melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Columbia

The Internet - Hive Mind [2018 Columbia]

フランク・オーシャンタイラー・ザ・クリエイターといった、鋭いセンスと強烈な個性が魅力のアーティストを多数輩出し、アメリカのヒップホップ界に新しい風を吹き込んだ、カリフォルニア州のロス・アンジェエルス発のヒップホップ集団、オッド・フューチャー。

同クルーのサウンドを支えるプロデューサー、マット・マーシャンと、飛びぬけた個性が武器の女性シンガー、シド(2016年にクルーを脱退)、が中心になって2011年に結成した、ソウル・バンドが、ジ・インターネットだ。

シドとマットの音楽ユニットとして始まったこのグループは、後に彼らのツアーに帯同していたパトリック・ペイジなどのメンバーを加え、正式なバンドとして活動を開始。2011年にはフランク・オーシャンも制作に参加した『Purple Naked Ladies』を発表すると、スライ&ザ・ファミリー・ストーンを彷彿させる前衛的な音楽性と、ロータリー・コネクションのミニー・リパートンを彷彿させるシドの透き通った歌声が注目を集める。その後も、精力的にライブを行いながら2013年に『Feel Good』を、2015年には『Ego Death』を録音。後者はグラミー賞にノミネートするなど、高い評価を受けた。

本作は、彼らにとって3年ぶり4枚目となるスタジオ・アルバム。サンダーキャットの弟としても知られるジャミール・ブルーナがグループを離脱し、シドがクルーを離れる一方、シド、マット、スティーヴがソロ作品を発表するなど、前作よりもパワー・アップしたバンドの能力が遺憾なく発揮された作品になっている。

本作に先駆けて発表されたシングル曲”Roll (Burbank Funk)”は、リック・ジェイムスやスレイヴの作品を思い起こさせる、太いベースの音色とスタイリッシュなビートが心地よいアップ・ナンバー。洗練されたダンス・ナンバーと思いきや、随所でエフェクターを使用した幻想的なサウンドに意表を突かれる曲。朴訥としたスティーヴ・レイシーのヴォーカルが、スライ・ストーンっぽく聴こえるのも面白い。

続く”Come Over”はシドがリード・ヴォーカルを担当したミディアム・ナンバー。重いベースや乾いたギターの音色をバックに、透き通った歌声を響かせるシドの姿が光る良曲。繊細なメロディの楽曲だが、あえて荒っぽく演奏することで、ファンクやヒップホップにも通じるラフな雰囲気を醸し出している。

また、ブラジル音楽の要素を盛り込んだアップ・ナンバー”La Di Da”は、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムがプロデュースしたセルジオ・メンデスの2006年作『Timeless』を彷彿させる軽妙なメロディとパンチの効いたビートが格好良い作品。エフェクトを効かせたギターや、荒っぽい演奏のホーンが、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの作品を思い起こさせる。

そして、彼らの個性が最も発揮された曲が、マット・マーシャンとスティーヴ・レイシーが制作を主導した”Beat Goes On”だ。60年代後半のサイケデリック・ロックを彷彿させる、エフェクターを駆使した幻想的な演奏とヴォーカルに70年代初頭のジェイムス・ブラウンを思い起こさせる躍動感のあるビートが格好良いアップ・ナンバー。2分半で曲が終わったと思いきや、ドラムン・ベースの上でゆったりと歌うR&B作品に切り替わる奇抜な演出と高い演奏技術に驚かされる。

今回のアルバムは、前作の路線を踏襲しつつ、表現の幅を広げたものだ。R&Bやヒップホップを軸に、ファンクやサイケデリック・ロック、ブラジル音楽やエレクトロ・ミュージックなど、様々な音楽を取り込み、一つの作品に融合するスタイルは前作と変わらないものの、引用の斬新さと楽曲の完成度はこれまでの作品を大きく上回っている。この変化は、各人がソロ活動を通して自身の持ち味を磨き上げ、音楽の幅を広げたことによるものが大きいと思う。

