melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

EMPIRE

Snoop Dogg - Never Left [2017 Doggystyle, Empire]

92年に、元NWAのドクター・ドレがプロデュースしたシングル『Deep Cover』でデビュー。同年にはドレのソロ・デビュー・アルバム『The Chronic』からの先行シングル『Nuthin' but a "G" Thang』にフィーチャーされ、ゆったりとした雰囲気で飄々と言葉を繋ぐラップと、独特の存在感が注目を集めた、カリフォルニア州ロングビーチ出身のラッパー、スヌープ・ドッグことカルバン・ブローダス。

翌93年には、自身の名義では初のアルバム『Doggystyle』を発表すると、P-ファンクなどから影響を受けた、シンセサイザーの音色を多用したスタイル、G-ファンクが大ヒット。ドレや2パックの作品ともに、ヒップホップ界に一大ブームを巻き起こした。その後は、複数のレーベルに移籍しながら、14枚のソロ・アルバムと7枚のユニット名義、コラボレーション作品をリリース。バトルキャットやディム・ファンクのような西海岸出身のミュージシャンだけでなく、ウォーリン・キャンベルのようなヒップホップ以外のジャンルを得意とするプロデューサー、ファレル・ウィリアムスやデヴィッド・ゲッタのような独創的なスタイルで業界を牽引するトレンド・セッターなど、様々なアーティストとコラボレーションしてきた。

今回のアルバムは、前作からわずか10か月という短い間隔で発表された、通算15枚目のソロ・アルバム。前作に引き続き、彼が設立したドギースタイル・レコードからのリリースだが、本作はエンパイアからの配給になっている。

本作を聴いて最初に驚かされるのは、ウータン・クランが93年に発表した有名曲”C.R.E.A.M.”をサンプリングしたタイトル・トラック”Neva Left”だ。チャルマーズの”As Long as I've Got You”のフレーズを引用したトラックは、ドレイクやザ・ゲームなど、多くのミュージシャンに使用され、2006年にはファンク・バンドのエル・ミッチェル・アフェアにカヴァーされている。このビートを、彼はいつもと同じ調子で軽々と乗りこなしている。『DoggyStyle』と同じ年に発表された、東海岸のヒップホップを代表する名曲を、自分の色に染め上げる姿からは、どんなトラックを前にしてもぶれない彼の確かな個性を伺わせる。

また、2016年のアルバム『Coolaid』では最後を締める”Revolution”に起用され、同年にリリースしたEP『Color Blind: Love』も注目を集めたシンガー、オクトーバー・ロンドンが参加した”Go On”も見逃せない曲だ。古いリズム・マシンっぽい音色を使った、ゴム毬のように跳ねるビートの上で、しなやかなファルセットを響かせるオクトーバー・ロンドンの姿が、”Sexual Healing”を歌うマーヴィン・ゲイを彷彿させる。楽曲の大部分をオクトーバー・ロンドンが歌っており、スヌープは脇役に徹しているが、期待の若手を引き立てつつ、しっかりと自分の存在をアピールするスヌープのラップに、ベテランの余裕と後進に向ける温かい目を感じる。

一方、本作で異彩を放っているのがカナダ出身の4人組ジャズ・バンド、バッドバッドノットグッドと、同国育ちのクリエイター、ケイトラナダのコラボレーション曲”Lavender(Nightfall Remix)”だ。といっても、実はこの曲、バッドバッドノットグッドが2016年にリリースしたアルバム『IV』に入っている同名曲を再構成して、スヌープのラップを乗せたもの。スマートで洗練された4人の演奏と、スヌープ・ドッグの飄々としたラップの相性が素晴らしい。なんとなくだが、バッドバッドノットグッドの出す音色と、G-ファンクのローファイで線の細いサウンドが、似ているように感じるのは自分だけだろうか。

そして、個人的には最も意外だった曲が、チャーリー・ウィルソンとティーナ・マリーをフィーチャーした”Vapors”のリミックス・ヴァージョンだ。96年のアルバム『Tha Doggfather』からシングル・カットされたこの曲は、DJバトルキャットの手によって、スクラッチなどの様々な音色が加えられ、複雑な作りのトラックが魅力の曲に仕上がっている。彼の滑らかなラップを活かしつつ、音数の少ないシンプルなビートの原曲とは真逆のトラックを提示したバトルキャットのテクニックが光っている。

今回のアルバムでも、近年の作品同様、様々なスタイルのトラックを揃えながら、どんなビートを前にしても調子を崩すことなく、何時もと同じラップで自分の色に染め上げている。どれだけ一つのスタイルにこだわっても、マンネリ化しないのは、ラッパーにとって難易度が高い、斬新なビートにも果敢に挑んでいるからだろう。

