melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

韓国

88rising - Head in the Clouds [2018 88rising]

多くの日本人ダンサーが目標に掲げるブライアン・パスポスのような、アメリカの実力派アーティストを扱いつつも、ユーモアに富んだ独特のリリックで、中国国内のラップ禁止令のきっかけを作ったハイヤー・ブラザーズ、10代の若さでアジアを代表するラッパーの一人に上り詰めたインドネシアのリッチ・ブライアン、韓国のキース・エイプのような、アジア各国のヒップホップ・アーティストを世界に紹介してきたアメリカの音楽レーベル、88ライジング

音楽メディアとレコード・レーベルの機能を持ち、母国でも音楽好きの間でしか知られていなかった、隠れた名アーティストを紹介してきた同レーベルの、初のコンピレーション・アルバムが本作。リッチ・ブライアンやハイヤー・ブラザーズといった、同社と契約しているアーティストの新曲と既発曲のリミックスを収録。ゲストとしてゴールドリンクやプレイボーイ・カルディといったアメリカの人気ラッパーに加え、日本からもm-floのバーバルが参加するなど、国際色豊かな同レーベルらしい豪華なアルバムになっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、大阪出身のジョージと、インドネシアのニキという、二人のシンガー・ソングライターが組んだ”La Cienega”。電子楽器を使った、もっさりとしたビートの上で気だるく歌うニキと、時に彼女に寄り添うように優しく、時にマックスウェルのように鋭いファルセットを聴かせるジョージの歌唱力が光るスロー・ナンバーだ。二人の繊細な歌声は、アメール・ラリューやレミー・シャンドのような、ネオ・クラシック・ソウルのシンガーに通じるものがあるが、この曲では、電子楽器を駆使した現代的なビートと組み合わせることで、彼らと差別化している。

これに対し、ハイヤー・ブラザーズと、ロス・アンジェルス近郊のワッツ出身の03グリードががコラボレーションした”Swimming Pool ”は、タイ・ダラ・サインなどの作品に関わっているフランス出身のキャッシュマネーAPと、ロイ・ウッズdvsnなどを手掛けているカナダ出身のアキール・ヘンリーがプロデュースを担当した国際色豊かな曲。ドレイクグッチ・メインのアルバムに収録されていそうな、電子楽器中心のシンプルなトラップ・ビートの上で、英語と中国語を使い分けながらラップする姿が印象的な曲。アメリカで流行しているサウンドを自分の音楽に染め上げるハイヤー・ブラザーズの強烈な個性が心に残る。

だが、本作の隠れた目玉はシカゴ出身の24歳のラッパー、フェイマス・デックスが2018年に発表して、アメリカの総合シングル・チャートの28位に入った”JAPAN ”のリミックス・ヴァージョンだろう。「日本でドラックを5万回もやったぜ」と歌った原曲を、韓国出身のキース・エイプと日本出身のバーバルが改変。バーバルは英語で「女の子からLINEが来たら楽しい時間の始まり」「朝までカラオケで歌うぜ」とラップし、キースは「みんなは俺を日本人か?と聞くけど、俺は韓国人だ」「腕にも拳にもNIGOのグッズがあるぜ」と、英語と韓国語を織り交ぜたパフォーマンスを繰り出している。余談だが、バーバルのパートには「P.K.C. on his boys」(EXILEの元メンバー、ヒロやマキダイ達と組んだラップ・グループPKCZのこと)というフレーズをさり気なく盛り込んでいるのが心憎い。

そして、本作の最後を締めるのが、ロス・アンジェルス出身のプロデューサー、バーニー・ボーンズとジョージが共作したタイトル曲”Head In The Clouds”。レゲエの緩いビートと、EDMのような高揚感があるシンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックの上で、甘い歌声を響かせるスロー・ナンバーだ。曲の後半ではストリングスのような音色を加え、最後までゆったりとしたバラードとして聴かせる演出が印象的。

今回のアルバムを通して感じるのは、アメリカのミュージシャンにも見劣りしないアジア勢の高いスキルと豊かな個性だ。各国の言語に慣れ親しんだ人でもなければ、誰がどの国のアーティストか判別するのは難しい。むしろ、同じ言語を使うアーティストでも、声質やキャラクターによって表現の方法が全然違う。この各人の際立った個性と、それを活かすレーベルの編集能力が本企画の面白さを生んでいると思う。

世界各地で腕を磨いてきた名手たちの素晴らしいパフォーマンスを、存分に楽しめる良作、アメリカで生まれ、世界に散らばったヒップホップが、各国の文化を飲み込んでで進化していることを僕らに教えてくれる貴重なアルバムだ。

