ブラック・ミュージック千本ノック~SoulとR&Bと色々な音楽~

管理人が手に入れたR&Bのアルバム、1000枚の紹介文を書き続けるブログ その先に見えるものは天国か地獄か・・・

Interscope

Mura Masa ‎– Mura Masa [2017 Anchor Point, Interscope, Universal Music, Polydor UK]

ギターやベース、ドラムやヴォーカルまで何でもこなし、パンクからゴスペルまで、色々な音楽に取り組んできた、イギリスのガーンジー島出身のDJでプロデューサー、ムラ・マサことアレックス・クロッサン。彼にとって待望のフル・アルバムが本作だ。

ハドソン・モーホークの作品を聴いてエレクトロ・ミュージックに開眼。動画投稿サイトなどを通して、ジェイムス・ブレイクやSBTRKT、ゴリラズなどの音楽を研究した彼は、自身もエレクトロ・ミュージックを作るようになる。そして、2014年に初の作品”Lotus Eater”を音楽配信サイトに投稿すると、ラジオ番組に取り上げられるなど話題を呼ぶ。その後、大学進学のため、サセックス州ブライトンに移り住むと、ステージにも立つようになり、現地ではレコード・デビュー前ながらチケットが完売するほどの人気だった。

そんな実績が買われ、ドイツのジャカルタ・レコードと契約した彼は、2015年に初のEP『Someday Somewhere』を発表。BBCのプレイリストに入るなど、高い評価を受ける、そして、自身のレーベル、アンカー・ポイントを立ち上げた彼は、ポリドールインタースコープとも配給契約を結ぶ。また、2016年にはエイサップ・ロッキーとのコラボレーション曲”Love$ick”を発表。2017年には、イギリスのラッパー・ストームジーの”First Things First”をプロデュース。同じ年には、イギリスの女性シンガー、ナオのリミックス・アルバム『For All We Know - The Remixes』で”In the Morning”を担当して話題になった。

本作は、彼にとって初のフル・アルバム。アサップ・ロッキーやナオのほか、ブラーやゴリラズでおなじみのデーモン・アルバーンも参加するなど、気鋭の新人のメジャー・デビュー作にふさわしい、豪華な顔ぶれが集結している。

アルバムに先駆けて発表された”Love$ick”は、エイサップ・ロッキーをフィーチャーしたヒップホップ色の強い曲。スティール・パンやトイ・ピアノの音色を使った色鮮やかなトラックと、荒々しいラップの組み合わせが面白い曲。電子音楽を中心に、色々な音楽への造詣が深いムラ・マサの柔軟な発想が光っている。

続く”1 Night”は、イギリス出身の女性シンガー、チャーリーXCXとコラボレーションした、前曲同様、カラフルなトラックが魅力のアップ・ナンバー。”Love$ick”はヒップホップのビートを取り入れていたが、こちらの曲はカリプソやレゲトンの要素を盛り込んだポップで軽妙なサウンドが印象的。チャーリーXCXの爽やかで甘酸っぱいヴォーカルと、陽気なトラックの相性も素晴らしい。

また、アイルランド出身、ロンドン在住の女性クリエイター、ボンザイを起用した楽曲。感情をむき出しにしたワイルドなヴォーカルと、精密なリズムを刻む電子音楽の対称的な音のコンビネーションが光る佳曲。エレクトロ・ミュージックでありながら、どこか生演奏のような雰囲気を感じさせるアレンジが格好良い。

そして、本作の収録曲では最も早く公開された”Firefly”はナオがゲストで参加。妖精のような可愛らしい歌声で、軽快な電子音の上を舞うように歌う姿が魅力的。彼女のアルバムでも感じたことだが、ナオの歌声はポップなトラックと組み合わせると最も輝くと思う。

今回のアルバムでは、既に公開されてる作品同様、R&Bやカリプソなど、色々な音楽の要素を取り入れつつ、音色を選別に工夫を凝らすことで、一貫性のある独自の音楽を構築している。このような作品を生み出す、音楽に対する造詣の深さと、鋭い聴覚が彼の持ち味なのだと思う。

弱冠21歳(本作の発表時点)でこのクオリティ。今後、どんな進化を遂げてくれるのか楽しみな、期待の若手による傑作だ。

Producer
Mura Masa

Track List
01. Messy Love
02. Nuggets feat. Bonzai
03. Love$ick feat. A$AP Rocky
04. 1 Night feat. Charli XCX
05. All Around The World feat. Desiigner
06. give me The ground
07. What If I Go feat. Bonzai
08. Firefly feat. Nao
09. NOTHING ELSE! feat. Jamie Lidell
10. helpline feat. Tom Tripp
11. Second 2 None feat. Christine & The Queens
12. Who Is It Gonna B feat. A. K. Paul
13. Blu feat. Damon Albarn





Mura Masa
Mura Masa
Imports
2017-07-14

Ella Mai - Ready [2017 Interscope Records]

