melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017

Caleb Hawley - Love, Drugs, & Decisions [2017 storage unit]

ケイレブ・ホウレーは、プリンスやジャム&ルイスなどを輩出してきた、ミネソタ州ミネアポリス出身のシンガー・ソングライター。

子供のころから、プリンスなどの音楽に慣れ親しんできた彼は、次第に自分でも音楽を作るようになる。そして、2009年の『Steps』を皮切りに、2016年までに3枚のアルバムを発表。ロックやファンク、ディスコ音楽などを飲み込みながら発展してきた、ミネアポリスのサウンドを踏襲したスタイルで、多くの音楽ファンを楽しませてきた。

今回のアルバムは、彼にとって3年ぶり4枚目の録音作品。全ての曲でホウレー自身がペンを執る一方、フェイス・エヴァンスアンジー・ストーンの楽曲を手掛けている、プリンス・チャールズ・アレクサンダーなどがプロデュースで参加。プリンスやジャム&ルイスなどの手で世界に広まった、シンセサイザーを多用したファンキーなソウル・ミュージックを現代に蘇らせている。

アルバムの2曲目は、本作に先駆けて発表された”Addiction”。プリンス・チャールズ・アレクサンダーが共同プロデューサーとして名を連ねたこの曲は、ウェイン・マーシャルの”Check Yourself”などに使われたレゲエのリディム、”Masterpiece”によく似たビートを組み込んだアップ・ナンバー。口笛のように軽妙なヴォーカルと、変則的なビートのコンビネーションが新鮮だ。

続く”Pieces On The Inside”は、地鳴りのようなドラムと、色々な楽器を組み合わせた、色鮮やかな伴奏が心地よいミディアム。多くの楽器を使い分けるスタイルは、タジ・マハルの70年代の録音のような、ロックやアメリカのルーツ・ミュージックを積極的に取り込んだ音楽を彷彿させる。ブルースが盛んとは言いづらいミネアポリスの出身ながら、アメリカのルーツ音楽を貪欲に取り入れる姿勢には驚くばかりだ。

これに対し、ケレイブ自身がプロデュースしたバラード”Spinnin”は、シンセサイザーを駆使したモダンなアレンジと、絶頂期のプリンスが降臨したと錯覚しそうな、艶めかしいハイ・テナーが心を揺さぶる名演。しなやかで色っぽい歌声は、プリンスというよりロナルド・アイズレーに近い。

そして、本作の収録曲では一番最初に公開された”U & I”は、パンチの効いたドラムと、ギターの弾き語りを組み合わせた伴奏が気持ち良いミディアム・バラード。パワフルな演奏をバックに、切々と歌い上げる姿が印象的。アデルやエド・シーランなどのヒットで、ファンを広げているロック色の強いバラードを巧みに取り込んでいる。

このアルバムで彼が披露したのは、プリンスに代表されるミネアポリスのブラック・ミュージックをベースに、彼らが活躍した80年代のソウル・ミュージックや、それ以前の時代のブルース、、現代のR&Bやロックまで、様々な時代の音楽を研究し、融合したものだ。アナログ・シンセサイザーを使った幻想的な音色を、ダンス・ミュージックに組み込んだプリンスの手法から、泥臭い演奏で歌に重みを与えたブルース寄りのバラードまで、色々なスタイルの音楽に食指を伸ばしながら、きちんと自分の作品に落とし込んでいるのは、彼が音楽への深い造詣と高い技術を持ってるからだろう。

ソウル・ミュージックへの愛を隠すことなく楽曲に注ぎ込み、聴き手を楽しませる作品へと昇華させた貴重な作品。若い世代には往年のブラック・ミュージックが持つ魅力を、年季を積んだ人には、当時の音楽を新鮮な解釈で楽しませてくれる良質なアルバムだ。

Producer
Caleb Hawley, Doxa, Drew Ofthe Drew & Prince Charles Alexander

Track List
1. Carelessly
2. Addiction
3. Pieces On The Inside
4. We All Got Problem
5. I Choose
6. Spinnin
7. Dive Bar
8. Stalk Me
9. Goodbye
10. U & 1
11. Thank You
12. Thank You (Outro)
13. GIve It Away
14. I Just Want You
15. I Want Your Innocence
16. Little Bit of Bad






Vulfpeck - Mr. Finish Line [2017 Vulf Record]

ミシガン大学に併設されている音楽学校に通っていた学生達が結成、母校に併設されている音楽ホールでのパフォーマンスをきっかけに活動を開始した、アナーバー発の4人組ファンク・バンド、ヴァルフパーク。

ディープ・パープルやT.レックス、クウィーンなどを手掛けている名プロデューサー、レインホルド・マックの知己を得た彼らは、ドイツ向けの楽曲を制作。2011年に動画投稿サイトで公開した”Beastly”を皮切りに、ストリーミング・サイトや音楽配信サイト、フィジカル・リリースなど、様々な媒体を経由して作品を発表。ファンク・ブラザーズやレッキン・クルー、マッスル・ショールズ・サウンド・セクションのような、60年代から70年代にかけて、音楽シーンを彩ってきた名バンドを思い起こさせる、ダイナミックな演奏で多くのリスナーを沸かせてきた。

