ミシガン州デトロイト生まれ、同州サウスフィールド育ちのシンガー・ソングライター、マイク・ポスナーと、フロリダ州デイトナビーチ生まれ、カリフォルニア州ロス・アンジェルス育ちのシンガー・ソングライター兼プロデューサーのブラックベアこと、マシュー・タイラー・マスト。彼らが結成したヒップホップ・ユニット、マンションズの初のフル・アルバム。

マイクは、2010年にアイランド・レコードからアルバム『31 Minutes to Takeoff』でデビュー。現在までに2枚のアルバムと3枚のミックス・テープをリリースし、”Cooler than Me”や”I Took a Pill in Ibiza”などのヒット曲を残している。特に、2015年に発表した”I Took a Pill in Ibiza”は複数の国のヒットチャートを制覇。本国アメリカでも、ホット100の4位、2016年の年間チャートの15位に輝き、グラミー賞の主要4部門の一つ、ソング・オブ・ザ・イヤーにもノミネートした、彼の代表曲となった。

一方、マシューは2012年にジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”の共作者としてデビューすると、同じ年には初のEP『Foreplay』を発表。その後は、2017年までに5枚のEPと2枚のスタジオ・アルバムをリリース。本作の発売直後、2017年4月には3枚目のフル・アルバム『Digital Druglord』の発表を控えている。多作なクリエイターだ。

実は、二人の関係は私達の想像以上に長い。マシューが携わった”Boy Friend”は、マイクのプロデュース作品だし、その後も、マイクがブラックベアの”Obvious”(2016年のEP『Drink Bleach』に収録)にフィーチャーされたり、2013年にはマシューがマイクの”Marauder Music”や”OshFest”(どちらもアルバム未収録)を制作したりと、頻繁ではないものの、コンスタントにコラボレーションを重ねてきた。

さて、そんな二人が作った本作は、R&Bとヒップホップの要素をバランスよく取り入れた、ポップで親しみやすい音楽性が特徴。楽曲提供も行ってきた二人だけあって、色々なジャンルの音楽のテクニックを持ち込みつつ、一つの作品に纏め上げる高い編集能力が発揮されている。

まず、2016年にアルバムに先駆けて公開された “Stfu”は、2012年にミックス・テープ『Syrup Splash』を発表して以来、熱心なファンを集めているラッパー、スパーク・マスター・テープを起用したスロー・ナンバー。ギターの伴奏に合わせて歌うマイクから、同じ伴奏に合わせて歌うように言葉を繋ぐマシューとスパークへと繋ぐ流れが格好良い。後半でがなるように歌うスパークのラップが、予想外の展開で面白い。

また、これ続く”Dennis Rodman”は、NBAを引退しても話題を振りまき続ける伝説の名プレイヤー、 デニス・ロッドマンをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。電子楽器を使った変則ビートと、太いギターを組み合わせたに乗せて、リズミカルなラップを聴かせるマシューと、哀愁を帯びた歌声を聴かせるマイクのコンビネーションが聴きどころ。絶妙なタイミングで曲を盛り上げるデニスのダミ声もいい味を出している。

これに対し、ラッパーのG-イージーを招いた”Wicked”は、シンセサイザーを駆使したスタイリッシュなビートとしなやかなメロディが、ドネル・ジョーンズの”U Know What’s Up”や、カール・トーマスの”She Is”などを連想させるアップ・ナンバー。ファルセットを多用したヴォーカルは、ネプチューンズ名義で多くのヒット曲を残していたころの、ファレル・ウィリアムスを思い起こさせる。

そして、本作の目玉でもある”Rich White Girls”は、コンピュータを使ったビートと、ギターを使った弾き語りを組み合わせたスロー・ナンバー。ちょっと癖のある歌詞を、切々と歌うマイクと、彼の歌を引き立てるような、甘いラップを聴かせるマシューの相性が素晴らしい。ヒット曲を残してきた2人らしい、聴きやすく、耳に残るメロディが光る曲だ。

今回のアルバムは、R&Bやヒップホップを取り込んだポップな作風で、多くの実績を残してきた二人らしい、とっつきやすく、飽きがこない親しみやすい曲が目立っている。白人ミュージシャンがR&Bやヒップホップに取り組んで成功した例としては、最近ではジャスティン・ティンバーレイクやウィズ・カリファなどが有名だが、マンションズの作風は、ヒップホップなどの要素を取り入れつつ、それを自分達の方向性に合わせて、柔軟に引用、加工している点が大きく異なると思う。

黒人ではないミュージシャン達が、黒人音楽を取り入れて成功した例は、無数にあるが、ここまで柔軟な発想で取り入れたのは、ビートルズ以来かもしれない。ブルー・アイド・ソウルの新しい形を予感させる面白い作品だ。

Producer
blackbear, O.C., Mike Posner, MdL etc

Track List
1. Snoozefest
2. My Beloved
3. Stfu feat. Spark Master Tape
4. Dennis Rodman feat. Dennis Rodman
5. I'm Thinking About Horses
6. Nobody Knows
7. A Million Miles
8. Wicked feat. G-Eazy
9. Rich White Girls
10. Strip Club
11. White Linen feat. CyHi Da Prynce
12. Gorgeous
13. The Life Of A Troubadour