ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

2016

Fantastic Negrito - The Last Days Of Oakland [2016 Blackball Universe Records, Universal, P-Vine]

マサチューセッツ生まれのオークランド育ち、厳格なイスラム教徒の父の下で厳しく育てられたきたが、オークランド時代には麻薬の売人に手を染め、危険な経験もしてきたという、波乱万丈の人生を歩んできたシンガー・ソングライター、ファンタスティック・ネグリートこと、イグザヴィア・ディーフレッパレーズ。彼にとって、通算2枚目のアルバムにして、現在の名義では初のオリジナル・アルバム。

プリンスの『Dirty Mind』に出会ったことがきっかけで、ミュージシャンになることを決めた彼は、93年にプリンスのマネージャーも担当した人物と契約。その後、インタースコープとも契約を結び、96年にはイグザヴィアの名義でアルバム『The X Factor』を発表。日本の音楽雑誌でも取り上げられるなど、 音楽通に好まれるR&Bの隠れた名盤として高く評価されていた。

しかし、99年に彼は交通事故に見舞われてしまう。この事故で3週間の昏睡状態を経験した彼は、諸々の事情もあり、インタースコープを離れることになる。その後、一時期は売人に戻り、音楽もやめてしまうが、2014年にはルーツ・ミュージックの分野で音楽活動を再開。そして、同年に7曲入りのミニ・アルバム『Fantastic Negrito EP‎』をリリースすると、2016年までに4枚のシングルやEPを発売、インディー・レーベルから発売されたルーツ・ミュージックの新人という、商業的には不利な条件が揃っている中で、一定の成果を残してきた。

このような長く、複雑な歴史を経てリリースされた本作は、ユニヴァーサルが配給(日本盤はP-Vine)、LP、CD、配信という複数のフォーマットで販売されるなど、新人同然のミュージシャンとは思えないスタッフの気合が目立つ。また、制作スタッフも、マイケル・ジャクソンやメアリー.J・ブライジなどの作品に参加しているベースのコーネリアス・ミムスや、ドウェイン・ウィギンズや50セントなどの楽曲に携わっているライオネル・ホロマン、イグザヴィア時代の作品にも関わっている日本人ギタリストのマサ小浜など、演奏技術に定評のある面々がを揃えており、イグザヴィア達がこのアルバムに賭ける思いが窺えるものになっている。

さて、肝心の内容だが、アルバムの実質的な1曲目となる”Working Poor”は、本作からのリード・シングル。地鳴りのようなビートと、ジャック・マクダフを思い出させる華やかなオルガンの演奏、しゃがれた声を絞り出すように歌うヴォーカルや、哀愁を帯びたギターの音色が格好良いミディアム・ナンバーだ。

これに対し、4曲目の”Scary Woman”は、シュープリームスの"You Can't Hurry Love"やメイヤー・ホーソンの"Your Easy Lovin' Ain't Pleasin' Nothin'"を連想させる、軽快でポップなリズム&ブルースと、初期のマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフなどの作品を思い起こさせる凄まじい音圧、指の運び方まで収録しような、レコーディング技術の3つが合わさったアップ・ナンバー。1960年代にタイム・スリップしたような感覚すら受ける、懐しさと新しさが入り混じった楽曲。

また、”The Nigga Song”と”In the Pines”の2曲は、重厚なビートやシンプルなフレーズから、多彩な表情を引き出す演奏者と、喜怒哀楽を全て曝け出したようなイグザヴィアの歌と演奏に威圧感さえ感じてしまう名曲。機材や演奏スタイルは少し違うが、マディ・ウォーターズの”Hoochie Coochie Man”を初めて聴いたときに感じた、スピーカー越しにも伝わる鬼気迫るものが、この曲からもひしひしと伝わってくる。

