melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

演奏者

August Greene - August Greene [2018 Original Amazon Records]

92年にアルバム『Can I Borrow a Dollar? 』を発表して以降、サンプリングと電子楽器を効果的に組み合わせたトラックと、詩的でありながら随所にウィットに富んだ表現を盛り込んだラップで人気を博し、近年は俳優としても活動しているコモン。ジャズとヒップホップやR&Bを混ぜ合わせた独特の音楽性が注目を集め、2014年には、ジャズ・ピアニストでありながら、グラミー賞の最優秀R&Bアルバム部門を獲得したロバート・グラスパー。DJやラッパーとしても活動している経験を活かし、既存のジャズの形式には囚われない、多彩なビートを繰り出すスタイルで、多くのミュージシャンの作品を裏表から支えてきたカリーム・リギンス

独創的な作風で、確固たる地位を築いてきた3人が結成した音楽ユニットが、このオーガスト・グリーンだ。

ネットフリックスで放送され、アカデミー賞にもノミネートしたドキュメンタリー「13th -憲法修正第13条-」(「修正第13条」とは奴隷制度の廃止条項のこと)に提供し、エミー賞を獲得した”Letter to The Free”を一緒に制作したことをきっかけに、三人のコラボレーションはスタート。

2018年1月にお披露目のライブを行うと、3月には初のスタジオ・アルバムとなる本作を大手通販サイト、アマゾンの配信サービス限定でリリース。その後、他のサービスでも順次配給されるようになった。

このアルバムでは、サウンズ・オブ・ブラックネスの同名曲のリメイク”Optimistic”を除く、ほぼ全ての曲で3人がプロデュースとソングライティングを担当。ゲストには、ブランディのほか、キーボード奏者のサモーラ・ピンダーヒュージスが参加。実績と実力には定評のある面々によって、徹底的に練り上げられた作品になっている。

収録曲の中で最初に目を惹いたのは、2曲目の”Black Kennedy”。スネアの音をずらすことで、聴き手の心に微妙な違和感と強い印象を残すトラックに、リズミカルなラップやポロポロとつま弾かれるピアノの伴奏を組み合わせた作品だ。癖のあるサウンドとロマンティックな演奏を一つの楽曲に同居させる繊細な感性と高い技術が光っている。ロバートのヴォーカルが、ジョン・レジェンドに少し似ている点も面白い。

これに続く”Let Go”は、カリーム・リギンスやロバート・グラスパーの真骨頂ともいえる、生演奏で構成されたヒップホップのビートと、哀愁を帯びたフレーズが印象的な作品。派手なトラックで耳目を惹くことが多いヒップホップの世界では異色のトラックだが、ボビー・コールドウェルの”Open Your Eyes”をサンプリングした”The Light”などのヒット曲を残してきたコモンだけあって、派手さはないが味わい深いビートも、きちんとキャッチーなヒップホップに落とし込んでいる。

これに対し、3人の個性が強く打ち出されているのが”The Time”だ。ドラムンベースの要素を取り入れた癖のあるビートで聴き手を揺さぶるカリームに、複数の鍵盤楽器を用いた優雅な伴奏を鳴らすロバート、複雑かつ上品という、個性的なトラックに合わせて、言葉を選びつつ、器用にラップを繰り出すコモンという、三者の個性が上手く噛み合った良曲だ。

だが、本作の目玉はなんといってもサウンズ・オブ・ブラックネスが91年にリリースした”Optimistic”のカヴァー。原曲でリード・ヴォーカルを担当していたアン・ネスビーのパートを、この曲ではブランディ―が歌唱。サンプリングを多用した太いビートを生演奏で再現する演出や、楽曲の大半をブランディが歌うR&B作品に仕立てながら、絶妙なタイミングでラップを挟み込む構成など、細かい気配りが心に残る。90年代から活躍するアーティストや、当時の音楽に造詣の深い面々が揃ったことで実現した、懐かしさと新鮮さが入り混じった作品だ。