様々なジャンルのミュージシャンが刺激し合い、新しい音楽を生み出していた70年代のソウル・ミュージックが持つ、刺激的な雰囲気を現代に蘇らせた稀有な存在である彼ら。、音楽はジャンルで括るようなものではなく、自由で楽しいものであることを教えてくれる良作だ。

Producer
The Internet

Track List
1. Come Together
2. Roll (Burbank Funk)
3. Come Over
4. La Di Da
5. Stay the Night
6. Bravo
7. Mood
8. Next Time / Humble Pie
9. It Gets Better (With Time)
10. Look What U Started
11. Wanna Be
12. Beat Goes On
13. Hold On





ハイヴ・マインド
ジ・インターネット
SMJ
2018-07-25


Leon Bridges - Good Thing [2018 Columbia]

2014年のアルバム『Coming Home』が注目を集め、グラミー賞にもノミネートしたテキサス州フォートワース出身のシンガー・ソングライター、リオン・ブリッジスこと、トッド・ミッチェル・ブリッジス。

サム・クックやオーティス・レディングを彷彿させる、適度な泥臭さと大衆性を兼ね備えたヴォーカルに、60年代のモータウンスタックスのレコードを思い起こさせる、生演奏を使ったリズミカルな伴奏。それに加えて、ヒップホップを聴いて育った世代らしい、重くパンチの効いたビートを使ったアレンジが心地よい音楽が武器の彼。そんな彼は、子供のころからギターを片手に自作曲を作り、成長すると多くのオープン・マイク(飛び入り参加のイベント)でパフォーマンスを披露。その時の演奏が目に留まり、2014年にコロンビアと契約を結んだという叩き上げのミュージシャンなのだ。 そして、『Coming Home』を発表した彼は、このあともマックルモア&ライアン・ルイスの”Kevin”に参加し、BBCのテレビ番組にも出演、デビュー直後の新人ながらフジ・ロック・フェスティバルにも出演するなど、世界中の音楽好きを魅了してきた。

このアルバムは、前作から約4年の間隔を挟んでリリースされた、2枚目のスタジオ・アルバム。プロデュースは前作に引き続きナイルス・シティ・サウンドトリッキー・リードが担当。楽曲制作には彼自身が積極的にかかわる一方、前作同様ゲスト・ヴォーカルは招かないなど、前回のアルバムで高く評価された、彼の歌にフォーカスを当てた作品になっている。

本作のオープニングを飾るのは、アルバムに先駆けて公開された”Bet Ain't Worth The Hand”。鍵盤楽器や弦楽器を組み合わせ、60年代末から70年代初頭にかけてシャイ・ライツやデルズが残したような、煌びやかで優雅なアレンジのソウル・ミュージックに仕立てている。優雅なサウンドの上で、オーティス・レディングや元インプレッションズのジェリー・バトラーを連想させる武骨な歌声を操って、甘くロマンティックな音楽を聴かせる姿が印象的だ。

これに続く”Bad Bad News”はしなやかなビートとメロディが心地よいダンス・ナンバー。ベースの音を強調して、ジャズやディスコ音楽の要素を盛り込みつつ、スタイリッシュに纏め上げる手法は、90年代に一世を風靡したブラン・ニュー・ヘヴィーズを思い起こさせる。ゴスペルのコール&レスポンスを盛り込む演出など、複数の音楽のエッセンスを取り込むことで、懐かしさと新鮮さを両立させている。

