melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

BlueNote

Trombone Shorty - Parking Lot Symphony [2017 Blue Note]

4歳のときに楽器を始め、十代の頃からスタジオ・ミュージシャンとして活動している、音楽の都、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のトロンボーン奏者、トロンボーン・ショーティことトロイ・アンドリューズ。自身の名義では11枚目、ブルー・ノートに移籍してからは初となるフル・アルバム。

スタジオ・ミュージシャンとしては、ドクター・ジョンやギャラクティックのようなニューオーリンズ出身の人気アーティストだけでなく、エリック・クラプトンやマーク・ロンソンのような他地域出身の大物ミュージシャンまで(余談だが、メイヴィス・ステイプルズの2016年作『 Livin' On A High Note』でも演奏している)、色々な人の作品に携わる一方、自身の名義でも2002年に初のリーダー作となる『Trombone Shorty's Swingin' Gate,』を発表。その後も、複数の名義で多くのアルバム(ライブ録音を含む)を残してきた。

彼が生まれ育ったニューオーリンズは、ジャズやスワンプ・ポップ、ニューオーリンズ・ファンクなど、色々な音楽を育んだ都市として知られている。そんな土地で育った彼の音楽も、同地の豊かな音楽シーンを反映したものだ。今回のアルバムでは、自作の曲に加えて、ミーターズやアーニーK.ドゥーといった地元出身のファンク・バンドやソウル・シンガーの曲もカヴァー。トロンボーンの他に、歌やピアノも披露した意欲作になっている。

肝心の内容だが、なにはともあれ、R&Bやソウル・ミュージックが好きな人にとって見逃せないのは、2つのカヴァー曲だろう。

ミーターズの74年作『Rejuvenation』に収められている”It Ain't No Use”のカヴァーは、11分に及ぶ大作だった原曲の魅力を、4分間に凝縮したミディアム・テンポのファンク・ナンバー。トロイのヴォーカルはオリジナル・ヴァージョンで歌っていたレオ・ネセントリのものと比べると、線が細く、退廃的な雰囲気すら感じさせる。だが、ニューオーリンズのファンク・ミュージックが持つ、一人一人の演奏者の音色を活かした奔放なサウンドと、のんびりとしているようで緻密で躍動感に溢れたグルーヴは、原曲を忠実に再現している。演奏者のキャラクターによって、同じ曲でも全く違う演奏に仕上がる、ニューオーリンズ音楽の特徴が反映された楽曲だ。

一方、アーニーK.ドゥーが70年に発表したヒット曲”Here Come The Girls”のカヴァーは、マーチング・バンドのエッセンスを取り込んだビートの上で、洗練された歌声を響かせるミディアム・ナンバー。セカンド・ライン(ニューオーリンズで死者を埋葬したあと演奏される陽気なダンス音楽)の要素を取り込んでおり、落ち着いた雰囲気の中にも、どこか陽気な部分が感じられる。

それ以外のオリジナル曲に目を向けると、彼自身がヴォーカルを担当した”Dirty Water”が特に魅力的な作品だ。トロンボーンをピアノとマイクに持ち替え、弾き語りスタイルで切々と言葉を紡ぎ出す姿がいとおしいミディアム・ナンバーだ。甘いヴォーカルはベイビーフェイスに、流麗なメロディはサム・スミスの作風を思い起こさせる。

また、本作では希少なスロー・ナンバー”No Good Time”は、彼自身がキーボードも担当。カシーフやフレディ・ジャクソンといった、80年代に活躍した著名なソウル・シンガーの作品を思い出す洗練されたメロディや伴奏に乗せて、甘い歌声を聴かせてくれる、ブラック・コンテンポラリーっぽい曲だ。曲の中盤でホーン・セクションによるロマンティック演奏が、ムーディーな雰囲気を掻き立てている。このアルバムの収録曲の中では、最もニューオーリンズっぽくない録音だが、確かな演奏技術で、あらゆる手法を自分達の音楽に取り込む作風は、間違いなくニューオーリンズの演奏家のスタイルだと思う。

近年のブルー・ノートは、ハンク・モブレイやアート・ブレイキーの録音を送り出してきた、ハード・バップやモダン・ジャズを探求するレーベルから、ノラ・ジョーンズやロバート・グラスパーに代表されるような、ジャズを軸に、色々な音楽を幅広く取り込もうとするミュージシャンを輩出する、総合音楽レーベルへと姿を変えようとしている。本作は、その方針をストレートに体現したもので、ニューオーリンズという、色々な音楽が生まれ、共存している街のミュージシャンらしい、ソウルやファンク、ポップスやロックの要素を取り込んだ、ごった煮のようなジャズ作品に仕上がっている。

「ジャズ」や「ソウル」という一つの枠にとらわれない、色々なジャンルの音楽のエッセンスを取り込んだ、雑駁なようで一本筋の通った良作。普段ジャズを聴かないorジャズしか聴かない人に手に取ってほしい。