Producer
NIKI, CashMoneyAP, Akeel Henry, J Gramm, Barney Bones, joji etc

Track List
1. La Cienega feat. ​joji & NIKI
2. Red Rubies feat. Don Krez, Higher Brothers, Rich Brian, Yung Bans & Yung Pinch
3. Swimming Pool feat. 03 Greedo & Higher Brothers
4. Peach Jam feat. BlocBoy JB & ​joji
5. Midsummer Madness feat. AUGUST 08, Higher Brothers, ​joji & Rich Brian
6. Plans feat. NIKI & Vory
7. History feat. Rich Brian
8. Lover Boy (88 Remix) by Phum Viphurit feat. Higher Brothers
9. Poolside Manor feat. AUGUST 08 & NIKI
10. Beam by Rich Brian feat. Playboi Carti
11. Let It Go feat. BlocBoy JB & Higher Brothers
12. Disrespectin feat. AUGUST 08, Higher Brothers & Rich Brian
13. Warpaint feat. NIKI
14. I Want In (feat. AUGUST 08 & NIKI
15. JAPAN (88 Remix) by Famous Dex feat. Keith Ape & Verbal
16. Nothing Wrong (Remix) by Higher Brothers & Harikiri feat. GoldLink
17. Head In The Clouds feat. ​joji





Head In The Clouds [Explicit]
88rising Music/12Tone Music, LLC
2018-07-20

Jay Park - Ask Bout Me [2018 AOMG, Leon, Roc Nation]

”Gangnam Style”が、非英語曲の最多ダウンロード販売を記録したPSYや、アジア人では初めてアメリカとイギリスのアルバム・チャートを制覇したBTSなど、海外での成功が目立つ韓国発のアーティスト達。欧米の流行を取り入れ、自国の文化と融合した独自の音楽が発展する過程では、ビッグバンや2Ne1の作品を手掛けてきたテディ・パクや、エピック・ハイのタブロのような、欧米出身の韓国人や韓国系ミュージシャンが貢献してきた。

ジェイ・パクことパク・ジェボムは、そんな韓国系アメリカ人のアーティストの一人。ワシントン州のエドモンズ生まれ、シアトル育ちの彼は、ハイスクール時代からブレイク・ダンスに夢中だったという。そんな彼は、母親が好きな歌手が在籍していたことがきっかけで、JYPエンターテイメントのオーディションに応募し合格。韓国に移り、大学に通いながらデビューを目指していた。

そんな彼は、2008年にボーイズ・グループ2PMのリーダーとしてデビューするものの、アメリカとは異なる文化を持つ韓国での活動に苦しみ直ぐに脱退。アメリカに帰国する。

その後は、ハイスクール時代からの仲間と組んだクルー、AOMGで活動しながらシンガー・ソングライターやプロデューサーとして活動。高いスター性と本格的なヒップホップを同居させたスタイルで、テレビからクラブ・イベントまで、幅広い舞台で活躍。2017年には、アジア系のミュージシャンとしては初めて、ジェイZが率いるロック・ネイションと契約した。

本作は、彼が率いるAOMGとロック・ネイションの共同配給による初のEP。プロデュースはチャ・チャ・マローンやグルーヴィー・ルームといったAOMGの面々が担当する一方、ゲスト・ミュージシャンにはレーベル・メイトのヴィック・メンサを中心に、2チェインズやリッチ・ザ・キッドといった、アメリカ各地の実力派ラッパーが集結した豪華なものになっている。

アルバムの1曲目”FSU”は、元2Ne1のミンジーの”Flashlight”を手掛け、2017年にはジェイ・パクのレーベル、ハイヤー・ミュージックからアルバム『Everywhere』を発表している韓国のプロダクション・チーム、グルーヴィールームが制作を担当。リビア出身のラッパー、ガシと、アトランタ出身のリッチ・ザ・キッドをフィーチャーしている作品。トラップのビートに乗って、歌ともラップとも言い難い独特の抑揚のメロディを繰り出している。ヴォーカル・グループ出身らしいパクの甘い歌声と、ゲストの太い声のラップの組み合わせが面白い。

これに対し、AOMGの一員であるチャ・チャ・マローンが制作に加わった”Sexy 4 Eva”は、トラップの要素を盛り込んだトラックに、ロマンティックなメロディを組み合わせたスロー・バラード。シンセサイザーを使ったヒップホップのトラックと甘酸っぱい歌声の組み合わせは、アッシャークリス・ブラウンに似ている。だが、彼らの曲に比べると、よりしなやかなメロディが印象的。ヒップホップの要素と、じっくりと歌を聴かせる韓国のポップスの手法が上手く混ざった佳曲だ。

