ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

EMPIRE

Snoop Dogg - Make America Crip Again [2017 Doggystyle, Empire]

92年にドクター・ドレが発表したシングル”Nuthin' but a "G" Thang”で冒頭のラップを担当し、鮮烈なデビューを飾ったスヌープ・ドッグことカルヴァン・ブロータス。

その後、肩の力を抜いた飄々とした雰囲気のラップと、ウィットに富んだ表現が魅力のスヌープは93年のデビュー・アルバム『Doggystyle』を皮切りに、14枚のフル・アルバムと多くのコラボレーション作品をリリース。ニューオーリンズ出身のマスターPや、ネプチューンズのファレル・ウィリアムスストーンズ・スロウディム・ファンクなど、個性的なサウンドで新しい流行を生み出してきたプロデューサーを積極的に起用し、多くの名盤を残してきた。

このアルバムは、今年の5月に発売された『Never Left』から僅か5か月という短い期間で発表された、彼にとって2枚目のEP。配信限定の作品ながら、プロデューサーにはニューヨーク出身のベテランDJ、キッド・カプリや、80年代のディスコ・ミュージックを取り入れた作風で世界中にファンがいるディム・ファンクなどが参加。ゲストにはクリス・ブラウンオクトーバー・ロンドン、 ディム・ファンクの作品などに携わってきたション・レイウォンなど、豪華な面々が集結した本格的な録音になっている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされた”M.A.C.A.”。制作は、ビヨンセの”6inch”やウィークエンドの『Starboy』、映画『The Fate of the Furious / Fast & Furious 8』のサウンドトラックからシングル・カットされたG-イージーとケラーニのコラボレーション曲”Good Life”などを手掛けてきた、マイアミ出身のプロデューサー、ベン・ビリオンズが担当。シンセサイザーを多用したエレクトロ・ミュージック寄りの作品が多い彼だが、この曲ではファット・ジョーの”Make It Rain”にも似た躍動感あふれるヒップホップのビートを採用している。普段は立て板に水のように言葉が出てくるスヌープのラップが、この曲ではビートに合わせて随所に溜めを盛り込んでいる点は面白い。彼の器用さが垣間見える。

続く”3's Company”は、ジェイミー・フォックスやタンクなどを手掛けているロス・アンジェルスのプロデューサー、ドン・シティがプロデュース。ゲストにクリス・ブラウンとOTジェナシスを招いた曲で、シンセサイザーの音色がブリブリと鳴り響くビートは、クリス・ブラウンのデビュー曲”Run It”を思い起こさせる。クランクの手法を取り入れつつ、低音を強調することでドクター・ドレが作るような西海岸のヒップホップに落とし込む発想が光っている。

また、もう一つのシングル曲”Dis Finna Be a Breeze!”は、彼自身が制作を主導した作品。マスターPやジャーメイン・デュプリのプロデュース曲を連想させる、跳ねるようなビートと太いベース・ラインの上で、次々と言葉を繰り出すスヌープの姿が印象的だ。変則ビートを前にすると、肩に力が入ってしまうラッパーも少なくない中、他の曲と同じように、肩の力を抜いて軽々と乗りこなす彼のスキルの高さが発揮された佳曲だ。

そして、本作の最後を締めるのが、ディム・ファンクがプロデュースした”Fly Away”だ。2013年にリリースした二人のコラボレーション・アルバム『7 Days of Funk』にも参加している、ション・ラウォンをフィーチャーしたこの曲は、リズム・マシンの軽妙なビートとアナログ・シンセサイザーの煌びやかな音色が、リック・ジェイムスやギャップ・バンドのような80年代のファンク・ミュージシャンを思い出させる。このトラックの上で、ラップではなく、ヴォーカルを披露するスヌープの柔軟な発想も面白い。過去にはレゲエにも挑戦していた彼だが、この曲では80年代のファンク・ミュージシャン達が残したバラードのスタイルを、自分の作風に取り込んでいる。

今回のアルバムの聴きどころは、クランクやバラードといった、過去の作品ではあまり見られなかった手法に挑戦しているところだろう。個性的なラップを武器に20年以上に渡って一線で活躍してきた彼が、新しいスタイルを積極的に取り込んで、自分の音楽に昇華しているところが非常に面白い。また、彼のような西海岸出身のヒップホップ・アーティストに多くの影響を与えた80年代のソウル・ミュージックに触発された作品を録音するなど、新しい音に目を向けつつ、自分達の原点にも目を向けるバランス感覚の良さも、彼の音楽が新鮮さと安定感を与えていると思う。