これに対し、4曲目の”Beyond”は、彼の音楽の原点であるギターの伴奏を盛り込んだスロー・ナンバー。ギターの演奏は、ナイル・シティ・サウンドの一員で、ブルースやカントリーの演奏に強いオースティン・マイケル・ジェンキンスによるもの。しかし、この曲ではヴォーカルと息の合った演奏を披露することで、リオンの弾き語りのように聴かせている。ギターの演奏をバックに歌う音楽といえば、ブルースやカントリー、フォーク・ソングのイメージが強いが、彼が生まれ育ったアメリカ南部の出身のミュージシャンには、ボビー・ウーマックを筆頭に、ギターの伴奏を取り入れるミュージシャンが少なくない。激しい人種差別で知られる一方、人種の壁を越えて音楽が混ざり合ってきた、アメリカの音楽文化の奥深さを感じさせる良曲だ。

そして、本作の収録曲でも特に印象的だったのが、アルバムの最後を締める”Georgia To Texas”。粗っぽい音色のベースの演奏をバックに、朗々と歌う姿が印象的なバラード。ウッド・ベースを中心に、ピアノやトランペットなどの楽器を配置したバンドは、60年代のソウル・ミュージックではお馴染みのスタイル。それを現代の音楽環境に合わせて再構築した編曲技術が聴きどころ。楽器の音数を絞ることで、主役の歌声が持つ、繊細さや力強さ、優しい雰囲気が引き立っている点も興味深い。

本作から感じた彼の魅力は、50年代から70年代にかけて流行したソウル・ミュージックから強い影響を受けつつ、当時の音楽をそのまま演奏するのではなく、現代のR&Bに落とし込んでいる点だろう。ギターやオルガンなどの音を使いながら、現代のポップスでも用いられる大人数のホーン・セクションや弦楽団などは取り入れず、60年代のモータウンやスタックスのレコードのような、シンプルで温かみのあるサウンドに仕上げている。しかし、当時の音楽に比べると、ギターの音は刺々しく、ドラムの音は重い。この、昔の音楽を取り入れつつ、単なる懐古趣味に終わらせない、現代の音楽として再構築する技術が面白い。プロデュースにかかわった面々が、昔のソウル・ミュージック以外の音楽、例えば現代のカントリーやブルースにも造詣が深く、彼自身もジニュワインのような90年代以降のR&Bに慣れ親しんできたことも大きいのだろう。

彼の音楽は「温故知新」を地で行っている。このアルバムを聴いていると「伝統を受け継ぐ」というのは、過去のやり方を静態保存することではなく、受け継ぐ対象が持つ豊かな歴史を理解し、現代を生きる自分達に合わせてアップデートすることだと教えてくれる。往年のソウル・ミュージックが好きな人にも、ヒップホップのような最近の音楽が好きな人にも聴いてほしい。広い音楽の世界を繋ぐ架け橋になる、貴重な作品だ。

Producer
Niles City Sound, Ricky Reed

Track List
1. Bet Ain't Worth The Hand
2. Bad Bad News
3. Shy
4. Beyond
5. Forgive You
6. Lions
7. If It Feels Good (Then It Must Be)
8. You Don't Know
9. Mrs.
10. Georgia To Texas








Chloe x Halle - The Kids Are Alright [2018 Parkwood Entertainment, Columbia]

ビヨンセが率いるコロンビア傘下の音楽レーベル、パークウッド。彼女の作品を中心に、録音物だけでなく映像作品も送り出している同社からデビューしたのが、クロイとハリーのベイリー姉妹による音楽ユニット、クロイ&ハリーだ。

ジョージア州アトランタ出身の二人は、動画投稿サイトにアップロードしたパフォーマンスをきっかけにレーベルと契約。2016年に『Sugar Symphony』でレコード・デビューを果たした。といっても、姉のクロイは子供のころから役者として活動しており、ビヨンセが主演した映画「The Fighting Temptations」にも出演するなど、遠からぬ縁はあったという。

本作は、彼女達にとって初のスタジオ・アルバム。ディズニー映画「A Wrinkle In Time」や、コメディ番組「Grown-ish」のサウンドトラックに収録された楽曲も含め、ほぼ全ての作品を二人で制作。インターネット経由で色々なジャンルのヒット曲のカヴァーを披露してきた、本記事の執筆時点でクロイが19歳、ハリーが17歳という、10代の若い感性と高い技術を惜しげもなく披露した、新鮮なR&Bを聴かせている。

