melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

88rising

Joji - Ballads 1 [2018 88rising, 12Tone, Warner]

2018年11月、アジア出身のソロ・アーティストとしては最高記録となる、ビルボードの総合アルバム・チャートの3位を記録したことで、一躍時の人となったジョージことジョージ・ミラー。

オーストラリア人と日本人の両親の間に生まれた彼は、大阪生まれの大阪育ち、神戸のインターナショナル・スクールで学んできたという日本人。そんな彼は、同世代の人々と同じように、早くからインターネットに馴れ親しみ、音楽活動の前には面白動画やコメディ・ラップなどを投稿していた。しかし、健康問題を理由に動画投稿からは引退。アメリカに移住し、大学生活の傍ら、音楽活動に打ち込むようになる。

音楽活動に力を入れるようになった彼は、中国のハイヤー・ブラザーズや、インドネシアのリッチ・ブライアンなど、アジア出身のミュージシャンをアメリカでブレイクさせている西海岸のレーベル88ライジングと契約。電子音楽やロックなど、様々なジャンルの音楽を消化したサウンドと、作詞、作曲、アレンジの全てをこなせる高い技術で頭角を現した。

本作は、ジョージ名義では2017年の『In Tongues』以来、約1年ぶりの新作となる、初のフル・アルバム。彼自身が全ての曲の制作に関わる一方、サンダーキャットやRLグライムといった、名うてのクリエイターがプロデューサーとして名を連ねた、新人らしからぬ豪華な作品になっている。

セルフ・プロデュースによる”Attention”から続く先行シングル”Slow Dancing in the Dark”は、パトリック・ウィンブリーがプロデュースを担当したスロー・ナンバー。ソランジュの”Don't Touch My Hair”などのヒット曲に携わっていることでも知られるパトリックのアレンジは、シンセサイザーの響きを効果的に聴かせたもの。ヴォーカルを引き立てる音数を絞った伴奏でありながら、前衛音楽のような抽象的な作品にはせず、ポップで聴きやすいR&Bに纏め上げた手腕が光っている。

これに続く”Test Drive”は、トラップやEDMの分野で知られるRLグライムが制作に参加したバラード。ハットを細かく刻んだリズムと、哀愁を帯びたピアノの伴奏を組み合わせたトラックが心に残る。変則ビートを取り入れたスタイルは、ティンバランドがプロデュースしたアリーヤの『One in a Million』にも通じるものがあるが、こちらは歌や伴奏をじっくりと聴かせる作品。現代の尖ったヒップホップをソウル・ミュージックに昇華している。

また、電子音楽畑のクラムス・カジノとジャズ出身のサンダーキャットを起用した”Can't Get Over You”は、80年代のテクノ・ポップを思い起こさせる粒の粗い音を使ったビートと、少しだけエフェクターをかけたヴォーカルが醸し出すレトロな音と、ニーヨやにも通じるらしい爽やかで洗練されたメロディの組み合わせが新鮮な作品。昔の音色を現代の音楽に昇華するスタイルは、サンダーキャットの『Drunk』にも少し似ている。

そして、本作の収録曲では一番最初に公開された”Yeah Right”は彼のセルフ・プロデュース作品。オルゴールのような可愛らしい音色を効果的に使ったロマンティックなトラックと、甘いメロディ、機械で加工した武骨な歌声を組み合わせた異色のバラード。ゴツゴツとしたヴォーカルを、柔らかいメロディのソウル・ミュージックのアクセントに使った演出が新鮮。彼の独創的な発想と確かな技術を端的に示している。

このアルバムの魅力は、アメリカのR&Bの潮流を押さえつつ、その枠を軽々と超える大胆な切り口の楽曲を並べているところだ。トラップやネオ・ソウル、エレクトロ・ミュージックといった、アメリカのR&Bミュージシャンが多用する手法を用いながら、甘いメロディや、加工されたゴツゴツとした歌声といった、他のアーティストの作品では見られない演出が随所にみられるのは面白い。

また、ヒップホップのビートの要素を取り入れながら、90年代のR&Bのような、メロディをじっくりと聴かせる曲が揃っている点も珍しい。おそらく、アメリカ国外で生まれ育ち、コメディなどの動画も作ってきた経歴が、アメリカのR&Bとは一線を画した個性的な音楽を生み出しているのだろう。