最早、彼のトレード・マークといっても過言ではない、独特のラップ・スタイルを使って、新しいトラックを自分の音楽に染め上げた作風が光る、ベテランらしい安定感と貫禄のある作品。90年代のスヌープを知る人には、新しい音楽に触れるきっかけとして、当時の彼を知らない人には、90年代のヒップホップを知る術として、最適な1枚だと思う。

Producer Dr. Evo, DJ Mustard, DJ Official, Dr. Dre, Musik MajorX, League Of Starz, Rick Rock, Snoop Dogg etc

Track List
1. Neva Left
2. Moment I Feared feat. Rick Rock
3. Bacc In da Dayz feat. Big Tray Deee
4. Promise You This
5. Trash Bags feat. K Camp
6. Swivel feat. Stresmatic
7. Go On feat. October London
8. Big Mouth
9. Toss It feat. Too Short and Nef the Pharaoh
10. 420 (Blaze Up) feat. Devin the Dude, Wiz Khalifa and DJ Battlecat
11. Lavender (Nightfall Remix) feat. BadBadNotGood and Kaytranada
12. Let Us Begin feat. KRS-One
13. Mount Kushmore feat. Redman, Method Man and B-Real
14. Vapors (DJ Battlecat Remix) feat. Charlie Wilson and Teena Marie
15. Still Here
16. Love Around the World feat. Big Bub





Neva Left [Explicit]
Doggystyle Records / EMPIRE
2017-05-19

B.O.B - Ether [2017 No Genre, Empire]

ノースカロライナ州ウィンストン・サラム生まれ、ジョージア州アトランタ郊外の都市ディケーター育ちのラッパーでプロデューサー、B.O.Bことボビー・レイ・シモンズJr.。子供のころからトランペットで才能を発揮し、13歳のころにはラップを始める。その後、ミュージシャンを目指すためハイスクールの9年生(日本の高校1年生に相当)の時に学校を中退。そして、18歳の時にアトランタ出身のラッパー、T.I.が経営するクラブでラップを披露したところ、そのスキルを評価され、ジム・ジョンシンのレーベル、レベル・ロックを介してアトランティックと契約する。

2007年に初のEP『Eastside』を発表すると、80年代のヒップホップやエレクトロ・ミュージックを取り入れたキャッチーな作風が注目を集める。また、その後に発表したEPやミックス・テープも、全ての作品で好評を得ている。そして、2010年に初めてのフル・アルバム『B.o.B Presents: The Adventures of Bobby Ray』をリリース。このアルバムは総合チャートとラップチャート、R&Bヒップホップ・チャートを制覇し、ダブル・プラチナ・ディスクにも認定。グラミー賞やソウル・トレイン・アワードなど、多くの音楽賞を獲得、またはノミネートする大ヒット作となった。

その後も、2012年に『Strange Clouds』を2013年に『Underground Luxury』を発売。それぞれ、プラチナ・ディスクとゴールド・ディスクに認定されるヒットになった。その一方で、彼は、多くのミックス・テープやEPを発表。それ以外にも、ジェシーJの”Price Tag”やT-ペインの”Up Down (Do This All Day)”など、様々なミュージシャンの曲に客演するなど、ヒップホップ界屈指のハード・ワーカーっぷりを見せていた。

前作から約4年ぶりとなる、通算4枚目のフル・アルバムとなる本作は、彼が2013年にアトランタに設立したレーベル、ノー・ジャンルから発表。エンパイアの配給でリリース。2015年にリリースした4本のミックス・テープや、それらを纏めた編集盤『Elements』などを送り出してきた同レーベルの、初めてのフィジカル・リリース作品でもある。

過去作では外部のプロデューサーとの共作が中心だったが、今回のアルバムでは、大半の曲をセルフ・プロデュース。残りの曲も、マイク・ウィル・メイク・イット率いるイヤー・ドラマーズ・エンターテイメント所属の30ロックや、デフ・ジャムと契約を結んでいるビッグ・クリットなど、話題の作品に多数関わっている実力派と組んで制作している。

アルバムからの先行シングル”4LiT”は、かつてのボスであるT.I.と、2015年にアルバム『Free TC』で大ブレイクを果たした、サウス・ロス・アンジェルス出身のラッパータイ・ダラ・サインをフィーチャーした豪華な作品。日本の公共放送が紀行番組で使いそうな、尺八っぽい音色を使ったシックなビートに乗せて、三者三様のフロウ(といってもタイ・ダラ・サインは歌に近いが)を聴かせている。曲の随所で、コーラスのように歌声を挟み込むタイ・ダラ・サインのセンスが光っている。

