ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

ヒップホップ

T-Pain – Oblivion [2017 Nappy Boy, RCA]

地元のラップ・グループで活動したあとソロに転向。インターネット上に公開したエイコンの”Looked Up”のカヴァー、”I'm Fucked Up”が本人の耳に入ったことをきっかけに、彼が率いるコンヴィクトと契約した、フロリダ州タラハシー出身のシンガー・ソングライターでプロデューサー、T-ペインことファヒーム・タラハシード・ナジム。

2005年にメジャー・デビュー曲”I'm Sprung”を発表すると、音程を補正するソフトウェア、オートチューンを使用してロボットのような声に加工したヴォーカルと、電子楽器を組み合わせた独特の作風がウケ、全米総合シングル・チャートの8位になる大ヒットとなる。また、同曲を含むアルバム『Rappa Ternt Sanga』も50万枚を売り上げるなど、大きな成功を収めた。

その後も、2016年までに3枚のアルバムと10枚以上のシングルをリリース。中でもヤング・ジョックをフィーチャーした2006年の”Buy U a Drank (Shawty Snappin')”はシングル・チャートを制覇し、同曲を収めたアルバム『Epiphany』もアルバム・チャートの1位に上り詰めるなど、商業的に成功。また、自身名義の作品以外にも、クリス・ブラウンの”Kiss Kiss”やフロー・ライダーの”Low”、ピットブルの”Hey Baby (Drop It to the Floor)”など、多くのヒット曲に客演。オートチューンを使ったスタイルが流行するあまり、ジェイZから”D.O.A.”(デス・オブ・オートチューンという意味)という曲で攻撃されるまでになった。

本作は、そんな彼にとって6年ぶり5枚目のフル・アルバム。コンヴィクトを離れてリリースした初めてのアルバムだが、彼のスタイルは変わらない。プロデュースは彼自身に加え、近作を一緒に制作しているドレ・ムーンやDJマスタードなどが担当。クリス・ブラウンやニーヨといった、これまでにコラボレーションしてきた面々がゲストとして参加した、充実の内容になっている。

アルバムの収録曲で最初に目を惹いたのは、クリス・ブラウンをフィーチャーした”Classic You”だ。ピアノっぽい音色を使った荘厳なトラックの上で、絶妙な掛け合いを聴かせるスロー・ナンバー。”Kiss Kiss”ではダイナミックなダンス・ナンバーを披露した二人が、ゆったりとしたテンポのトラックの上で、甘く切ない歌声で魅了する光景は、10年という時間の重みと、波乱万丈の人生を歩んできた二人の密度の濃い人生が反映されているようで面白い。

一方、同曲に続く”Straight”は、彼の得意な電子楽器を多用したトラックと、オートチューンを強くかけたロボット・ヴォイスを強調したスタイルのミディアム・ナンバー。過去の作品で多用された手法を、6年ぶりの新作で採用しつつ、メロディやトラックを微妙にアレンジして、マンネリ化しないように工夫を凝らしている点は凄いと思う。

また、本作に先駆けてリリースされた”Textin' My Ex”は、色っぽい歌声と洗練された歌唱で人気があるシンガー・ソングライター、ティファニー・エヴァンスを起用したスロー・ナンバー。ドレ・ムーンが作ったトラックは、『Epiphany』でも見られたシンセサイザーを軸にしたものだが、低音が中心の柔らかい音を使って、ロマンティックな雰囲気に仕立てている。オートチューンを使ったT-ペインの人間っぽくない歌声と、ティファニー・エヴァンスのしなやかなヴォーカルの組み合わせが光っている。

そして、もう一つのシングル曲である”Goal Line”はメンフィス出身のラッパー、ブラック・ヤングスタを招いた曲。”Textin' My Ex”を制作したドレ・ムーンが用意したトラックは、ミーゴスやフューチャーを思い起こさせるトラップのビート。低音を強調して個性的なラップを際立たせた手法が功を奏し、シンプルだが親しみやすいヒップホップ作品に仕上がっている。