サウスウエスト・ロンドンに生まれ、12歳の時にニューヨークへ移住。高校卒業とともに再度渡英したという、異色の経歴を持つシンガー、エラ・マイ。高校卒業後は、3人組のヴォーカル・グループを結成。イギリスの人気オーディション番組「Xファクター」に挑戦するが、あえなく落選。その後は、グループを解散し、彼女はソロに転向。音楽配信サイトに自作曲を投稿するなど、地道な活動を続けていた。

そんな彼女の活動が、タイガの”Rack City”やジェレミーの”Don't Tell 'Em”などを手掛けてきた、ロス・アンジェルス出身のプロデューサー、DJマスタードの目に留まり、2016年に彼が経営する10サマーズと契約。同じ年に6曲入りのEP『10Times』を発表して、配信限定だがレコード・デビューを果たした。

今回のアルバムは、2016年に発表された2作目のEP『Change』から、僅か3か月という短い間隔でリリースされた、彼女にとって通算3枚目のEP。過去2作品同様、配信限定のリリースだが、ユニヴァーサル系列のインタースコープが配給し、プロデュースはDJマスタードが担当。ソングライターには、ブリトニー・スピアーズの作品にも携わっているタライ・ライリーや、ジル・スコットの曲も書いているジャミール・ロバーツが参加し、彼女も全ての曲でペンを執っているなど、有名アーティストのアルバムにも見劣りしない力作になっている。

アルバムのオープニングを飾る”Boo'd Up”は、80年代のベイビーフェイスの作品を思い起こさせる、煌びやかな音色のシンセサイザーを使ったトラックと、彼女の甘い歌声を活かしたロマンティックなメロディが印象的なミディアム・ナンバー。レコーディング時点で27歳だった彼女の若く溌剌とした歌声と、色っぽい歌唱が光っている。80年代、90年代っぽい音色を使いながら、現代風の爽やかなメロディを取り入れている点も面白い。

続く”Breakfast in Bed”は、リアーナやシャンテ・ムーア等の作品に携わってきた、ニック・アウディノが参加した作品。トラックに使っている音色は”Breakfast in Bed”と似ているが、伴奏の音数を絞って、ビートを強調した、ヒップホップに近い曲。DJマスタードのトラック制作技術と、ニック達の美しいメロディを生むスキルが合わさった、心地よいミディアム・ナンバーだ。

そして、”Nobody Else”は自身の声をサンプリングしたフレーズから始まるミディアム・ナンバー。地声を多用した落ち着いた雰囲気のヴォーカルが、メアリーJ.ブライジやリアーナを思い起こさせる。ゴードン・チェンバースの手による流麗なメロディも、彼女のしなやかな歌声の魅力を引き出している。

また、ロー・ジェイムズやマイリー・サイラスなどの作品にかかわってきた、サミュエル・ジーンがソングライターに名を連ねている”My Way”は、煌びやかなシンセサイザーの音色を使ったロマンティックなミディアム・ナンバー。一方、”Breakfast in Bed”でも作者に名を連ねている、ニック・アウディノがペンを執った”Makes Me Wonder”は甘酸っぱいメロディが印象的なミディアム・ナンバー。彼女の若々しい一面が堪能できる佳曲だ。

そして、本作のハイライトが、アッシャーやメアリーJブライジなどの作品にも参加してきた、ロナルド・コルソンが制作にかかわっている”Anymore”だ。ピアノの音色を効果的に使った切ない雰囲気のトラックと、激しい感情をむき出しにしたダイナミックなヴォーカルを組み合わせた、壮大なバラードだ。

今回のEPでも、過去の2作品同様、しなやかな歌声と、地声からファルセットまで、フルに使った表情豊かなヴォーカルが堪能できる。そのスタイルは、モニカやブランディのような、スマートな歌唱と、力強い歌声を売りにする女性シンガー達を連想させる。また、ソングライターにもゴードン・チェンバースのような、美しいメロディを生み出してきた作家を並べ、トラックもヴォーカルやメロディを引き立てることに気を配った、シンブルで洗練されたものになっている。この「しなやかな歌」を聴かせることに力を注いだことが、若手シンガーの作品でありながらロマンティックで落ち着いた雰囲気と、一本筋の通った軸のようなものを感じさせているのだと思う。

ビヨンセやリアーナとはスタイルが違うが、「歌の魅力」で勝負している稀有な作品。恵まれた容姿と強靭な歌声を兼ね備えた彼女。90年代のブランディやモニカ、2000年以降のジェニファー・ハドソンやクリセット・ミッシェルが好きな人はぜひ聞いて欲しい、クールなヴォーカルとビジュアルが魅力の女性シンガーだ。

Producer
DJ Mustard

Track List
1. Boo'd Up
2. Breakfast in Bed
3. Nobody Else
4. My Way
5. Makes Me Wonder
6. Anymore



Ready [Explicit]
Universal Music LLC
2017-02-26

Jacob Banks - The Boy Who Cried Freedom [2017 Darkroom, Interscope, Polydor]

