ドイツのプロダクション・チーム、ジャザノバがベルリンに設立した音楽レーベル、ソナー・コレクティブ。同社が新たに送り出したのは、ベルギーのゲント出身のシンガー・ソングライター、リズ・アクだ。

彼女の武器は、強くしなやかな歌声と、高い技術を誇るバンド・メンバーによる繊細だが強靭なサウンド。そんな彼女は、シャーデーを彷彿させる神秘的な雰囲気と、ビラルやディアンジェロを連想させる、ジャズやヒップホップを取り込んだ作風で人気のシンガーだ。

本作は、彼女にとって初のフル・アルバム。マオリ族のサイケデリック・ロック・ミュージシャン、ビリーTKの息子で、自身も電子音楽の作品を数多く残している、ニュージーランド出身のプロデューサー、マラTKとの共同プロデュース作品だ。また、バンド・メンバーには、ピアノのデイヴィッド・ソーマエレや、ベースのジュアン・マンセンスなど、実力に定評のある面々を揃えている。

アルバムの1曲目”The Drum Major Instinct”は、マラTKをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。セルジュ・ヘルトージュのしっとりとしたギターの演奏と、マラTKが生み出す電子音を組み合わせ、フォーク・ソングの素朴さとR&Bの洗練されたサウンドを両立している。リズの涼しげな歌声が、透き通った音色の伴奏を際立たせている。

また、”Secret Change”は、ジュアンのベースとジョルディ・ギーエンズのドラムが生み出す変則的なビートと、マラTKが生み出すエレクトロ・サウンドが一体化した、クレイグ・デイヴィッドのアルバムに入っていそうなガラージ色の強い曲。バンドによる演奏と、柔らかい音色のシンセサイザーを多用することで、癖のあるトラックを聴きやすくしている点も面白い。音数を減らしメロディをシンプルにすることで、ビートの衝突を避けながら、歌声をきちんと聴かせているヴォーカルのアレンジも魅力的だ。

そして、ズールー・ムーンを招いた”Ankhor”は、デイヴィッドの美しいピアノの演奏から始まるミディアム・ナンバー。古いレコードからサンプリングしたような、温かい音色を使ったビートと、ポロポロと鳴り響くピアノの伴奏が切ない雰囲気を醸し出している。ラップを交えつつ、気怠そうに歌うリズの歌唱は、エリカ・バドゥやアンジー・ストーンにもよく似ている。エリカ・バドゥやディアンジェロのような、ソウルとヒップホップを融合させた音楽をより洗練させたような印象を受ける曲だ。

それ以外にも、見逃せない曲が”Hunger”だ。電子音を多用したきらびやかな伴奏と、ヒップホップのビートを組み合わせたトラックが印象的な、ミディアム・ナンバー。サーラ・クリエイティブ・パートナーズやプラチナム・パイド・パイパーズを連想させる先鋭的なビートと、荒々しい歌唱の組み合わせは、ジョージ・アン・マルドロウの音楽を彷彿させる。本作の収録曲では異色だが、とても格好良い曲だ。

彼女の魅力は、透き通った歌声を活かしたしなやかなヴォーカルと、ジャズやソウル、ヒップホップや電子音楽を混ぜ合わせた先鋭的だけど聴きやすいサウンドだと思う。フォークソングと電子音楽を混ぜ合わせたり、生バンドにガラージの要素を取り入れたり、ヒップホップの手法を取り入れたりと、色々なスタイルに挑みながら、自身の持ち味である、流麗で洗練されたヴォーカルに個性を加えている。その手法は、エリカ・バドゥやインディア・アリーにも似ているが、エリカよりもシンプルで聴きやすく、アリーよりも個性的という、ありそうでなかったものだ。

ヒップホップや電子音楽の手法を取り入れて、感性の鋭い若者にアピールしつつ、緻密で洗練された演奏技術によって、大人の鑑賞にも耐えうる作品に纏め上げている。コンピューターと生演奏を対立項にするのではなく、両者を上手に使い分けることで新鮮で優雅な音楽に仕立てた、大人のための新しいR&B作品だと思う。

Producer
Liz Aku, Mara TK etc

Track List
1. The Drum Major Instinct feat. Mara TK
2. Slowly
3. Deceive The Mind
4. Seasons Change
5. Secrets Die
6. Flight & Fall
7. Just What I Need
8. Ashamed
9. Hiding Alone
10. Ankhor feat. Zulu Moon
11. Hunger
12. Breathing Underwater feat. Mara TK





Ankhor
Sonar Kollektiv
2017-05-05