melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2016

Deni Hines - Soul Sessions [2016 Bitchin' Productions]

70年代から80年代にかけて多くのヒット曲を残したシンガー、マルシア・ハインズを母に持ち、自身も早くからバック・コーラスやR&Bグループ、ロックメロンズなどの活動で頭角を現してきた、シドニー出身のシンガー・ソングライター、デニ・ハインズことデニ・シャロン・ハインズ。

90年代に入ると、オーストラリアのインディペンデント・レーベル、マッシュルーム・レコードと契約。同レーベルから96年に発表したソロ・デビュー曲”Imagination”と、同曲を収めたフル・アルバムが各国でヒットした。特に、アルバムはイアン・グリーンやマーティン・ウェアといった英国の有名プロデューサーを起用し、ロンドンで録音されたこともあり、UKソウルの傑作と評されることもあった。

その後は、2015年までに2枚の編集盤を含む5枚のアルバムを発売。2006年には母マルシアとのデュエット曲”Stomp”を発表して話題を読んだ。また、2008年以降はツアーと並行してテレビ番組などの仕事も担当。母同様、様々な分野で活躍していた。

そして、彼女にとって10年ぶりの新作となるこのアルバム。2006年にリリースしたジェイムス・モリソンとのコラボレーション作『The Other Woman』以来となる新作は、新旧のソウル・クラシックと、彼女が過去に発表した曲。そして新曲を含んだもの。オーストラリア国内のスタジオで、同国のミュージシャン達と録音した本作は、人間にしか出せない繊細な表現と、彼女のダイナミックな歌唱が光る本格的なソウル作品になっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、テキサス州フォート・ワース出身のサックス奏者、キング・カーティスの67年のヒット曲”Memphis Soul Stew”と、ルーファス&チャカ・カーンが74年に発表した大ヒット曲”You Got The Love”のメドレー。ワイルドで泥臭いサウンドが魅力の前者で、往年のソウル・ミュージックを懐かしむ人達の心を惹きつけながら、洗練されたサウンドとパワフルなヴォーカルで彼女達の世界へと一気に引き込む構成に圧倒される。彼女の歌は、10年の時を経て、さらに進化したようだ。

そして、これに続く”What About Love”は、アルバムに先駆けて発表された彼女の新曲。力強いドラムの演奏から始まる曲は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの”Everyday People”を彷彿させる、軽快な演奏が心地よいアップ・ナンバー。ポップなメロディを力強い歌唱で本格的なソウル・ミュージックに生まれ変わらせるデニのヴォーカルも魅力的。

また、2017年にシングル化されたもう一つの新曲”I Got Your Back”は、彼女がロックメロンズ時代にカヴァーしたビル・ウィザーズや、彼と同じ時代に活躍したジャクソン5などを思い起こさせる、ポップで柔らかい音色の伴奏と、ふくよかで滑らかな歌声が心地よいミディアム・ナンバー。しなやかなメロディのR&Bや、パワフルな歌声を響かせるバラードが多かった彼女なので、この曲で見せるチャーミングな歌声はちょっと意外に感じる。

だが、本作の主役はなんと言ってもカヴァー曲。アレサ・フランクリンの”Rock Steady”や、その妹アーマ・フランクリンの”Piece of My Heart”といった、女性歌手が歌うソウル・クラシックから、ホイットニー・ヒューストンの”Exhale”や、ジル・スコットの”A Long Walk”のような、比較的最近のシンガーの曲、そして、マイケル・ジャクソンの”P.Y.T. (Pretty Young Thing)”やスティーヴィー・ワンダーの”Jesus Children of America”といった男性シンガーの曲まで、幅広く取り上げている。いずれの曲も、器用な歌唱と力強い歌声、彼女を支えるバンド・メンバーのテクニックが光っているが、この中でも特に強烈な印象を残したのが、マイケル・ジャクソン”P.Y.T. (Pretty Young Thing)”のカヴァー。2002年にモニカが”All Eyes On Me”でサンプリングで再び脚光を浴びた、ポップで軽快なダンス・ナンバーだが、彼女は原曲の雰囲気を損ねることなく。グラマラスな歌声でパワフルに歌い上げている。

