melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017

Epik High - We've Done Something Wonderful [2017 YG Entertainment]

ビッグバンBTS、2Ne1など、ヒップホップやR&Bを取り入れたダンス・ヴォーカル・グループが、世界を舞台に活躍している韓国発のミュージシャン達。彼らのように、デビュー直後からテレビ番組や大きなステージでスポット・ライトを浴び続ける面々がいる一方で、クラブやライブ・ハウスで地道に結果を残し、トップまで上り詰めた人々もいる。その代表格が、タブロ、ミスラ・ジン、DJトゥーカッツからなる3人組のヒップホップ・グループ、エピック・ハイだ。

スタンフォードの大学院を修了し、韓国に戻ってきた韓国系カナダ人のタブロと、韓国出身のミスラ・ジン、DJトゥーカッツが2001年に結成したこのグループは、ソウル市のクラブなどでライブを重ねつつ、2004年に初のスタジオ・アルバム『Map of the Human Soul』をリリースした。

また、2005年の『Swan Songs』以降は、メイン・ストリームのポップスを取り入れた作風にシフトし、2007年の『Remapping the Human Soul』は、アンダー・グラウンド・シーン出身のミュージシャンとしては異例の、12万枚を売り上げるヒットを記録。以後、韓国を代表するヒップホップ・グループとして広く知られるようになった。

しかし、2009年にトゥーカッツが、2010年にミスラが兵役のため活動を休止すると、同じ時期にタブロ(彼はカナダの市民権があるため兵役には就いていない)の学歴を巡る誹謗中傷事件(この事件は大学がコメントを発表し、多くの逮捕者が出るなど、単なる誹謗中傷とは呼べない激しいものだった)が発生。一転して苦境に立たされる。しかし、この事件が解決したのとほぼ同じ時期に、タブロの奥さんが所属していた縁でYGエンターテイメントと契約。2014年には自分達を中傷した人々へのメッセージ・ソング”Born Hater”で華々しい復活を遂げた。

このアルバムは、2014年の『Shoebox』以来となる通算9枚目、YGエンターテイメント移籍後の作品としては2枚目となるスタジオ・アルバム。YGエンターテイメントの看板タレント、テディ・パクやビッグバンのSOLといったビック・ネームは不参加だが、プロデューサーにはクワイエットやドックスキンといったストリート発の人気ミュージシャンが参加。ゲストにはクワイエットやサイモン・ドミニクのようなヒップホップ界の大物から、ウィナーのミノやリー・ハイといったYGエンターテイメントの後輩、”Good Day や”You & I”などのヒット曲を持つ韓国を代表する女性シンガーIUや、韓国の人気ロック・バンド、ヒュゴのオ・ヒュクのような、ヒップホップ以外のジャンルのミュージシャンまで、バラエティ豊かな面々を揃えている。

本作からのリード・シングルは”Love Story”はIUをフィーチャーした作品。ヒップホップのビートとストリングスを組み合わせたロマンティックなトラックや、終わりを迎える恋人達の姿を、絶妙な言葉選びで克明に描いたラップが印象的な曲。『Shoebox』に収録されている、彼らの代表曲”Happy Ending”の流れを踏襲した作品だ。日本盤に収められている日本語バージョンでは楽童ミュージシャンのスヒュンがヴォーカルを担当しているので、両者を聴き比べてほしい。

これに続く”No Thanxxx”は、元2PMのジェイ・パクと一緒にAOMGを経営しているサイモン・ドミニクと、イリオネア・レコードを経営するクワイエットという、韓国のヒップホップ界を代表する大物二人に加え、人気オーディション番組「Show Me The Money」での活躍も話題になった、ウィナーのミノも参加しているハードなヒップホップ作品。ウッド・ベースの音をループさせた大人っぽい雰囲気のトラックで、良識派が聴いたら眉をひそめそうな過激な言葉を繰り出している。ミノとサイモン・ドミニクの歌詞の内容を巡って論争が巻き起こるなど、良くも悪くもアメリカのヒップホップのスタイルを踏襲した彼らしさが発揮されている。