彼の豊富な経験と、新しいサウンドから往年の名曲まで飲み込む柔軟で貪欲な感性が遺憾なく発揮された名盤。このスタイルをフル・アルバムに拡大したら、音楽シーンに新しい風を吹き込んでくれるのではないかと思わせる充実した内容だ。

Producer
Snoop Dogg, Ben Billions, Schife, Kid Kapri, Niggarchi, Dam-Funk etc

Track List
1. M.A.C.A.
2. 3's Company feat. Chris Brown and O.T. Genasis
3. Good Foot
4. Dis Finna Be a Breeze! feat. Ha Ha Davis
5. None of Mine
6. My Last Name feat. October London
7. SportsCenter (Remix) feat. DesignerFlow
8. Fly Away feat. Shon Lawon






Goapele - Dreamseeker EP [2017 Skyblaze, EMPIRE]

南アフリカでアパルト・ヘイトと戦っていた父と、イスラエルにルーツを持つユダヤ系の母を持つ、カリフォルニア州オークランド出身のシンガー・ソングライター、ゴアペレことゴアペレ・モーラバーン。

南アフリカからの亡命者が多い環境で育った彼女は、早くから音楽に強い興味を示し、様々な分野の芸術家と交友を重ねてきた。その一方で複雑な家庭環境で育ってきた彼女は、人種問題や性差別の問題にも早くから関心を持ち、学生時代には人権運動にもかかわっていた。そんな彼女は、ハイスクールを卒業するとアーティストを目指してバークリー音楽院に進学。ヴォーカルとソング・ライティングを専攻して、プロのシンガー・ソングライターへの道を歩み始める。

大学を卒業した彼女は、オークランドに戻り、自身にとって初の録音作品となるアルバム『Closer』を制作。自主制作の録音ながら、ジェフ・バクスターやソウライブといった、音楽通にはお馴染みのクリエイター達を集め、アレサ・フランクリンとプリンスの音楽を融合したような、前衛的でありながらヴォーカルを丁寧に聴かせたアルバムは、その独特の作風で、新しい音に敏感な人々の間で注目の的となった。

その後、彼女は自身のレーベル、スカイブレイズを設立。ソニーBMG(どちらもソニー系列)と配給契約を結んで4枚のアルバムを発表したほか、2003年にはMTVが企画した、HIV/AIDSの啓発キャンペーンにアヴリル・ラヴィーンやピンクなどと一緒に参加するなど、自身の個性を発揮しつつ、着実にファンを増やしていった。

この作品は、2014年の『Strong as Glass』以来、約3年ぶりの新作となる、彼女にとって6枚目のオリジナル・アルバム。10曲中4曲がインターリュードと、実質的な収録曲数は6曲だが、プロデューサーには、ベッドロックやマイク・タイガーのような、過去作にも携わっている面々に加え、リーラ・ジェイムスBJザ・シカゴ・キッドの作品で名を上げたコーネリオ・オースティンや、タイガの楽曲を手掛けたクラックウェブが参加した密度の濃い作品。本作で彼女は、時間をかけて築き上げた自身のイメージを大切にしつつ、新しいサウンドも積極的に取り入れた、独創的な音楽を聴かせている。

アルバムに先駆けて公開された”$ecret”は、クラックウェブのプロデュース作品。キラキラとした高音と、唸るような重低音が印象的なトラックは、電子楽器を多用し音数を絞ったトラップのスタイルを応用したものだ、抽象度の高いトラックに乗せて、シャーデー・アデューを彷彿させる神秘的な声を使い、じっくりとメロディを歌い上げるこの曲には、彼女の持ち味が凝縮されていると思う。

一方、本作の収録曲の中でもとりわけ異彩を放っているのは、コーネリオ・オースティンが制作に参加した”Power”だ。フェラ・クティの音楽を思い起こさせる華やかな打楽器の音色が乱れ飛ぶイントロから、ダイナミックなベース・ラインと変則ビートが格好良いヒップホップへと繋がっていくミディアム・ナンバー。アフリカ音楽のにぎやかなパーカッションとファンクの躍動感溢れる低音を組み合わせたアレンジに、アフリカ音楽の要素を取り入れたメロディを組み合わせるセンスの高さが光る曲だ。

