ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

演奏者

PJ Morton - Gumbo [2017 Morton Music]

カナダからアメリカに渡った牧師の父を持ち、2000年代半ばから、キーボーディストやソングライターとして活動している、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のシンガー・ソングライター、PJモートンことポール・モートンJr.。20代半ばの若さで、フェイス・エヴァンスの『A Faithful Christmas』や、モニカの『The Makings Of Me』にキーボーディストとして参加し、2010年からは、共通の友人であるアダム・ブラックストーンを介してマルーン5のツアーに帯同(後に正式加入)。それ以外にも、ロバート・グラスパーの『Radio 2』にソングライターとして携わるなど、ジャンルを超えた幅広い活動を見せてきた。

また、2005年に初のソロ作品『Emotions』を発表すると、その後は2016年までに多くのフル・アルバムやミックステープ、EPを発表。2010以降は、トラップ・ミュージックやEDMのような、コンピューターをフル活用した音楽がヒット・チャートを席巻するなか、人間の手による演奏と丁寧な歌唱に拘った、昔ながらのソウル・ミュージックのスタイルで、ソウル・ファンだけでなく、ロックやブルースなどのヴィンテージ音楽を愛する人も引き付けてきた。

今回のアルバムは、2013年の『New Orleans』から、約4年ぶりとなる通算5枚目のフル・アルバム。 といっても、この間にもミックステープやEPを発表し、マルーン5の一員としても、新作やツアーで多忙な日々を過ごしていたので、「久しぶりの新作」という印象はほとんどない。本作では、前作を配給していたユニヴァーサル系列のヤング・マネー、リパブリックを離れ、自身のレーベル、モートン・ミュージックから発売している。

アルバムの1曲目に入っている”First Began”は、彼のキーボードと歌を思う存分堪能できる、弾き語り形式のミディアム・バラード。敢えて爪弾くように演奏することで、繊細で滑らかなテナー・ヴォイスの良さを強調したアレンジが心憎い。余談だが、鍵盤楽器としなやかなテナーの組み合わせは、前作で共演しているスティーヴィー・ワンダーに少し似ている。

一方、それに続く本作の看板的な楽曲”Claustrophobic”は、ニューオーリンズ出身のラッパー、ペルをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。太い音のシンセ・ベースや軽妙な音色のドラムを使った伴奏が、アース・ウィンド&ファイアの”That’s The Way Of The World”を思い起こさせる。高音が魅力のスマートなヴォーカルは、フィリップ・ベイリーにもよく似ているから、このタイプの曲と相性がいいのは当然かもしれない。ペルのパフォーマンスも粗削りだけどいい味を出している。

そして、本作の中でも異色なのが、有名なゴスペル曲のリメイク”Everything's Gonna Be Alright”だ。2016年のアルバム『In My Mind』が、大ヒットになったことも記憶に新しいBJザ・シカゴ・キッドと、アンソニー・ハミルトンの作品を脇から支える3人組ヴォーカル・グループ、ハミルトンズを迎えたこの曲は、厳かさと明るく楽しい雰囲気を両立した、ゴスペルの魅力を忠実に再現した作品。PJの繊細なヴォーカルとBJの軽妙な歌唱、それにハミルトンズの太く泥臭い歌声が混ざり合った後半部分は、各人の個性が合わさって色々な表情を映し出す、歌の面白さを再認識させてくれる。

また、本作の最後を締める”How Deep Is Your Love”は、ビージーズの77年のヒット曲のカヴァー。 原曲に比べると、跳ねるような伴奏が特徴的な、ファンク色の強いアレンジだ。しかし、主役の声質が、高音寄りの細くしなやかなビージーズに近いもののおかげで、原曲持つ、洗練されたイメージは崩されず、楽曲全体としてはカーティス・メイフィールドの”Trippin’ Out”のような、スタイリッシュなミディアム・ナンバーに仕上がっている。

今回のアルバムは、ソウル・ミュージックやR&B、ニューオーリンズへの深い造詣と、世界屈指の人気バンドで吸収した、様々な年代、国の人の心を掴むポップ・センスが融合した面白い作品だと思う。それを端的に示しているのが、ゴスペルの名曲や往年のポップス・ソングを現代的なR&Bにリメイクしたカヴァーで、両者で見せる演奏は、原曲を知らない若い人にクラシックスの魅力を伝えるだけでなく、原曲をよく知る世代にも、若い世代のミュージシャン(といっても、録音時点で30代後半だが)による新鮮な解釈と、現代の黒人音楽の面白さを伝えていると思う。

地道に鍛え上げた歌や演奏の技術と、自身の名義やバンド活動、外部のミュージシャンとの仕事で培われた、世界中のリスナーを引き付けるポップ・センスが同居した、シンプルなようで味わい深い作品。ソウル・ミュージックを古臭いと思う人や、最近のロックやポップスについていけないと思っている人にこそ聴いてほしい。個人的な思いをいえば、配信版だけでなく、レコードでも聴きたいなあ。