これに対し、ニュー・オーリンズ出身の大物ラッパー、リル・ウェインを招いた”E.T.”は、リル・ウェインの作風を意識した、シンセサイザーを多用したトラックが格好良い曲。血管が浮き出そうな勢いで、鬼気迫る勢いでラップを畳みかけるリル・ウェインのフロウが聴きどころ。彼を引き立てるように、淡々と言葉を繋ぐB.O.Bのラップと、彼の手による陰鬱で荒々しいトラックもいい味を出している。

一方、本作の翌週にアルバム『E.B.B.T.G.』のリリースを控えているアトランタ出身のラッパー、ヤング・サグと組んだ”Xantastic”は、キラキラとした音色のシンセサイザーと、サビで流れる甘い歌声が80年代のソウル・ミュージックを思い起こさせるスロー・ナンバー。プロデュースは30ロックだが、ソウル・ミュージックのエッセンスを大胆に取り入れる手法は、これまでのB.O.Bの作風に最も近いかも。ガラガラとした声で、荒々しいラップを披露するヤング・サグのスタイルが、甘い雰囲気の曲のアクセントになっている。

そして、本作の隠れた目玉が、アトランタ出身の超大物シンガー、シーロ・グリーンとアッシャーを招いた”Big Kids”だ。色々な音色のドラムと、ピアノのような音色を使った伴奏を組み合わせた、ロマンティックなミディアム・ナンバー。アッシャーのアルバムに収録されていそうな、流麗なメロディが印象的だが、プロデュースはB.O.B自身。都会的な作風のアッシャーと、奇抜さや泥臭さが魅力のシーロ、音楽性の異なる2人をうまくつなぎ合わせ、一つの曲に落とし込むB.O.Bの編集能力の高さが発揮された佳曲だ。

本作は、アトランティックを離れ、自身のレーベルから発表した、初めてのオリジナル・アルバム。 環境の変化は決して小さくないようで、有名なプロデューサーを多数起用した過去の作品と比べると、セルフ・プロデュースの割合が増え、外部のプロデューサーも比較的若い面々が中心だ。また、音楽性も、ソウル・ミュージックなどを大胆に取り込んだポップなものから、アトランタ出身のラッパーに多い、シンセサイザーを多用したバウンズ・ビートやトラップ寄りの作品が目立っている。しかし、流行の音を取り入れつつ、軽妙でポップな曲に仕立て上げる技術は、彼独自のものだと思う。

ポップだけど本格的なヒップホップで、多くの成功を収めてきた彼。本作はそのフィルターを通して、アトランタを含むアメリカ南部のヒップホップを編集し一つの作品に纏め上げた、キャッチーだけど奥が深い作品。ヒップホップは難しい、怖いってイメージを持っている人にこそ聴いてほしい、「初めてのヒップホップ」に最適な1枚。このアルバムを聴いて気になったアーティストがいたら、ぜひその人の作品も手に取ってほしい。

Producer
B.o.B, 30 Roc

Track List
1. Fan Mail
2. E.T. feat. Lil Wayne
3. Middle Man
4. Peace Piece feat. Big K.R.I.T.
5. Finesse
6. Xantastic feat. Young Thug
7. Tweakin feat. Young Dro
8. 4 LiT feat. T.I., Ty Dolla $ign
9. Substance Abuse
10. Avalanche
11. I Know feat. WurlD
12. Big Kids feat. Cee-Lo, Usher





Ether
B.O.B
No Genre
2017-05-12

Mindless Behavior ‎– #officialMBmusic [2016 Conjunction Entertainment, EMPIRE]

2010年にシングル『My Girl』(テンプテーションズの同名曲とは別のオリジナル作)でデビュー。 その後は2011年に1枚目のアルバム『#1 Girl』を、2013年には2作目のフル・アルバムとなる『All Around the World』をインタースコープから発売。それぞれ全米アルバム・チャートの7位と6位に送り込んだロス・アンジェルス発のボーイズ・グループ、マインドレス・ビヘイビヴァ。その後は、メンバーの脱退など、苦労が続いたが、オリジナル・メンバーのプリンストンに、新メンバーのEJとマイク・リヴァーを加えた新体制で録音した3枚のアルバムが本作。

