melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

ARTium

Jhené Aiko - Chilombo [2020 ARTium, Def Jam, Universal]

短時間に多くの曲を制作できるヒップホップに押され、苦しい立場に置かれているアメリカのR&B。そんな状況でも、積極的に新しい音を取り入れて、新曲を発表し続けているのがミラJとジェネイ・アイコの姉妹だ。

昨年、姉のミラJは12カ月間連続のアルバムリリースという離れ業を行って話題になったが、その一方で、妹のジェネイ・アイコも着実に新曲をリリースしてきた。

このアルバムは、彼女にとって2017年の『Trip』以来となる、約3年ぶりのスタジオ・アルバム。これまでの作品同様、カニエ・ウエストやコモンなどを手掛けてきたシカゴ出身の名プロデューサー、ノーI.D.が経営するデフ・ジャム傘下のアーティアムからリリースされた本作。しかし、彼やベニー・ブランコ、カシミア・キャットやフランク・デュークスのような有名プロデューサーが多数参加した前作から一転、本作はフィッシカッツやミカ・パウエルといった、彼女に近しいクリエイターが楽曲を手がけた、彼女の個性にフォーカスを当てた作品になっている。

アルバムの実質的な1曲目は、本作に先駆けてリリースされた“Triggered(Freestyle)”。音数を極限まで絞ったビートに、しっとりとした上物を被せたロマンティックなトラックが印象的な曲。「フリースタイル」と銘打たれている通り、メロディは荒削りだが、優れた嗅覚とセンス、豊富な語彙から生まれた歌はよく練り込まれた作品にも見劣りしないものだ。

続く"None of Your Concern"は、2007年にカニエ・ウエストのレーベルからデビューした、彼女と同じ西海岸のカリフォルニア州出身のラッパー、ビッグ・ショーンが客演したスロー・ナンバー。今にも泣き崩れそうな勢いで物悲しいメロディを歌いこむアイコと、淡々と言葉を紡ぐラップで彼女を支えるショーンのコンビネーションが光る良曲だ。

また、"P*$$Y Fairy (OTW)"は、重厚な低音を強調したビートと、アルトに近い音域をじっくりと歌う彼女の姿が魅力のスロー・ナンバー。SWV“Used Your Heart”のような、落ち着いた雰囲気のメロディとアレンジが心を揺さぶる。シンプルな構成のメロディとトラックは、ディアンジェロの“Untitled”にも似ている。彼女のキャリアを代表する名バラードだと思う。

そして、アトランタ出身の人気ラッパー、フューチャーと、ロスアンジェルス出身のR&Bシンガー、ミゲルを招いた“Happiness Over Everything (H.O.E.)”は、様々な音色を使って3人の個性を引き立てたトラックが心地よいミディアム・ナンバー。もっさりとした声で軽妙なフロウを聞かせるフューチャー、アッシャーのように爽やかな声でメロディを歌うミゲル、アリーヤを彷彿させる透き通った声と、繊細だけど芯の強い歌唱が印象的なアイコの個性が上手く混ざり合った魅力的な曲だ。

今回のアルバムは、彼女の個性にスポットを当て、それを最大限に引き出すことに注力したものだ。過去の2作品で見せた繊細だけどしなやかなヴォーカルを活かすため、トラックメイカーを絞り、彼女の個性を引き出すことに重きを置いたシンプルなトラックと、繊細な歌声を活かすメロディ。彼女の良さを引き出すために作られた楽曲の存在が、本作の良さに繋がっていると思う。

アーティストの良さを巧みに引き出すプロデューサーと、楽曲の魅力を最大限に引き出すシンガーのコラボレーションが生み出した、稀有な作品。R&Bにとって冬の時代と言われることもあるが、そんな苦境を感じさせない力作だ。

Producer
Jhené Aiko,Fisticuffs, Lejkeys, Micah Powell

Track List
1 .Lotus
2. Triggered (Freestyle)
3. None Of Your Concern feat.Big Sean
4. Speak
5. B.S. feat. H.E.R.
6. P*$$Y Fairy (OTW)
7. Happiness Over Everything (H.O.E) feat.Future, Miguel
8. One Way St. feat. Ab-Soul
9. Define Me (Interlude)
10. Surrender feat.Dr. Chill
11. Tryna Smoke
12. Born Tired
13. LOVE
14. 10k hours feat. Nas
15. Summer 2020 (Interlude)
16. Mourning Doves
17. Pray For You
18. Lightning & Thunder feat.John Legend
19. Magic Hour
20. Party For me (Outro)





Chilombo
Jhené Aiko
Def Jam
2020-03-13

Jhené Aiko - Trip [2017 ARTium, Def Jam]

2000年代初頭から、姉であるミラJ達と一緒に音楽活動を開始。姉妹で結成したガールズ・グループのほか、裏方やゲスト・ミュージシャンとしてB2Kなどの作品に携わってきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、ジェネイ・アイコことジェネイ・アイコ・エフル・キロンボ(余談だが、母方の祖先が日本人のため”アイコ”というミドルネームを使っている。また、姉のミラJにも”アキコ”というミドルネームがある)。

