンガー・ソングライター、リーカド・バンクスをフィーチャーした”Link Up”は、パーカッションを多用した陽気なビートにファーサイドの”Passin' Me By”から引用したと思われる、シンセサイザーの伴奏を取り込んだ、ナイジェリア風のヒップホップ。軽快なビートに乗せて言葉を放った結果、歌なのかラップなのか判別不能な独特の音楽になっている点は面白い。

だが、今回のアルバムの核になる曲といえば、マリーク・ベリーをフィーチャーした”Juice”だろう。アデイがプロデュースしたこの曲は、シンプルなバスドラムの上に、パーカッションやハンドクラップをちりばめたソカっぽいトラックを採用。その上で、地声で歌うワイシーとオートチューンを使った個性的な声のマリークが絡み合うパフォーマンスが聴きどころだ。

そして、本作でも異色の楽曲だと思われるのが、女性シンガーのセイ・シャイをフィーチャーしたミディアム・バラード”Need To Know ”だ。R.ケリーの”Trapped in the Closet ”を彷彿させる、ミュージカル向けのシンプルなビートに乗せて、寸劇のような掛け合いを聴かせる面白い曲だ。セイ・シャイの歌声がブランディやタミアのような90年代から活躍するR&Bシンガーのスタイルにちょっと似ている点は見逃せない。

彼自身がインタビューで述べている通り、彼の音楽はリル・ウェインやケンドリック・ラマー、ビッグ・ショーンといった、メロディのついたフロウがウリのラッパーのスタイルを取り入れつつ、イギリスで流行しているグライムやアメリカ南部のクリエイターが得意とするトラップのような、電子楽器を使った変則ビートとアフロ・ビートを融合した、軽妙だが一癖も二癖もあるトラックのコンビネーションが大きな特徴だ。その中でも、アフロ・ビートの要素が本作の胆で、ビートに独特のうねりと起伏を与えて、歌うようにラップする彼のスタイルを際立たせている。

ナイジェリア発の実力派ラッパーに留まらず、ヴォーカル曲とラップ作品を同時にこなす、ポスト・ドレイクの有力候補になりそうな逸材。Okayプレイヤーのホームページでも大々的に紹介されているので、近い将来、世界的なヒット曲を生み出すことも夢ではないと思う。

Producer
Adey etc

Tracklist
1. Wavy
2. Kill Nobody feat. Calibri
3. Link Up feat. Reekado Banks
4. Juice feat. Maleek Berry
5. Bubbly feat. Falz
6. Don’t Need Bae
7. Need To Know feat. Seyi Shay
8. N.O.U.N feat. KLY




※各種配信サービスへのリンクは、レコード会社の特設サイトを参照
https://sonymusicafrica.lnk.to/YceeFirstWaveEP

Ray BLK - Durt [2016 Ray BLK Self Release]

BBCが主催し、DJや評論家、ライブ・イベントのブッキング担当者などの投票によって決定される英国の音楽賞「Sound of ...」。2003年の第1回以降、アデルやコリーヌ・ベリー・レイ、サム・スミスといった、後に英国の音楽シーンを代表する面々が受賞し、若手音楽家の登竜門と位置付けられてきた同賞を2017年に獲得したのが、ナイジェリア出身、サウス・ロンドン育ちのシンガー・ソングライター、レイ・ブラックことリタ・エクウェラだ。

2016年に発表された本作は、彼女にとって2枚目のEP。このアルバムは同賞の獲得者では初となる、レーベルとの契約を結ばずにリリースされた作品。また、同賞の1位(=Winner)獲得者のアルバムでは極めて珍しい、配信限定で販売された作品でもある。

9歳の頃から自分の音楽を作っていたという彼女。その頃から、既に色々なミュージシャンの作風を研究しており、特に、テレビから流れるミッシー・エリオットやリュダクリスのパフォーマンスに強い影響を受けたという。そして、13歳の時には、同じ学校に通っていたMNEKと音楽ユニットを結成。そのユニットではビヨンセやマドンナなどとも仕事をしている。