また、これに続く”Take It Over”は気鋭の若手クリエイター、ネイト・ヘンドリックスがプロデュースを担当。レゲトンやダンス・ホール・レゲエを連想させる爽やかで軽妙なトラックをバックに、透き通った歌声を伸び伸びと響かせる姿が魅力のアップ・ナンバー。しなやかだが起承転結のはっきりしたメロディは、シャーデーにそっくりだが、シンセサイザーを駆使したトラックを取り入れることで、バンド・サウンドが中心のシャーデーと差別化を図っている。

そして、本作の目玉といっても過言ではないのが、2017年のグラミー賞にノミネートしたことも話題になった、BJザ・シカゴ・キッドをフィーチャーした”Stay”だ。重いビートとストリングスのように荘厳な伴奏が心地よいトラックの上で、大胆にメロディを崩して歌う二人の歌唱が光るスロー・ナンバー。実力を持った歌手から刺激を受けたかのように、メロディに解釈を加え合う二人の姿が心に残る作品。優れた才能を持つ二人が、互いの能力を引き出し合った名演だ。

3年ぶりの新作となる今回のアルバムは、EMPIREからのリリースということで、制作環境の変化が気になったが、大方の心配をよそに、これまでとは大きく変わらない、安定した音楽を聴かせている。初期の作品から、アフリカ音楽やジャズを取り入れてきた彼女らしく、トラップやアフロ・ミュージックも違和感なく乗りこなしている。こんな作品を生み出せるのは、音楽を体系的に学びつつ、幅広い交友関係を通して視野を広げてきた彼女の、高度な思考力と鋭い感性、それを具現化する技術によるところが大きいだろう。

色々な音楽を取り込み、編集し、自分の作品に落とし込む。単純だが難しいプロセスを丁寧に実行する能力がある彼女だからこそ生み出せる。緻密さと新鮮さを両立した作品。彼女の音楽は、往年のソウル・ミュージックを現代の音楽にアップデートするという、多くのミュージシャンが取り組み、苦戦してきた難題への一つの回答だと思う。

Producer
Mike Tiger, Crakwav, Cornelio Austin, Nate Hendrix, Bedrock

Track List
1. Dreamseeker Intro
2. $ecret
3. As Bright As The Sun (Interlude)
4. Power
5. Take It Over
6. Giving Me Life (Interlude)
7. Stay feat. BJ the Chicago Kid
8. Full Circle (Interlude)
9. Stand
10. Cool Breeze






Snoop Dogg - Never Left [2017 Doggystyle, Empire]

92年に、元NWAのドクター・ドレがプロデュースしたシングル『Deep Cover』でデビュー。同年にはドレのソロ・デビュー・アルバム『The Chronic』からの先行シングル『Nuthin' but a "G" Thang』にフィーチャーされ、ゆったりとした雰囲気で飄々と言葉を繋ぐラップと、独特の存在感が注目を集めた、カリフォルニア州ロングビーチ出身のラッパー、スヌープ・ドッグことカルバン・ブローダス。

翌93年には、自身の名義では初のアルバム『Doggystyle』を発表すると、P-ファンクなどから影響を受けた、シンセサイザーの音色を多用したスタイル、G-ファンクが大ヒット。ドレや2パックの作品ともに、ヒップホップ界に一大ブームを巻き起こした。その後は、複数のレーベルに移籍しながら、14枚のソロ・アルバムと7枚のユニット名義、コラボレーション作品をリリース。バトルキャットやディム・ファンクのような西海岸出身のミュージシャンだけでなく、ウォーリン・キャンベルのようなヒップホップ以外のジャンルを得意とするプロデューサー、ファレル・ウィリアムスやデヴィッド・ゲッタのような独創的なスタイルで業界を牽引するトレンド・セッターなど、様々なアーティストとコラボレーションしてきた。

今回のアルバムは、前作からわずか10か月という短い間隔で発表された、通算15枚目のソロ・アルバム。前作に引き続き、彼が設立したドギースタイル・レコードからのリリースだが、本作はエンパイアからの配給になっている。