Producer
Chris Seefried
Track List
1. Laveau Dirge No. 1
2. It Ain't No Use
3. Parking Lot Symphony
4. Dirty Water
5. Here Come The Girls
6. Tripped Out Slim
7. Familiar
8. No Good Time
9. Where It At?
10. Fanfare
11. Like A Dog
12. Laveau Dirge Finale





パーキング・ロット・シンフォニー
トロンボーン・ショーティ
ユニバーサル ミュージック
2017-05-03

Jose James – Love In A Time of Madness [2017 Blue Note]

2007年にジャイルズ・ピーターソン率いるブランズウッドからアルバム『The Dreamer』でデビュー。その後は、フィンランドのリッキー・トリックやアメリカのインパルス!など、複数の名門レーベルに録音を残したあと、2012年にブルー・ノートと契約した、ミネソタ州ミネアポリス出身のヴォーカリスト、ホゼ・ジェイムズ。同レーベルに加入した後は、ノラ・ジョーンズやロバート・グラスパーとともに、ジャズとポピュラー・ミュージック、ソウル・ミュージックやR&Bを融合した音楽で、ジャズの新しい形を作り上げるとともに、ジャズ・リスナーの裾野を広げることに大きく貢献してきた。

この作品は、2014年に発表された2枚の新録『While You Were Sleeping』『Yesterday I Had the Blues』以来、3年ぶりとなるオリジナル・アルバム。『While You Were Sleeping』ではブルー・ノートでの初作『No Beginning No End』以降の作品で見せている、ネオ・ソウルやオルタナティブR&Bのエッセンスを取り入れた、前衛的なパフォーマンスを聴かせてくれた一方で、『Yesterday I Had the Blues』では、ビリー・ホリデイに関する楽曲をピアノ・トリオ+ヴォーカル(一部の曲ではキーボードも担当)という編成で演奏して、歌手や演奏者としての実力の高さもしっかりとアピールしていた。

このような、対照的な個性を持つ2作品を経てリリースされた今回のアルバムは、デビュー以来、彼に付きまとう「ジャズ」や「ネオ・ソウル」というイメージからの脱却を狙った意欲作。

アルバムのオープニングを飾る”Always There”は、ゴムボールのように跳ねるバス・ドラムと、ストリングスやコーラスのような荘厳でクールなシンセサイザーの伴奏が、神秘的な雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。カニエ・ウエストの『The Life Of Pablo』や、ザ・ウィークエンドの『Starboy』を彷彿させる、デジタル音源を効果的に使ったポップで前衛的なビートが印象的だ。

しかし、クリスチャンR&Bシンガーのマリ・ミュージックをフィーチャーした”Let It Fall”では一転、ギターやパーカッションの武骨だけど柔らかい音色を演奏の中軸に据えた、心地よいバラードを聴かせてくれる。スタイリッシュな歌唱のホゼと、荒削りなヴォーカルのマリという、声質も歌唱スタイルの異なる二人が。互いに相手の持ち味を引き出し、楽曲に起伏をつけているのが面白い。

そして、本作からのリード・トラック”Live Your Fantasy”はマーク・ロンソンのブレイク以降、ブラック・ミュージック業界の鉄板ネタになりつつある、ディスコ音楽とファンク・ミュージックが融合した”Uptown Funk”スタイルの楽曲。もっとも、カニエ・ウエストやジェイミーxxも愛聴する彼の音楽は、電子楽器の冷たい音色を効果的に使った、SF映画の世界のような、近未来的な雰囲気すらも感じさせる佳曲。電子音を強調した楽曲ということで、ホゼと同郷の大物、プリンスやザ・タイムの音楽にもちょっと似ている。

また、ディスコ音楽とファンク・ミュージックの融合という視点に立てば”Ladies Man”も捨てがたい。ギターのカッティングやホーンセクションの活用という意味では、最も“Uptown Funk”に近いスタイルかもしれない。

それ以外にも”You Know I Know”や”Closer”、”I'm Yours”なども見逃せない佳曲が並んでいる。90年代にR&Bで多用されたチキチキというビートや、ささやきかけるようなヴォーカルがなんとも言えない雰囲気を醸し出しているミディアム”You Know I Know”や、フライング・ロータスやサンダーキャットが作りそうな、歪んだ低音が鳴り響くビートの上で、しっとりとした歌声を響かせる”Closer”のように前衛的なトラックをウリにする曲が存在感を示している一方で、ピアノをバックにホゼとオレータがじっくりと歌を聴かせる”I'm Yours”で締めるなど。アナログとデジタル、最先端とクラシックの両方に目を配り、配置に拘った構成が魅力的だ。

彼のインタビューを読む限り、ディアンジェロなどのネオ・ソウルを扱うミュージシャンと比較されることや、デビューまでの経緯や現在の所属レーベルを根拠に、新しいジャズを切り開く開拓者というイメージを持たれることをかなり気にしていたようだ。だが、実際の彼は、好きな音楽がヒップホップジャズ、トラップ、エレクトロと、年相応の幅広い趣味で、それらの要素を融合した音楽を志向している彼からすれば、ネオ・ソウルもジャズも好きな音楽の一つに過ぎないのだろう。