また、チャ・チャ・マローンがプロデュースを担当し、韓国の人気ラッパー、シックKがラップを吹き込んだ、2017年のシングル”Yacht”のリメイクでは、ロック・ネイション所属のヴィック・メンサがゲストで参加。甘い音色のシンセサイザーと、パクの色っぽい歌声の組み合わせが心地よい、ロマンティックな雰囲気のミディアム・ナンバーだ。絶妙なタイミングで入り込み、曲を引き締めるヴィック・メンサのラップをがいい味を出している。

そして、本作の最後を締めるのが2チェインズを起用した”Soju”(韓国語で「焼酎」の意味)。チャ・チャ・マローンとウージーが作るチキチキ・ビートの上で、セクシーな歌声を響かせるスタイルは、ジニュワインやジョデシーが一時代を築いた90年代のR&Bを思い起こさせる。全体的にどこか懐かしい雰囲気の曲だ。所々で使われるオートチューンが、トークボックスっぽく聴こえるのも面白い。ジェイZにそっくりなフロウを聴かせる、2チェインズのラップも思わずニヤリとしてしまう演出。余談だが、こちらの曲にはサイモン・ドミニクやチャンモといった、韓国ヒップホップ界の新旧の実力者が参加したリミックスが存在する。両者のラップを聴き比べてほしい。

本格的なアメリカ・デビュー作となる今回のアルバムは、ゲストをアメリカのラッパーで固めて、自身のパートも英語で歌う一方、AOMGの面々を中心に韓国のプロデューサーを起用するなど、アメリカと韓国、両方の国の音楽を取り入れた少々意外なものだ。ロック・ネイションという名門レーベルと契約しながら、昔からの付き合いのあるクリエイターを多数起用する。ヒップホップの世界ではしばし見られる手法を、アジア系の彼が行う姿からは、自分達のキャリアと音楽に対する絶対的な自信を感じさせる。

インターネットの普及によって、各国の音楽を気軽に楽しめる時代を経て、「どこの国の音楽か」より「誰の音楽か」「どんな音楽か」が重要になったことを再認識させられる良作。アッシャーやクリス・ブラウン、トレイ・ソングスなど、多くの名シンガーが鎬を削るR&Bの世界に、彼のようなアジア系シンガーがどんな影響を与えるか、今後の展開が楽しみだ。

Producer
Cha Cha Malone, GroovyRoom, Slom & Woogie

Track List
1. FSU feat. GASHI & Rich The Kid
2. Chosen1
3. Sexy 4 Eva
4. Million
5. Yacht feat. Vic Mensa
6. Ask Bout Me
7. Soju feat. 2 Chainz






Epik High - We've Done Something Wonderful [2017 YG Entertainment]

ビッグバンBTS、2Ne1など、ヒップホップやR&Bを取り入れたダンス・ヴォーカル・グループが、世界を舞台に活躍している韓国発のミュージシャン達。彼らのように、デビュー直後からテレビ番組や大きなステージでスポット・ライトを浴び続ける面々がいる一方で、クラブやライブ・ハウスで地道に結果を残し、トップまで上り詰めた人々もいる。その代表格が、タブロ、ミスラ・ジン、DJトゥーカッツからなる3人組のヒップホップ・グループ、エピック・ハイだ。

スタンフォードの大学院を修了し、韓国に戻ってきた韓国系カナダ人のタブロと、韓国出身のミスラ・ジン、DJトゥーカッツが2001年に結成したこのグループは、ソウル市のクラブなどでライブを重ねつつ、2004年に初のスタジオ・アルバム『Map of the Human Soul』をリリースした。

また、2005年の『Swan Songs』以降は、メイン・ストリームのポップスを取り入れた作風にシフトし、2007年の『Remapping the Human Soul』は、アンダー・グラウンド・シーン出身のミュージシャンとしては異例の、12万枚を売り上げるヒットを記録。以後、韓国を代表するヒップホップ・グループとして広く知られるようになった。

しかし、2009年にトゥーカッツが、2010年にミスラが兵役のため活動を休止すると、同じ時期にタブロ(彼はカナダの市民権があるため兵役には就いていない)の学歴を巡る誹謗中傷事件(この事件は大学がコメントを発表し、多くの逮捕者が出るなど、単なる誹謗中傷とは呼べない激しいものだった)が発生。一転して苦境に立たされる。しかし、この事件が解決したのとほぼ同じ時期に、タブロの奥さんが所属していた縁でYGエンターテイメントと契約。2014年には自分達を中傷した人々へのメッセージ・ソング”Born Hater”で華々しい復活を遂げた。