ヴォーカル・グループはともかく、本格的なR&Bやヒップホップを歌えるシンガー・ソングライターとなると、まだまだ存在感が弱い東アジア。同地域から、母国でのプロ経験を積まず、直接アメリカでデビュー、成功した彼は、「アジア人に厳しい」と言われていたアメリカのR&B市場に、偉大な記録を残した。ユニークな切り口と確かな実力に裏打ちされた独創的な音楽は「アジア人にしか作れないR&B」の可能性を感じさせる。個性的なキャリアに裏打ちされた、唯一無二の新鮮なR&Bが楽しめる傑作だ。

Producer
Joji, Patrick Wimberly, RL Grime, Clams Casino, Thundercat, Rogét etc

Track List
1.Attention
2.Slow Dancing In The Dark
3.Test Drive
4.Wanted U
5.Can’t Get Over You Feat. Clams Casino
6.Yeah Right
7.Why Am I Still In La Feat. Shlohmo & D33J
8.No Fun
9.Come Thru
10.R.I.P. Feat. Trippie Redd
11.Xnxx
12.I’ll See You In 40






BALLADS 1
JOJI
Warner Music
2018-11-09

88rising - Head in the Clouds [2018 88rising]

多くの日本人ダンサーが目標に掲げるブライアン・パスポスのような、アメリカの実力派アーティストを扱いつつも、ユーモアに富んだ独特のリリックで、中国国内のラップ禁止令のきっかけを作ったハイヤー・ブラザーズ、10代の若さでアジアを代表するラッパーの一人に上り詰めたインドネシアのリッチ・ブライアン、韓国のキース・エイプのような、アジア各国のヒップホップ・アーティストを世界に紹介してきたアメリカの音楽レーベル、88ライジング

音楽メディアとレコード・レーベルの機能を持ち、母国でも音楽好きの間でしか知られていなかった、隠れた名アーティストを紹介してきた同レーベルの、初のコンピレーション・アルバムが本作。リッチ・ブライアンやハイヤー・ブラザーズといった、同社と契約しているアーティストの新曲と既発曲のリミックスを収録。ゲストとしてゴールドリンクやプレイボーイ・カルディといったアメリカの人気ラッパーに加え、日本からもm-floのバーバルが参加するなど、国際色豊かな同レーベルらしい豪華なアルバムになっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、大阪出身のジョージと、インドネシアのニキという、二人のシンガー・ソングライターが組んだ”La Cienega”。電子楽器を使った、もっさりとしたビートの上で気だるく歌うニキと、時に彼女に寄り添うように優しく、時にマックスウェルのように鋭いファルセットを聴かせるジョージの歌唱力が光るスロー・ナンバーだ。二人の繊細な歌声は、アメール・ラリューやレミー・シャンドのような、ネオ・クラシック・ソウルのシンガーに通じるものがあるが、この曲では、電子楽器を駆使した現代的なビートと組み合わせることで、彼らと差別化している。

これに対し、ハイヤー・ブラザーズと、ロス・アンジェルス近郊のワッツ出身の03グリードががコラボレーションした”Swimming Pool ”は、タイ・ダラ・サインなどの作品に関わっているフランス出身のキャッシュマネーAPと、ロイ・ウッズdvsnなどを手掛けているカナダ出身のアキール・ヘンリーがプロデュースを担当した国際色豊かな曲。ドレイクグッチ・メインのアルバムに収録されていそうな、電子楽器中心のシンプルなトラップ・ビートの上で、英語と中国語を使い分けながらラップする姿が印象的な曲。アメリカで流行しているサウンドを自分の音楽に染め上げるハイヤー・ブラザーズの強烈な個性が心に残る。

だが、本作の隠れた目玉はシカゴ出身の24歳のラッパー、フェイマス・デックスが2018年に発表して、アメリカの総合シングル・チャートの28位に入った”JAPAN ”のリミックス・ヴァージョンだろう。「日本でドラックを5万回もやったぜ」と歌った原曲を、韓国出身のキース・エイプと日本出身のバーバルが改変。バーバルは英語で「女の子からLINEが来たら楽しい時間の始まり」「朝までカラオケで歌うぜ」とラップし、キースは「みんなは俺を日本人か?と聞くけど、俺は韓国人だ」「腕にも拳にもNIGOのグッズがあるぜ」と、英語と韓国語を織り交ぜたパフォーマンスを繰り出している。余談だが、バーバルのパートには「P.K.C. on his boys」(EXILEの元メンバー、ヒロやマキダイ達と組んだラップ・グループPKCZのこと)というフレーズをさり気なく盛り込んでいるのが心憎い。

