シュガーヒル・レコードからデビューしたヒップホップ・ユニット、シーケンスの時代も含めると、30年以上のキャリアを誇るシンガー・ソングライター、アンジー・ストーン。彼女にとって、2015年の『Dream』以来となる新作は、彼女に影響を与えた楽曲を取り上げたカヴァー・アルバム。

このアルバムでは、ファイヴ・ステアステップスの”O-O-H Child”やスティーヴィー・ワンダーの”I Believe (When I Fall in Love It Will Be Forever)”のような、ソウル・シンガーの楽曲の他、フィル・コリンズの”In the Air Tonight”やキャロル・キングの”It's Too Late”といった、シンガー・ソングライターやロック・ミュージシャンの作品。そして、 “Wish I Didn't Miss You”や “Brotha”などの彼女のヒット曲を収録。新旧様々な楽曲を新しい解釈で演奏している。

アルバムに先駆けて発表された、カナダのロック・バンド、ゲス・フーの69年のヒット曲”These Eyes”のカヴァーでは、ゆったりとしたメロディと伴奏が光る楽曲を、シンセサイザーのリフと原曲よりテンポを速めた演奏で、ギャップ・バンドの”Outstanding”を彷彿させる、レイド・バックした雰囲気のR&Bナンバーに作り変え、虚空に響く物悲しい歌声が印象的だったフィル・コリンズの”In the Air Tonight”は、ドラムとパーカッションを強調したシンプルな伴奏と、パワフルなヴォーカルを惜しげもなく聴かせることで、本格的なソウル・バラードに生まれ変わらせている。また、イギリスのファンク・バンド、ホット・チョコレートの代表曲”Every 1's a Winner”のカヴァーでは、エリック・ゲイルズをゲストに招き、同曲のトレード・マークともいえる派手なギター・リフを盛り込みつつ、シンセ・ベースを使った太いグルーヴを強調して、ディム・ファンクなどのヒットで再び盛り上がっているディスコ・ブギー風の楽曲にリメイクしたり、彼女の2001年のヒット曲”Wish I Didn't Miss You”のリメイクでは、艶っぽいギターと、軽妙なパーカッションを強調したロマンティックなアレンジで、オージェイズの”Backstabbers”を彷彿させる、上品でセクシーなダンス・ナンバーに改編するなど、原曲の持ち味を残しつつ、現代のソウル・ミュージックの流行に合わせたアレンジを施している。

もっとも、このアルバムの一番の醍醐味は、アンジーの豊かな低声の低声と個性的な高声だろう。スティーヴィー・ワンダーやボブ・マーレイなど、ポップなメロディの楽曲を中心に取り上げているにも関わらず、どの曲も重厚でパワフルなヴォーカルが印象的なソウル・ミュージックに聴こえる。というのも、彼女の歌は、現代では少数派となってしまった力強い低音と、かすれ声のような高音部が場面に応じて効果的に使い分けられ、刹那的でありながら安定感のある、独特のヴォーカルになっている。また、かすれ声のようでありながら、どこか優し気な歌い方は、リスナーにとって、親近感と安心感を与えている。

既にイメージが固まっているヒット曲という素材を、アレンジの妙味と、豊かな歌唱力で自分の色に染め上げた面白いカヴァー集。彼女の演奏を聴くと、誰もが持っている「声」と「歌」がどれだけ奥深いものか、改めて考えさせられる。

Producer
Jürgen Engler, Peter Amato

Track List
1. These Eyes
2. Smiling Faces Sometimes
3. In the Air Tonight
4. I Believe (When I Fall in Love It Will Be Forever)
5. O-O-H Child
6. Every 1's a Winner
7. Red, Red Wine
8. Is This Love
9. It's Too Late
10. Wish I Didn't Miss You (Exclusive Soul Sessions)
11. Baby (Exclusive Soul Sessions)
12. Brotha (Exclusive Soul Sessions)






Covered in Soul
Angie Stone
Goldenlane
2016-08-05