ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

男性シンガー・ラッパー

Faith Evans & The Notorious B.I.G. - The King & I [2017 Rhino, Warner Music]

1992年に、映画『Who's the Man?』のサウンド・トラックに収められている”Party and Bullshit”で華々しいデビューを飾った、ノートリアスB.I.G.ことクリストファー・ジョージ・レイトア・ウォレス。その後、1994年には、"Juicy"や"Big Poppa"などを収録したファースト・アルバム『Ready To Die』を発表。90年代を代表するヒップホップ・クラシックとして、様々なフォーマットで幾度となく再発された。また、それ以外にも、メアリーJブライジの”Real Love(Remix)”や、クレイグ・マックの”Flava in Ya Ear(Remix)”など、多くの曲に客演。彼の体型のような、ふくよかだが軽妙なラップで、聴く者に鮮烈な印象を残した。そして、1997年には、2枚目のアルバム『Life After Death』をリリース。こちらは最終的に、ダイアモンド・ディスク(売り上げ1000万枚を超える作品)に認定される、ヒップホップ史上屈指のヒット作になった。しかし、同年10月に凶弾で倒れ、帰らぬ人になる。だが、死後もその人気は衰えることなく、99年には『Born Again』を、2004年の『Duets: The Final Chapter』をリリースしている。

一方、フェイス・エヴァンスは90年代初頭からアルBシュアなどのバック・コーラスとして活動。そこでの活躍がショーン・コムズの目を惹き、彼が設立したバッド・ボーイ・レコード初の女性シンガーとして契約する。その後は、メアリーJブライジの『My Life』や、アッシャーのデビュー作『Usher』などに、ソングライターやバック・コーラスとして参加しながら経験を積み、95年にアルバム『Faith』とシングル『You Used To Love』でデビュー。その後は、2016年までに8枚のアルバムと多くのヒット曲を残している。

この二人は94年に結婚。一人の子供を儲けており、彼の生前には”One More Chance/Stay With Me”などでコラボレーションしているが、アルバム単位の共演は今回が初。ビギーのパートは既発曲からの引用で、そこにフェイス・エヴァンスが新しいヴォーカルを追加した、疑似デュエット作品になっている。

アルバムには、二人が所属していたバッド・ボーイのオーナー、Pディディ(=ショーン・コムズ)のほか、チャッキー・トンプソンやスティーヴィーJといった同レーベル出身のプロデューサー、DJプレミアのような、二人と縁の深い人や、ジャスト・ブレイズのような、今回が初の共作となる人まで、バラエティ豊かなプロデューサーが集結。ゲスト・ミュージシャンにも、ビギーが結成したヒップホップ・グループ、ジュニア・マフィア出身のラッパー、リル・キムやリル・シーズ(余談だが彼はビギーの従弟でもある)、バッド・ボーイ初の男性ヴォーカル・グループ112のほか、スヌープ・ドッグやバスタ・ライムズといった90年代から活躍している大物まで、豪華な面々が並んでいる。

さて、肝心の内容だが、2曲目の”Legacy”は、シンセサイザーを駆使したメロウなトラックが印象的なスロウ・ナンバー。ビギーの生前には少なかったタイプの曲だが、新録曲のように溶け込ませるプロデューサーの地道な作業と音楽センスが光る曲。彼が生きていたころは、音圧の強いトラックに押されていたフェイスの歌が、トラックをねじ伏せる勢いの力強いものになった点は感慨深い。20年の時を経て、同じ土俵で声を絡ませる二人の姿が印象的な曲だ。

これに対し、ジェダキスが参加した”N.Y.C.”は、レコードからサンプリングしたような音色を使ったビートとスクラッチが、90年代のヒップホップを思い起こさせる曲。曲の大部分をビギーとジェダキスのラップが占め、フェイス・エヴァンスはサビを歌うに留めた、ビギーの新作っぽい曲。トラックを含め、90年代のヒップホップの醍醐味が凝縮された佳曲だ。

それ以外では、スヌープ・ドッグをフィーチャーした”When We Party”の存在感が光っている。図太いベース音を使ったモダンなトラックは、スヌープ・ドッグのような、西海岸出身のラッパーの曲に多いスタイル。東海岸と西海岸のミュージシャンが対立し、結果的にビギーと2パックという、希代のラッパーを二人も失ってから20年弱。このような形でも、両地域を代表するラッパーが共演したのは感慨深い(まあ、似たような企画のブート盤は沢山あったが)。彼が生きていた時代のビートではなく、ディム・ファンクなどの台頭で注目を集めた、ディスコ・ブギーっぽいトラックを選ぶあたりに、常に進歩を続けているヒップホップ・ミュージシャンの矜持を感じさせる。

