1962年に、同じハイスクールに通う友人と結成したヴォーカル・グループ、パティ・ラベル&ザ・ブルーベルズのリード・シンガーとしてデビュー。71年には、メンバーの脱退とラベルへの改名を経てリリースされたシングル『Lady Marmalade』が全米チャートを制覇(97年のオール・セインツによるカヴァーや、2002年の映画「ムーラン・ルージュ」でのリメイクもヒット)。それ以外にも、数多くのヒット曲を残してきた。ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のシンガーソングライター、パティ・ラベルことパトリシア・ルイス・ホルト。

77年にソロへと転向すると、『I'm in Love Again』や『Winner in You』、『Flame』など、多くのヒット作を発表。グラミー賞を2度獲得する一方で、女優業にも挑戦。エミー賞にノミネートするなど、マルチな才能を発揮してきた。

本作は、2007年の『Miss Patti's Christmas』以来となる、10年ぶりのフル・アルバム。直近の3作品はポップスやソウル・ミュージックの名曲をカヴァーした『Classic Moments』や、ゴスペルに挑戦した『The Gospel According to Patti LaBelle』、彼女にとって2枚目のクリスマス・アルバムとなる『Miss Patti's Christmas』など、コンセプトが明確な作品だった。今回のアルバムも過去作の路線を踏襲。3名のホーン・セクションを含む本格的なジャズ・バンドによる演奏をバックに、ソウル・ミュージックの世界で培った力強い歌声と豊かな表現力を惜しげもなく披露した、本格的なジャズ・ヴォーカル作品に纏め上げている。

アルバムの1曲目”The Jazz In You”は、60年代に活躍した女性シンガー、グロリア・リンの持ち歌としても知られるミディアム・ナンバー。原曲の怪しげな雰囲気はそのままに、キャリア60年を超える大ベテランらしい妖艶な歌声で、よりエロティックな楽曲に仕上げている。70歳を超えるベテランとは思えない、艶めかしいヴォーカルを堪能してほしい。

これに対し、アート・ブレイキーの代表曲で、今もテレビ番組等で頻繁に使用されている”Moanin'”のカヴァーは、ジョー・ヘンドリックスが歌詞をつけたヴォーカル・ヴァージョンを披露。ヴォーカル入りの演奏としては、ランバート、ヘンドリックス&ロスが62年にレコーディングしたものが有名だが、彼女のヴァージョンでは、リズムやメロディをあえて崩すことで、ソウル・ミュージックの世界で鍛え上げた歌の技術を活かした、ダイナミックな演奏に纏め上げている。原曲のメロディを大胆に改変することで、ヴォーカルの表現力を強調した手法は、オーティス・レディングがローリング・ストーンズの”Satisfaction”やテンプテーションズの”My Girl”をカヴァーした時のことを思い起こさせる。

一方、ジェイムス・ムーディーがペンを執り、ブロッサム・ディアリーが歌入りの演奏を吹き込んだことでヴォーカル作品としても有名になった”Moody's Mood”のカヴァーは、デトロイト出身のシンガー・ソングライター、ケムをゲストに迎えたデュエット作品。エイミー・ワインハウスやクウィーン・ラティファなど、多くのシンガーに歌われてきた人気曲を、あえてオリジナルに忠実なスタイルで歌うことで、ソウル・シンガーとしてのキャリアの中で習得した大胆さと、ジャズ・シンガーに求められる繊細さを同居させた、彼女にしかできないパフォーマンスに落とし込んでいる。

そして、本作の目玉ともいえるのが、ビリー・ホリデーが1946年に発表したバラード”Don't Explain”だ。エッタ・ジェイムスやサラ・ボーハムなど、多くの名シンガーが挑戦してきた有名曲を、彼女はピアノ・トリオ+トランペットのシンプルな編成をバックに歌唱。地声からファルセット、ピアニッシモからフォルテッシモまで、使える声域と強弱をフル活用して、じっくりと歌い込む姿が印象的だ。シンプルな編成のバンドによる、絶妙なさじ加減の伴奏が、リスナーの耳を彼女の歌声に集中させている点にも注目してほしい。

今回のアルバムは、ポップスからゴスペルまで、色々な音楽に取り組んできた彼女のキャリアを総括するような、色々な表現が楽しめる作品だ。おそらく、ソウル・ミュージックに比べると圧倒的に少ない数の楽器で、一つ一つの音をじっくりと聴かせるジャズのスタイルを彼女なりに解釈し、細部まで気を配りつつ、要所要所で大胆な表現を聴かせたことが功を奏したのだと思う。

ポップ・シンガーから希代の名歌手に上り詰めた彼女だからこそできる、少女のように豊かな表情とベテランらしい老練さを両立した珠玉のヴォーカル・アルバム。アレサ・フランクリンやエッタ・ジェイムスとは異なるアプローチで「歌」を究めた、ヴォーカル作品の傑作だろう。

Producer
Armstead Edwards, Zuri Edwards, Patti LaBelle, Jamar Jones

Track List
1 The Jazz In You
2. Wild Is The Wind
3. Moanin'
4. Till I Get It Right
5. Moody's Mood feat. Kem
6. Softly As I Leave You
7. Peel Me A Grape
8. Don't Explain
9. I Can Cook
10. Folks Who Live On The Hill
11. Go To Hell
12. Song For Old Lovers
13. Here's To Life

Bel Hommage
Patti Labelle
Gpe Records
2017-05-05