そして、本作の最後を締めるのが、ロス・アンジェルス出身のプロデューサー、バーニー・ボーンズとジョージが共作したタイトル曲”Head In The Clouds”。レゲエの緩いビートと、EDMのような高揚感があるシンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックの上で、甘い歌声を響かせるスロー・ナンバーだ。曲の後半ではストリングスのような音色を加え、最後までゆったりとしたバラードとして聴かせる演出が印象的。

今回のアルバムを通して感じるのは、アメリカのミュージシャンにも見劣りしないアジア勢の高いスキルと豊かな個性だ。各国の言語に慣れ親しんだ人でもなければ、誰がどの国のアーティストか判別するのは難しい。むしろ、同じ言語を使うアーティストでも、声質やキャラクターによって表現の方法が全然違う。この各人の際立った個性と、それを活かすレーベルの編集能力が本企画の面白さを生んでいると思う。

世界各地で腕を磨いてきた名手たちの素晴らしいパフォーマンスを、存分に楽しめる良作、アメリカで生まれ、世界に散らばったヒップホップが、各国の文化を飲み込んでで進化していることを僕らに教えてくれる貴重なアルバムだ。

Producer
NIKI, CashMoneyAP, Akeel Henry, J Gramm, Barney Bones, joji etc

Track List
1. La Cienega feat. ​joji & NIKI
2. Red Rubies feat. Don Krez, Higher Brothers, Rich Brian, Yung Bans & Yung Pinch
3. Swimming Pool feat. 03 Greedo & Higher Brothers
4. Peach Jam feat. BlocBoy JB & ​joji
5. Midsummer Madness feat. AUGUST 08, Higher Brothers, ​joji & Rich Brian
6. Plans feat. NIKI & Vory
7. History feat. Rich Brian
8. Lover Boy (88 Remix) by Phum Viphurit feat. Higher Brothers
9. Poolside Manor feat. AUGUST 08 & NIKI
10. Beam by Rich Brian feat. Playboi Carti
11. Let It Go feat. BlocBoy JB & Higher Brothers
12. Disrespectin feat. AUGUST 08, Higher Brothers & Rich Brian
13. Warpaint feat. NIKI
14. I Want In (feat. AUGUST 08 & NIKI
15. JAPAN (88 Remix) by Famous Dex feat. Keith Ape & Verbal
16. Nothing Wrong (Remix) by Higher Brothers & Harikiri feat. GoldLink
17. Head In The Clouds feat. ​joji





Head In The Clouds [Explicit]
88rising Music/12Tone Music, LLC
2018-07-20

Higher Brothers - Black Cab [2017 88rising]

ファレル・ウィリアムスカニエ・ウエストをプロデューサーに起用した楽曲を録音し、映画「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の主題歌にも採用されたことがあるテリヤキ・ボーイズや、フランク・オーシャンの”Nikes”にフィーチャーされたことも話題になったKOHHなどの日本勢。アジア屈指のポップ・スターでありながら、複雑なビートを使った本格的なヒップホップを披露しているビッグバンG-ドラゴンや、アイドル・グループのメンバーとは思えない、ハードなラップを繰り出すBTSのRMといった韓国勢。若干18歳でありながら、アジア系ミュージシャンの配給に強みを持つ88risingと契約。アメリカのリル・ヨッティなどと並んで、将来を嘱望されているインドネシア出身のリッチ・ブライアンなど、豊かな個性と高いスキルで注目を集めているアジア出身のヒップホップ・ミュージシャン達。

その中でも、個性的な音楽で高い評価を受けているのが中国の四川省にある成都出身の4人組、ハイヤー・ブラザーズ(簡体字では「海尔兄弟」表記)だ。

四川省の各地で活動していたメンバーが集結して結成したこのグループは、良質なアジア人ミュージシャンを取り上げて、彼らの作品を配給してきたアメリカの企業、88risingに取り上げられたことで世界にその名が知られるようになる。

そんな彼らは、2016年に初のミックス・テープ『Higher Brothers Mixtape』をリリース。アメリカとは大きく異なる中国の地方の文化が反映された独特のリリックと、トラップを組み合わせた個性的な作風が話題となった。