このアルバムの魅力は、生演奏やサンプリングを用いたヒップホップを得意としながら、異なるアプローチと手法で、自分の音楽を確立してきた3人の個性が一つの音楽に同居しているところだと思う。カリーム・リギンスが生み出すビートは、ヒップホップだけでなく、ジャズやドラムン・ベースなど、様々なジャンルの手法を取り込みつつ、ヒップホップのウリである腰を刺激するグルーヴになっているし、ロバート・グラスパーの伴奏は、音の配置や音色だけでなく、曲の展開に応じて音の強弱やテンポまで大きく変える、ピアニストならではのアレンジを披露している。また、この強烈な個性を持つトラックの上で、コモンは伴奏のリズムを崩すことなく、リズミカルかつ丁寧にコンシャスなメッセージ言葉を繰り出している。この3者の共通点を意識しながら、各人の持ち味がきちんと発揮される。

三者三葉のアプローチで、ヒップホップやR&Bの世界に多くの足跡を残してきた3人にしか作れない。ありそうでなかった独創的なアルバム。このプロジェクトを経験した3人が、次はどんな音楽を生み出してくれるのか期待が膨らむ充実の内容だ。

Producer

Karriem Riggins, Robert Glasper

Track List
1. Meditation
2. Black Kennedy
3. Let Go feat. Samora Pinderhughes
4. Practice feat. Samora Pinderhughes
5. Fly Away
6. Aya
7. Piano Interlude
8. No Apologies
9. The Time
10. Optimistic feat. Brandy
11. Swisha Suite







Childish Gambino - This Is America [2018 RCA]

2016年に発表したアルバム『Awaken, My Love!』が、アメリカ国内だけで50万枚を売り上げ、グラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネートするなど、ミュージシャンとしても大きな成功を収めた、チャイルディッシュ・ガンビーノこと、ドナルド・グローヴァー。

その一方で、俳優としても、コメディ・ドラマ「アトランタ」で高い評価を受け、スター・ウォーズのスピンオフ作品や、実写版「ライオン・キング」に出演するなど、着実に実績を残していった。

この曲は、『Awaken, My Love!』以来となる新作。チャイルディッシュ・ガンビーノとしては最後のアルバムになると発表している、次回作に先駆けて公開された楽曲だが、同じ時期に「同作には収録されない」というコメントが出るなど、様々な情報が錯綜している。

今回のシングルは、これまでも彼の音楽を一緒に作ってきた、ルドヴィグ・ゴランソンとグローヴァーの共同制作、共同プロデュース作品。電子音の冷たく、刺々しい音色を使ったビートは、現在流行しているヒップホップやトラップのものだが、低音を抑え気味にして、パーカッションなどの音を強調することで、フェラ・クティや彼の息子、ショーン・クティが得意とするアフロ・ビートっぽく仕立てている点が面白い。曲の途中で、リズムを細かく変える演出を盛り込むことで、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックの象徴である「中毒性のあるループ」と、アフリカ音楽やアメリカのブルースを含む、世界各地の土着の音楽が持つ「変幻自在のアレンジ」を同居させている点も見逃せない。

また、この上に乗るヴォーカルは、ラップやブルース、フォーク・ソングなど、様々な音楽の手法を用いて、「現代のアメリカ」を描写したもの。社会問題に切り込む作品自体は無数にあるが、この曲では、抽象的で比喩的な表現を採り入れることで、政治的な作品に芸術性と娯楽性を付け加えている。

この曲の魅力は、歌、トラック、振付、映像表現など、あらゆる手段を用いて「アメリカ社会」に切り込みつつ、きちんとエンターテイメント作品に落とし込んでいるところだろう。歌やトラック以外に目を向けると、本作のミュージック・ビデオでは、ミンストレル・ショウやアフロ・ビートの表現や、現代舞踏の手法を織り交ぜたパフォーマンスを披露する一方、映像そのものも、カメラワークから小物まで、細部にも気を配った作品になっている。おそらく、コメディから先鋭的な音楽まで、あらゆる表現の世界を経験してきた彼の感性によるものが大きいだろう。

コメディアン、俳優、ミュージシャンと、多彩な顔を持ちながら、全ての分野で高い成果を上げてきたドナルドの豊かな才能が凝縮された珠玉の一品。インターネットによって、映像作品を気軽に楽しめるようになった現代ならではの傑作だ。

Producer
Donald Glover Ludwig Göransson

Track List
1. This Is America



Kintaro - Commando Existentral & Universal EP [2018 Alpha Pup Records, DIW]

