melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

女性シンガー・ラッパー

Jorja Smith - Lost & Found [2018 FAMM]

2016年に、ディジー・ラスカルの”Sirens ”をサンプリングした”Blue Lights”を公開して表舞台に登場。シャーデー・アデューやエンディア・ダヴェンポートを彷彿させる透き通った歌声と、ムラ・マサやナオの音楽を思い起こさせる、エレクトロ・ミュージックの要素を取り入れたサウンドで、カナダのドレイクや、イギリスのストームジー、アメリカのカリ・ウチスなど、様々な国のアーティストから絶賛された、イギリスのウエスト・ミッドランズにあるウォルソール出身のシンガー・ソングライター、ジョルジャ・アリシア・スミス。

彼女は子供の頃からトロージャンのレゲエ作品や、カーティス・メイフィールドなどのソウル・ミュージックを聴いて育ったという。また、父がソウル・バンドで活動していたこともあり、早くから音楽への強い興味を示していた。

そんな彼女は2016年に、音楽投稿サイト経由で”Blue Lights”を発表。同年にマーヴェリック・セイブルをフィーチャーした”Where Did I Go?”を公開。その後も、4曲入りのEP『Project 11』をリリースし、ドレイクのUKツアーに帯同するなど、一気にブレイクを果たした。

また、2017年に入るとドレイクのアルバム『More Life』に参加する一方、国際女性デーに”Beautiful Little Fool”を発売、年末にはMOBOアワードやブリット・アワードにノミネートし、後者を獲得するなど、華々しい活躍を見せてきた。

本作は、そんな彼女の初のフル・アルバム。自身のレーベル、FAMMからの配給だが、CD盤やアナログ盤も作られた力作。全ての収録曲で彼女自身がソングライティングを主導し、プロデューサーには、既発曲を一緒に作ったチャーリー・ペリーに加え、アメリカ出身のジェフ・クレインマンや、オーケストラで活動するマーキー・キト・リビングなど、世界各地で活躍する個性的なクリエイターが参加。21歳の瑞々しい歌声と若い感性を最大限引き出した良作になっている。

まず、本作に先駆けてリリースされた彼女のデビュー曲”Blue Lights”は、ディジー・ラスカルの”Sirens”のフレーズを引用し、ガイ・ボネット&ロナルド・ロマネリの”Amour, Émoi... Et Vous” の演奏をサンプリングしたトラックのミディアム・ナンバー。シンセサイザーを多用した哀愁を帯びた上ものが印象的なトラックは、ジャンルも作風も違うがロジックの”1-800-273-825”に似た雰囲気。事前情報がなければディジー・ラスカルの曲を借用したとはわからないジョルジャの歌唱は、歌とラップを織り交ぜた、ドレイクに近いもの。しかし、エリカ・バドゥから泥臭さを抜いたような、滑らかな歌声のおかげで、繊細なR&Bに聴こえる。

また、同じ年にリリースされた”Where Did I Go?”は、ペリーがプロデュースした作品。太く柔らかい音色のベースを強調したトラックは、エリカ・バドゥやエスペランザ・スポルディングのようなジャズの要素を取り込んだミディアム・ナンバー。彼女達に近しい声質の持ち主とはいえ、より爽やかなヴォーカルの彼女が歌うと、ポップで聴きやすい音楽に映る。

これに続く”February 3rd”は、プロデューサーにフランク・オーシャンケヴィン・アブストラクトの作品にも関わっているジェフ・クレインマンを招いた楽曲。オルゴールのような音色を取り入れて、繊細で神秘的、だけど少しポップな雰囲気を演出したミディアム・ナンバーだ。高音に軸足を置いて、丁寧に歌い込むスタイルは、ミニー・リパートンにも少し似ている。

そして、本作の隠れた目玉がオーストラリア在住のエレクトロ・ミュージックのプロデューサー、マーキー・キト・リビングを起用した”On Your Own”。バス・ドラムを強調したビートは、ヒップホップのスタイルだが、それに組み合わせる複雑な構成の伴奏はドラムン・ベースの手法という個性的な作品。ムラ・マサナオのような、エレクトロ・ミュージックとヒップホップを組み合わせたアレンジが印象的だ。

