melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

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6lack - East Atlanta Love Letter [2018 LoveRenaissance, Interscope]

ドレイクのように新しいサウンドを乗りこなし、歌とラップを織り交ぜたスタイルを繰り出すアーティストや、トレイ・ソングスのように、シンプルなトラックの上で、歌声とメロディを丁寧に聴かせるスタイルのシンガー、はたまた、ボーイズIIメンのように往年のソウル・ミュージックの良さを現代に蘇らせる手法がウケているベテランなど、様々なスタイルのシンガーが凌ぎを削るアメリカのR&B市場。その中で、独特のスタイルで頭角を現しているのが、ジョージア州アトランタ出身のシンガー・ソングライター、スラックこと、ロドリゲス・バルデス・ヴァレンティン。

フロー・ライダーが経営するレーベルと2011年に契約すると、大学を中退し、音楽ビジネスを学びながら、楽曲を制作。一時期はマイアミで自身の音楽レーベルも経営していた。

そんな彼は、2015年にインタースコープ参加のラブルネッサンスと契約。2016年にアルバム『Free 6lack』をリリースすると全米総合アルバム・チャートの34位に入り、ゴールド・ディスクを獲得。収録曲の”Prblms”はダブル・プラチナに認定され、グラミー賞にノミネートするなど、気鋭のシンガー・ソングライターとして高い評価を受けた。

このアルバムは前作から2年ぶりとなる彼にとって2枚目のスタジオ・アルバム。2017年にリリースされた、タイ・ダラ・サインカリードが客演した”OTW”などは未収録なものの、多くの新録曲を収録、フューチャーやミーゴスのオフセットやJ.コールなどの豪華なゲストが参加し、T-マイナスやStwoなどが制作に関わった力作になっている。

本作の1曲目は、フランスのプロデューサーStwoが制作に携わった”Unfair”。ケイトラナダやジョルジャ・スミスの作品も手掛けているStwoの繊細なバック・トラックと、スラックの物悲しい歌声の組み合わせが心地よいミディアム・ナンバー。エレクトロ・ミュージックやヒップホップと、マックスウェルやディアンジェロのような現代のソウル・シンガーの音楽を融合した面白い曲だ。

これに対し、ジャスティン・ビーバーやドレイクなどを手掛けているカナダのクリエイター、T-マイナスが制作に関与した”Pretty Little Fears”は、語り掛けるようなJ.コールのラップと、ささやきかけるような歌声が絡みあう切ない雰囲気のミディアム・バラード。極端に音数の少ないトラックは、電子音楽のクリエイターの作品かと錯覚させる。

また、本作に先駆けて発売されたシングル曲”Switch”は、サム・スミスやカリッドなどのキャッチーなR&Bを作ってきた、ニュージーランドの作家、ジョー・リトルを起用した楽曲。90年代中期のヒップホップのような、粗削りな音を使った伴奏と、派手ではないが味わい深いメロディを丁寧に歌い込むヴォーカルが心に残るミディアム・ナンバー。音数を絞り込み、音と音の隙間を効果的に聴かせるスタイルは、ジェイ・ディラやディアンジェロの音楽にも似ている。90年代に一世を風靡した手法を、現代向けにアップデートした技術が光っている。

そして、本作のリリース直前に発表された”Nonchalant”は、Stwoがトラック・メイクを主導した作品。電子音を組み合わせたトラックはFKJムラ・マサの音楽にも似た神秘的な雰囲気を醸し出している。その上に乗る、歌ともラップとも詩の朗読とも形容しがたい、微妙な抑揚で紡がれる言葉が心に残る良曲だ。

今回のアルバムは、前回の路線を踏襲しつつ、トラックやヴォーカルのアレンジを前作以上に練り込んだ印象がある。音楽投稿サイトで話題になるような、尖った作風の電子音楽やヒップホップのエッセンスを盛り込みつつ、大衆向けのキャッチーで洗練されたR&Bに落とし込む、この新鮮さと安心感の絶妙なバランスが本作の良さだと思う。

YouTubeや大規模な音楽フェスの隆盛によって、「リスナーにどれだけ新鮮な印象を与えるか?」ということに重きを置くミュージシャンが多い中、細部にまで気を配った曲作りと、丁寧なパフォーマンスでリスナーの耳目を惹いた個性的な作品。歌で勝負するR&Bの原点に立ち返りつつ、楽曲全体で新鮮さを感じさせる曲作りが光る佳作だ。

Producer
Stwo, T-Minus, JT Gagarin, Bobby Johnson, DJDS, Joel Little etc

Track List
1. Unfair
2. Loaded Gun
3. East Atlanta Love Letter feat. Future
4. Let Her Go
5. Sorry
6. Pretty Little Fears feat. J. Cole
7. Disconnect
8. Switch
9. Thugger's Interlude
10. Balenciaga Challenge feat. Offset
11. Scripture
12. Nonchalant
13. Seasons feat. Khalid
14. Stan