このアルバムは、2016年にリリースされた『The Beautiful Game』以来となる、通算3枚目のスタジオ・アルバム。制作と演奏は、これまでの作品同様ジャック・スタートンを中心としたメンバーの手によるもの。しかし、驚くべきは膨大な人数のゲスト達。デイビッドT.ウォーカーやブーツィー・コリンズのようなビッグ・ネームを中心に、チャールズ・ジョーンズやジェイムス・ギャドソンといった大ベテランや、ココOのような同世代のアーティストまで、幅広い世代の実力派ミュージシャン達が、この作品のために集結している。

アルバムの1曲目”Birds Of A Feather, We Rock Together”は、彼らの作品に何度も携わっているアントワン・スタンリー・スタントリーをフィーチャーした作品。70年代のアイズレー・ブラザーズを連想させる流麗な伴奏と、マックスウェルや初期のロビン・シックを思い起こさせる繊細なヴォーカルの組み合わせが心地よいスロー・ナンバー。音数を絞ることで、一つ一つの楽器を丁寧に聴かせるアレンジと、滑らかな演奏が気持ちよい曲だ。

続く”Baby I Don’t Know Oh Oh”は、60年代から70年代にかけて複数の録音を残し、近年はジョス・ストーンなどの作品にかかわっているシンガー・ソングライターのチャールズ・ジョーンズをヴォーカルに起用したスロー・ナンバー。各メンバーが楽器を叩くような演奏を聴かせるバック・トラックは、を他の曲とは一線を画している。泥臭いヴォーカルと、荒々しい伴奏の組み合わせはウィリアム・ベルの2016年作『This Is Where I Live』 にも似ているが、少しパワーが足りないのが気にかかる。

そして、本作の目玉といっても過言でないのが”Running Away”と”Grandma”の2曲だ。マーヴィン・ゲイの『I Want You』やビル・ウィザーズの『Still Bill』などで、気持ちいいグルーヴを聴かせてきたジェイムス・ギャドソンと、ビリー・プレストンやメリー・クレイトンの作品に携わりながら、自身の名義でも多くの作品を録音してきた、20世紀を代表するギタリスト、デイビッドT.ウォーカーを招いた楽曲。

”Running Away”は、静かにリズムを刻むジェイムスのドラムと、艶めかしい音色を響かせるデイビッドのギターが心に浸みるミディアム・バラード。マーヴィン・ゲイを連想させるジョーイ・ドシックの繊細なヴォーカルが心に残る。

また、”Birds Of A Feather, We Rock Together”でもマイクを握っている、アントワン・スタンリーをヴォーカルに招いた”Grandma”は、太い音色を使ったグラマラスな伴奏と、強靭なヴォーカルの組み合わせが心に浸みるバラード。豊かな声量を存分に聴かせながら、エロティックに聴かせるスタイルは、往年の名シンガー・ソングライター、リオン・ウェアの姿を彷彿させる。リオン・ウェアの『Musical Massage』やジョニー・ブリストルの『Bristol's Creme』などで、ロマンティックな演奏を披露してきた大先輩を招き、当時のサウンドを2017年に再現している。

彼らの音楽の面白いところは、ミシガン州の出身でありながら、所謂モータウン・サウンドに捉われず、色々なスタイルを取り込んでいるところだろう。本作でも、モータウンを支えた名シンガー、リオン・ウェアやジョニー・ブリストルの作品で演奏していた面々を起用しているもの、そのスタイルはモータウンが西海岸に移った70年代の作風を取り入れている。それ以外にも様々な地域で流行したジャズやファンクのエッセンスを曲の随所に取り込み。自分達の糧にしていることは、本作で披露された多彩な演奏スタイルからもよくわかる。そんな音楽性はもっと評価されるべきだろう。

過去の名作に慣れ親んだ若い世代が、現代人の感性でそれらの音楽を解釈した魅力的な作品。ジャズ、ソウル、ファンク、ヒップホップ、色々なジャンルの要素が詰まった本作からは、多くの人から受け入れられるポテンシャルを感じる。

Producer
Jack Startton

Track List
1. Birds Of A Feather, We Rock Together feat. Antwaun Stanley
2. Baby I Don’t Know Oh Oh feat. Charles Jones
3. Mr. Finish Line feat. Christine Hucal, Theo Katzman
4. Tee Time
5. Running Away feat. David T. Walker, James Gadson, Joey Dosik
6. Hero Town feat. Michael Bland
7. Business Casual feat. Coco O
. 8. Vulf Pack
9. Grandma feat. Antwaun Stanley, David T. Walker, James Gadson
10. Captain Hook feat. Baby Theo, Bootsy Collins, Mushy Kay