その後、彼女はロンドンのブルネル大学に進学。そこでは、英文学を専攻する傍らで、初のソロ作品となるEP『Havisham』をレコーディング。R&Bやヒップホップ、トラップをベースにした個性的なサウンドと、チャールズ・ディゲンズの『大いなる遺産』に登場するミス・ハヴィシャムに触発された文学的なリリックで、自主制作の録音ながら多くの人から注目を集めた。

今回のアルバムも、基本的な路線は前作と同じ。エレクトロ・ミュージックやトラップなどを取り入れた斬新なビートと、文学少女(?)らしい、言葉の響きやリズムにも気を配った歌やラップが光る好作品だ。

まず、本作の収録曲で目を引くのは、アルバムに先駆けて発表された"5050"だ。ゴム毬のように跳ねる電子音を組み合わせて作られた変則的なビートに乗せて繰り出されるのは、スウェーデンのロック・バンド、カーディガンズの世界的ヒット曲"Lovefool"のメロディ。多くの人に親しまれている有名なポップスのメロディを引用しつつ、間に鋭い語り口のラップを挟み込んで、最先端のヒップホップに着地させるセンスと技術は恐ろしいの一言だ。

一方、リヴァプールを拠点に活動するエレクトロ・ミュージックのクリエイター、SGルイスとコラボレーションした"Chill Out"は、ラップとヴォーカルを巧みに使い分けた、電子音楽版ローリン・ヒルといった趣のミディアム・ナンバー。SGルイスのフワフワとした肌触りが心地よいトラックの上で、透き通った歌唱とワイルドなラップを同時にこなすリタのスキルが思う存分堪能できる楽曲だ。また、ロンドンを拠点に活動するラッパー、レッチ32をフィーチャーした"Gone"は、そのローリン・ヒルが在籍していたラップ・グループ、フージーズを彷彿させる、レコードや生楽器の音色を多用した温かいトラックを使ったミディアム・ナンバー。レッチの武骨で泥臭いラップとリタの気怠そうに歌うヴォーカルが、アコースティック楽器の音色とマッチしている佳曲だ。

そして、もう一つ見逃せないのは、ロンドン出身のラッパー、ストームジーが参加した"My Hood"だ。電子楽器とサンプリングを上手に組み合わせた、ゆったりとレイド・バックしたビートの上で、切ない気持ち荒っぽい歌い方で表現したレイと、言葉を冷静に淡々と紡ぎ出すストームジーの対照的な個性が光る楽曲。モニカにも似た感情豊かでダイナミックなヴォーカルや、アリーヤの『Age Ain't Nothing But a Number』を思い起こさせるシンセサイザーとサンプリング音を上手に使い分けたトラックが、90年代のR&Bを彷彿させる名曲だ。

既に多くの人が言及している通り、彼女の音楽はローリン・ヒルやミッシー・エリオットのような、歌とラップを上手に使い分けるアメリカの女性ミュージシャンの系譜に連なるアーティストだ。だが、その一方で、彼女の作品には、イギリスで流行しているエレクトロ・ミュージックとヒップホップが融合した音楽、グライムやトラップのエッセンスを絶妙な匙加減で混ぜ込んでいる点が特徴的だ。そのバランス感覚の良さが、イギリスのミュージシャンの魅力であるラジカルな感性と、アメリカのミュージシャンのような親しみやすさを両立しているのだと思う。

2ステップの要素を取り入れた楽曲で、アメリカを含む世界各地のヒット・チャートを席巻したクレイグ・デイヴィッドの再来を予感させる、イギリスの尖ったR&Bの魅力をわかりやすく咀嚼した、面白いアルバム。今後の飛躍が楽しみな、才気溢れるシンガーの魅力が凝縮された傑作だと思う。

Producer
Ray BLK

Track List
1.Baby Girlz
2.5050
3.Chill Out feat. SG Lewis
4.Gone feat. Wretch 32
5.Hunny
6.My Hood feat. Stormzy
7.Durt






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