このアルバムは、2014年の『Shoebox』以来となる通算9枚目、YGエンターテイメント移籍後の作品としては2枚目となるスタジオ・アルバム。YGエンターテイメントの看板タレント、テディ・パクやビッグバンのSOLといったビック・ネームは不参加だが、プロデューサーにはクワイエットやドックスキンといったストリート発の人気ミュージシャンが参加。ゲストにはクワイエットやサイモン・ドミニクのようなヒップホップ界の大物から、ウィナーのミノやリー・ハイといったYGエンターテイメントの後輩、”Good Day や”You & I”などのヒット曲を持つ韓国を代表する女性シンガーIUや、韓国の人気ロック・バンド、ヒュゴのオ・ヒュクのような、ヒップホップ以外のジャンルのミュージシャンまで、バラエティ豊かな面々を揃えている。

本作からのリード・シングルは”Love Story”はIUをフィーチャーした作品。ヒップホップのビートとストリングスを組み合わせたロマンティックなトラックや、終わりを迎える恋人達の姿を、絶妙な言葉選びで克明に描いたラップが印象的な曲。『Shoebox』に収録されている、彼らの代表曲”Happy Ending”の流れを踏襲した作品だ。日本盤に収められている日本語バージョンでは楽童ミュージシャンのスヒュンがヴォーカルを担当しているので、両者を聴き比べてほしい。

これに続く”No Thanxxx”は、元2PMのジェイ・パクと一緒にAOMGを経営しているサイモン・ドミニクと、イリオネア・レコードを経営するクワイエットという、韓国のヒップホップ界を代表する大物二人に加え、人気オーディション番組「Show Me The Money」での活躍も話題になった、ウィナーのミノも参加しているハードなヒップホップ作品。ウッド・ベースの音をループさせた大人っぽい雰囲気のトラックで、良識派が聴いたら眉をひそめそうな過激な言葉を繰り出している。ミノとサイモン・ドミニクの歌詞の内容を巡って論争が巻き起こるなど、良くも悪くもアメリカのヒップホップのスタイルを踏襲した彼らしさが発揮されている。

また、ヒョゴのオ・ヒュクが参加した”Home Is Far Away ”はタブロがプロデュースした作品。切ない雰囲気のトラックと、哀愁を帯びたメロディを丁寧に歌うヴォーカルをフィーチャーした作風は”Love Story”の男性版といった趣。ドラマや映画を通して、多くの名バラードが生まれている韓国の音楽文化と、彼らが傾倒するヒップホップを上手く融合させた良曲だ。

これに対し、先日、日本デビューを果たしたリー・ハイをフィーチャーした”Here Come The Regrets”はDJトゥーカッツが制作を主導した変則ビートの楽曲。ラップ・パートではティンバランドやジャーメイン・デュプリを思い起こさせるチキチキ・ビートを取り入れつつ、リー・ハイが歌うサビではアデルの”Hello”を連想させるロック・バラードの要素を盛り込んでいる。ロックとヒップホップ、両方の美味しいところを融合させた佳曲だ。

彼らの魅力は、歌謡曲やR&Bが人気の韓国の音楽市場に適応しつつ、その中で独創的なヒップホップを作り上げたところだ。アイドル・グループやロック・バンド、歌謡曲の歌手がしのぎを削る韓国で、クラブで磨き上げた自分達のスタイルを貫きつつ、流行の音を取り込むことで、商業的な成功と個性的な作風を両立している。この、自分達の環境に適応しつつ、自国の音楽を本格的なヒップホップに組み込んだところが、彼らの面白いところだと思う。

世界各地に広まり、現地の文化と融合して個性的な進化を遂げたヒップホップの面白さを再確認できる良作。アメリカのヒップホップに傾倒しつつ、アメリカとは異なる文化を持つ国で、自分達の音楽を磨き上げた彼らの、逞しさとしたたかさが心に残る作品だ。

Producer
Tablo, DJ Tukutz, DOCSKIM, The Quiett, The Chancellor etc

Track List
1. People Scare Me
2. Love Story feat.IU
3. No Thanxxx feat.Mino, Simon Dominic & The Quiett
4. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk
5. Here Come The Regrets feat.Lee Hi
6. The Benefits Of Heartbreak feat.Lee Suhyun Of Akmu
7. Bleed
8. Tape 2002 7 28
9. Us Against The World
10. Lost One feat.Kim Jong Wan Of Nell
11. Munbae-Dong feat.Crush
12. Love Story feat.Lee Suhyun Of Akmu -Japanese Version- -Bonus Track- 13. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk -Japanese Mix- -Bonus Track-






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