今回のアルバムは、T-ペインの持ち味であるオートチューンを使ったロボット・ヴォイスを使いつつ、新しい表現にも積極的に取り組んだ面白い作品だ。低音を強調したトラップやR&Bっぽいトラックなど、自身のスタイルをベースにしつつ、色々なサウンドに取り入れて、自分に合った音楽が生み出すことができるのは、彼自身が個性豊かなミュージシャン達と一緒に楽曲を作ってきたプロデューサーの顔を持っているからだろう。

強烈な個性を持つアーティストの顔と、流行を的確に捉えつつ、具体的な作品に落とし込むプロデューサーの顔を持つ彼だからこそ生み出せる、2017年版のT-ペインの音楽。単なる一発屋では終わらない、彼の確かな実力が堪能できる作品だ。

Producer
T-Pain, Dre Moon, DJ Mustard, Illangelo

Track List
1. Who Died
2. Classic You feat. Chris Brown
3. Straight
4. That's How It Go
5. No Rush
6. Pu$$y on the Phone
7. Textin' My Ex feat. Tiffany Evans
8. May I feat. Mr. TalkBox
9. I Told My Girl feat. Manny G
10. She Needed Me
11. Your Friend
12. Cee Cee from DC feat. Wale
13. Goal Line feat. Blac Youngsta
14. 2 Fine feat. Ty Dolla Sign
15. That Comeback with Ne-Yo
16. Second Chance (Don't Back Down) feat. Roberto Cacciapaglia



a

Oblivion [Explicit]
Nappy Boy/Konvict Muzik/RCA Records
2017-11-17


Snoop Dogg - Make America Crip Again [2017 Doggystyle, Empire]

92年にドクター・ドレが発表したシングル”Nuthin' but a "G" Thang”で冒頭のラップを担当し、鮮烈なデビューを飾ったスヌープ・ドッグことカルヴァン・ブロータス。

その後、肩の力を抜いた飄々とした雰囲気のラップと、ウィットに富んだ表現が魅力のスヌープは93年のデビュー・アルバム『Doggystyle』を皮切りに、14枚のフル・アルバムと多くのコラボレーション作品をリリース。ニューオーリンズ出身のマスターPや、ネプチューンズのファレル・ウィリアムスストーンズ・スロウディム・ファンクなど、個性的なサウンドで新しい流行を生み出してきたプロデューサーを積極的に起用し、多くの名盤を残してきた。

このアルバムは、今年の5月に発売された『Never Left』から僅か5か月という短い期間で発表された、彼にとって2枚目のEP。配信限定の作品ながら、プロデューサーにはニューヨーク出身のベテランDJ、キッド・カプリや、80年代のディスコ・ミュージックを取り入れた作風で世界中にファンがいるディム・ファンクなどが参加。ゲストにはクリス・ブラウンオクトーバー・ロンドン、 ディム・ファンクの作品などに携わってきたション・レイウォンなど、豪華な面々が集結した本格的な録音になっている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされた”M.A.C.A.”。制作は、ビヨンセの”6inch”やウィークエンドの『Starboy』、映画『The Fate of the Furious / Fast & Furious 8』のサウンドトラックからシングル・カットされたG-イージーとケラーニのコラボレーション曲”Good Life”などを手掛けてきた、マイアミ出身のプロデューサー、ベン・ビリオンズが担当。シンセサイザーを多用したエレクトロ・ミュージック寄りの作品が多い彼だが、この曲ではファット・ジョーの”Make It Rain”にも似た躍動感あふれるヒップホップのビートを採用している。普段は立て板に水のように言葉が出てくるスヌープのラップが、この曲ではビートに合わせて随所に溜めを盛り込んでいる点は面白い。彼の器用さが垣間見える。

続く”3's Company”は、ジェイミー・フォックスやタンクなどを手掛けているロス・アンジェルスのプロデューサー、ドン・シティがプロデュース。ゲストにクリス・ブラウンとOTジェナシスを招いた曲で、シンセサイザーの音色がブリブリと鳴り響くビートは、クリス・ブラウンのデビュー曲”Run It”を思い起こさせる。クランクの手法を取り入れつつ、低音を強調することでドクター・ドレが作るような西海岸のヒップホップに落とし込む発想が光っている。