そしてもう一つ、見逃してほしくないのが、キラキラとした音色のシンセサイザーが印象的な”One In The Same”だ。アイズレー・ブラザーズの”Between The Sheets”を引用した”Big Poppa”や、エムトゥーメイの”Juicy Fruits”をサンプリングした”Juicy”のような、70年代後半から80年代のソウル・ミュージックの煌びやかで洗練された雰囲気を取り込んだミディアム・ナンバー。サビを歌うフェイスの色っぽい声は”One More Chance/Stay With Me”を思い起こさせるが、あの頃よりも強く、しなやかになったと思う。

亡くなったミュージシャンの「新作」は、故人の名前を意識しすぎて、生前の作品の焼き直しに陥ったり、昔の録音を現代のトレンドに適応させようとして、無理が生じるものが少なくない、ロバート・グラスパーがマイルス・デイヴィスと「競演」した『Everything's Beautiful』のような、生前の録音を編集したコラージュに近い作品は別だが、本作のような疑似デュエット作品では、生前の録音を活かしつつ、どうやって「新作」として聴かせるかが最大のネックだと思う。

これに対し、彼女達は過去のビギーの楽曲を参考にしつつ、それを現代的にアップデートしたトラックを用意することで、その課題に対応している。レコードからのサンプリングした音や、それっぽい音色を取り入れたビートを揃えたあたりからも、本作が生前の彼の音楽を意識していることが伺わせる。一方、新しく録音したフェイス・エヴァンスのヴォーカルは、長いキャリアの間で身に着けた、強くしなやかな歌声を惜しげもなく披露することで、21世紀を生きる彼女にしか作れない音楽に仕立て上げていると思う。

亡き前夫との共演を謳いながらも、彼の名前に寄りかかることなく、対等な関係で「共演」した、フェイス達、現代を生きるアーティスト達の姿が光る。懐かしいようで新鮮な作品。90年代のR&Bやヒップホップをこよなく愛した人には懐かしく、当時を知らない人には新鮮な。面白いアルバムだと思う。

Producer
DJ Premier, Just Blaze, Stevie J, Salaam Remi, Chucky Thompson, P Diddy etc

Track List
1. A Billion
2. Legacy
3. Beautiful (Interlude)
4. Can't Get Enough
5. Don't Test Me
6. Big/Faye" (Interlude) feat. Jamal Woolard
7. Tryna Get By
8. The Reason
9. I Don't Want It feat. Lil' Cease
10. I Got Married (Interlude) feat. Mama Wallace
11. Wife Commandments
12. We Just Clicked (Interlude) feat. Mama Wallace
13. A Little Romance
14. The Baddest (Interlude)
15. Fool For You
16. Crazy" (Interlude) feat. 112 & Mama Wallace
17. Got Me Twisted
18. When We Party feat. Snoop Dogg
19. Somebody Knows feat. Busta Rhymes
20. Take Me There feat. Sheek Louch & Styles P
21. One In The Same
22. I Wish (Interlude) feat. Kevin McCall & Chyna Tahjere
23. Lovin You For Life feat. Lil' Kim
24. NYC feat. Jadakiss
25. It Was Worth It





The King & I
Faith Evans & Notorious
Rhino / Ada
2017-05-19

PJ Morton - Gumbo [2017 Morton Music]

カナダからアメリカに渡った牧師の父を持ち、2000年代半ばから、キーボーディストやソングライターとして活動している、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のシンガー・ソングライター、PJモートンことポール・モートンJr.。20代半ばの若さで、フェイス・エヴァンスの『A Faithful Christmas』や、モニカの『The Makings Of Me』にキーボーディストとして参加し、2010年からは、共通の友人であるアダム・ブラックストーンを介してマルーン5のツアーに帯同(後に正式加入)。それ以外にも、ロバート・グラスパーの『Radio 2』にソングライターとして携わるなど、ジャンルを超えた幅広い活動を見せてきた。

また、2005年に初のソロ作品『Emotions』を発表すると、その後は2016年までに多くのフル・アルバムやミックステープ、EPを発表。2010以降は、トラップ・ミュージックやEDMのような、コンピューターをフル活用した音楽がヒット・チャートを席巻するなか、人間の手による演奏と丁寧な歌唱に拘った、昔ながらのソウル・ミュージックのスタイルで、ソウル・ファンだけでなく、ロックやブルースなどのヴィンテージ音楽を愛する人も引き付けてきた。