2011年には自主制作のアルバムながら、ドレイクやカニエ・ウエスト、ケンドリック・ラマーといった豪華なゲストが参加したミックス・テープ『Sailing Soul(s)』を発表。同作が高い評価を受け、2014年にはヒップホップの名門デフ・ジャムと契約する。また、同年にリリースした初のフル・アルバム『Souled Out』はアメリカ国内だけで15万枚を売り上げるヒットとなり、グラミー賞の3部門にノミネート。それ以外にも多くの音楽賞にノミネート、もしくは受賞するなど、一気にスターダムを駆け上がった。

その後も、2016年にはラッパーのビッグ・ショーンとコラボレーションしたアルバム『TWENTY88』を発売。その一方で、 スラックと共作した”First Fuck”や、クリス・ブラウンと共演した”Hello Ego”など、新曲を次々と発表。それ以外にも、チェインスモーカーズやガラント、カシミア・キャットやマリ・ミュージックなど、様々なスタイルのミュージシャンの録音に参加し、あらゆるジャンルに適応する引き出しの多さと高いスキルを見せつけてきた。

本作は、そんな彼女にとって自身名義では3年ぶり2枚目となるフル・アルバム。既発曲の大半は収録せず、3曲目の”While We're Young”以外は全て新曲という予想外の構成だが、その新曲も含め、多くの曲で彼女の持ち味が存分に発揮された、ハイ・レベルな作品に仕上がっている。

その、本作からの先行シングル”While We're Young”は、これまでにも彼女の曲を数多く手掛けているフィスティカフスのプロデュース作品。シンセサイザーを駆使したみずみずしい音色のトラックに乗って、ゆったりと歌う姿が印象的なミディアム・ナンバー。彼女の透き通った歌声が、シンセサイザーのひんやりとした音色と相性のよい佳曲だ。

これに対し、ビッグ・ショーンが客演した”OLLA (Only Lovers Left Alive)”は、ドナ・サマーなどの70年代終盤のディスコ音楽やニュー・オーダーのような黎明期のエレクトロ・ミュージックを思い起こさせる、リズム・マシーンやアナログ・シンセサイザーの音色が新鮮なアップ・ナンバー。ビッグ・ショーンの作品に数多く携わってきたアメイア・ジョンソンが制作に参加したこの曲は、ダフト・パンクの”Get Lucky”やマーク・ロンソンの”Uptown Funk”などで注目を集め、最近では、ブルーノ・マーズの”24K Magic”やウィークエンド”Starboy”などのヒット曲にも取り入れられている、ディスコ・ミュージックを取り入れた、モダンなトラックといなたいメロディが光っている。

一方、カシミア・キャットとフランク・デュークスが制作を担当し、ロス・アンジェルス出身のベテラン・ラッパー、クラプトを招いた”Never Call Me”は、電子音を多用しつつも従来の作風を踏襲したミディアム・テンポの作品。声質もスタイルも異なる、二人の歌唱をスムーズにつなげるアレンジが面白い。

そして、本作の最後を締めるのが、マリ・ミュージックと共作した”Trip”だ。マリ・ミュージックが用意したトラックは、彼の作品を彷彿させるゴム毬のように跳ねる音色が気持ち良いもの。その上で、アフリカの民族音楽を連想させる軽妙なメロディを歌うジェネイの存在が光っている。メロディを大きく崩して歌うマリが、楽曲をポップな雰囲気に仕上げている。

今回のアルバムでは、前作までのクールなイメージを残しつつ、それを発展、応用した楽曲が目立っている。その最たる例が”OLLA (Only Lovers Left Alive)”や”Trip”のような曲で、これまでの作品では見られなかった、ディスコ音楽やアフリカの音楽の要素をメロディやトラックにふんだんに取り入れている。これだけ色々なスタイルを取り上げながら、自分の音楽に違和感なく混ぜ込めるのは、若いころから音楽業界の一線で活躍していた、彼女の豊富な経験と鋭いセンスによるところが大きいと思う。

アリーヤを彷彿させる冷たく透き通った歌声を持ちながら、彼女やそのフォロワーとは一線を画した独特の音楽を聴かせている。現代的な音楽を作りながら、90年代からR&Bに慣れ親しんできた人には懐かしい、そうでない人には新鮮に聴こえる魅力的なアーティストだ。

Producer
Jhené Aiko, Ketrina "Taz" Askew, Fisticuffs, Amaire Johnson, Frank Dukes, Dot da Genius etc

Track List
1. LSD
2. Jukai
3. While We're Young
4. Moments feat. Big Sean
5. OLLA (Only Lovers Left Alive) feat. TWENTY88
6. When We Love
7. Sativa feat. Swae Lee
8. New Balance
9. Newer Balance (Freestyle)
10. You Are Here
11. Never Call Me feat. Kurupt
12. Nobody
13. Overstimulated
14. Bad Trip (Interlude)
15. Oblivion (Creation) feat. Dr. Chill
16. Psilocybin (Love In Full Effect) feat. Dr. Chill
17. Mystic Journey (Freestyle)
18. Picture Perfect (Freestyle)
19. Sing To Me feat. Namiko Love
20. Frequency
21. Ascension feat. Brandy
22. Trip feat. Mali Music

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