また、ヒョゴのオ・ヒュクが参加した”Home Is Far Away ”はタブロがプロデュースした作品。切ない雰囲気のトラックと、哀愁を帯びたメロディを丁寧に歌うヴォーカルをフィーチャーした作風は”Love Story”の男性版といった趣。ドラマや映画を通して、多くの名バラードが生まれている韓国の音楽文化と、彼らが傾倒するヒップホップを上手く融合させた良曲だ。

これに対し、先日、日本デビューを果たしたリー・ハイをフィーチャーした”Here Come The Regrets”はDJトゥーカッツが制作を主導した変則ビートの楽曲。ラップ・パートではティンバランドやジャーメイン・デュプリを思い起こさせるチキチキ・ビートを取り入れつつ、リー・ハイが歌うサビではアデルの”Hello”を連想させるロック・バラードの要素を盛り込んでいる。ロックとヒップホップ、両方の美味しいところを融合させた佳曲だ。

彼らの魅力は、歌謡曲やR&Bが人気の韓国の音楽市場に適応しつつ、その中で独創的なヒップホップを作り上げたところだ。アイドル・グループやロック・バンド、歌謡曲の歌手がしのぎを削る韓国で、クラブで磨き上げた自分達のスタイルを貫きつつ、流行の音を取り込むことで、商業的な成功と個性的な作風を両立している。この、自分達の環境に適応しつつ、自国の音楽を本格的なヒップホップに組み込んだところが、彼らの面白いところだと思う。

世界各地に広まり、現地の文化と融合して個性的な進化を遂げたヒップホップの面白さを再確認できる良作。アメリカのヒップホップに傾倒しつつ、アメリカとは異なる文化を持つ国で、自分達の音楽を磨き上げた彼らの、逞しさとしたたかさが心に残る作品だ。

Producer
Tablo, DJ Tukutz, DOCSKIM, The Quiett, The Chancellor etc

Track List
1. People Scare Me
2. Love Story feat.IU
3. No Thanxxx feat.Mino, Simon Dominic & The Quiett
4. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk
5. Here Come The Regrets feat.Lee Hi
6. The Benefits Of Heartbreak feat.Lee Suhyun Of Akmu
7. Bleed
8. Tape 2002 7 28
9. Us Against The World
10. Lost One feat.Kim Jong Wan Of Nell
11. Munbae-Dong feat.Crush
12. Love Story feat.Lee Suhyun Of Akmu -Japanese Version- -Bonus Track- 13. Home Is Far Away feat.Oh Hyuk -Japanese Mix- -Bonus Track-






Higher Brothers - Black Cab [2017 88rising]

ファレル・ウィリアムスカニエ・ウエストをプロデューサーに起用した楽曲を録音し、映画「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の主題歌にも採用されたことがあるテリヤキ・ボーイズや、フランク・オーシャンの”Nikes”にフィーチャーされたことも話題になったKOHHなどの日本勢。アジア屈指のポップ・スターでありながら、複雑なビートを使った本格的なヒップホップを披露しているビッグバンG-ドラゴンや、アイドル・グループのメンバーとは思えない、ハードなラップを繰り出すBTSのRMといった韓国勢。若干18歳でありながら、アジア系ミュージシャンの配給に強みを持つ88risingと契約。アメリカのリル・ヨッティなどと並んで、将来を嘱望されているインドネシア出身のリッチ・ブライアンなど、豊かな個性と高いスキルで注目を集めているアジア出身のヒップホップ・ミュージシャン達。

その中でも、個性的な音楽で高い評価を受けているのが中国の四川省にある成都出身の4人組、ハイヤー・ブラザーズ(簡体字では「海尔兄弟」表記)だ。

四川省の各地で活動していたメンバーが集結して結成したこのグループは、良質なアジア人ミュージシャンを取り上げて、彼らの作品を配給してきたアメリカの企業、88risingに取り上げられたことで世界にその名が知られるようになる。

そんな彼らは、2016年に初のミックス・テープ『Higher Brothers Mixtape』をリリース。アメリカとは大きく異なる中国の地方の文化が反映された独特のリリックと、トラップを組み合わせた個性的な作風が話題となった。

本作は、『Higher Brothers Mixtape』から約1年の間隔を挟んで発表された、彼らにとって初のスタジオ・アルバム。ロジェットやフェイマス・デックスといったアメリカのミュージシャンや、キース・エイプや元2PMのジェイ・パクといった韓国系のアーティストなどが制作に参加。出身地も音楽性も異なる個性豊かな面々を迎え、 自分達のカラーを強く打ち出した音楽を披露している。