また、もう一つのシングル曲”Dis Finna Be a Breeze!”は、彼自身が制作を主導した作品。マスターPやジャーメイン・デュプリのプロデュース曲を連想させる、跳ねるようなビートと太いベース・ラインの上で、次々と言葉を繰り出すスヌープの姿が印象的だ。変則ビートを前にすると、肩に力が入ってしまうラッパーも少なくない中、他の曲と同じように、肩の力を抜いて軽々と乗りこなす彼のスキルの高さが発揮された佳曲だ。

そして、本作の最後を締めるのが、ディム・ファンクがプロデュースした”Fly Away”だ。2013年にリリースした二人のコラボレーション・アルバム『7 Days of Funk』にも参加している、ション・ラウォンをフィーチャーしたこの曲は、リズム・マシンの軽妙なビートとアナログ・シンセサイザーの煌びやかな音色が、リック・ジェイムスやギャップ・バンドのような80年代のファンク・ミュージシャンを思い出させる。このトラックの上で、ラップではなく、ヴォーカルを披露するスヌープの柔軟な発想も面白い。過去にはレゲエにも挑戦していた彼だが、この曲では80年代のファンク・ミュージシャン達が残したバラードのスタイルを、自分の作風に取り込んでいる。

今回のアルバムの聴きどころは、クランクやバラードといった、過去の作品ではあまり見られなかった手法に挑戦しているところだろう。個性的なラップを武器に20年以上に渡って一線で活躍してきた彼が、新しいスタイルを積極的に取り込んで、自分の音楽に昇華しているところが非常に面白い。また、彼のような西海岸出身のヒップホップ・アーティストに多くの影響を与えた80年代のソウル・ミュージックに触発された作品を録音するなど、新しい音に目を向けつつ、自分達の原点にも目を向けるバランス感覚の良さも、彼の音楽が新鮮さと安定感を与えていると思う。

彼の豊富な経験と、新しいサウンドから往年の名曲まで飲み込む柔軟で貪欲な感性が遺憾なく発揮された名盤。このスタイルをフル・アルバムに拡大したら、音楽シーンに新しい風を吹き込んでくれるのではないかと思わせる充実した内容だ。

Producer
Snoop Dogg, Ben Billions, Schife, Kid Kapri, Niggarchi, Dam-Funk etc

Track List
1. M.A.C.A.
2. 3's Company feat. Chris Brown and O.T. Genasis
3. Good Foot
4. Dis Finna Be a Breeze! feat. Ha Ha Davis
5. None of Mine
6. My Last Name feat. October London
7. SportsCenter (Remix) feat. DesignerFlow
8. Fly Away feat. Shon Lawon






Sky-Hi - Marble [2017 avex trax]

2005年にエイベックス主催のオーディションを勝ち上がったメンバーで結成、同年にシングル”BLOOD on FIRE”でメジャー・デビューを果たした、男女混成のダンス・ヴォーカル・グループ、AAA。

以後も、コンスタントに作品を発表し、2017年までに57枚のシングルと、11枚のフル・アルバムをリリース。複数の作品でゴールド・ディスクやオリコン・チャートの1位を獲得し、2016年と17年にはドーム・ツアーを敢行。2010年以降は7年連続で紅白歌合戦に出場(余談だが、彼らは紅白歌合戦の歴史で唯一、赤組と白組の両方で出演しているグループでもある)するなど、日本を代表するダンス・ヴォーカル・グループとして活躍してきた。