今回のアルバムは、2013年の『New Orleans』から、約4年ぶりとなる通算5枚目のフル・アルバム。 といっても、この間にもミックステープやEPを発表し、マルーン5の一員としても、新作やツアーで多忙な日々を過ごしていたので、「久しぶりの新作」という印象はほとんどない。本作では、前作を配給していたユニヴァーサル系列のヤング・マネー、リパブリックを離れ、自身のレーベル、モートン・ミュージックから発売している。

アルバムの1曲目に入っている”First Began”は、彼のキーボードと歌を思う存分堪能できる、弾き語り形式のミディアム・バラード。敢えて爪弾くように演奏することで、繊細で滑らかなテナー・ヴォイスの良さを強調したアレンジが心憎い。余談だが、鍵盤楽器としなやかなテナーの組み合わせは、前作で共演しているスティーヴィー・ワンダーに少し似ている。

一方、それに続く本作の看板的な楽曲”Claustrophobic”は、ニューオーリンズ出身のラッパー、ペルをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。太い音のシンセ・ベースや軽妙な音色のドラムを使った伴奏が、アース・ウィンド&ファイアの”That’s The Way Of The World”を思い起こさせる。高音が魅力のスマートなヴォーカルは、フィリップ・ベイリーにもよく似ているから、このタイプの曲と相性がいいのは当然かもしれない。ペルのパフォーマンスも粗削りだけどいい味を出している。

そして、本作の中でも異色なのが、有名なゴスペル曲のリメイク”Everything's Gonna Be Alright”だ。2016年のアルバム『In My Mind』が、大ヒットになったことも記憶に新しいBJザ・シカゴ・キッドと、アンソニー・ハミルトンの作品を脇から支える3人組ヴォーカル・グループ、ハミルトンズを迎えたこの曲は、厳かさと明るく楽しい雰囲気を両立した、ゴスペルの魅力を忠実に再現した作品。PJの繊細なヴォーカルとBJの軽妙な歌唱、それにハミルトンズの太く泥臭い歌声が混ざり合った後半部分は、各人の個性が合わさって色々な表情を映し出す、歌の面白さを再認識させてくれる。

また、本作の最後を締める”How Deep Is Your Love”は、ビージーズの77年のヒット曲のカヴァー。 原曲に比べると、跳ねるような伴奏が特徴的な、ファンク色の強いアレンジだ。しかし、主役の声質が、高音寄りの細くしなやかなビージーズに近いもののおかげで、原曲持つ、洗練されたイメージは崩されず、楽曲全体としてはカーティス・メイフィールドの”Trippin’ Out”のような、スタイリッシュなミディアム・ナンバーに仕上がっている。

今回のアルバムは、ソウル・ミュージックやR&B、ニューオーリンズへの深い造詣と、世界屈指の人気バンドで吸収した、様々な年代、国の人の心を掴むポップ・センスが融合した面白い作品だと思う。それを端的に示しているのが、ゴスペルの名曲や往年のポップス・ソングを現代的なR&Bにリメイクしたカヴァーで、両者で見せる演奏は、原曲を知らない若い人にクラシックスの魅力を伝えるだけでなく、原曲をよく知る世代にも、若い世代のミュージシャン(といっても、録音時点で30代後半だが)による新鮮な解釈と、現代の黒人音楽の面白さを伝えていると思う。

地道に鍛え上げた歌や演奏の技術と、自身の名義やバンド活動、外部のミュージシャンとの仕事で培われた、世界中のリスナーを引き付けるポップ・センスが同居した、シンプルなようで味わい深い作品。ソウル・ミュージックを古臭いと思う人や、最近のロックやポップスについていけないと思っている人にこそ聴いてほしい。個人的な思いをいえば、配信版だけでなく、レコードでも聴きたいなあ。

Producer
PJ Morton

Track List
1. First Began
2. Claustrophobic feat. Pell
3. Sticking to My Guns
4. Religion
5. Alright
6. Everything's Gonna Be Alright feat. BJ the Chicago Kid and The HamilTones
7. They Gon' Wanna Come
8. Go Thru Your Phone
9. How Deep Is Your Love



Gumbo
Morton Records
2017-04-21

Mansionz - Mansionz [2017 Bear Trap, LLC, Monster Mountain, LLC, Island Records]

ミシガン州デトロイト生まれ、同州サウスフィールド育ちのシンガー・ソングライター、マイク・ポスナーと、フロリダ州デイトナビーチ生まれ、カリフォルニア州ロス・アンジェルス育ちのシンガー・ソングライター兼プロデューサーのブラックベアこと、マシュー・タイラー・マスト。彼らが結成したヒップホップ・ユニット、マンションズの初のフル・アルバム。