本作の1曲目は、アルバムの目玉といっても過言ではないシングル曲”WeChat”。トラック・メイクはロジェットが担当し、キース・エイプをフィーチャーしたこの曲は、フェイスブックやツイッター、ラインが使えない中国で多くの人が利用しているチャット・アプリ、WeChatを題材に「モーメンツ(LINEでいうタイムラインのようなもの)ではブランドものが売られている」(=友人相手に転売ビジネスをしてる奴がいる)「あいつは俺に紅包(=少額の送金のこと)を送れとせがんでくる」など、現代の中国の文化をウィットに富んだ表現で綴った歌詞が面白い作品。楽曲のテーマに合わせて、縦長の画面にWeChatのインターフェイスを盛り込んだミュージック・ビデオにも注目してほしい。

また、もう一つのシングル曲”Made In China”は、アトランタ出身のトラックメイカー、リッチー・ソーフがトラックを作り、ニューヨーク出身のラッパー、フェイマス・デックスが客演した作品。「俺の周りのすべてのものがメイドインチャイナ」というご当地自慢ソングだ。自身のラップ・スキルを中国の有名な詩人、李白に例えるなど、自分達の文化に根差した表現で自分達をアピールしたラップが聴きどころだ。

それに続く、2017年にジェイZ率いるロック・ネイションと契約した元2PMのジェイ・パクをフィーチャーした”Franklin”は、謎多きビート・メイカー、ジェディ-Pを制作者に招いた楽曲。人気アクション・ゲーム「グランド・セフト・オート5」の主人公、フランクリン・クリントンに自分を例えたリリックと、90年代後半のティンバランドを連想させるチキチキ・ビートの組み合わせが光る好曲だ。

そして、ミネアポリス出身のトラック・メイカー、OG.アビを招いた”Bitch Don't Kill My Dab”は、グッチ・メインミーゴスのアルバムに入っていそうなトラップのビートが格好良い作品。2016年にミックス・テープを発表して以降、多くの賞賛の声とともに批判を浴びてきた彼らが、自分達を批判する人々にウィットに富んだ反論を繰り広げる姿が印象的だ。

彼らの魅力は、自分達が生まれ育った土地の文化をベースにして、それを笑いに変えるユーモアのセンスと、アメリカのヒップホップの手法を自分達の音楽に取り込む器用さだろう。アメリカで流行しているトラップのビートを採用しつつ、声域が高く、声質が軽い自分達の特徴を活かすため、多くの言葉を矢継ぎ早に繰り出すラップの技術は圧巻としか言いようがない。

また、物凄いスピードで発展し、日常生活に新しいツールが入る一方、経済成長の恩恵からこぼれる人々が存在し、多くの規制がある現代の中国社会で、自分達の現状に絶望するわけでもなく、現状を全面的に肯定するわけでもなく、誰かに怒りを向けるわけでもなく、ユーモアに富んだ言葉で表現するリリックは、人種差別が激しかった時代に、苦しみをそのまま表現するのではなく、ウィットに富んだ表現でエンターテイメントに変えた60年代のブルース・シンガーにもよく似ている。この、自分達が住む世界をユーモラスに語る技術が、アジア系の彼らの音楽に黒人音楽のフィーリングをもたらしているのかもしれない。

金の盾の向こう側で、私達と同じように笑ったり泣いたり、悩んだり苦しんだりしながら生きる人々の姿を見事に描いた良質なヒップホップ。「アーティストが生きる世界を描く」ことがリアルなヒップホップの条件なら、本作以上にリアルなヒップホップは滅多にないだろう。


Producer
Roget, Richie Souf, Jedi-P, Sauce Boss, Og.abi etc

Track List
1. WeChat feat. Keith Ape
2. Isabellae
3. Made in China feat. Famous Dex
4. Franklin feat. Jay Park
5. Black Cab
6. Why Not
7. Mine
8. Wudidong
9. Bitch Don't Kill My Dab
10. Aston Martin feat. Kenny Rebelife
11. Ding Mogu
12. Yahh feat. J. Mag
13. Young Master
14. 7-11