Sky-Hiこと日高光啓は、同グループでヴォーカルとラップを担当。メジャー・デビューの前からクラブ・イベントやMCバトルなどに出演し、デビュー曲の”BLOOD on FIRE”の頃からラップ詞を手掛けるなど、外部のソングライターを起用してきたグループの中で、早くからアーティストとしての才能を発揮してきた。また、2011年以降はSky-Hi名義でも活動を始め、これまでに14枚以上のシングルと3枚のフル・アルバムを発表。それ以外にも、餓鬼レンジャーやtofubeatsなど、様々なジャンルのミュージシャン達の作品に客演、ラッパーとしての実力をいかんなく発揮してきた。

本作は彼にとって初のデジタル・アルバム。2つの新曲と8つの既発曲からなる作品で、初の海外公演を控えた彼のキャリアを総括しつつ、新たなスタイルにも挑戦した意欲作になっている。

このアルバムでお披露目となった新曲”Marble”は、KMのプロデュース作品。ファイヤー・ホーンズのトランペット奏者、アツキ・ヤマモトを招いた曲は、ポロポロと爪弾かれるキーボードの演奏と、柔らかいトランペットの音色が、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズのような洒脱さを感じさせる。軽やかなサウンドが魅力の上で、茶目っ気たっぷりのラップを聴かせるスカイ・ハイも面白い。畳み掛けるようにラップを繰り出すメロディ部分から、軽妙な歌を聴かせるサビへと繋ぐ展開は、ラップとヴォーカルを両方経験している彼ならではの演出だ。

続く”Bitter Dream”は、91ウエストがプロデュースを担当した作品。乾いた音色のギターの演奏が印象的なトラックに乗って、軽やかなラップを披露するアップ・ナンバー。ラテン音楽のような陽気で軽快なサウンドを活かしたリズミカルなラップが格好良い曲だ。

それ以外の曲では、2014年にリリースしたシングル曲のリメイク”Smile Drop’16”が印象的。敢えて押韻に拘らないスタイルを取り入れることで、AAAの作品ともスカイ・ハイ名義の作品とも異なる、歌とラップを織り交ぜた、荒々しい雰囲気とキャッチーなフレーズ、強いメッセージ性が一体化したパワフルなヴォーカル作品に仕上がっている。

また、キック・ザ・カン・クルーのクレヴァがプロデュースした”As A Sugar”は、クレヴァの持ち味である奇想天外なトラック・メイクのスキルが発揮された曲。ベートーヴェンの”運命”を彷彿させる畳み掛けるようなストリングスの演奏バックに、次々と言葉を放つスカイ・ハイのラップ技術が素晴らしい。

彼の魅力は「Sky-Hi」と「AAAの日高光啓」を切り分けることなく、一人のアーティストの中に同居させる絶妙なバランス感覚だと思う。「教室の人気者」や「近所の気さくなお兄さん(お姉さん)」のような華やかで親しみやすいグループの雰囲気を残しつつ、ウィットに富んだ言い回しと軽妙な表現で聴き手を唸らせる本格的なヒップホップを聴かせる技術は、マッチョなキャラクターをウリにするステレオタイプなラッパーとは一線を画していると思う。

また、歌とラップの両方が求められるグループで活動することで、場面に応じてスタイルを切り替える技を身に着けている点も彼の強みだと思う。歌とラップを使い分けるには人は、日本のAIや、カナダのドレイク、韓国のG-ドラゴンなど、高い評価と商業面での成功を収めた人も少なくないが、日本を拠点に活動する男性ラッパーに限れば、とても珍しい存在だと思う。

日本のポップスのトレンドを踏襲しつつ、それを通好みのヒップホップと融合するセンスと技術が光る面白い作品。マッチョなイメージやアンチ・メジャーをウリにするヒップホップ・アーティストが多い中、本格的なヒップホップをメインストリームのポップスのいちスタイルに昇華した彼の存在はとても貴重だと思う。

Producer
KM, 91 West, Sunny Boy ,UTA, KREVA etc

Track List
1. Marble
2. Bitter Dream(Colorful Urban Mix)
3. Double Down
4. Smile Drop’16
5. Nanairo Holiday
6. As A Sugar
7. Stray Cat
8. Limo
9. Tokyo Spotlight
10. Over The Moon






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