本作を聴いて最初に驚かされるのは、ウータン・クランが93年に発表した有名曲”C.R.E.A.M.”をサンプリングしたタイトル・トラック”Neva Left”だ。チャルマーズの”As Long as I've Got You”のフレーズを引用したトラックは、ドレイクやザ・ゲームなど、多くのミュージシャンに使用され、2006年にはファンク・バンドのエル・ミッチェル・アフェアにカヴァーされている。このビートを、彼はいつもと同じ調子で軽々と乗りこなしている。『DoggyStyle』と同じ年に発表された、東海岸のヒップホップを代表する名曲を、自分の色に染め上げる姿からは、どんなトラックを前にしてもぶれない彼の確かな個性を伺わせる。

また、2016年のアルバム『Coolaid』では最後を締める”Revolution”に起用され、同年にリリースしたEP『Color Blind: Love』も注目を集めたシンガー、オクトーバー・ロンドンが参加した”Go On”も見逃せない曲だ。古いリズム・マシンっぽい音色を使った、ゴム毬のように跳ねるビートの上で、しなやかなファルセットを響かせるオクトーバー・ロンドンの姿が、”Sexual Healing”を歌うマーヴィン・ゲイを彷彿させる。楽曲の大部分をオクトーバー・ロンドンが歌っており、スヌープは脇役に徹しているが、期待の若手を引き立てつつ、しっかりと自分の存在をアピールするスヌープのラップに、ベテランの余裕と後進に向ける温かい目を感じる。

一方、本作で異彩を放っているのがカナダ出身の4人組ジャズ・バンド、バッドバッドノットグッドと、同国育ちのクリエイター、ケイトラナダのコラボレーション曲”Lavender(Nightfall Remix)”だ。といっても、実はこの曲、バッドバッドノットグッドが2016年にリリースしたアルバム『IV』に入っている同名曲を再構成して、スヌープのラップを乗せたもの。スマートで洗練された4人の演奏と、スヌープ・ドッグの飄々としたラップの相性が素晴らしい。なんとなくだが、バッドバッドノットグッドの出す音色と、G-ファンクのローファイで線の細いサウンドが、似ているように感じるのは自分だけだろうか。

そして、個人的には最も意外だった曲が、チャーリー・ウィルソンとティーナ・マリーをフィーチャーした”Vapors”のリミックス・ヴァージョンだ。96年のアルバム『Tha Doggfather』からシングル・カットされたこの曲は、DJバトルキャットの手によって、スクラッチなどの様々な音色が加えられ、複雑な作りのトラックが魅力の曲に仕上がっている。彼の滑らかなラップを活かしつつ、音数の少ないシンプルなビートの原曲とは真逆のトラックを提示したバトルキャットのテクニックが光っている。

今回のアルバムでも、近年の作品同様、様々なスタイルのトラックを揃えながら、どんなビートを前にしても調子を崩すことなく、何時もと同じラップで自分の色に染め上げている。どれだけ一つのスタイルにこだわっても、マンネリ化しないのは、ラッパーにとって難易度が高い、斬新なビートにも果敢に挑んでいるからだろう。

最早、彼のトレード・マークといっても過言ではない、独特のラップ・スタイルを使って、新しいトラックを自分の音楽に染め上げた作風が光る、ベテランらしい安定感と貫禄のある作品。90年代のスヌープを知る人には、新しい音楽に触れるきっかけとして、当時の彼を知らない人には、90年代のヒップホップを知る術として、最適な1枚だと思う。

Producer Dr. Evo, DJ Mustard, DJ Official, Dr. Dre, Musik MajorX, League Of Starz, Rick Rock, Snoop Dogg etc

Track List
1. Neva Left
2. Moment I Feared feat. Rick Rock
3. Bacc In da Dayz feat. Big Tray Deee
4. Promise You This
5. Trash Bags feat. K Camp
6. Swivel feat. Stresmatic
7. Go On feat. October London
8. Big Mouth
9. Toss It feat. Too Short and Nef the Pharaoh
10. 420 (Blaze Up) feat. Devin the Dude, Wiz Khalifa and DJ Battlecat
11. Lavender (Nightfall Remix) feat. BadBadNotGood and Kaytranada
12. Let Us Begin feat. KRS-One
13. Mount Kushmore feat. Redman, Method Man and B-Real
14. Vapors (DJ Battlecat Remix) feat. Charlie Wilson and Teena Marie
15. Still Here
16. Love Around the World feat. Big Bub





Neva Left [Explicit]
Doggystyle Records / EMPIRE
2017-05-19

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