彼女の面白いところは、エンディア・ダヴェンポートやシャーデー・アデューのような、大胆なヴォーカル・アレンジと洗練された歌唱を使い分ける技術と、透き通った歌声を持ちながら、バック・トラックではエレクトロ・ミュージックの新しい手法を積極的に取り入れているところだ。アメリカのR&Bシンガーにも、電子音楽の技法を組み入れた作風の人は一定数いるが、彼女の場合は、他のイギリスのR&Bシンガー同様、より電子音楽に歩み寄ったサウンドを取り入れている。この、懐かしい歌声と、現代的なアプローチが彼女の個性を確立するのに一役買っていると思う。

アメリカやカナダとは一線を画した、独自の進化を遂げたイギリスのR&Bの現在を象徴するようなアルバム。電子音楽が好きな人には、ヴォーカルの多彩な表現が、R&Bが好きな人には電子音楽の柔軟な発想が新鮮に感じられる面白い作品だ。

Track Data
1. Lost & Found
2. Teenage Fantasy
3. Where Did I Go?
4. February 3rd
5. On Your Own
6. The One
7. Wandering Romance
8. Blue Lights
9. Lifeboats (Freestyle)
10. Goodbyes
11. Tomorrow
12. Don't Watch Me Cry





LOST & FOUND
JORJA SMITH
COOKI
2018-06-08

Matador! Soul Sounds - Get Ready [2018 Color Red Records, P-Vine]

90年代後半、クラブ・イベントで演奏するためにニュー・マスターサウンドを結成し、以後20年、躍動感と高揚感が魅力の本格的なファンクを聴かせてきた、ウェールズ出身のギタリスト、エディ・ロバーツ。3人編成でありながら、大規模なバンドにも見劣りしない力強い演奏で、大小さまざまな会場を沸かせてきた、ニューヨーク発のファンク・バンド、ソウライブのドラマー、アラン・エヴァンス。出身地も演奏スタイルも違うが、ともにジャズやファンクへの深い愛情を感じさせる作風で、多くのファンを魅了してきた二人が手を組んだのが、このマタドール!ソウル・サウンド。

他のメンバーには、モニカやファーギーのような有名ミュージシャンの作品にも関わっているケヴィン・スコットや、クリスチャン・フランキやマーク・ストーンといった実力派のアーティストの録音にも参加しているクリス・スピーズ、オルゴンやニュー・マスター・サウンズの楽曲にも起用されているエイドリオン・ドゥ・レオンや、ロータスの作品にも名を連ねているキム・ドーソンなど、個性豊かな面々が顔を揃えている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされたシングル曲”Get Ready”、DJプレミアやピート・ロックの作品を彷彿させる複雑なビートと、ジミー・スミスやシャーリー・スコットを思い起こさせるダイナミックでポップなオルガンの演奏が光る佳曲。ジャズとヒップホップを融合した作風は、ニュー・マスターサウンドともソウライブとも一味違う。

これに対し、両者が在籍するバンドの作風を積極的に取り入れたのが”The State Of Affairs”だ。ファンクを基調にしたビートはニュー・マスターサウンドの作風に近いし、グラント・グリーンを連想させる軽やかなギターの演奏は、ソウライブの楽曲っぽい。両者が相手の在籍するバンドのスタイルを演奏し、一つの楽曲に融合させた遊び心が印象的だ。

また、”Get Ready”のB面に収録されていた”Mr Handsome”は、チャールズ・ライト&ワッツ103rdストリート・バンドの”Express Yourself”やジェイムス・ブラウンの”Hot Pants”などを連想させる、軽快なビートと陽気なオルガンの演奏が心地よいアップ・ナンバー。ドラムの音数を増やした複雑なビートでありながら、聴き手に軽やかな印象を与えるのは、アランの高い演奏技術の賜物か?ヒップホップ世代にも馴染みのあるビートを取り入れつつ、リラックスして楽しめる軽妙な演奏に昇華するスキルは流石としか言いようがない。

そして、陽気な楽曲が多い本作では異色の、ロマンティックな雰囲気が魅力なのが”Computer Love”だ。ベティ・ライトやグウェン・マクレーのようなアメリカ南部のソウル・ミュージックにも通じる、洗練されたビートの上で、全盛期のジョージ・ベンソンが演奏しているかのような艶めかしい音色を響かせるギターが魅力の作品。シンセサイザー全盛期の時代だからこそ、彼らのような楽器の音を丁寧に聴かせる音楽が新鮮に聴こえる。