Mila J - 11.18 [2017 Silent Partner Entertainment, November Reign]

クリス・ストークスの下でキャリアを積み、若いころには妹のジェネイ・アイコらと組んだガールズ ・グループ、Gyrl(ギャル)としても活動してきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、ミラJことジャミーラ・アキコ・キロンボ。

妹達に先駆けてソロに転向した彼女は、オマリオンの作品に客演するなど、着実に実績を積み上げて、モータウンとの契約を獲得。2006年には自身名義のアルバム『Split Personality』を録音する。しかし、諸事情により同作はお蔵入りとなってしまう。

だが、制作体制を仕切りなおした2014年に初のEP『M.I.L.A.』を発表すると、配信限定の作品ながら、R&Bチャートの12位に食い込む健闘を見せる。その後も、2016年に2枚目のEP『213』を発表するなど、精力的に活動していたが、セールス面では苦戦。2017年に発表された『Dopamine』はインディー・レーベルのサイレント・パートナーからのリリースになっている。

このアルバムは、同作から僅か7月という短い間隔で発表された通算4枚目のEP。彼女の誕生日をタイトルに冠し、35歳の誕生日の2日前に発売された本作は、これまでの作品以上に彼女の内面に触れた楽曲を揃えている。プロデューサーには、これまでにも多くの作品を一緒に制作していたアイ・リッチに加え、シェイ・オン・ザ・ビートが参加。全ての楽曲で彼女がソングライティングに携わった、意欲作になっている。

本作の1曲目は、アイ・リッチがプロデュースを担当した”Dirt”。オルゴールを思い起こさせる繊細な音色のトラックをバックに、切々と歌う姿が心に残るミディアム・ナンバー。ドラムの音圧を抑えて、彼女の歌声を強調したアレンジが心憎い。誰かに語り掛けるように歌うミラJの姿が、どこか物悲しく見える曲だ。

これに続く”Drifting”も、ミラJとアイ・リッチのコンビで作られた作品。レゲトンなどで使われるような、鮮やかな音色のシンセサイザーを使いながら、シックに纏め上げた伴奏が不思議な雰囲気を醸し出している。このトラックの上で、朗々と歌う姿が印象的。”Dirt”より少し速いテンポの楽曲だが、より陰鬱な空気の楽曲だ。

また、本作で唯一シェイ・オン・ザ・ビートがプロデュースを担当した”Obsessive”は重いビートとハンドクラップなどの上物を巧みに組み合わせたビートが、クリス・ストークスの手掛けたイマチュアの作風に少し似ているミディアム・ナンバー。しかし、このようなビートの上で、気だるく歌うミラJのパフォーマンスは、90年代のR&Bではあまり見ないものだ。彼女の原点に回帰しつつ、現代の音楽シーンで戦う彼女の姿勢が反映された佳曲だ。

それ以外に目を向けると、4曲目の”Low Down Dirty Shame ”は、モニカを彷彿させる、キュートだけど力強いヴォーカルを際立たせたアレンジが光るミディアム・ナンバー。ギターなどの音色を使った繊細なサウンドが光るビートを使うことで、彼女の強くしなやかな歌声の魅力を引き出している。

そして、このアルバムを締めるのは”Switching Sides Lyric”。シンセサイザーの音を重ねたトラックと、強力なエフェクトをかけたヴォーカルが幻想的な雰囲気を演出している。電子楽器を多用したビートと、メリハリをつけたメロディの組み合わせは、90年代のR&Bにも少し似ているが、彼女の妖艶な歌声と過激なエフェクトが、斬新なイメージをもたらしている。

このアルバムは、クリス・ストークスの下でキャリアを開始し、ガールズ・グループやメジャー・レーベルからのリリースなどを経験してきた彼女のキャリアを統括しつつ、現代の彼女の生き方を見据えたものになっている。トラックやメロディには、イマチュアなどが大衆を魅了していた、90年代のR&Bのスタイルが反映されているが、その一方で、当時のR&Bではあまり使われていなかった、強烈なエフェクトを使った声の加工や、気だるいヴォーカルといった演出も加わっている。このように、新旧のR&Bの手法を組み合わせ、90年代から地道に活動してきた彼女らしさが反映された音楽に落とし込んだところが、この作品の面白いところだ。

妹、ジェネイ・アイコが活躍の場を広げる中で、伸び悩んでいる印象があった彼女の底力を感じさせる良作。90年代から現代に至るまで、継続的に活動してきた彼女の持ち味が発揮された、懐かしさと新鮮さを感じる音楽だと思う。

Producer
I Rich, Shay On The Beat

Track List
1. Dirt
2. Drifting
3. Obsessive
4. Low Down Dirty Shame
5. Switching Sides Lyric




11.18 [Explicit]
SILENT PARTNER ENTERTAINMENT/NOVEMBER REIGN
2017-11-16

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