エリカ・バドゥやディアンジェロとともに、アコースティック楽器の音色とヒップホップのトラックを融合させたスタイルで一時代を築いてきたメイシー・グレイ。彼女にとって8枚目となるスタジオ・アルバムにして、初のジャズ作品。

ニューヨークのジャズ・レーベル、チェスキーに移籍して初のアルバムとなる本作は、トランペットのウォレス・ルーニーやドラムのアリ・ホーニグといった、サイド・ミュージシャンとしての実績が豊富な面々に加え、ローリング・ストーンズのサポートとして有名なベーシストのダリル・ジョーンズが参加した本格的なジャズ・アルバム。この面々とともに、彼女のヒット曲や、他のミュージシャンの有名曲などを新しい切り口で演奏し直している。

彼女の4枚目のアルバムが初出のミディアム・バラード“Slowly”では、オリジナルのしっとりとしたメロディを、ラッセル・マローンの一音一音丁寧につま弾くギターの音色が引き立てる繊細なアレンジで再録。間奏で流れるウォレスのトランペットが、ロマンティックな雰囲気をことさら強調している。また、サード・アルバムに収録されているスロー・ナンバー"She Ain't Right for You"は、原曲のレゲエっぽいゆったりとしたメロディを発展させた、レゲエのアレンジによるミディアム・バラードへと生まれ変わらせている。この他にもメタリカ(!?)のバラードをカヴァーした”Nothing Else Matters”では、”My Favorite Thing”を彷彿させる三連符を駆使したグルーヴで、原曲の切ないメロディを残しつつ、ミディアム・テンポのジャズ・ナンバーに生まれ変わらせている。

これまでの作品では、鼻声のような独特の声質が楽曲にインパクトを与えると同時に、ヒップホップの流れを汲む大味なアレンジで、彼女のイメージを一つに固定してきた。だが、このアルバムでは、微妙な音色の変化で演奏に起伏をつけるジャズ・ミュージシャンと組むことで、個性的な彼女の声質を活かしつつ、繊細な表現にも対応できるところを見せてくれる。また、ダリル・ジョーンズのような、色々なジャンルを経験したミュージシャンの存在は、様々なスタイルを取り込んで一つの音楽に落とし込む彼女の持ち味をうまく引き出しているように見える。

従来の彼女の音楽性を残しつつ、スタイルの幅を広げた、彼女のキャリアのターニング・ポイントになる作品だろう。

Track List
1. Annabelle
2. Sweet Baby
3. I Try
4. Slowly
5. She Ain't Right For You
6. First Time
7. Nothing Else Matters
8. Redemption Song
9. The Heart
10. Lucy

Producer
Dave Chesky, Norman Chesky




STRIPPED
MACY GRAY
CHESK
2016-09-23