ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

自主制作

Damar Jackson - Unfaithful [2017 Think It's A Game Records, Label Gold]

子供の頃に聞いた、ドネル・ジョーンズやルーシー・パールが奏でる美しいメロディとしなやかな歌声に魅了されて音楽の道を志し、若い頃からボビー・ヴァレンチノやクリセット・ミッシェルと一緒のステージに立ってきたという、ルイジアナ州デリッター出身のシンガー・ソングライター、デイマー・ジャクソン。

2016年には自身のレーベル、レーベル・ゴールドから5曲入りのEP『Ninety3Until EP』を発表。同作に収められている、甘くロマンティックなバラード”Crazy”が、R.ケリーやブライアン・マックナイトがしのぎを削っていた90年代のR&Bを知る人から、絶頂期の彼らを知らない若い世代まで、幅広い年代の人から高く評価された。その後も、ラバーバンドOGなどのラッパーの作品に客演しつつ、様々なステージを経験。経験と実力を蓄えていった。

このアルバムは、前作から約1年ぶりとなる通算2枚目のEP。前作同様、配信限定の作品だが、本作はラバーバンドOCなどの作品を取り扱っている、アトランタの大手インディー・レーベル、シンク・イッツ・ア・ゲームが配給を担当。前作からの再録曲を含め、収録曲の大半を彼自身がプロデュースした力作になっている。

本作の1曲目に入っている”Ritenow”は、前作に収められている”Crazy”の共同制作者でもあるビッグ・フルーツがプロデューサーとして参加したスロー・ナンバー。R.ケリーやドゥー・ヒルのような、90年代に一世を風靡したバラードの名手を彷彿させるエロティックなメロディが印象的な曲だ。だが、今までの作品と大きく違うのが、甘い歌声を聴かせるサビの間を繋ぐメロディの部分。ファット・ジョーを思い起こさせるがなり声でラップをするという、今までの曲にはなかったスタイルに挑戦している。甘く優しい声質の彼が空気を引き裂くような声でラップをするのは少し違和感があるが、これはこれで面白い。

続く”Club Again”は、”Down in the DM”などのヒット曲を残しているメンフィス出身のラッパー、ヨー・ガッティをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。デイマーの作風に、クランクやトラップの要素を混ぜ合わせた、陰欝なシンセサイザーの音色と跳ねるようなビートを使ったトラックは彼の作品では異色だ。淡々と言葉を繋ぐヨー・ガッティのラップと、艶っぽいデイマーの歌声のコンビネーションにも注目してほしい。90年代のR&Bから多くの影響を受けた彼が、現代のヒップホップやR&Bに当時の音楽のエッセンスを注ぎ込んだ佳作。

また、これに続く”Changed”は、アッシャーの”You Make Me Wanna”やアリーヤの”One In A Million”を思い起こさせるチキチキ・ビートを取り入れたミディアム・ナンバー。通常の二倍のテンポで刻まれるシンバルの音色がトラックにスピード感を与える、チキチキ・ビートを取り入れた楽曲だが、この曲の面白いところは、メロディとサビでリズムの取り方を大きく変えているところ。メロディの部分ではハットを基準にした早いテンポのメロディを取り入れているのに対し、サビの部分ではドラムの音でリズムを取って、じっくりと歌い込でいる。一人の歌手がテンポを大きく変えて歌うことで、シンガーとラッパーがコラボレーションしているように聴かせる演出が光っている。

そして、本作の隠れた目玉と呼んでも良いのが、第二の”Crazy”といっても過言ではないスロー・バラード”Everything”だ。ビッグ・フルーツがプロデュースしたこの曲は、フィンガー・スナップやポロポロと鳴り響くキーボードの伴奏が切ない雰囲気を醸し出している。しっとりとしたメロディを丁寧歌う姿は、”I Wanna Know”がジャンルの壁を越えて多くの人を魅了していたジョーに少し似ている。”Crazy”で彼のことを知った人が一番望んでいたのは、この曲のような王道のバラードだろう。

今回のアルバムでは、従来のヴォーカルにフォーカスしたバラードに加え、トラップなどの新しいサウンドやラップなどの新しい表現を取り入れて、彼の音楽を聴いたことのない人にもアピールした楽曲が目立っている。しかし、ただ新しいものを取り入れるのではなく、サビの部分は音数を絞ってじっくりと歌い込むなど、スロー・ナンバーが得意な彼の持ち味を活かしたアレンジになっているのが心憎い。

一つ一つのフレーズに丁寧に向き合い、じっくりと言葉やメロディを聴かせることに重きを置いた、真摯な姿勢が魅力のヴォーカル作品。ソウル・バラードが苦戦を強いられる時代に、トレイ・ソングスブライソン・ティラーなどのメジャー・レーベルに所属する歌手とは違うアプローチで、「歌」の魅力を教えてくれる良作だと思う。

Producer
Damar Jackson, Big Fruit

Track List
1. Ritenow
2. Club Again feat. Yo Gotti
3. Changed
4. FN Everything
5. Calling Me
6. Everything
7. No Protection
8. Crazy