アマチュア時代から、英国のポピュラー音楽向けラジオ・チャンネル、BBCレディオ1の人気プログラム「ライブ・ラウンジ」に、番組史上初のレコード会社と契約していないアーティストとして出演したり、MOBOやアディダスが主催するオーディションで優勝したりと、完成度の高いパフォーマンスと豊かな才能を発揮してきた、イギリスはバーミンガム出身のシンガー・ソングライター。ジェイコブ・バンクス。

2013年には、サウス・ヨークシャー州のシェフィールドに拠点を置くレナウンド・レコードから、初の録音作品となるEP『The Monologue』を発表。ジョン・レジェンドを彷彿させるふくよかで柔らかい歌声と、オーティス・レディングを思い起こさせる泥臭いサウンド、サム・スミスを連想させるポップなメロディで、配信限定の作品ながら、ソウル・ファン以外の人々の間でも話題になった。

その後、2015年には2枚目のEP『The Monologue』をリリース。こちらは前作の路線を踏襲した作風で、前作同様、多くのリスナーの耳目を引いた。また、自身名義でのリリースと並行して、エレクトロニック・アーツ社の人気サッカー・ゲーム『FIFA15』のサウンドトラックへの楽曲提供や、イギリスのエレクトロ・ミュージック・プロダクション、チェイス&ステイタスの楽曲”Alive”への客演など、ジャンルの枠を超えて活躍の場を広げていった。

今回のアルバムは、2016年に契約を結んだインタースコープから発売された、彼のメジャーデビュー作。しかし、新しい舞台に移っても環境に飲み込まれることなく、自身の持ち味が存分に発揮した、本格的なソウル・ミュージックを聴かせている。

アルバムのオープニングを飾る”Chainsmoking”は、本作に先駆けて発表されたシングル曲。映画音楽のように荘厳なバック・トラックの上で、アンソニー・ハミルトンを連想させる武骨な歌唱を聴かせるミディアム・バラード。オーケストラのような伴奏が、荒々しい音色を響かせるギターや、彼の声を重ね合わせたコーラスが、楽曲に重々しい雰囲気を与えている。

続く”Part Time Love”は、ギターやダブル・ベースなどを使ったシンプルな伴奏に乗せて、朗々と歌う姿が印象的なミディアム・ナンバー。伴奏がシンプルな分、彼の歌声の豊かさや表現力が目立っている。気のせいかもしれないが、他の曲と比べると少し声が甘く聴こえる。パワフルな歌唱だけでなく、優しい雰囲気のヴォーカルも聴かせられることを示した佳曲だ。

そして、3曲目に収められた”Mercy”は、スピーカを揺らすような重いビートの上で、地声を軸にした強く、硬い歌声を聴かせるミディアム・ナンバー。シンセサイザーを使った低音中心の伴奏が、彼の力強い歌声を強調している。

また、4曲目の”Unholy War”は、ミュージック・ビデオも制作された、このアルバムの看板といっても過言ではない楽曲。厳かな雰囲気のピアノの演奏で幕を開けるこの曲は、ボビー・ウーマックを彷彿させる荒々しい歌声と、重厚な伴奏が格好良いミディアム・ナンバー。力強いドラムの音や重々しいシンセサイザーの音色が、現代の楽器を使っているにも関わらず、アル・グリーンやアン・ピーブルズの音楽のような泥臭いサウンドに仕上がっている点が面白い。

そして、アルバムの最後を飾るのが”Photograph”だ。伴奏に使われるギターやキーボードの音色は柔らかく、ジェイコブの歌声は恋人に語り掛けるように優しい、本作の収録曲の中では少し毛色の異なるミディアム・ナンバー。音楽性は全く異なるが、甘い歌い方は、ルーベン・スタッダードに少し似ていると思う。

彼の音楽は、泥臭い歌声と、キャッチーなメロディ、ヒップホップの影響を強く受けたバック・トラックを組み合わせたもので、ジョン・レジェンドやアンソニー・ハミルトン、ライフ・ジェニングスといった、2000年代にアメリカで台頭したR&Bシンガーのスタイルを踏襲したものだ。だが、彼の面白いところは、その手法を突き詰めながら、メロディやトラックの幅を広げている点だと思う。極端な言い方をすれば、彼はソウル以外の音楽に触手を伸ばしながら、ソウル・ミュージックを究めようとしているように見えるのだ。

よく考えれば、オーティス・レディングがローリング・ストーンズの”Satisfaction”を自分の色に染め上げたように、ソウル・シンガーやR&Bシンガーの先人達は、色々な音楽を貪欲に吸収して、私達を驚かせる名曲を残してきた。彼の音楽は、その伝統を継承し、新しいソウル・ミュージックの一歩を切り開こうとしているように映る。イギリス出身のミュージシャンによる、配信限定の作品だが、R&Bの歴史を変える一歩になり得る魅力的な作品だと思う。できれば、アナログ盤で聴きたいけど、出してくれないかなあ。

Track List
1. Chainsmoking
2. Part Time Love
3. Mercy
4. Unholy War
5. Photograph






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