このアルバムの面白いところは、アメリカのミュージシャンが好んでカヴァーする黒人音楽と、イギリスのミュージシャンが積極的に演奏する黒人音楽を一つの演奏に同居させているところだろう。今も多くのファンを魅了する60年代のソウル・ミュージックやファンク、ジャズを土台にしながら、好みが異なる両国のミュージシャンの個性を上手に反映している点が特徴だ。しかも、単に両者の趣味趣向を足して2で割った音楽を作るのではなく、アレンジの幅を広げる手段にしている点にも着目すべきだろう。

経験と知識が豊富な二人だからこそ作れた、独創的なファンク作品。往年の黒人音楽の豊かな表現のい美味しいところを抽出し、一枚のアルバムに凝縮した聴きどころだらけの良盤だ。

Producer
Eddie Roberts, Alan Evans

Track List
1. Get Ready
2. Stingy Love
3. Too Late
4. The State Of Affairs
5. Anything For Your Love
6. Mr Handsome
7. El Dorado
8. Cee Cee
9. Soulmaro
10. Covfefe
11. Theme For A Private Investigator
12. Computer Love
13. Ludvig
14. Move Move Move




ゲット・レディ
マタドール! ソウル・サウンズ
Pヴァイン・レコード
2018-03-02

BTSを起点に韓国のR&B、ヒップホップの重要アーティストを並べてみた。

2018年6月2日付のビルボード総合アルバム・チャート で、BTSの『Love Yourself: Tear』がアジア出身のアーティストとしては史上初、外国語作品としてはイル・ディーヴォの『Ancora』以来12年ぶりとなる1位を獲得した。この記録については色々な意見はあるけれど、ヒップホップやR&Bが好きな自分にとっては、彼らの記録は時間をかけて現代の形になった、韓国のヒップホップやR&Bの一つの到達点のように映った。そこで、今回は番外編として、韓国のヒップホップやR&Bの歴史で重要な役割を果たしたアーティストと楽曲を9組取り上げてみた。

選定基準は
1.韓国のヒップホップやR&Bに何らかの影響を与えた(と思う)アーティストであること
2.単純な売り上げだけでなく、後の時代に何らかの影響を与えた曲であること
この二つ。
それでは、一組ずつ紹介してみよう。


Seo Taiji & Boys – Come Get Some [1995]

韓国のR&B、ヒップホップを語るにあたって、避けて通れないのが90年代前半に一世を風靡した、3人組ダンス・ヴォーカル・グループ、セオ・タジ&ボーイズ。当時、アメリカで流行していたニュー・ジャック・スウィングを取り入れ、歌って踊れてラップもできた同グループは、歌謡曲が中心だった韓国の音楽市場にR&Bブームを巻き起こした。また、グループの解散後、メンバーのヤン・ヒュンソクは芸能事務所YGエンターテイメントを設立。後述するBIGBANGなどのヒップホップ・アクトを育て、韓国をアジア屈指のヒップホップ大国にした。

この曲は、95年にリリースされた4枚目のアルバム『Seo Taiji and Boys IV』に収録。前作『Seo Taiji and Boys III』でロックに取り組んで人々を驚かせた彼らは、このアルバムでDr.DreやIce-Tなどの成功によって注目を集めていた、アメリカ西海岸のヒップホップに挑戦。収録曲の大半が検閲(当時、韓国では検閲制度が存在した)に引っ掛かったという、ポップ・スターらしからぬ過激なリリックと、本場のギャングスタ・ラップにも見劣りしない重厚なサウンドが話題になった。余談だが、BTSは2016年に、セオ・タジの芸能生活25周年記念の企画で、この曲のリメイクにも挑戦している。原曲の雰囲気を残しつつ、21世紀を生きる彼らに合わせてリリックを書き直したラップは必聴。






1TYM – 1TYM [1998]

セオ・タジ&ボーイズ解散後、ヤン・ヒュンソクが立ち上げたYGエンターテイメントからデビューしたのが、4人組の男性グループ1TYM(ワンタイム)。曲の途中でラップを挟む、歌って踊れるヴォーカル・グループが主流の時代に、ラップを中心に据えた独自のスタイルで。後進に多くの影響を与えた。また、グループの解散後、中心人物のテディ・パクはプロデューサーに転身、BIGBANGの”Fantastic Baby”や2Ne1の”Fire”といったヒット曲を数多く手掛け、アジア屈指のヒット・メイカーとして歴史に名を残した。余談だが、BTSのラップ担当の3人は、オーディションの合格時に「1TYMみたいな(あまり踊らない)本格的なラップグループを作ろう」と口説かれたらしい(その後は言う由もがな)。


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