Daniel Caesar - Freudian [2017 Golden Child]

ドレイクパーティーネクストドアといったOVOサウンド発のアーティストのほか、ジャスティン・ビーバーのようなポップスターや、ケイトラナダのような通好みのクリエイターまで、多種多彩なアーティストを輩出し、ポップスの世界においてアメリカ、イギリスに匹敵する影響力を持っているカナダ。彼らの後を追うように、同国から世界に羽ばたこうとしているのが、シンガー・ソングライターのダニエル・シーザーことアシュトン・シモンズだ。

トロント出身の彼は、2014年にデビュー作となるEP『Praise Break』を発表すると、彼の生い立ちや恋愛経験が反映されたリアルな作風が評価され、アメリカの音楽誌、ローリングストーンが選ぶ同年のベストR&Bアルバム・トップ20に選ばれる。また、2016年に発表したシングル”Get You”は、大手ストリーミングサイトで2000万回以上再生される大ヒット。フィジカル・リリースの経験がないアーティストの作品としては異例の成功を収める。

このアルバムは、代表曲”Get You”を収めた彼にとって初のフル・アルバム。自身が設立したゴールデン・チャイルドから発売した配信限定の作品ながら、ドレイクなどの作品に携わってきたジョーダン・エヴァンスやマシュー・バーネットをプロデューサーに迎えつつ、全ての曲を彼自身が制作。H.E.R.やジ・インターネットのシドといった、通好みの女性R&Bシンガーや、カリ・ウチスのようなポップス畑の名手をゲスト・ヴォーカルに起用し、演奏はバッドバッドノットグッドが担当した、本格的なR&Bアルバムに仕上げている。

アルバムのオープニングを飾る彼の代表曲”Get You”は、コロンビア生まれの女性シンガー、カリ・ウチスをゲストに招いたスロー・ナンバー。マックスウェルディアンジェロを思い起こさせる音数の少ない伴奏をバックに、ベイビーフェイスやジョーを思い起こさせるしっとりとしたメロディを聴かせている。また、カリのキュートなヴォーカルが、ダニエルの繊細な歌声を引き立てている点も面白い。伴奏を担当するバッドバッドノットグッドの緻密で正確無比な演奏にも耳を傾けてほしい。

続く”Best Part”はRCAから発表した作品も話題のH.E.R.をフィーチャーしたスロー・ナンバー。きめ細かなギターの伴奏で幕を開けるこの曲は、シンセサイザーを使ったような太く重いトラックが印象的。線は細いが強くしなやかな歌声のH.E.R.が艶めかしいヴォーカルを披露しているので、思う存分堪能してほしい。

一方、インターネットのシドが参加した”Take Me Away”は、本作の収録曲では唯一、彼自身がセルフ・プロデュースした作品。90年代のヒップホップを連想させる、古いレコードから抜き出したような太く、温かい音色のビートをバックに甘い歌声を響かせている。シドのクールで透き通ったヴォーカルと、ダニエルの肉感的なパフォーマンスの組み合わせが楽曲に起伏を与えている。アリーヤとR.ケリーのコラボレーションを彷彿させる佳作だ。

そして、彼と同じカナダ出身のシンガー・ソングライター、シャーロット・デイ・ウィルソンを招いた”Transform”は、このアルバムでは珍しい、ロックの要素を取り入れた作品。力強いビートやシンセサイザーの伴奏など、ロックのバラードの要素を盛り込んだ伴奏をバックに、感情表現を控えめにした神秘的な歌唱を披露している。他のゲストとは一味違う、シャーロットのスマートなヴォーカルも楽曲に個性を与えている。

彼の音楽は、マックスウェルやラウル・ミドンのような、アコースティック楽器を多用した柔らかい音色の伴奏と繊細な歌唱、それに流麗なメロディを組み合わせたものだ。その作風は先人のものを踏襲しつつ、彼の人生や私生活を反映したリリックなどを盛り込むことで、ボブ・ディランのような往年のフォーク・シンガーが持つ生々しさも内包している。

メジャー・レーベルと契約していないにも関わらず、彼の音楽の完成度は極めて高い。ディアンジェロやマックスウェルのようなソウル寄りの音楽が好きな人はもちろん、ベイビーフェイスやジョーのような美しいメロディの作品が好きな人、ニルヴァーナやボブ・ディランのような、生々しい言葉を放つロックやフォーク・ソングが好きな人にもぜひ聴いてほしい魅力的な作品だ。

Producer
Daniel Caesar, Jordan Evans, Jordon Manswell, Matthew Burnett

Track List
1. Get You feat. Kali Uchis
2. Best Part feat. H.E.R.
3. Hold Me Down
4. Neu Roses (Transgressor's Song)
5. Loose
6. We Find Love
7. Blessed
8. Take Me Away feat. Syd
9. Transform feat. Charlotte Day Wilson
10. Freudian




Toddla T - Foreign Light [2017 Steeze]

14歳の頃からDJとして活動し、16歳になるとハイスクールを辞めて専業のミュージシャンに転身した、サウスヨークシャー州シェフィールド出身のDJでトラックメイカーのトドラTことトーマス・マッケンジー・ベル。