そして、本作のハイライトともいえるのがアルバムの最後を締める”Nothing Without You”。キーボードとオルガン中心になって生み出す温かい伴奏と、ステイプル・シンガーズなどを連想させる泥臭いコーラス。そして、彼のキャリアを総括するかのように、喜怒哀楽すべての感情を1曲に吹き込んでみせる。イグザヴィアの歌が一体化したバラード。オーティス・レディングが21世紀に転生したような、シンプルだが豊かな感情表現が光るスロー・ナンバーだ。

今回のアルバムは、演奏や作曲といった細かい要素単位で考えると、これ以上ないに保守的な作風だと思う。ただ、演奏技術、録音技術、歌唱力の一つ一つを突き詰め、楽曲ごとに色々な手法を取り入れることで、往年のブルースの持つ迫力と、現代のロックやソウルが持つ斬新さを両立していると思う。

昔からある手法を究めつつ、それを柔軟な発想で組み合わせたことで、新鮮さと懐かしさを両立した傑作。グラミー賞のベスト・コンテンポラリー・ブルース・アルバムを獲得したことも納得できる。21世紀のブルース・クラシックと呼ぶにふさわしい、現代の傑作だと思う。

Producer
Xavier Dphrepaulezz

Track List
1. Intro - The Last Da
2. Working Poor
3. About a Bird
4. Scary Woman
5. Interlude - What Would You Do?
6. The Nigga Song
7. In the Pines
8. Hump Through the Winter
9. Lost in a Crowd
10. Interlude 2 - El Chileno
11. The Worst
12. Rant Rushmore
13. Nothing Without You





The Last Days of Oakland
Fantastic Negrito
Blackball Universe
2016-06-03

 

Soul II Soul - Origins: The Roots of Soul II Soul [2016 Metropolis Recordings]

1987年に、ロンドン出身のDJ兼プロデューサーであるジャジーBが率いるサウンド・システムとして活動を開始。翌88年にはローズ・ウィンドロスをフィーチャーしたシングル『Fairplay』でデビューすると、97年までの約10年間に5枚のオリジナル・アルバムと”Keep On Moving”や”Back To Life”、”Get A Life”などのヒット曲を残してきた英国の音楽グループ、ソウルIIソウル。今世紀に入ってからは活動のペースが落ちているものの、2012年にはロンドン・オリンピックの開会式で”Back To Life”がプレイされるなど、英国を代表するソウル・グループとして現在も多くの人から愛されている。

本作は、90年に発表された『A New Decade: Live From Brixton Academy』以来、実に27年ぶりとなるライブ・アルバム。メイン・ヴォーカルは”Keep On Moving”などのヒット曲でヴォーカルを務めたキャロン・ウィーラーが担当する一方で、バック・トラックの大部分を生バンドに差し替えるなど、全盛期の雰囲気を意識しつつ、リズム・マシンやシンセサイザーが中心のオリジナル・ヴァージョンとは違うパフォーマンスを聴かせている。

イントロに続く実質的な1曲目は、彼らのデビュー曲である”Fariplay”。原曲ではパーカッションとキーボードで刻んでいたリズムが、本作ではエレキ・ギターとキーボードに入れ替わっているほか、ベースやドラムの演奏を強調するなど、重心の低い、落ち着いたアレンジになっている。ドラム、ベース、ギター、キーボードの演奏が強調されたサウンドは、心なしか同時期にイギリスからデビューしたブランニュー・ヘヴィーズっぽくも聴こえる。

これに続くのは、彼らの代表曲の一つ”Keep On Moving”。屋敷豪太がプログラミングで参加した原曲では、リズム・マシーンの個性的な音色が淡々とリズムを刻むビートが印象的だったが、この作品では生演奏による力強いドラムに変わるなど、人間の演奏を活かした温かい雰囲気に仕上がっている。オリジナル・ヴァージョンでもリード・ヴォーカルを担当したキャロン・ウィーラーのパフォーマンスは、当時よりも滑らかで感情表現も豊かになっている。