今回のアルバムでは、ソウル・クラシックス、90年代以降のR&B、ポップス寄りの曲、そして自身の曲をバランスよく選んで、曲調にバラエティを持たせつつ、名うての演奏者達による伴奏で、楽曲に安定感と豊かな表情を与えている。そして、最大の強みは彼女のヴォーカル。デビュー当時から芯の強く、しなやかな歌声が魅力的だったが、ジャズに取り組むなど、キャリアを重ねる中で、その表現の幅は大きく広がり、ディープなソウル・ナンバーや軽快なディスコ音楽まで、あらゆる音楽を自分の色に染め上げられる技を獲得している。

年齢を重ねるごとに、新しい一面を見せ続ける、ベテラン・ディーヴァの本領が発揮された佳作。原曲を知る人にも知らない人にも楽しめる、新しいタイプのカヴァー・アルバムだ。

Producer
Insider Trading & Eddie Said

Track List
1. Memphis Soul Stew / You Got The Love
2. Rock Steady
3. What About Love [Album Version]
4. P.Y.T. (Pretty Young Thing)
5. I Got Your Back
6. Been So Long
7. Exhale
8. A Long Walk
9. Runnin'
10. Piece of My Heart
11. Jesus Children of America
12. If





ザ・ソウル・セッションズ
デニ・ハインズ
Pヴァイン・レコード
2016-11-16


Chrisette Michele - Milestone [2016 Caroline Records, Rich Hipster]

社会学者と父と心理学者の母の間に生まれ、彼女自身もマルーン5のアダム・レヴィンやフージーズのワイクリフ・ジョンを輩出したファイブ・タウン・カレッジでヴォーカル・パフォーマンスを専攻。卒業後には、プロのシンガーとして活動を開始し、レコード・デビュー前の新人にも関わらず、ジェイZの”Lost One”や、ナズの”Can't Forget About You”、ゴーストフェイス・キラーの”Slow Down”など、名だたる大物の楽曲にフィーチャーされてきた、ニューヨークのセントラル・アイスリップ地区出身のシンガー・ソングライター、クリセット・ミッチェルこと、クリセット・ミッチェル・ペイン。

2007年にデフ・ジャムから満を持してデビュー作『I Am』を発表すると、20代前半(当時)とは思えない、貫禄のある落ち着いた歌唱と妖艶な歌声を披露。おしゃれな音楽に敏感な人から、熱狂的なソウル愛好家まで、多くの人々から注目を集めた。中でも、アルバムのオープニングを飾る”Like A Dream”は、近年でもラジオやライブの開演前BGMなどでしばし耳にするR&Bクラシックとなっている。

その後も、2015年までにデフ・ジャムやモータウンなどから、3枚のフル・アルバムと3枚の1枚のEP、3作のミックス・テープを発表。その一方で、自身名義のツアーをこなしつつ、メアリーJ.ブライジやキーシャ・コールの公演にも携わるなど、多忙な日々を送ってきた。だが、激務の中でも作品の質は衰えることなく、2009年にはウィル・アイ・アムをフィーチャーした”Be OK”でグラミー賞を獲得。他の作品でも、グラミー賞やソウル・トレイン・アワードなど、多くの音楽賞にノミネート、好セールスを記録してきた。

今回のアルバムは2015年に発表したEP『The Lyricists' Opus』と同じく、自身のレーベル、リッチ・ヒップスターからのリリース。配給元がモータウンからキャロラインに変わったが、制作の指揮をデビュー作から彼女の録音に携わっているダグ・エリソンがプロデュースを担当するなど、新たな環境でもスタイルを大きく変えることなく、従来の路線を踏襲した、豪華でロマンティックな大人向けのR&B作品に纏め上げている。

アルバムに先駆けて発表されたシングル曲”Unbreakable”は、シンセサイザーの低音を効果的に使ったスタイリッシュな伴奏と、ミッチェルのセクシーな歌声が格好良いミディアム・ナンバー。地声を使って歌うメロディ部分から、喉の負担が心配になるほど強烈な裏声を響かせるサビへと続く難解なメロディ楽曲を作り、歌ってしまう彼女の作曲技術と歌唱力にはびっくりしてしまう。