Kintaro - Commando Existentral & Universal EP [2018 Alpha Pup Records, DIW]

サンダーキャットの名義で多くの傑作を残しているステファン・ブルーナーや、名うてのドラマーとして、カマシ・ワシントンケンドリック・ラマーまで、様々なアーティストと共演しているロナルド・ブルーナーを兄弟に持ち、自身もマット・マーシャンズ率いるR&Bバンド、インターネットの一員として活動してきた、シンガー・ソングライター兼キーボード奏者の、キンタローことジャミール・ブルーナ。

カリフォルニア州ロスアンジェルス出身のジャミールは、2013年から2016年までインターネットの一員として活動。その縁もあり、タイラー・ザ・クリエイターやエイサップ・ロッキー、ゴールドリンクといった、ヒップホップ・ミュージシャンの作品に数多く関わってきた。

また、その一方で、2017年には初のミックス・テープ『Commando Existentral』を発表。同年には初のEP『Universal EP』をリリースするなど、アーティストとしても頭角を現してきた。

本作は、2017年に公開した2枚の録音作品を1枚のCDに収めた企画盤。収録された全ての曲をプロデュースし、ソングライティングや演奏、ヴォーカルも担当するなど、彼自身が大部分の工程に携わった力作となっている。

本作の目玉は、何といってもアンダーソン・パークをフィーチャーした”MK”。グラマラスなベースの音色とロックのビートを組み合わせたバック・トラックはゴリラズの作風に近い印象。テナーのパーク、バリトンのジャミールという違いはあるものの、しゃがれた声を絞り出すスタイルで共通する両者による息の合ったデュエットが面白い。

同作の収録曲で、もう一つ記憶に残ったのは”Alien Trap”。タイトルに違わないトラップのビートに、宇宙人が出るSF映画を彷彿させるふわふわとした電子音や、エフェクトをかけた声のラップを組み合わせたヒップホップ作品。この曲のように奇抜な音色を組み合わせた作品には、斬新なサウンドを強調しすぎて、何度も聴くのは辛いものが少なくないが、この曲では聴き手に強い印象を与えるポイントに絞り込んで使うことで、楽曲としての完成度を高めている。余談だが、曲中に流れるチャイムの音色は、アメリカでも使われているのだろうか。

これに対し、『Commando Existentral』の収録曲では”Song For Us Bounce”が目を惹く。電子楽器を多用した刺々しい音色と、声域全体を使った歪なメロディを歌うヴォーカルの組み合わせは、パーラメントの『Mothership Connection』を思い起こさせる。時代が違うとはいえ、大人数のバンドで生み出されたP-ファンクのサウンドを、一人で鳴らす彼の技術には驚かされる。

そして、このスタイルをさらに深めたのが”Song Joint Flip Lit”。乾いた音を鳴らす電子楽器を使ったトラックは、ネプチューンズのサウンドによく似ている。しかし、その上に乗っかるのはファレルが歌うような軽妙なメロディとは対極の、不可思議なメロディ、個性的なサウンドで一世を風靡した、ネプチューンズとファンカデリックの音楽を一つの作品に同居させた、大胆な発想が光る楽曲だ。

彼の音楽の面白いところは、シンセサイザーを軸に据えつつ、多彩な表現を繰り出している点だろう。トラップに始まりロックやファンク、R&Bなど、色々なジャンルの音楽を取り入れ、自分の作品の糧にしている。この豊かな感性と高い構成力が彼の良さだと思う。

二人の兄に勝るとも劣らない、高い演奏技術と音楽センスが遺憾なく発揮された良作。サンダーキャットやフライング・ロータスの音楽が好きな人なら絶対に夢中になるだろう。音楽に対する深い造詣と鋭い視点、具体的な作品に落とし込む技術が心に残る作品だ。

Producer
Kintaro

Track List
1. Alt Pln
2. Mk feat.Anderson .Paak
3. West
4. Trap You
5. Alien Trap
6. Aussie feat.Tru Sound
7. Chillin
8. Next To You
9. Song For Us Bounce
10. Song Joint Flip Lit
11. Soul Boy
12. Untitled Bullshit
13. Once More With This “Put In Work Bullshit”
14. Beez In Duh Trap Final (BONUS TRACK)






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