一方、90年にリリースされた2枚目のアルバム『Vol. II: 1990 - A New Decade』からのシングル曲である”Missing You”は、ギターやキーボード、パーカッションの華やかな演奏が格好良いジャズ風の演奏にアレンジし直されている。オリジナル・ヴァージョンでは透き通った歌声でクールな歌唱を聴かせてくれたキム・メイゼルに対し、今回のアルバムでは、キャロンがじっくりと粘り強いヴォーカルを聴かせている。

だが、本作のハイライトは、なんといっても終盤を盛り上げる”Get A Life”、”Back To Life”、”Jazzie’s Groove”の3曲だろう。

原曲を知る人にはお馴染みの、ストリングスを使ったイントロから始まる”Get A Life”では、ジャジーBの淡々としたラップや、小鳥のさえずりのようなコーラス、重厚なビートなどが、オリジナル・ヴァージョンそっくりに再現されている。リード・ヴォーカルも、マルシア・ルイスの妖艶な雰囲気を忠実に踏襲している。また、メアリーJ.ブライジがカヴァーしたことでも話題になった”Back To Life”では、同曲を有名にしたイントロ部分を原曲よりも長めにとって観客の歓心を惹きながら、トラックの大部分が生演奏になったことで、感情表現がより豊かになった本編へと繋いでいる。キャロン・ウィーラーのヴォーカルは原曲よりも貫禄が増し、バンドによる伴奏と合わさって、落ち着いた雰囲気を醸し出している。そして、ジャジーBがリード・ヴォーカルを担当する”Jazzie’s Groove”では、各楽器のソロ・パートを設けるなど、色々な意味で「ジャジー」な作品に仕上げている。

今回のライブ・アルバムは、これまでに発表したヒット曲が中心のセット・リストで、新曲を期待する人には物足りない内容かもしれない。だが、生演奏による起伏に富んだサウンドや、経験を積んで表現の幅を増したキャロン・ウィーラーのヴォーカルによって、リズム・マシンやシンセサイザーの使い方が斬新だったオリジナルとは違った意味で、新鮮な演奏が楽しめる。

90年代のイギリスを代表するバンドが、リスナーと一緒に成熟していった軌跡を堪能できる。魅力的なライブ録音。この勢いで新作も出してくれないかなあ。

Track List
1. Intro
2. Fairplay
3. Keep On Moving
4. I Care
5. Missing You
6. Universal Love
7. Love Enough
8. Get A Life
9. Back To Life
10. Jazzie’s Groove
11. Zion

注:以下の動画はオリジナル・ヴァージョンのもの






 

Mindless Behavior ‎– #officialMBmusic [2016 Conjunction Entertainment, EMPIRE]

2010年にシングル『My Girl』(テンプテーションズの同名曲とは別のオリジナル作)でデビュー。 その後は2011年に1枚目のアルバム『#1 Girl』を、2013年には2作目のフル・アルバムとなる『All Around the World』をインタースコープから発売。それぞれ全米アルバム・チャートの7位と6位に送り込んだロス・アンジェルス発のボーイズ・グループ、マインドレス・ビヘイビヴァ。その後は、メンバーの脱退など、苦労が続いたが、オリジナル・メンバーのプリンストンに、新メンバーのEJとマイク・リヴァーを加えた新体制で録音した3枚のアルバムが本作。

このアルバムがリリースされた2016年は、ヴォーカル・グループにとって厳しい時期だったと思う。個人でも高品質の録音機材を調達できるうえ、レーベルの垣根を越えたコラボレーションが当たり前になった時代に、同じメンバーでパフォーマンスを続けることによるマンネリ化や、人間関係のトラブルなどによる活動の停滞に気を配りながら活動を続けなければいけないヴォーカル・グループは、機動的に活動できるソロ・アーティストに比べて少数派になるのは仕方のないことだと思う。実際、彼らも本作の録音前にメイン・ヴォーカルを含む大部分のメンバーが入れ替わっている。だが、今回の作品では、グループ名義による録音という点を最大限に活用して、個性豊かなヴォーカルが複雑に絡み合う、ソロ・アーティストには作れない音楽を聴かせている。