このアルバムがリリースされた2016年は、ヴォーカル・グループにとって厳しい時期だったと思う。個人でも高品質の録音機材を調達できるうえ、レーベルの垣根を越えたコラボレーションが当たり前になった時代に、同じメンバーでパフォーマンスを続けることによるマンネリ化や、人間関係のトラブルなどによる活動の停滞に気を配りながら活動を続けなければいけないヴォーカル・グループは、機動的に活動できるソロ・アーティストに比べて少数派になるのは仕方のないことだと思う。実際、彼らも本作の録音前にメイン・ヴォーカルを含む大部分のメンバーが入れ替わっている。だが、今回の作品では、グループ名義による録音という点を最大限に活用して、個性豊かなヴォーカルが複雑に絡み合う、ソロ・アーティストには作れない音楽を聴かせている。

アルバムのオープニングを飾るのは、本作に先駆けてシングルとして発売された”#iWantDat”。この曲は、ロス・アンジェルス出身のバッド・ラックとコンプトン出身のプロブレムをフィーチャーしたアップ・ナンバー。クリス・ブラウンやT.I.の楽曲を思い起こさせる、温かい音色のシンセサイザーとリズム・マシンを使ったトラックをバックに、新しいリード・ヴォーカルのEJがラップっぽい歌唱を披露している。オート・チューンを使ったバック・コーラスがシンセサイザーの音色と一体化して、一つの楽器のように機能している点も面白い。続く”FreaksOnly”もバッド・ラックがゲストで参加。こちらの曲も、温かい音色の電子楽器を活かしたトラックだが、音数を減らしてヴォーカルをじっくりと聴かせている点が大きな違いだ。

一方、”#Blur”はトラップ・ビートを取り入れたミディアム・ナンバー。スクラッチやサイレン、声ネタを挟みこんだトラックは、Tペインやリル・ウェインの楽曲を思い起こさせる。EJの気怠そうなヴォーカルもワイルドで格好良い。これに対し、”#DanceTherapy”は本作で唯一、四つ打ちのビートを取り入れたEDMっぽい華やかで高揚感のある楽曲。他の曲で使われている音色と、似ている音を出す機材を使うことで、アルバムにバラエティと統一感を与えている。色々なタイプのビートに対応する3人の適応力と、一つの音色を使って色々なスタイルのトラックを作り上げる制作陣の技術力に驚かされる。

そして、本作からシングル・カットされた、もう一つの楽曲”#OverNightBag”は、アッシャーやマーカス・ヒューストンのヒット曲を連想させる、ゆったりとしたテンポのビートとレイド・バックしたメロディが印象的なミディアム・バラード。ハンド・クラップなどを織り交ぜながらじっくりと歌を聴かせるロマンティックな楽曲だ。また、このタイプの曲が好きな人には”#ComeUp”もオススメ。こちらは、メロディはラップ寄りのラフなものだが、声の加工を抑え、EJのしっとりとした歌声と、感情を剝き出しにして歌う姿を強調したダイナミックなバラードだ。

あと、自分の中では見逃せないと思ったのは、本作では珍しいタイプのディスコ・ナンバー”#1UCall”だ。乾いた音色のギターと図太い音を響かせるシンセ・ベースを使ったトラックは、キャミオやギャップ・バンドのような80年代のファンク・バンドを彷彿させる。シンセサイザーなどを使ってディスコ・サウンドを再現するグループは珍しくないが、ディスコ・ブギーを一般向けの楽曲に落とし込む度胸と技術は凄いと思う。

今回のアルバムは、過去の2作品に比べると、魅力的な曲は多いが保守的な印象を受ける。トラップやディスコ・サウンドなど、ブラック・ミュージックのトレンドを的確に押さえてはいるものの、いずれも、他の人が成功した手法で、彼らが生み出した新しいスタイルというものは見られなかった。だが、それを差し引いても、個別の楽曲のクオリティ粒が立っていて完成度は高い。

B2Kやプリティー・リッキーのように、ポップスターとしてのわかりやすさと、R&Bのアーティストに求められる歌唱力や斬新さを絶妙なバランス感覚で両立した稀有なグループの一つ。一人では作れない、複雑なメロディや掛け合いの妙を楽しみたい人にはうってつけの佳作だ。

Producer Walter Millsap III, Walter Millsap IV, Alec Jace Millsap, Balewa Muhammad, Candice Nelson, Brian Peters, Teak Underdue etc

Track List
1. #iWantDat feat. Bad Lucc, Problem
2. #FreaksOnly feat. Bad Lucc
3. #Lamborghini
4. #Blur
5. #DanceTherapy
6. #Better feat. KR
7. #OverNightBag
8. #1UCall
9. #ComeUp
10. #SongCry
11. #Muzik





#Officialmbmusic (+ 2 Bonus Tracks)
Mindless Behavior
Conjunction
2016-08-12

 
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