サンダーキャットの名義で多くの傑作を残しているステファン・ブルーナーや、名うてのドラマーとして、カマシ・ワシントンケンドリック・ラマーまで、様々なアーティストと共演しているロナルド・ブルーナーを兄弟に持ち、自身もマット・マーシャンズ率いるR&Bバンド、インターネットの一員として活動してきた、シンガー・ソングライター兼キーボード奏者の、キンタローことジャミール・ブルーナ。

カリフォルニア州ロスアンジェルス出身のジャミールは、2013年から2016年までインターネットの一員として活動。その縁もあり、タイラー・ザ・クリエイターやエイサップ・ロッキー、ゴールドリンクといった、ヒップホップ・ミュージシャンの作品に数多く関わってきた。

また、その一方で、2017年には初のミックス・テープ『Commando Existentral』を発表。同年には初のEP『Universal EP』をリリースするなど、アーティストとしても頭角を現してきた。

本作は、2017年に公開した2枚の録音作品を1枚のCDに収めた企画盤。収録された全ての曲をプロデュースし、ソングライティングや演奏、ヴォーカルも担当するなど、彼自身が大部分の工程に携わった力作となっている。

本作の目玉は、何といってもアンダーソン・パークをフィーチャーした”MK”。グラマラスなベースの音色とロックのビートを組み合わせたバック・トラックはゴリラズの作風に近い印象。テナーのパーク、バリトンのジャミールという違いはあるものの、しゃがれた声を絞り出すスタイルで共通する両者による息の合ったデュエットが面白い。

同作の収録曲で、もう一つ記憶に残ったのは”Alien Trap”。タイトルに違わないトラップのビートに、宇宙人が出るSF映画を彷彿させるふわふわとした電子音や、エフェクトをかけた声のラップを組み合わせたヒップホップ作品。この曲のように奇抜な音色を組み合わせた作品には、斬新なサウンドを強調しすぎて、何度も聴くのは辛いものが少なくないが、この曲では聴き手に強い印象を与えるポイントに絞り込んで使うことで、楽曲としての完成度を高めている。余談だが、曲中に流れるチャイムの音色は、アメリカでも使われているのだろうか。

これに対し、『Commando Existentral』の収録曲では”Song For Us Bounce”が目を惹く。電子楽器を多用した刺々しい音色と、声域全体を使った歪なメロディを歌うヴォーカルの組み合わせは、パーラメントの『Mothership Connection』を思い起こさせる。時代が違うとはいえ、大人数のバンドで生み出されたP-ファンクのサウンドを、一人で鳴らす彼の技術には驚かされる。

そして、このスタイルをさらに深めたのが”Song Joint Flip Lit”。乾いた音を鳴らす電子楽器を使ったトラックは、ネプチューンズのサウンドによく似ている。しかし、その上に乗っかるのはファレルが歌うような軽妙なメロディとは対極の、不可思議なメロディ、個性的なサウンドで一世を風靡した、ネプチューンズとファンカデリックの音楽を一つの作品に同居させた、大胆な発想が光る楽曲だ。

彼の音楽の面白いところは、シンセサイザーを軸に据えつつ、多彩な表現を繰り出している点だろう。トラップに始まりロックやファンク、R&Bなど、色々なジャンルの音楽を取り入れ、自分の作品の糧にしている。この豊かな感性と高い構成力が彼の良さだと思う。

二人の兄に勝るとも劣らない、高い演奏技術と音楽センスが遺憾なく発揮された良作。サンダーキャットやフライング・ロータスの音楽が好きな人なら絶対に夢中になるだろう。音楽に対する深い造詣と鋭い視点、具体的な作品に落とし込む技術が心に残る作品だ。

Producer
Kintaro

Track List
1. Alt Pln
2. Mk feat.Anderson .Paak
3. West
4. Trap You
5. Alien Trap
6. Aussie feat.Tru Sound
7. Chillin
8. Next To You
9. Song For Us Bounce
10. Song Joint Flip Lit
11. Soul Boy
12. Untitled Bullshit
13. Once More With This “Put In Work Bullshit”
14. Beez In Duh Trap Final (BONUS TRACK)






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