Traci Braxton - On Earth [2018 Soul World Entertainment]

トニ・ブラクストンの妹であり、彼女も在籍していた姉妹グループ、ブラクストンズの一員でもある、トレイシー・ブラクストン。

メリーランド州出身の彼女は、牧師の父とオペラ歌手から宣教師に転じた母を持ち、幼いころから姉妹と一緒に教会で歌うなど、恵まれた環境で腕を磨いてきた。

1989年にアリスタと契約した彼女達は、1990年に初のシングル“Good Life”をリリース。R&Bチャートに入るなど、一定の成果を収めたが、91年にトニがベイビーフェイスのプロデュースでデビューするためグループを脱退。トレイシー達は4人組としてグループを再開するが、95年にトレイシーもグループを離脱してしまう(そのため、96年のアルバム『So Many Ways』には参加していない)。

そんな彼女が表舞台に戻ってきたのは、2011年に制作されたリアリティ・ショウ。その後は、2014年に初のソロ・アルバム『Crash & Burn』を録音し、翌年には、トニも参加した5人体制のブラクストンズによるクリスマス・アルバム『Braxton Family Christmas』を発売。表舞台での経験が乏しいことが信じられない、豊かな表現力を発揮してきた。

本作は彼女にとって2枚目のソロ・アルバム。前作にも携わっていたデイブ・リンゼイが、全ての曲のプロデュースを担当。彼女自身も曲作りに参加し、ゲストにはトニ達ブラクストン姉妹も参加するなど、 前作も見劣りしない、豪華なものになっている。

本作の1曲目である”On Earth”は、四つ打ちのビートを採用したタイトル・トラック。セオ・パリッシュやムーディーマンの曲にも似ている、陰鬱で洗練されたビートの上で、滑らかに歌うトレイシーの姿が光るダンス・ナンバーだ。音数が少ないトラックと、起伏を抑えたメロディを乗りこなしつつ、きちんと表情をつける歌唱が聴きどころ。

続く”Lifeline”は、バス・ドラムを軸にしたシンプルなR&Bのトラックと、低い音域を強調した艶めかしいヴォーカルの組み合わせが魅力のスロー・ナンバー。重厚で色っぽい歌声を活かすスタイルは、トニ・ブラクストンの90年代の作品にも似ている。

しかし、本作の目玉は何と言っても”Broken Things”だろう。この曲は、ブラクストンズとして一緒に活動したトニ、トワンダ、トリーナの3人が参加したバラード(テイマーのみ不参加)。曲調の関係もあって、5人で録音した“Good Life”に比べると落ち着いた雰囲気だが、声質や歌い方の微妙な違いを効果的に使って、各人の個性と4人の一体感を表現している。4人でこの完成度ということは、5人が揃ったらどんな曲に仕上がっていたのだろうか。

また、本作では唯一ラッパーが客演した”To The Side”は、チキチキというハットの音を効果的に使った現代的なビートと、トレイシーの持つ大人の色気を引き出した、艶やかなメロディが魅力のスロー・ナンバー。クリス・ブラウントレイ・ソングスのアルバムに入っていそうなワイルドで大人っぽい雰囲気の曲でも、彼女が歌うと違って聴こえる。

彼女の作品は、他のブラクストン姉妹の作品同様、ブラクストンズやトニの作風を踏襲した、美しいメロディで歌声の魅力を丁寧に伝えるものだ。しかし、彼女の場合は他の姉妹の作品と違うのは、四つ打ちのビートや落ち着いた雰囲気のメロディの曲が目立つことだ。5人姉妹の中ではソロ作品を出していないトワンダを除くと、最もデビューが遅かったこともあり、他の姉妹と差別化を図るために工夫を凝らしたのだろう。そのことが、結果的に彼女の独自性を打ち出している。

ソウル・ミュージックの歴史上、最も成功した姉妹であるブラクストンズ。その中では一番最後に表舞台に登場した彼女だが、実力は他の4人に見劣りしないことを再認識させられる良作。90年代のトニ・ブラクストンのような、歌をじっくり聴かせるタイプのR&Bが好きな人には見逃せないアーティストだ。

Producer
Dave Lindsey

Track List
1. On Earth
2. Lifeline
3. Boy Bye
4. Broken Things feat. Toni Braxton, Towanda Braxton, Trina Braxton
5. Out The Box
6. To The Side feat. Ridge Long
7. White Noise
8. I Wont Cry




On Earth [Explicit]
Soul World Entertainment, LLC.
2018-08-24

H.E.R. - I Used to Know Her: The Prelude – EP [2018 RCA]