そして、本作を聴く限り、そんな彼の趣向はきちんと作品に結びついていると思う。電子楽器の使い方は、カニエやウィークエンド、ザ・インターネットのような、R&B,ヒップホップのトレンドを牽引するミュージシャンの影響が反映されている一方で、メロディはディアンジェロやエリカ・バドゥのような、ちょっと癖のあるネオ・ソウル・シンガーの作風とジャズ・ヴォーカル作品のスタイルが融合したものだ。そして、ホゼのヴォーカルは、都会育ちの洗練された歌唱をベースに、自分の声を楽器のように大胆に使って、色々な曲調にも柔軟に対応している。このような、アーティストとしての自己主張の強さと、シンガーとしての適応能力の高さが、彼の最大の強みだと思う。

ジャズ・シンガーがジャズ以外の音楽も取り込み、一人のアーティストとして脱皮した結果、歌と演奏が一体となって斬新な音楽へと結びついた名作が生まれた。ジャズの世界で培われた高い演奏技術と、新しい音楽に敏感な感性が生み出したブラック・ミュージック傑作だと思う。

Producer
Antario Holmes, Like Minds

Track List
1. Always There
2. What Good Is Love
3. Let It Fall feat. Mali
4. Last Night
5. Remember Our Love
6. Live Your Fantasy
7. Ladies Man
8. To Be With You
9. You Know I Know
10. Breakthrough
11. Closer
12. I'm Yours feat. Oleta Adams





ラヴ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス
ホセ・ジェイムズ
ユニバーサル ミュージック
2017-02-15

Miles Davis & Robert Glasper ‎– Everything's Beautiful [2016_Columbia,Blue Note]

ジャズの世界に、ヒップホップやR&Bの要素を取り込んだ、『Black Radio』シリーズが大成功。一躍21世紀を代表するミュージシャンに上り詰めた、ヒューストン出身のピアニスト、ロバート・グラスパーによる通算5枚目となるオリジナル・アルバム。

今回の作品はアーティスト名が示す通り、所属レーベルの大先輩であり、ジャズ界を代表する巨人、マイルス・デイヴィスとのコラボレーション・アルバム。といっても、マイルスは既に故人なので、本作では彼が残した膨大な録音を再構成し、現代のミュージシャンの演奏と組み合わせた、仮想セッションの形を取っている。

本作を聴いて最初に驚くのは、空気を切り裂くようなマイルスの鋭い演奏が、大胆に解体されていることだろう。もっとも、70年代以降のマイルスは膨大な演奏を録音し、それをプロデューサーのテオ・マセロが編集することで一つの作品に仕上げていたので、彼が21世紀まで生きていたら、このようなスタイルを積極的に受け入れていたかもしれない。

74年の『Get Up With It』に収められている”Maiysha”に、エリカ・バドゥが歌詞をつけた”Maiysha (So Long)”では、ダブを連想させる幻想的な響きを醸し出した原曲に対し、音と音の隙間を意識した立体的なアレンジと、彼女の気怠い雰囲気のヴォーカルで、『Kind Of Blue』に収録されマイルスの代表曲”So What”を彷彿させるモーダルな演奏にリメイク。1958年にリリースされた『Milestones』のタイトル曲をジョージ・アン・マルドロウと再構築した”Milestones”では、原曲の有名なフレーズを、SF映画の効果音のようなシンセサイザー音で演奏しつつ、強く歪ませたギターや、エフェクターで響きを増した声を加えて、フライング・ロータスやマッドリブにも通じる、抽象性の高いインストルメンタル・ヒップホップに生まれ変わらせている。

このように、本作では原曲の音色やメロディを取り込みつつ、それを分解、再構成して、新しい解釈を加えた曲が目立つ。

その一方で、”Right On Brotha”のように、マイルスの演奏をそのままの形で残しつつ、DJスピナによるハウスのビートや、スティービー・ワンダーのブルース・ハープを絡ませることで、マイルスが現代のミュージシャンとセッションをしているように思わせる曲もあるなど、色々なスタイルを使い分けた、彼らしい作品に仕上がっている。

メロディやアレンジを大胆に改編しながら、マイルスの音の出し方や間の取り方、新しい音へ挑戦し続ける姿勢を忠実に踏襲した点は、コラボレーションと呼ぶにふさわしい。彼が現代に蘇って、現代のヒップホップやR&Bと出会ったら、こんな曲を作るだろうな思わせる内容だ。

Producer
Robert Glasper

Track List
1. Talking Shit
2. Ghetto Walkin” featuring Bilal
3. They Can’t Hold Me Down” featuring Illa J
4. Maiysha (So Long)” featuring Erykah Badu
5. Violets” featuring Phonte
6. Little Church” featuring Hiatus Kaiyote
7. Silence Is The Way” featuring Laura Mvula
8. Song For Selim” featuring KING
9. Milestones” featuring Georgia Ann Muldrow
10. I’m Leaving You” featuring John Scofield and Ledisi
11. Right On Brotha” featuring Stevie Wonder




Everything's Beautiful
Miles Davis
Sony Legacy
2016-05-27


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