まず、アルバムに先駆けてリリースされたタイトル曲”The Kids Are Alright”は、シンプルなトラックの上で悠々と歌う二人の姿が印象的なミディアム・ナンバー。ドラムの音は後半まで入らず、後半のビートも音圧を抑えたスタイルは、ヒップホップを経由したR&Bというより、アカペラ作品のようにも聴こえる。二人の歌と伴奏だけで、豊かな表現を聴かせる彼女達のスキルに驚かされる良曲だ。

これに対し、ジョーイ・バッドアスが参加した”Happy Without Me”は、カルディBの”Bodak Yellow”やグッチ・メインの”I Got A Bag”を思い起こさせるトラップのビートが格好良い、ヒップホップ色の強い曲。人気ラッパーを起用した作品でありながら、メロディ部分も二人が担当し、あくまでもR&Bとして聴かせている点が面白い。ジョーイのラップが入る箇所で、ビートが微妙に変化する演出も光っている。

また、 ディズニー映画のサウンドトラック向けに作られた”Warrior”は、R&Bをベースにしつつ、荘厳な雰囲気で纏め上げた伴奏と、二人の歌唱力を活かしたダイナミックなメロディが光るスロー・ナンバー。「ライオンキング」の主題歌として知られるエルトン・ジョンの”Can You Feel the Love Tonight”にも通じる、シンプルだが味わい深い楽曲と、二人の高いヴォーカル技術が堪能できる佳作だ。

そして、本作のボーナス・トラックとして収録されたデビュー曲”Drop”は、シドジャミラ・ウッズの作品を連想させる、泥臭いビートとメロディが心に残るミディアム・ナンバー。トラックを構成する楽器の音を厳選し、音と音の隙間を効果的に使うスタイルは、ディアンジェロの”Brown Sugar”にも通じる。

このアルバムを聴いて真っ先に思い浮かんだのは、マイケル・ジャクソンのヒット曲”Butterfly”を制作したイギリスの女性デュオ、フロエトリーの存在だ。ヒップホップやR&B、映画音楽を飲み込み、多彩な表現を聴かせてくれる彼女達は、往年のソウル・ミュージックと現代のヒップホップを融合した作風や、グラマラスな歌声と繊細な表現で私達を魅了したフロエトリーとよく似ている。しかし、最大の違いは、新しい音楽への向き合い方で、彼女達は、昔のソウル・ミュージックにとらわれず、ポップスや新しいヒップホップの表現技法を盛り込んで、現代のポップスに落とし込んでいる。その点が、ヒップホップを取り入れつつ、ソウル・ミュージックにベースを置いたフロエトリーとは大きく異なる点で、彼女達の持ち味にもなっている。

多くのゲストを侍らせたソロ・シンガーが主流である、現代の欧米の音楽市場では貴重になった、シンガー二人による息の合ったパフォーマンスが楽しめる良作。二人組というシンプルな編成でも多彩な表現が可能なことを証明した、ヴォーカル・グループのお手本のようなアルバムだ。

Producer
Chloe Bailey, Halle Bailey

Track List
1. Hello Friend (Intro)
2. The Kids Are Alright
3. Grown (From Grown-ish)
4. Hi Lo feat. GoldLink
5. Everywhere
6. FaLaLa (Interlude)
7. Fake feat. Kari Faux
8. Baptize (Interlude)
9. Down
10. Galaxy
11. Happy Without Me feat. Joey Bada$$
12. Babybird
13. Warrior (From "A Wrinkle in Time")
14. Cool People
15. Baby on a Plane
16. If God Spoke
17. Drop
18. Fall





The Kids Are Alright
Parkwood Entertainment/Columbia
2018-03-23

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