Producer
PJ Morton

Track List
1. First Began
2. Claustrophobic feat. Pell
3. Sticking to My Guns
4. Religion
5. Alright
6. Everything's Gonna Be Alright feat. BJ the Chicago Kid and The HamilTones
7. They Gon' Wanna Come
8. Go Thru Your Phone
9. How Deep Is Your Love



Gumbo
Morton Records
2017-04-21

Nick Murphy - Missing Link EP [2017 Future Classic]

幼いころから、ジャズを中心に色々な音楽を聴いて育ち、成長すると次第に自分でも曲を作るようになったという、オーストラリアのメルボルン出身のシンガー・ソングライターでクリエイターの、ニック・マーフィーことニコラス・ジェイムス・マーフィー。

2011年には、チェット・フェイカーの名義で、ブラックストリートの96年のヒット曲をカヴァーした”No Diggity”を発表。90年代を代表するR&Bクラシックを、電子音楽とソウル・ミュージックの手法を用いてリメイクしたこの曲は、多くの音楽情報サイトで取り上げられ、2013年にはスーパーボールの中継で流されるCMソングにも採用された。

そして、2012年には同名義で初のEP『Thinking in Textures』をリリース。インディペンデント・レーベル発の作品ながら、世界各地でヒット。日本を含む複数の国でCDやアナログ・レコードが発売された。

その後も、アメリカ人シンガー、キロ・キッシュをフィーチャーしたシングル”Melt”や、自身がヴォーカルを執った”Talk Is Cheap”など、多くの曲を発表。オーストラリアのヒット・チャートに頻繁に登場する売れっ子ミュージシャンになった。また、2014年には初のフル・アルバム『Built on Glass』を発表。こちらはオーストラリアのヒット・チャートで1位を獲得、年間チャートでも12位に名を連ね、プラチナ・ディスクを取得した大ヒット作となった。

また、同作が成功した後は、オーストラリア国内を中心に、ツアーで多忙な日々を過ごす一方、精力的に新作を発表している。特に、2016年以降は、チェット・フェイカーの名義と並行して、ニック・マーフィーとしても、シングルを2枚リリースしている。

今回のアルバムは、ニック・マーフィーの名義で発売された初のEP。上述のシングルに収められている2曲は入っていない、新曲だけの作品となっている。

本作の目玉といえば、なんといっても、アルバムのオープニングを飾る”Your Time”だ。電子音楽にヒップホップやR&Bの要素を取り入れた、2016年のアルバム『99.9%』も記憶に新しい、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダとコラボレーションしたこの曲。電子音を重ね合わせ、エフェクトをかけた幻想的なトラックと、カート・コヴァーンを彷彿させるニックの殺伐としたヴォーカルが印象的なミディアム・ナンバー。ケイトラナダの温かい歌声が、楽曲のアクセントになっている。

これに対し、2曲目の”Bye”は、強烈なエフェクトをかけた荒々しいギターとシンセサイザーの音色が、ジミ・ヘンドリックスやファンカデリックなどのサイケデリック音楽を思い起こさせるミディアム・ナンバー。1分弱の短い曲だが、鮮烈な印象を残している。

一方、ポコポコというテクノ・ポップっぽい電子音を使ったアップ・ナンバー”I’m Ready”は、彼の退廃的なヴォーカル・スタイルを活かした曲。レディオヘッドなどを連想させる、物悲しい雰囲気のメロディと、耳に刺さるような鋭いシンセサイザーの音色の組み合わせが格好良い。ニックのグラマラスな声が、ロックで多用されるメロディ・ラインをソウル・ミュージックのように聴かせている。

また、4曲目の”Forget About Me”は、太いシンセ・ベースやリズム・マシンの音色を使ったトラックが、ニュー・オーダーやデュラン・デュランのような、80年代に活躍したロック・ミュージシャンを思い起こさせる、モダンなアップ・ナンバー。地声を織り交ぜたワイルドな歌声も魅力的だ。

そして、アルバムの最後を締める”Weak Education”は、サックスの音色と電子音を絡めた、モダンだけど温かいトラックが、ティミー・トーマスの”Why Can't We Live Together”を思い起こさせる曲。ロー・ファイな音色を使った四つ打ちのビートが、ドナ・サマーの”I Feel Love”のような、黎明期のテクノ・ミュージックを連想させる。懐かしさと新鮮さが織り交ざった曲だ。

新しい名義でのリリースになっても、色々な音楽を取り入れて、自分の作風に昇華させるスタイルは変わらない。今回のアルバムを聴く限り、ヒット曲を、新作への期待に押しつぶされたり、周囲の目を意識しすぎて萎縮したりすることなく、雑駁なようで緻密な、聴き慣れたようで斬新な、不思議な音楽を聴かせている。

エレクトロ・ミュージックをベースにしつつ、ロックやフォーク、ソウルやジャズのエッセンスを詰め込み、一つになるまで煮詰めた、濃密な音楽を揃えた魅力的なアルバム。広く浅く、色々な音楽を聴く人なら思わずニヤリとする、一つのジャンルを深く突き詰めて聴く人には新鮮な、面白い作品だと思う。