本作は、『Higher Brothers Mixtape』から約1年の間隔を挟んで発表された、彼らにとって初のスタジオ・アルバム。ロジェットやフェイマス・デックスといったアメリカのミュージシャンや、キース・エイプや元2PMのジェイ・パクといった韓国系のアーティストなどが制作に参加。出身地も音楽性も異なる個性豊かな面々を迎え、 自分達のカラーを強く打ち出した音楽を披露している。

本作の1曲目は、アルバムの目玉といっても過言ではないシングル曲”WeChat”。トラック・メイクはロジェットが担当し、キース・エイプをフィーチャーしたこの曲は、フェイスブックやツイッター、ラインが使えない中国で多くの人が利用しているチャット・アプリ、WeChatを題材に「モーメンツ(LINEでいうタイムラインのようなもの)ではブランドものが売られている」(=友人相手に転売ビジネスをしてる奴がいる)「あいつは俺に紅包(=少額の送金のこと)を送れとせがんでくる」など、現代の中国の文化をウィットに富んだ表現で綴った歌詞が面白い作品。楽曲のテーマに合わせて、縦長の画面にWeChatのインターフェイスを盛り込んだミュージック・ビデオにも注目してほしい。

また、もう一つのシングル曲”Made In China”は、アトランタ出身のトラックメイカー、リッチー・ソーフがトラックを作り、ニューヨーク出身のラッパー、フェイマス・デックスが客演した作品。「俺の周りのすべてのものがメイドインチャイナ」というご当地自慢ソングだ。自身のラップ・スキルを中国の有名な詩人、李白に例えるなど、自分達の文化に根差した表現で自分達をアピールしたラップが聴きどころだ。

それに続く、2017年にジェイZ率いるロック・ネイションと契約した元2PMのジェイ・パクをフィーチャーした”Franklin”は、謎多きビート・メイカー、ジェディ-Pを制作者に招いた楽曲。人気アクション・ゲーム「グランド・セフト・オート5」の主人公、フランクリン・クリントンに自分を例えたリリックと、90年代後半のティンバランドを連想させるチキチキ・ビートの組み合わせが光る好曲だ。

そして、ミネアポリス出身のトラック・メイカー、OG.アビを招いた”Bitch Don't Kill My Dab”は、グッチ・メインミーゴスのアルバムに入っていそうなトラップのビートが格好良い作品。2016年にミックス・テープを発表して以降、多くの賞賛の声とともに批判を浴びてきた彼らが、自分達を批判する人々にウィットに富んだ反論を繰り広げる姿が印象的だ。

彼らの魅力は、自分達が生まれ育った土地の文化をベースにして、それを笑いに変えるユーモアのセンスと、アメリカのヒップホップの手法を自分達の音楽に取り込む器用さだろう。アメリカで流行しているトラップのビートを採用しつつ、声域が高く、声質が軽い自分達の特徴を活かすため、多くの言葉を矢継ぎ早に繰り出すラップの技術は圧巻としか言いようがない。

また、物凄いスピードで発展し、日常生活に新しいツールが入る一方、経済成長の恩恵からこぼれる人々が存在し、多くの規制がある現代の中国社会で、自分達の現状に絶望するわけでもなく、現状を全面的に肯定するわけでもなく、誰かに怒りを向けるわけでもなく、ユーモアに富んだ言葉で表現するリリックは、人種差別が激しかった時代に、苦しみをそのまま表現するのではなく、ウィットに富んだ表現でエンターテイメントに変えた60年代のブルース・シンガーにもよく似ている。この、自分達が住む世界をユーモラスに語る技術が、アジア系の彼らの音楽に黒人音楽のフィーリングをもたらしているのかもしれない。

金の盾の向こう側で、私達と同じように笑ったり泣いたり、悩んだり苦しんだりしながら生きる人々の姿を見事に描いた良質なヒップホップ。「アーティストが生きる世界を描く」ことがリアルなヒップホップの条件なら、本作以上にリアルなヒップホップは滅多にないだろう。


Producer
Roget, Richie Souf, Jedi-P, Sauce Boss, Og.abi etc

Track List
1. WeChat feat. Keith Ape
2. Isabellae
3. Made in China feat. Famous Dex
4. Franklin feat. Jay Park
5. Black Cab
6. Why Not
7. Mine
8. Wudidong
9. Bitch Don't Kill My Dab
10. Aston Martin feat. Kenny Rebelife
11. Ding Mogu
12. Yahh feat. J. Mag
13. Young Master
14. 7-11






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