マイクは、2010年にアイランド・レコードからアルバム『31 Minutes to Takeoff』でデビュー。現在までに2枚のアルバムと3枚のミックス・テープをリリースし、”Cooler than Me”や”I Took a Pill in Ibiza”などのヒット曲を残している。特に、2015年に発表した”I Took a Pill in Ibiza”は複数の国のヒットチャートを制覇。本国アメリカでも、ホット100の4位、2016年の年間チャートの15位に輝き、グラミー賞の主要4部門の一つ、ソング・オブ・ザ・イヤーにもノミネートした、彼の代表曲となった。

一方、マシューは2012年にジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”の共作者としてデビューすると、同じ年には初のEP『Foreplay』を発表。その後は、2017年までに5枚のEPと2枚のスタジオ・アルバムをリリース。本作の発売直後、2017年4月には3枚目のフル・アルバム『Digital Druglord』の発表を控えている。多作なクリエイターだ。

実は、二人の関係は私達の想像以上に長い。マシューが携わった”Boy Friend”は、マイクのプロデュース作品だし、その後も、マイクがブラックベアの”Obvious”(2016年のEP『Drink Bleach』に収録)にフィーチャーされたり、2013年にはマシューがマイクの”Marauder Music”や”OshFest”(どちらもアルバム未収録)を制作したりと、頻繁ではないものの、コンスタントにコラボレーションを重ねてきた。

さて、そんな二人が作った本作は、R&Bとヒップホップの要素をバランスよく取り入れた、ポップで親しみやすい音楽性が特徴。楽曲提供も行ってきた二人だけあって、色々なジャンルの音楽のテクニックを持ち込みつつ、一つの作品に纏め上げる高い編集能力が発揮されている。

まず、2016年にアルバムに先駆けて公開された “Stfu”は、2012年にミックス・テープ『Syrup Splash』を発表して以来、熱心なファンを集めているラッパー、スパーク・マスター・テープを起用したスロー・ナンバー。ギターの伴奏に合わせて歌うマイクから、同じ伴奏に合わせて歌うように言葉を繋ぐマシューとスパークへと繋ぐ流れが格好良い。後半でがなるように歌うスパークのラップが、予想外の展開で面白い。

また、これ続く”Dennis Rodman”は、NBAを引退しても話題を振りまき続ける伝説の名プレイヤー、 デニス・ロッドマンをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。電子楽器を使った変則ビートと、太いギターを組み合わせたに乗せて、リズミカルなラップを聴かせるマシューと、哀愁を帯びた歌声を聴かせるマイクのコンビネーションが聴きどころ。絶妙なタイミングで曲を盛り上げるデニスのダミ声もいい味を出している。

これに対し、ラッパーのG-イージーを招いた”Wicked”は、シンセサイザーを駆使したスタイリッシュなビートとしなやかなメロディが、ドネル・ジョーンズの”U Know What’s Up”や、カール・トーマスの”She Is”などを連想させるアップ・ナンバー。ファルセットを多用したヴォーカルは、ネプチューンズ名義で多くのヒット曲を残していたころの、ファレル・ウィリアムスを思い起こさせる。

そして、本作の目玉でもある”Rich White Girls”は、コンピュータを使ったビートと、ギターを使った弾き語りを組み合わせたスロー・ナンバー。ちょっと癖のある歌詞を、切々と歌うマイクと、彼の歌を引き立てるような、甘いラップを聴かせるマシューの相性が素晴らしい。ヒット曲を残してきた2人らしい、聴きやすく、耳に残るメロディが光る曲だ。

今回のアルバムは、R&Bやヒップホップを取り込んだポップな作風で、多くの実績を残してきた二人らしい、とっつきやすく、飽きがこない親しみやすい曲が目立っている。白人ミュージシャンがR&Bやヒップホップに取り組んで成功した例としては、最近ではジャスティン・ティンバーレイクやウィズ・カリファなどが有名だが、マンションズの作風は、ヒップホップなどの要素を取り入れつつ、それを自分達の方向性に合わせて、柔軟に引用、加工している点が大きく異なると思う。

黒人ではないミュージシャン達が、黒人音楽を取り入れて成功した例は、無数にあるが、ここまで柔軟な発想で取り入れたのは、ビートルズ以来かもしれない。ブルー・アイド・ソウルの新しい形を予感させる面白い作品だ。

Producer
blackbear, O.C., Mike Posner, MdL etc

Track List
1. Snoozefest
2. My Beloved
3. Stfu feat. Spark Master Tape
4. Dennis Rodman feat. Dennis Rodman
5. I'm Thinking About Horses
6. Nobody Knows
7. A Million Miles
8. Wicked feat. G-Eazy
9. Rich White Girls
10. Strip Club
11. White Linen feat. CyHi Da Prynce
12. Gorgeous
13. The Life Of A Troubadour






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