一方、フレンチ・モンタナなどを手掛けてきた、アンソニー・ノリスが携わっている”To the Moon”は、重厚なビートの上で、喉を絞った荒々しい歌声を張り上げるミディアム・バラード。メロディ部分で多用される中~低音域の力強い歌声は、タイプこそ違うがビヨンセの声と少し似ている気がする。壮大なスケールのメロディと、それを引き立てる荘厳なトラックはアデルの”Hello”にも見劣りしない、高い完成度が光る楽曲だ。

これに対し、ヤング・ストークスが手掛けた”Soulmate”は、音量を抑えた繊細なシンセサイザーの伴奏に乗って、繊細な表現を聴かせるスロー・ナンバー。芯の太い声で囁きかけるように歌う彼女の姿が光る、ロマンティックな楽曲。デビュー当時から表現の幅は広い歌手だったが、この曲ではその技術に一層の磨きをかけたように見える。

そして、2014年のアルバム『Mali Is...』も記憶に新しいマリ・ミュージックとのデュエット曲”Reinvent the Wheel”は、ホセ・ジェイムスの『 Love in a Time of Madness』を手掛けているアンタリオ・ホルムズが手掛けたアップ・テンポよりのミディアム。ピットブルやエイコンの作品を彷彿させる、鮮やかな音色のシンセサイザーを使ったトラックをバックに、ラップと歌を織り交ぜたパフォーマンスを披露している。一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎ出す真摯な姿勢が光るミッチェルを横目に、子供がボールで遊んでいるかのように、軽妙でリズミカルなラップを聴かせるマリの対照的な姿も面白い。

デビューから10年近く経ち、新しい流行が次々と生まれる中で発表された新作だが、今回のアルバムでも、彼女の作風はぶれることなく、少しずつだが着実に、磨き上げてられているように映った。彼女の音楽は、ビヨンセやリアーナのような爆発的なヒットや、トレンドをけん引する先進性には乏しいかもしれないが、発表から長い時間が経っても聴かれ続けているこれまでの作品のように、長きに渡って愛される求心力と普遍性があると思う。

シンプルだが味わい深い、スルメイカのようなR&B作品。新しい音楽を追いかけるのに疲れたとき、ふと手に取りたくなる隠れた名作だと思う。

Producer
Doug "Biggs" Ellison, Young Strokes, Blickie Blaze, Antario Holmes, Austin Powers

Track List
1. Diamond Letter
2. Steady
3. Meant to Be feat. Meet Sims
4. Soulmate
5. Unbreakable
6. To the Moon
7. Make Me Fall
8. Equal feat. Rick Ross
9. These Stones
10. Indy Girl
11. Us Against the World
12. Reinvent the Wheel feat. Mali Music





Milestone
Chrisette Michele
Rich Hipster
2016-06-10

Fantastic Negrito - The Last Days Of Oakland [2016 Blackball Universe Records, Universal, P-Vine]

マサチューセッツ生まれのオークランド育ち、厳格なイスラム教徒の父の下で厳しく育てられたきたが、オークランド時代には麻薬の売人に手を染め、危険な経験もしてきたという、波乱万丈の人生を歩んできたシンガー・ソングライター、ファンタスティック・ネグリートこと、イグザヴィア・ディーフレッパレーズ。彼にとって、通算2枚目のアルバムにして、現在の名義では初のオリジナル・アルバム。

プリンスの『Dirty Mind』に出会ったことがきっかけで、ミュージシャンになることを決めた彼は、93年にプリンスのマネージャーも担当した人物と契約。その後、インタースコープとも契約を結び、96年にはイグザヴィアの名義でアルバム『The X Factor』を発表。日本の音楽雑誌でも取り上げられるなど、 音楽通に好まれるR&Bの隠れた名盤として高く評価されていた。

しかし、99年に彼は交通事故に見舞われてしまう。この事故で3週間の昏睡状態を経験した彼は、諸々の事情もあり、インタースコープを離れることになる。その後、一時期は売人に戻り、音楽もやめてしまうが、2014年にはルーツ・ミュージックの分野で音楽活動を再開。そして、同年に7曲入りのミニ・アルバム『Fantastic Negrito EP‎』をリリースすると、2016年までに4枚のシングルやEPを発売、インディー・レーベルから発売されたルーツ・ミュージックの新人という、商業的には不利な条件が揃っている中で、一定の成果を残してきた。