アルバムのオープニングを飾るのは、本作に先駆けてシングルとして発売された”#iWantDat”。この曲は、ロス・アンジェルス出身のバッド・ラックとコンプトン出身のプロブレムをフィーチャーしたアップ・ナンバー。クリス・ブラウンやT.I.の楽曲を思い起こさせる、温かい音色のシンセサイザーとリズム・マシンを使ったトラックをバックに、新しいリード・ヴォーカルのEJがラップっぽい歌唱を披露している。オート・チューンを使ったバック・コーラスがシンセサイザーの音色と一体化して、一つの楽器のように機能している点も面白い。続く”FreaksOnly”もバッド・ラックがゲストで参加。こちらの曲も、温かい音色の電子楽器を活かしたトラックだが、音数を減らしてヴォーカルをじっくりと聴かせている点が大きな違いだ。

一方、”#Blur”はトラップ・ビートを取り入れたミディアム・ナンバー。スクラッチやサイレン、声ネタを挟みこんだトラックは、Tペインやリル・ウェインの楽曲を思い起こさせる。EJの気怠そうなヴォーカルもワイルドで格好良い。これに対し、”#DanceTherapy”は本作で唯一、四つ打ちのビートを取り入れたEDMっぽい華やかで高揚感のある楽曲。他の曲で使われている音色と、似ている音を出す機材を使うことで、アルバムにバラエティと統一感を与えている。色々なタイプのビートに対応する3人の適応力と、一つの音色を使って色々なスタイルのトラックを作り上げる制作陣の技術力に驚かされる。

そして、本作からシングル・カットされた、もう一つの楽曲”#OverNightBag”は、アッシャーやマーカス・ヒューストンのヒット曲を連想させる、ゆったりとしたテンポのビートとレイド・バックしたメロディが印象的なミディアム・バラード。ハンド・クラップなどを織り交ぜながらじっくりと歌を聴かせるロマンティックな楽曲だ。また、このタイプの曲が好きな人には”#ComeUp”もオススメ。こちらは、メロディはラップ寄りのラフなものだが、声の加工を抑え、EJのしっとりとした歌声と、感情を剝き出しにして歌う姿を強調したダイナミックなバラードだ。

あと、自分の中では見逃せないと思ったのは、本作では珍しいタイプのディスコ・ナンバー”#1UCall”だ。乾いた音色のギターと図太い音を響かせるシンセ・ベースを使ったトラックは、キャミオやギャップ・バンドのような80年代のファンク・バンドを彷彿させる。シンセサイザーなどを使ってディスコ・サウンドを再現するグループは珍しくないが、ディスコ・ブギーを一般向けの楽曲に落とし込む度胸と技術は凄いと思う。

今回のアルバムは、過去の2作品に比べると、魅力的な曲は多いが保守的な印象を受ける。トラップやディスコ・サウンドなど、ブラック・ミュージックのトレンドを的確に押さえてはいるものの、いずれも、他の人が成功した手法で、彼らが生み出した新しいスタイルというものは見られなかった。だが、それを差し引いても、個別の楽曲のクオリティ粒が立っていて完成度は高い。

B2Kやプリティー・リッキーのように、ポップスターとしてのわかりやすさと、R&Bのアーティストに求められる歌唱力や斬新さを絶妙なバランス感覚で両立した稀有なグループの一つ。一人では作れない、複雑なメロディや掛け合いの妙を楽しみたい人にはうってつけの佳作だ。

Producer Walter Millsap III, Walter Millsap IV, Alec Jace Millsap, Balewa Muhammad, Candice Nelson, Brian Peters, Teak Underdue etc

Track List
1. #iWantDat feat. Bad Lucc, Problem
2. #FreaksOnly feat. Bad Lucc
3. #Lamborghini
4. #Blur
5. #DanceTherapy
6. #Better feat. KR
7. #OverNightBag
8. #1UCall
9. #ComeUp
10. #SongCry
11. #Muzik





#Officialmbmusic (+ 2 Bonus Tracks)
Mindless Behavior
Conjunction
2016-08-12

 
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