2007年にロンドンの1965レコーズと契約すると、同年に初のEP『Do U Know』を発表。ダンスホール・レゲエとエレクトロ・ミュージックを融合したサウンドで話題になった。その後も、ルーツ・マヌーヴァなどを起用した初のフル・アルバム『Skanky Skanky』を2009年にリリースするなど、精力的に活動していた彼は、2011年にはクラブ・ミュージックの名門、ニンジャ・チューンと契約。2枚目のフルアルバム『Watch Me Dance』を発売する一方、ジャマーやリトル・ドラゴンの作品をプロデュース、リミックスするなど、活躍の場を広げていた。

今回のアルバムは、2012年の『Watch Me Dance: Agitated By Ross Orton & Pipes 』から実に5年ぶりとなる新作(といっても、シングルは継続的に発売していたが)。自身のレーベル、スティーズからのリリースだが、ほぼすべての曲で”Set It Off”などのヒット曲を手掛けたことでも知られているブルックリン出身のシンガー・ソングライター、アンドレア・マーティンがマイクを執った、キャリア初の本格的なヴォーカル作品になっている。

本作の1曲目は、2017年5月に発売された先行シングル”Blackjack21”。ダフト・パンクの” Get Lucky”を連想させる、強靭なベースの演奏と、芯の強い歌声、そしてしなやかなメロディの一体感が心地よいアップ・ナンバーだ。シックやシャラマーといった80年代に活躍したディスコ・バンドの影響を感じさせるが、シンセサイザーを多用して、当時の音楽以上に洗練された雰囲気に纏め上げるなど、随所で差別化を図っている。

また、アンドレアに加えてバーミンガム出身のラッパー、ステフロン・ドンを起用した”Beast”は、重く、陰鬱な音色のシンセサイザーを効果的に使ったスリリングなアップ・ナンバー。ディジー・ラスカルのようなグライムをベースにしつつ、ビートの音圧を抑えて、ポップスっぽく聴かせている点が面白い。彼の器用な一面が垣間見える佳曲だ。

それ以外の曲にも、BBCのRadio1でラジオ・パーソナリティとして活躍するベンジBがミックスで参加した”Always”など、魅力的な作品は多い。この曲ではアンドレア・マーティンに加えて、レゲエDJのシルキ・ワンダをフィーチャー。80年代終盤に一世を風靡したリディム、スレンテンを思い起こさせる重低音を強調したビートの上で、朗々と声を張り上げるアンドレアと柔らかい声で言葉を繋ぐシルキのコンビネーションがのんびりとした雰囲気を醸し出している。往年のダンスホール・レゲエをベースにしつつ、現代のクラブ・ミュージックと一緒に聴いても違和感を感じさせないミックス技術にも注目してほしい。

そして、本作の最後を締める”Magnet ”はジェイソン・ベックが制作に参加したダンス・チューン。アンドレア・マーティンの力強い歌声で幕を開ける手法は、ロリータ・ハロウェイやグロリア・ゲイナーのようなディスコ音楽の歌姫を連想させる。しかし、シンプルな四つ打ちのビートと、太く温かい音色のシンセサイザーを使った伴奏は、ムーディーマンやルイ・ヴェガのようなハウス・ミュージックっぽくも聴こえる。往年のディスコ・ミュージックの高級感を残しつつ、気鋭のミュージシャンらしい新鮮な音楽に落とし込むトドラTのセンスが炸裂した面白い曲だ。

デビュー作でもダンスホール・レゲエやグライムを取り入れた楽曲を披露していたように、一つのジャンルにとらわれない柔軟な感性と広い視野が持ち味のトドラTだが、その作風は本作でも変わらない。しかし、本作は過去の作品とは異なり、アンドレア・マーティンという確かな実力を持ったシンガーをフロントに据えたからか、ディスコ音楽やレゲエ、ハウスといった多彩なスタイルを取り入れた「女性ヴォーカルの黒人音楽」という、クラブ・ミュージックには縁遠い人にも楽しめる作品になっている。

ブラック・ミュージックを音楽のいちジャンルとして親しんできた彼らしい、様々なスタイルの要諦を押さえて、自分の音楽の糧にした完成度の高いアルバム。懐かしさと新鮮さを一つの作品に閉じ込めた、先鋭的なクリエイターらしい音作りが堪能できる良作だ。

Producer
Benji B, Toddla T etc

Track List
1. Blackjack21 feat. Andrea Martin
2. Won't Admit It's Love feat. Andrea Martin, Casisdead
3. Beast feat. Andrea Martin, Stefflon Don
4. Ungrateful feat. Andrea Martin
5. Foreign Light feat. Andrea Martin, Coco
6. Foundation feat. Addis Pablo
7. Always feat. Andrea Martin, Silkki Wonda
8. Tribute feat. Wiley
9. Faithful Skit feat. Andrea Martin
10. Magnet feat. Andrea Martin



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FOREIGN LIGHT
TODDLA T
BELIE
2017-07-28

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