H.E.R.ことガブリエル・ウィルソンは、カリフォルニア州ヴァレーホ出身のシンガー・ソングライター。

出身地や本名、1997年生まれの21歳(本稿執筆時点)であること以外、自身に関する情報を殆ど公表していない彼女。あえて自身の素性を隠すことで、リスナーの関心を自身の音楽に向けさせてきた。

2016年から17年にかけて、2枚のEP『H.E.R. Vol. 1』『H.E.R. Vol. 2』を発表。2017年10月には、2作の収録曲を一枚に纏めた初のスタジオ・アルバム『H.E.R.』をリリース。配信限定の新人の作品ながら、エリカ・バドゥやシドを思い起こさせる、神秘的でモーダルな彼女の歌声と、ロバート・グラスパーやアンドレ・ハリスが制作に携わった楽曲で注目を集めてきた。

本作は、『H.E.R.』から約9か月の間隔で発売された彼女にとって3枚目のEP。制作は過去の作品にも関わっているスワッガー・シリアスらに加え、ドレイクなどのアルバムに参加しているウィリス・レーンや、タイ・ダラ・サインなどの楽曲を作っているD’マイルなどが担当。これまでの録音とは一味違う、新しいスタイルの楽曲に挑戦している。

アルバムの1曲目は、DJスクラッチをフィーチャーした”Lost Souls ”。ローリン・ヒルの名曲”Lost Ones”からインスピレーションを受けたというこの曲は、同曲のフレーズをサンプリングし、ローリンnのように歌とラップを織り交ぜたパフォーマンスを披露したミディアム・ナンバー。”Lost Ones”自体が、シスター・ナンシーが82年に発表したシスター・ナンシーの”Bam Bam”をサンプリングした泥臭いビートの楽曲ということもあり、この曲もDJプレミアやピート・ロックが作りそうな、 90年代のサンプリングを効果的に使ったヒップホップに落とし込まれている。

続く”Against Me”はウィリス・レーンが制作を主導したスロー・ナンバー。シンセサイザーを使った幻想的なサウンドの上で、丁寧に歌い込む彼女の姿が光っている。ドラムの音圧を抑え、低音の伴奏で重厚さを醸し出したトラックは、ドレイクの作品に少し似ている。前作までの彼女の作風を踏襲しつつ、切り口を変えた曲作りが魅力だ。

インターリュードを挟んだ後の”Could've Been”は、デビュー前から何度も共演してきたブライソン・ティラーとのデュエット曲のデュエット曲。エリック・ベリンガートレイ・ソングスの作品も手掛けているD’マイルズが作るトラックは、重いドラムの音を軸にしたしっとりとした雰囲気のもの。他の曲では、尖ったビートを取り入れることが多い両者が、ここでは滑らかな歌声で丁寧な歌を聴かせているのが新鮮だ。

そして、これに続く”Feel a Way”はリアーナアッシャーミゲルなどの楽曲に関わっているフリッパが手掛けた作品。ドレイクの”God’s Plan”を思い起こさせる、リズミカルなシンセサイザーの伴奏が印象的な曲だ。軽快な伴奏を含むトラックを、切ない雰囲気のメロディが魅力のミディアムに取り入れて、楽曲に軽妙な雰囲気を与える演出が面白い。

本作の最後を締めるのは、カリ・ウチスなどの作品を手掛けてきたジェフリー・ギトルマンがプロデュースした”As I Am”。ギターやフィンガー・スナップを用いた、フォーク・ソングっぽい演奏の上で、みずみずしい歌声を響かせるゆったりとした楽曲。透き通った歌声とR&Bのビート、ギターなどのアコースティックな伴奏を組み合わせたスタイルは、インディア・アリーにも少し似ているが、この曲では彼女の持つは少し陰鬱な雰囲気で独自性を打ち出している。

今回のEPは、ごく少数のクリエイターと制作してきたこれまでの作品から一転、色々なR&Bシンガーの曲に関わってきたプロデューサー達を起用し、流行のサウンドを積極的に取り入れたものになっている。しかし、多くのヒット・メイカーを起用しながら、流行の音をそのまま使うのではなく、自分の音楽性に合わせて咀嚼している。この一作品ごとに少しずつスタイルを変えて、リスナーを飽きさせず、次回作への期待を抱かせる手法が、彼女の音楽が注目される一因だと思う。

自身の音楽で勝負してきたH.E.R.の、第二章の幕開けを飾る作品といっても過言ではない、新しいスタイルに挑戦した良作。独創的な作風で周囲を驚かせてきた彼女が、次のステップに踏み出した新境地だ。

Producer
BassmanFoster, Cardiak, Dernst "D'Mile" Emile II, Flippa, Jeff Gitelman, Jeffrey Gitelman, Swagg R'Celious & Wallis Lane

Track List
1. Lost Souls feat. DJ Scratch
2. Against Me
3. Be On My (Interlude)
4. Could've Been feat. Bryson Tiller
5. Feel a Way
6. As I Am






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