Producer
Nick Murphy

Track List
1. Your Time feat. Kaytranada
2. Bye
3. I’m Ready
4. Forget About Me
5. Weak Education






Diggs Duke - Civil Circus [2015 Following Is Leading]

一人で様々な楽器を使いこなす技術力と、ジャズとソウル・ミュージックやヒップホップを融合させた独創的な音楽性で、新しい音楽に敏感な人々の間で注目を集めていた、インディアナ州ゲイリー出身のアーティスト、ディグス・デュークことジョナサン・ディグス・デューク。

2013年には、初めてのフル・アルバム『Offering For Anxious』を、ジャイルズ・ピーターソンのレーベル、ブランズウッドから発売。ディアンジェロやプリンスを思い起こさせる、様々な音楽を飲み込み、自分の音楽に昇華した作風が話題となり、ジャズ・ファンに留まらず、ヒップホップやR&Bが好きな人にも愛聴された。

このアルバムは、2015年の終わりに発表された、彼にとって2枚目のフル・アルバム。彼が立ち上げたフォローイング・イズ・リーディングから、配信限定(CD-R盤もある)でリリースされたもので、2017年に日本のウルトラ・ヴァイヴからCD盤が発売された。

今回のアルバムも、前作同様、全ての曲が彼自身のプロデュースによるもの。しかし、ほぼ全ての楽器を一人で演奏していた前作に対し、本作では多くのミュージシャンを起用。彼の鋭い音楽センスを活かしつつ、彼とは異なるキャリアを積んできた面々の感性を取り込むことで、よりバラエティ豊かになった音楽を聴かせている。

アルバムの最初に入っている”Busker”は、テナー・サックスにジャラニ・ブルックス、ドラムにウォーレンG.クラダップIII世、ベースにルーク・スチュアートを招いた、3人編成による録音。3人の演奏にエフェクトをかけて、ダブやエレクトロニカのように幻想的な雰囲気に仕立て上げた曲だ。エフェクトを活かすため、サックスのフレーズをシンプルにした手法は、マイルス・デイヴィスがエレクトリック・サウンドに適応するために、音数を絞った演奏を吹き込んだ『Bitches Brew』の表現を連想させる。

これに対し、ダンテ・ポープをヴォーカルに起用した”Compensation”は、19世紀に公民権運動を題材にした多くの作品を残している、作家で詩人のポール・ローレンス・ダンバーの詩に曲をつけたもの。ニーナ・シモンなど、多くのミュージシャンに引用されてきた、有名な文学作品を取り入れつつ、フルートやギターを使った抽象的なサウンドで、前衛的なR&Bに仕立て上げたセンスが面白い。全ての楽器を彼自身が演奏したトラックも聴きどころだ。

一方、本作では最長の5分半に及ぶ大作、”Ambition Addiction”は、ヴォーカルにレイチェル・ブロットマンを招いたミディアム・ナンバー。音と音の隙間を意識したトラックは、ジェイムス・ブレイクを彷彿させる、エレクトロ・ミュージックとジャズやソウル・ミュージックが融合した伴奏の上で、繊細な歌声を響かせる2人の姿が印象的な曲だ。電子楽器を使った抽象的なビートと、フルートやギターの演奏を組み合わせた温かい演奏を、うまく使い分けたアレンジ技術は圧巻の一言だ。

そして、本作では2番目に長い4分弱の曲”Warming Warning”は、電子楽器を多用したポップなサウンドが光るミディアム・ナンバー。70年代のスティーヴィー・ワンダーを思い起こさせる音色のエレクトリック・ピアノや、パーカッションのように軽快な音を鳴らす電子ドラムを使ったバック・トラックと、しなやかなディグスのヴォーカルと、グラマラスな歌声のフィーチャリング・シンガー、ジャダ・アーヴィンの対照的な個性が上手く噛み合った、ソウルフルな曲だ。ローファイな音色の電子楽器を使うことで、昔のソウル・ミュージックの雰囲気を再現した手法が格好良い。

今回のアルバムは、1分から2分の曲が中心で、全体では30分に満たない、EPに近い作品だ。しかし、ソウル・ミュージックやエレクトロニカ、アフロ・ミュージックまで色々なジャンルの音楽のエッセンスを取り込み、曲の全てをハイライトのように聴かせる彼の創作能力のおかげで、1時間超の大作にも負けないくらい、多くの見せ場を作っている。

最初から最後まで、全てがヤマといっても過言ではない、密度の濃い作品。このアルバムを聴いて、彼の音楽に興味を持った人がいたら、ぜひ彼のホームページを覗いてほしい。そこには、未だCD化されてない、多くの名曲があるのだ。

Producer
Diggs Duke

Track List
1. Busker
2. Compensation
3. Ambition Addiction
4. Stoplight Lessons
5. Postcard
6. Street Preacher
7. Bumper To Bumper
8. Warming Warning
9. Damn Near Home
10. We Don't Need Love






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