”Gangnam Style”が、非英語曲の最多ダウンロード販売を記録したPSYや、アジア人では初めてアメリカとイギリスのアルバム・チャートを制覇したBTSなど、海外での成功が目立つ韓国発のアーティスト達。欧米の流行を取り入れ、自国の文化と融合した独自の音楽が発展する過程では、ビッグバンや2Ne1の作品を手掛けてきたテディ・パクや、エピック・ハイのタブロのような、欧米出身の韓国人や韓国系ミュージシャンが貢献してきた。

ジェイ・パクことパク・ジェボムは、そんな韓国系アメリカ人のアーティストの一人。ワシントン州のエドモンズ生まれ、シアトル育ちの彼は、ハイスクール時代からブレイク・ダンスに夢中だったという。そんな彼は、母親が好きな歌手が在籍していたことがきっかけで、JYPエンターテイメントのオーディションに応募し合格。韓国に移り、大学に通いながらデビューを目指していた。

そんな彼は、2008年にボーイズ・グループ2PMのリーダーとしてデビューするものの、アメリカとは異なる文化を持つ韓国での活動に苦しみ直ぐに脱退。アメリカに帰国する。

その後は、ハイスクール時代からの仲間と組んだクルー、AOMGで活動しながらシンガー・ソングライターやプロデューサーとして活動。高いスター性と本格的なヒップホップを同居させたスタイルで、テレビからクラブ・イベントまで、幅広い舞台で活躍。2017年には、アジア系のミュージシャンとしては初めて、ジェイZが率いるロック・ネイションと契約した。

本作は、彼が率いるAOMGとロック・ネイションの共同配給による初のEP。プロデュースはチャ・チャ・マローンやグルーヴィー・ルームといったAOMGの面々が担当する一方、ゲスト・ミュージシャンにはレーベル・メイトのヴィック・メンサを中心に、2チェインズやリッチ・ザ・キッドといった、アメリカ各地の実力派ラッパーが集結した豪華なものになっている。

アルバムの1曲目”FSU”は、元2Ne1のミンジーの”Flashlight”を手掛け、2017年にはジェイ・パクのレーベル、ハイヤー・ミュージックからアルバム『Everywhere』を発表している韓国のプロダクション・チーム、グルーヴィールームが制作を担当。リビア出身のラッパー、ガシと、アトランタ出身のリッチ・ザ・キッドをフィーチャーしている作品。トラップのビートに乗って、歌ともラップとも言い難い独特の抑揚のメロディを繰り出している。ヴォーカル・グループ出身らしいパクの甘い歌声と、ゲストの太い声のラップの組み合わせが面白い。

これに対し、AOMGの一員であるチャ・チャ・マローンが制作に加わった”Sexy 4 Eva”は、トラップの要素を盛り込んだトラックに、ロマンティックなメロディを組み合わせたスロー・バラード。シンセサイザーを使ったヒップホップのトラックと甘酸っぱい歌声の組み合わせは、アッシャークリス・ブラウンに似ている。だが、彼らの曲に比べると、よりしなやかなメロディが印象的。ヒップホップの要素と、じっくりと歌を聴かせる韓国のポップスの手法が上手く混ざった佳曲だ。

また、チャ・チャ・マローンがプロデュースを担当し、韓国の人気ラッパー、シックKがラップを吹き込んだ、2017年のシングル”Yacht”のリメイクでは、ロック・ネイション所属のヴィック・メンサがゲストで参加。甘い音色のシンセサイザーと、パクの色っぽい歌声の組み合わせが心地よい、ロマンティックな雰囲気のミディアム・ナンバーだ。絶妙なタイミングで入り込み、曲を引き締めるヴィック・メンサのラップをがいい味を出している。

そして、本作の最後を締めるのが2チェインズを起用した”Soju”(韓国語で「焼酎」の意味)。チャ・チャ・マローンとウージーが作るチキチキ・ビートの上で、セクシーな歌声を響かせるスタイルは、ジニュワインやジョデシーが一時代を築いた90年代のR&Bを思い起こさせる。全体的にどこか懐かしい雰囲気の曲だ。所々で使われるオートチューンが、トークボックスっぽく聴こえるのも面白い。ジェイZにそっくりなフロウを聴かせる、2チェインズのラップも思わずニヤリとしてしまう演出。余談だが、こちらの曲にはサイモン・ドミニクやチャンモといった、韓国ヒップホップ界の新旧の実力者が参加したリミックスが存在する。両者のラップを聴き比べてほしい。

本格的なアメリカ・デビュー作となる今回のアルバムは、ゲストをアメリカのラッパーで固めて、自身のパートも英語で歌う一方、AOMGの面々を中心に韓国のプロデューサーを起用するなど、アメリカと韓国、両方の国の音楽を取り入れた少々意外なものだ。ロック・ネイションという名門レーベルと契約しながら、昔からの付き合いのあるクリエイターを多数起用する。ヒップホップの世界ではしばし見られる手法を、アジア系の彼が行う姿からは、自分達のキャリアと音楽に対する絶対的な自信を感じさせる。

インターネットの普及によって、各国の音楽を気軽に楽しめる時代を経て、「どこの国の音楽か」より「誰の音楽か」「どんな音楽か」が重要になったことを再認識させられる良作。アッシャーやクリス・ブラウン、トレイ・ソングスなど、多くの名シンガーが鎬を削るR&Bの世界に、彼のようなアジア系シンガーがどんな影響を与えるか、今後の展開が楽しみだ。

Producer
Cha Cha Malone, GroovyRoom, Slom & Woogie

Track List
1. FSU feat. GASHI & Rich The Kid
2. Chosen1
3. Sexy 4 Eva
4. Million
5. Yacht feat. Vic Mensa
6. Ask Bout Me
7. Soju feat. 2 Chainz