このような長く、複雑な歴史を経てリリースされた本作は、ユニヴァーサルが配給(日本盤はP-Vine)、LP、CD、配信という複数のフォーマットで販売されるなど、新人同然のミュージシャンとは思えないスタッフの気合が目立つ。また、制作スタッフも、マイケル・ジャクソンやメアリー.J・ブライジなどの作品に参加しているベースのコーネリアス・ミムスや、ドウェイン・ウィギンズや50セントなどの楽曲に携わっているライオネル・ホロマン、イグザヴィア時代の作品にも関わっている日本人ギタリストのマサ小浜など、演奏技術に定評のある面々がを揃えており、イグザヴィア達がこのアルバムに賭ける思いが窺えるものになっている。

さて、肝心の内容だが、アルバムの実質的な1曲目となる”Working Poor”は、本作からのリード・シングル。地鳴りのようなビートと、ジャック・マクダフを思い出させる華やかなオルガンの演奏、しゃがれた声を絞り出すように歌うヴォーカルや、哀愁を帯びたギターの音色が格好良いミディアム・ナンバーだ。

これに対し、4曲目の”Scary Woman”は、シュープリームスの"You Can't Hurry Love"やメイヤー・ホーソンの"Your Easy Lovin' Ain't Pleasin' Nothin'"を連想させる、軽快でポップなリズム&ブルースと、初期のマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフなどの作品を思い起こさせる凄まじい音圧、指の運び方まで収録しような、レコーディング技術の3つが合わさったアップ・ナンバー。1960年代にタイム・スリップしたような感覚すら受ける、懐しさと新しさが入り混じった楽曲。

また、”The Nigga Song”と”In the Pines”の2曲は、重厚なビートやシンプルなフレーズから、多彩な表情を引き出す演奏者と、喜怒哀楽を全て曝け出したようなイグザヴィアの歌と演奏に威圧感さえ感じてしまう名曲。機材や演奏スタイルは少し違うが、マディ・ウォーターズの”Hoochie Coochie Man”を初めて聴いたときに感じた、スピーカー越しにも伝わる鬼気迫るものが、この曲からもひしひしと伝わってくる。

そして、本作のハイライトともいえるのがアルバムの最後を締める”Nothing Without You”。キーボードとオルガン中心になって生み出す温かい伴奏と、ステイプル・シンガーズなどを連想させる泥臭いコーラス。そして、彼のキャリアを総括するかのように、喜怒哀楽すべての感情を1曲に吹き込んでみせる。イグザヴィアの歌が一体化したバラード。オーティス・レディングが21世紀に転生したような、シンプルだが豊かな感情表現が光るスロー・ナンバーだ。

今回のアルバムは、演奏や作曲といった細かい要素単位で考えると、これ以上ないに保守的な作風だと思う。ただ、演奏技術、録音技術、歌唱力の一つ一つを突き詰め、楽曲ごとに色々な手法を取り入れることで、往年のブルースの持つ迫力と、現代のロックやソウルが持つ斬新さを両立していると思う。

昔からある手法を究めつつ、それを柔軟な発想で組み合わせたことで、新鮮さと懐かしさを両立した傑作。グラミー賞のベスト・コンテンポラリー・ブルース・アルバムを獲得したことも納得できる。21世紀のブルース・クラシックと呼ぶにふさわしい、現代の傑作だと思う。

Producer
Xavier Dphrepaulezz

Track List
1. Intro - The Last Da
2. Working Poor
3. About a Bird
4. Scary Woman
5. Interlude - What Would You Do?
6. The Nigga Song
7. In the Pines
8. Hump Through the Winter
9. Lost in a Crowd
10. Interlude 2 - El Chileno
11. The Worst
12. Rant Rushmore
13. Nothing Without You





The Last Days of Oakland
Fantastic Negrito
Blackball Universe
2016-06-03

 
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